表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女子大生は危険がお好き  作者: まんぼう
第1章 人を操る男
1/25

楽しいキャンパスライフ

その晩種村慎二はすっかり遅くなった深夜に近い国道を自分のアパートに向かって歩いていた。

慎二はさすが東京だと思っていた。

こんな街外れでも街灯が沢山点いていてこの時間だというのに暗闇から来る恐怖感など全く感じなかったからだ。

慎二の生まれ故郷の東北の田舎町では日が暮れると殆んどが暗闇の中に埋没してしまうのだった。

だから彼は随分大きくなるまで、幽霊とか妖怪、お化けのたぐいを信じていた。

今でも、霊魂ぐらいは、あると信じている。

東山大学に進学して半年弱、やっと都会の生活に馴れて来た処だった。

今日は、友人のアパートでノートを写させて貰った後で飲んでしまい、遅くなってしまったのだった。

本来ならバスで帰るのだが、終バスまでは未だ時間があり、それなら歩いて帰ろうと思い、

こうして国道を歩いているのだった。

「あ~やっぱり、歩くと暑いなあ~バス待ってりゃ良かったかな……」

そうひとりごとを呟きながら歩いていると、児童公園に差し掛かった。

酔いが冷めて来た処で、喉が乾いていたので、児童公園の水飲み場で水を飲もうと公園内に入って行った。


公園の中央にある水飲み場で、慎二は喉を鳴らしながら水を飲んでいた。

「あ~こんな水道だけど、酔い覚めの水値千金というのは確かだよな」

右の拳で口元を拭うと、公園の奥に人影を認めた。

こんな深夜近くに、それも児童公園で何をやっているんだろうと興味が湧いた慎二は、

そっと近づいてみる事にした。

すると、その人物は首をやや上向きにして、空中を見つめていて、しかもその焦点があっていなかった。

『なんだ? 頭がオカシイのか?』そう思ったが、それにしては奇妙だった。

身長は160センチを少し超えるぐらいで、暗いので良く判らないがスタイルは良さそうだったし、器量も慎二が見る限りではかなりの美形だった。

そう、その人物は若い女性だったのだ。

慎二はそっと後ろから近づいてみるとその若い女性は

ぶつぶつと何か言っていた。

「判った? もうやっちゃ駄目だよ。いいね!」

そう言っていたのだ。

『誰に向かって言ってるんだ? 本当に頭がオカシイのか? こんなに綺麗なのに……可哀想に……』

正直、余り関わりたくないと思い、慎二はそこを去ろうと後ろずさりをしたら、石につまずき、尻もちをついてしまった。

「痛てて!」

思わず声を出してしまった。

あ、ヤバイ!と咄嗟に思ったが、存在をその若い娘に知られてしまった。

「見たわね!」

その娘はそう慎二に言うとツカツカと近寄って来た。

「あんた、今の事人に言ったら只じゃおかないからね」

その娘はそう言って慎二の胸を締めあげた。

「く、苦しい!、絶対に言いません!言いません!」

「そう、ならいいのよ」

そう言って手を放してくれた。

慎二がやれやれと思い周りを見ると誰もいなかった。

「こ、これは……お化けか妖怪のたぐいか? やはり現代でもいたんだ!」

「うわー!」

そう叫ぶと慎二は一目散にアパート目指して走って帰るのだった。



爽やかな秋風がキャンパスを抜けていた。

「やっと、いい季節になったわね」

美樹こと井上美樹は東山大学の学食のテーブルの向こうに座る上郷鈴和に語りかけた。

「そうねえ。みんな元気にやってるかしら。確か向こうの学校は9月始まりだからもう始まっているのよね」

「また、鈴和はその話……しつこいぞ! 元気でやってるから便りが無いんじゃない。しっかりしなさい!」

そう美樹に言われて、鈴和は

「判ってるけれども、つい考えてしまうのよ」

いつもの同じ答えに美樹は閉口しつつも

「そう言えば、あの公園の霊、どうした?」

「ああ、あれね。昨夜ちゃんと叱っておいたから、もう遊びで脅かす様な事はしないと思うわよ」

「そうかあ、これであそこを通る娘が安心して通れるわ」

どうやら、美樹は昨夜のことを言ってるらしい。

すると昨夜慎二を驚かせたのは鈴和だった様だ。


「でもね、昨日叱ってる処を通り掛かりの男の子に見られちゃった。一応口止めしておいたけれどね」

鈴和は昨夜の続きを美樹に言うと美樹は

「別に大丈夫でしょう。きっとその子も訳わかんないと思うよ」

「だといいけれど」

鈴和がそう言って学食の入り口を見ると、見覚えのある人物が丁度入って来た処だった。

その人物はカウンターでA定食を頼んでいた。

野菜炒めに豚ロースのしょうが焼きが二枚ついて来て、御飯とお新香、それに味噌汁がついて、300円だ。学食としては普通だと鈴和は思っていた。

ちなみに鈴和が頼んだのは、プリン・ア・ラ・モード、ときつねうどんだった。

その取り合わせが鈴和らしいと美樹は思っていた。

ちなみに美樹は日替わり定食で今日は「白身魚のタルタルソース掛け」だった。


「あれ、昨夜の子じゃない……同じ大学だったんだ……」

それを聴いた美樹は

「うん? なあにその子に鈴和、惚れちゃったの?」

そう言って茶化す。

「違うわよ!偶然て恐ろしいと思っただけ」

そう鈴和が反論すると美樹は

「さっさと鈴和も彼氏作んなよ。よりどりみどりじゃ無いの?」

美樹が面白半分に言うと鈴和は

「そんな事無いって、なぜだか私、全くモテないし、複数女の子がいても、私だけナンパされないし、残るんだよね、何故か?」

鈴和はそう言って自分を卑下したが、美樹にはその理由が判っていた。

鈴和は黙っていると、何となく声を掛けづらい雰囲気があるのだ。

だが、抜群の容姿は男子の気を引くには充分すぎるので、本音では皆誘いたいのだ。

「ま、きっと向こうは私には気が付かないでしょうね」

そう言って鈴和は

「さあ、美樹行くわよ。今日は5時限まであるから私は」

そう言って立ち上がった。

「待ってよ!私も行くから」

美樹も一緒に立ち上がって容器を返却しに鈴和の後を追って行く。

その時に、慎二の座ったテーブルの脇を鈴和が通りぬけて行った。

定食を食べ始める前の慎二の鼻に鈴和の髪の匂いがふんわりと鼻をついた。

「昨夜の公園で会ったお化けの匂いだ!」

思わず顔をあげて抜けて行く娘の顔を見ようとしたが、既にそれは後ろ姿になっていて

鈴和の長い髪の先が僅かに慎二の手に触れただけだった。

「後ろ姿は同じだ!」

慎二はそう思い、同じ大学の学生だったのかと思い直したのだった。


鈴和はカウンターの隅の返却口に食器を返すと、そのまま横を向いて出口から美樹と一緒に出て行った。

慎二は僅かにその横顔を見れただけだったが、その瞬間自分の心臓がまるで不整脈になった様に鼓動が高まるのを感じた。

「あの娘だ!」

そうつぶやいた……


「後ろをついて行ったのは確か……」

その娘には見覚えがあった。

「確か……井上とか言っていたよな?」

とりあえず追いかけ無くてはと思い急いで定食を置いたまま、鈴和の後を追いかける。

学食から出ると左右を見る。

左は大講堂へ通じる通路で右は特別棟などが立ち並んでいる場所で一年生が行く場所では無い。

そのどちらにもその姿を見る事は出来なかった。

「どこへ行ったんだ?」

慎二は呆然となってしまった。

鈴和が出口から出て5秒ぐらいだろうか?

それで辺り一面から居なくなってしまうなんて……

慎二が呆然としながらも、学食の自分の席に座った。

もう、ご飯も味噌汁も冷めてしまっていた。


「冷めた定食を口に運びながら慎二は見た事のある井上という娘を通じてあの娘が誰なのか訊いてみようと思っていた。

「確か、あの娘は高村の彼女だったよな」

自信は無かったが、確かに高村から「付き合ってる」と聴いたと思った。

高村は高村悟と言って、慎二とは同じ高校の出身で、学業抜群で何でも創立以来の秀才と言われている。

慎二はそう云う関係で高村とは親しかった。

大学の入学式で、高村と美樹は何でも無い事から誤解をして険悪な関係になったのだ。

美樹の事だから、男子といえども鉄拳制裁は辞さないタイプなので、鈴和も心配したのだが、

やりあう寸前に話し合いして誤解が解けて、付き合う様になったのだ。

高村だったら良く知ってるから訊いてみようと慎二は思った。


学食の入り口を見ていた慎二は高村が入って来たのを認めると大きく手を振って自分の存在をアピールした。

コーヒーにサンドイッチをトレイに載せた高村が慎二の向かいに座り

「どうした? なんか用でもあったか?」

そう語り掛けた。

「いや、ちょうど、訊きたい事があってさ、今度会ったら、訊いてみようと思っていた処だったんだよ」

慎二がそう言って高村を見ると、高村はコーヒーに口をつけてから

「何だい? 今でもいいよ」

そう言って今度はサンドイッチに手をつけた。


「食べながらで良いから訊いてくれないかな。今さっき、ここで井上さんを見たんだ」

「そうか、今日はあいつ5時限まであるって言っていたな」

高村はサンドイッチを頬張りながら慎二に答えた。

「それで、美樹がどうしたんだ?」

「いや井上さんの事じゃ無くて、一緒に居た娘なんだけど……」

「一緒に居た娘……髪は?」

「長かった。凄い綺麗な娘だった」

「じゃあ鈴和ちゃんだ! 上郷鈴和、美樹の幼なじみだ、確か小学校からずっと一緒だと訊いてるよ」

「上郷鈴和って言うんだ。あの娘……」

慎二の嬉しそうな表情を見た高村は

「やめとけ! お前とは釣り合わん」

高村は口に入れたサンドイッチをコーヒーで流し込んだ。

「いや、それもあるけど、昨夜見たんだよ。彼女が児童公園で何かブツブツ言ってるのを」

「ああ、それも大した事じゃ無い。お前口は堅いか?」

「あ、ああ言うなと言われれば言わないよ」

「じゃあ、教えてやるが、彼女は霊能者だ」

「は? お前そう云うの信じるタイプなんだ。秀才のお前が……」

「事実だから、事実を言っただけ。きっと公園に出るイタズラな霊を叱りに行ったんだろう。それだけだよ」

慎二は高村の言う事が普段と余りにもかけ離れた事を言うので以外だった」


ここまで書けば感の良い方はお判りかも知れないが、高村は能力者で組織の一員である。

美樹と仲よくなったのも、鈴和が取り持ったからだ。

それ以来、熱々の関係なのだ。

だから鈴和も誰か恋人と呼べる存在が欲しいのだった。

「今度俺に紹介してくんない? 駄目もとで良いからさ」

慎二の頼みに高村は

「保証しないぞ、彼女結構男の好み煩いからな」

高村はそう言いながらも、鈴和と性格が反対の慎二なら案外上手く行くかも知れないと思ったのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ