「支配」の正体
姿を消した丸山は、鈴和達を見下ろすキャンパスの一角に立てられた塔の上にいた。
ここならば鈴和達に気を探られる事は無い。
そこで、丸山は今後の事を考えていた。
もう、暫くゼミには戻れないな。だがあの5人さえ始末してしまえば、俺の「支配」で後はどうにでもなる。
問題は俺の事をあちこちで言いふらされる前に事をしなくてはならない、と言う事だ。
翠、コイツは真っ先に殺す。もう自殺なんて悠長な方法は取らない……
高村と井上か、こいつらも殺す。組織の奴等は皆殺しにする。
次に、慎二とか呼ばれていた奴だ。アイツは何なんだ? あんな能力を持った奴なんか初めて見たな、兎に角コイツも死んで貰おうか、特に鈴和と一緒にさせると不味い……
そして上郷鈴和だ。コイツはすぐには殺さん。俺の奴隷として飽きるまで、弄んでやる。
間近で見たのは初めてだったが、あれはいい、俺の「支配」で言う侭にしてな……
その為には、一人ずつバラバラになって貰おうか、それが良い。
そう静かに呟くとそこから姿を消した。
鈴和達は翠を誘って、キャンパスの近くにあるファミレスに寄っていた。
「でも一時は危なかったわね。慎二くんと鈴和のタッグなら最強ね!」
美樹が嬉しそうにカフェオレを飲みながら話すと高村も
「いや~慎二があんな能力を持っているなんて今まで知らなかったよ」
そう言うので鈴和はパフェを口に運びながら
「高校の時からの友達なんでしょう?」
そう訊くと高村は
「いいや、コイツとは高校の進学の補修授業で一緒になってから親しくなったんだ。友達として付き合う様になったのは大学に入ってからだよ」
そう言って慎二に同意を求める。
「そう、僕はたまたま同じ大学志望と言う事で補修で一緒に勉強するようになってから、口を利く様になったのさ」
慎二も同じ様な事を言って他の3人を納得させた。
「でも、丸山の奴今度はどう出て来るかしら」
美樹が心配そうに話すと翠が
「絶対、私を殺そうとすると思います」
そう言って固く唇を噛み締めると鈴和は
「アイツ、本当に根性が悪い奴よね。翠さんを弄んですぐに殺そうとするなんて……許せない!」
鈴和はどうやら怒り全開で立ち向かう気になったらしい。
「だから、翠さん。組織からだれか護衛をつけて貰うか、暫く申し訳無いけど、私達と一緒に行動したほうが良いと思うのだけど……」
鈴和はそう言って翠の事を心配する。
翠も鈴和の心遣いが嬉しくて
「ご迷惑でなかったら……」
そう言って、暫く鈴和の家に世話になる事になった。
だが、鈴和はもっと良い事を考えたみたいで
「そうだ! ウイさんに相談してみよう。あそこなら沢山部屋空いてるし」
どうやら鈴和は今は主のいない新城家に目を付けたみたいだ。
「兎に角、美樹は絶対に高村くんと一緒にいる事! いいわね」
鈴和の言葉に美樹も
「判った!私はその方が嬉しいからいいけどね!」
そう言い返して笑っている。
「翠さんは私が守るから良いとして……」
鈴和はそう言って慎二を見る
「僕ですか? 大丈夫でしょう僕は、僕だけじゃ人畜無害ですから」
そう言って笑ってるが鈴和は
『もし、自分だったら慎二から狙うと思う』そう考えた。
何故なら、慎二と鈴和が一緒になった時の鈴和の能力が物凄いからだった。
それに、慎二のことも組織で調べて貰わなくてはならない。
「いいわ、慎二くんも私と一緒に来てくれる」
そう鈴和は言うのだった。
その後鈴和は組織に慎二を連れて行き、調べて貰った結果、やはり慎二には
能力者の能力を飛躍的に高める能力がある事が確認された。
しかも鈴和の気と特別に親和性が高い事も確認されたのだった。
あの時の鈴和の気の爆発は偶然では無かったのだ。
そして、慎二は正式に組織の一員となったのだ。
ちなみに、美樹は能力は無いがオブザーバーとして登録されている。
「これで、慎二くんも私達の仲間だね。これからは世の為人の為に活動するのよ」
鈴和が笑いながらそう伝える。
慎二にとっても鈴和と親しくなるなら、願ってもなかった事だった。
そんな二人を見ていた翠はちょっぴり羨ましく思ったのだった。
その後、色々と考えて鈴和は三人で新城宅へ向かう事にした。
向かいながら、簡単に新城とウイについて説明をする鈴和だった。
「……と言う訳で今は王子として向こうの世界に帰ってるの」
普通なら、異世界だの、王子だのと言う空言を信じる者は居ないが、数々の超能力を見て体験した翠も慎二も素直に鈴和の説明を信じたのだった。
新城邸についた鈴和は呼び鈴を押すと、ウイが迎えてくれた。
「鈴和さん、ようこそ、お待ちしていました」
「ウイさん相変わらずお綺麗で……」
「あら、大学生になったらお世辞がお上手に……」
「ホントですから」
そう言って二人は和やかに話している。
リビングに通され、飲み物が出されると、ウイもその席に座った。
「大体の処はテレパシーで判りましたが、もう一度確認をしますと、こちらの辛島翠さんが、
「支配」を操る人物の能力によって、自殺寸前まで追い詰められた、と言う事ですね。
それで、一人では危ないので、どうしたら良いかと……」
ウイの言葉に鈴和は
「そうなんです。「支配」など、この世界にそんな能力を操る者など居ないと思っていましたので、
良く判らないと言うのが真実なんです。ウイさんならお詳しいかと思いまして……」
鈴和がそう言ってウイに頼み込む。
「判りました。翠さんをウチでお預かりします。ここから大学に通って貰います。
現状では「支配」をよく知らない鈴和さんより、私の方が経験もあり馴れていて対処法も判っていますから安全だと思います」
鈴和はウイに任せておけば安心だと思った。
新城が万全の信頼を置き、康子でさえも姉の様に慕っていたウイなら鈴和も安心するのだった。
「ねえ、ウイさん「支配」と言う能力を私達に説明してくださらないかしら」
鈴和の頼みにウイは了解をして説明をしだした……
「「支配」とは文字通り相手の存在そのものを完全に自分の意識のコントロール下に置く事が出来る能力です。
それは、能力者の意識のままに自由自在に操れます。恐ろしいのは操られている本人にはその意識が全く無いと言う事なんです」
そこまで説明すると、鈴和は慎二の大叔母の言った事を話した。するとウイは
「それも「支配」の範囲ですが、それは生まれながらにして霊の状態でも既に多くの人や霊魂を意の侭に出来ますが、自分より霊格の高い霊には通用しません。
その丸山と言う人物が、霊格の高さに関係なく操る事が出来るのであれば、それは「支配」でも催眠的な方面だと思います。
そして、我々の世界の「支配」とは本来こちらの方なのです。
ですから、どちらのタイプか見極めないとなりません」
ウイの説明はわかりやすかった。
「その霊格の高さって言うのをいちいち見極めるのが大変ね」
鈴和はそう言ってため息をついたのだった。
「あのう……大叔母が言っていた事なんですけれど……」
それまで黙っていた慎二が口を開いた。
「霊格の高さや邪悪な霊魂かは、稲荷神に連れて行くと判るそうです。ちゃんとしたお稲荷様に連れて行くと、霊格の高い霊魂は敬いますが、邪悪な霊魂は稲荷神を蔑むのだそうです。
大叔母は僕に幼い頃から何時もそう言っていて、だからお稲荷さんをムゲにしてはいけないと言っていました」
「そうか、そう言う事なんだ! 慎二くん頭いいわねえ~」
鈴和はそう言って慎二の手を取って喜んだのだった。
鈴和はその後夜になり、翠の荷物を取りに一緒に翠のアパートに行く事にした。
どこで丸山が狙っているか判らなかったからだ。
翠が部屋の鍵を開けて中に入り、鈴和も一緒に入る、慎二は表で見張り番で何かあったらすぐに中の鈴和に知らせる手筈だった。
それを、やや離れた場所から丸山が見ていた。
「待った甲斐があると言うモノだぜ。鈴和を覗いて二人には死んで貰う……」
そう呟くと闇に消えて行った。