異世界の結婚式
康子はこちらの世界で忙しくも色々と用事をこなすと向こうの世界へ帰って行った。
「美樹、ごめんね! そう言う訳だからさぁ~」
康子は見送りに来てくれた美樹にちゃんと訳を言って謝ったのだ。
「いいよ!こっちでやる時はちゃんと参加するからさ。でも御両親はどうするの?」
それを美樹に訊かれて康子はちょっと寂しそうに
「うん、一応、気のバリアでガードはするけど、なるべく中心からは離れた方が良いから、
ちょっと遠くから列席する感じかな……仕方ないよ、その代わりこちらでは両親や私の好きにやるからさ」
そう言って最後は強気を見せた。
「それじゃ、鈴和待ってるからね。美樹待っていててね」
そう言い残して康子は異次元に帰って行った。
「あ~あ、康子凄く綺麗になって……変わるものなのね……ちょっと羨ましいな」
美樹がそう言って空の彼方を見つめると鈴和が
「でも高村くんがいるから良いじゃない。私なんか誰もいないんだからさ……」
「まあ、そうだけどね。鈴和もそのうちいい人出来るよ」
美樹はそう言って慰めたが心では『種村くんとは未だなんだ』そう思っていた。
明日は向こうの世界で新城ことエルスと康子の結婚式が行われると言う前の晩に鈴和は両親に呼ばれた。
リビングに降りて行くと達也と陽子、両親が揃って座っていた。
「お話って何かしら?」
向かいの椅子に座りそう尋ねると達也がおもむろに話し出した。
「鈴和、明日向こうの世界に行くについて、今回お前は上郷家の代表として式に列席するにあたって私とお母さんから用意したものがある」
そう言いながら、テーブルの上に小さなカプセルを置いた。
「これは何ですか?」
鈴和の問に達也は半分笑いながら
「実はこのカプセルには俺の気を圧縮して入れてある。向こうで何か緊急事態があった時にこれを開封すると、短時間だがお前の能力が格段に上がる。俺のは霊能力が、お母さんのは異世界での時間の移動が出来る様になる。上手く使え」
そう言って手渡してくれた。
「ありがとう、お父さんお母さん。私頼りないけどこれからも頑張るからね」
鈴和はそう言って心配してくれた両親に感謝をした。
翌日の朝、ウイが上郷邸にやって来た。
「おはようございます!鈴和さん、もうご用意できました?」
そう言って微笑む。
ウイはシックなドレス姿だ。
ウイも一応式に列席をするのだった。
「はい、大丈夫です準備出来ました」
鈴和は藍色のパーティードレス姿だ。
直接会場にテレポートするので、その姿で構わないのだ。
「じゃあ行って参ります!」
ウイが達也と陽子に言うとその姿がゆっくりと消えて行った。
二人は新城と康子の結婚式が行われる宮殿の入口に佇んでいた。
直ぐに衛兵が近づき、ウイの事を確認して、中に入る様に進められる。
「ウイ様、エルス様と康子様、すっかり準備が出来ています。先ほどからお待ちでございます」
鈴和は、衛兵の態度が余りにも丁寧なので、実はウイはこちらでの地位が相当高いのではと思った。
それはそうだ、そうで無ければ王子の結婚式に列席出来る訳がない。
そう思い直した鈴和は何だか可笑しくなってしまった。
「どうなされたのですか」
ウイと衛兵が心配してくれる。
「いいえ、何でも無いです。すいません行きましょう」
鈴和はそう言って自分の気持ちに封をした。
宮殿の中は光で輝いていて、どこも美しく装飾がされている。
「ここは王宮でも、色々な儀式だ行われる時だけ使われる建物なんです」
ウイが歩きながら説明を色々としてくれる。
それを聴いていながら鈴和は『もしかしたらウイさんは自分の世話役で来たのかも知れない』
そう思うのだった。
やがて、祭壇が見えて来た。その前で新城と康子がすっかり着飾って二人を待っている。
新城は白いローブのようなものを纏っていて、如何にも王族らしくすっかり立派になっていた。
康子は白いドレス姿でしかも裾が長く、ブーケを手にしていている。
ドレス自体が白く輝く生地で出来ているのだろうか、鈴和にはとても美しく見えた。
「康子本当に綺麗だわ」
思わず笑みが漏れる。
「鈴和ちゃん、良く来たね。待っていたよ」
新城が鈴和に歓迎の意を伝える。
「やって来ました。そして本日はおめでとうございます」
そう言って頭を下げると新城が
「実はね、未だ早いと言う意見もあったんだけど、早く落ち着きたかったからね、速めたんだ」
新城が事情を説明すると、康子が笑いながら
「鈴和、新城さん、今日を楽しみにしていたのよ。鈴和に久しぶりに逢えるからって」
そう言って新城を見つめるのだ。
それから暫く雑談をすると、お付の従者が二人を呼びに来た。
「エルス王子、康子様お時間でございます」
「鈴和ちゃん、じゃあ後で」
新城と鈴和は従者に連れられて控室の方に下がって行った。
「上郷様はこちらへ」
別な従者が鈴和を呼びに来る。
後を付いて行くと、大きな部屋に通された。
そこには王族の一族と思われる人々が式の開始を待ってお茶を飲みながら談笑していた。
従者の後を付いて行くとその王族の親戚に鈴和は一々紹介をされ、挨拶をして廻った。
この場では鈴和は元の世界での能力者の代表であり、エルス王子と兄弟の様にして育った関係者なのだった。
挨拶回りが終わると鈴和もソファーに腰掛けて、出されたお茶を飲んでいた。
この世界のお茶なのだろう、鈴和は初めて飲み『美味しい』と思わず呟いた。
飲むだけで気分が爽やかになり、心地よくなる飲み物だった。
甘過ぎず、適度な甘みと仄かな香りがして、いくらでも飲めそうだった。
「後で従者の方に尋ねて何処かで手に入るか訊いて見よう」
鈴和はそう心に決めた。
やがて係の従者が
「皆様、式のお時間でございます」
そう告げられるとその場に居た全員が一斉にテレポートでその場から消えた。
鈴和はそれをあっけに取られて見ていた。
「さあ、上郷様も」
従者に促されて、鈴和も会場に向かう。
会場に到着すると、もう殆んどの人が列席をしていて、祭壇の前から王家に近い筋の人から座っているようだ。
雰囲気としてはキリスト教の協会から宗教色を抜いた感じとでも言うのだろうか、何だかそれはそれで新鮮な感じを鈴和は受けた。
鈴和の席は親戚筋の一番後ろだった。
隣はウイが座っていて、恐らく自分の護衛も兼ねているのかと鈴和は思った。
全体としては、ほぼ真ん中に近い位置だった。
そして会場は能力者の気で充満しており、能力者で無ければ大変な事になると思った。
やがて、厳かな音楽が流れ始めた。
なんだろうか、聴いているだけで気分が荘厳な感じになる音楽で、一見した限りでは音楽隊等は居なかったのに何処で演奏しているのかと、鈴和は思った。
やがて、係の者が二人の入場を告げる。
するとその道筋が光に照らされて輝き始めた。
大勢に囲まれた中に一本に道筋が明るく光り輝いている。
その道を会場の後ろから新城と康子が入場して来た。
一斉に大勢の視線に晒さられる。
この世界では拍手の習慣は無いので鈴和も思わず拍手しようとして、ウイにそっと手を抑えられて初めて気がついた。
もう少しで鈴和とウイの前を通り過ぎると思われた時だった。
何処からか「ガーン、ガーン」と拳銃の様な発砲音がしたと思うと、目の前の新城と康子が膝から崩れる様に倒れ込んだ。
「兄ちゃん!康子!」
鈴和が絶叫に近い声で叫び会場は混乱の骨頂となりつつあった。
鈴和は急いで人を掻き分けて二人の所に行くと康子と新城を両の腕で抱き抱えた。
「康子!新城兄ちゃん!」
そう大声で叫び掛けるが二人共ぐったりとしており目を瞑ったままだった……




