ルナ
「なんだって!」
カイが戻ってミアが連れ去られたことを正直に言うと、ルイトは叫んだ。
「信じらんない!何やってんの!」
「・・・すまん。」
とりあえず深々と頭を下げた。
ミアに『言い伝え』を話したこと。それによってショックを受け、自分たちのもとから去っていってしまったこと・・・カイは包み隠さず話した。
「それと、言い伝えは本当かもしれない。」
「何言ってるの?ミアがそんなこと・・・」
「違うんだ。実際に力を奪うのはミアじゃない。」
「いったい何が言いたいのさ?」
「・・・実はさっきセドナに会ったんだ。」
カイはいったんそこで言葉をきった。
大きく息を吸い込んで、ルイトの目を見つめて言った。
「今から言うこと、信じて、判断してくれるか?」
「じゃあセドナはシナリオのために動いてるってこと?」
「そうだ。」
「ところで、カイはどうしたいの?もしそのシナリオが本当だとして。やめさせる?ほうっておく?それとも・・・」
「いや。『判断はルイトに任せる』ってセドナに言っちまった。」
「あー、そう。カイらしいね。・・・まったくもう。」
ルイトは金色の目を細めた。少しだけゾクリとするような空気をまとう。
「わかってるさ、もう・・・」
一瞬だけ、目を伏せる。
「君は手伝いたいんだろう?そのシナリオを。」
「・・・」
カイは答える代わりに微笑んだ。
「まったく・・・君ときたら。いいよ、僕もそれに従うさ。」
「さすがルイトだ。」
カイはにぃっと笑った。
「いいんだ、こんな『力』なんて最初からないほうがよかったんだ。」
「そうだよな、だからミアが命を狙われたりするわけだ。」
ルイトはそれを聞いて唇の端で微笑む。
これで晴れて言い伝えどおり。これを知った敵たちはどうするのだろう・・・?
「よし、じゃあそうと決まればミアを助けに行こう!」
「カイ・・・きみってやっぱり・・・」
考えなし。
「なんだよ、ルイト。何にも間違ってないだろ?」
「ああ、確かにね。」
もう仕方ない。きっとこの銀の瞳に出会ったときから運命は決まっているに違いない。
「いいよ、それじゃあ本格的に作戦を立てよう。」
「んじゃ、コージ呼んでいいか?」
「ああ、忘れてた。あとユリアとテツヤさんの助けは欲しいな。連絡してくれる?」
「わかった。」
「僕は他に味方になってくれそうな人たちを探す。頼んだよ!」
「ああ!」
二人は行動を開始した。
一方ミアは小さな部屋に閉じ込められていた。
八畳ほどの部屋にソファが一つ。ドアが一つ。窓なない。あとは天井の蛍光灯だけ。ドアはさっき鍵がかかっていることを確認した。
「ここどこなんだろ・・・」
あの時、道の真ん中で泣いていたミアのもとに現れたのは、明るい金色の髪に翠の瞳を持つ男性と紅の髪と瞳を持つサリナの二人だった。抵抗しようとしたのもむなしく、妙な術で全身の力を吸い取られ、あっさりと連行されてしまった。
「サリナさんと一緒にいたんだから敵だよね。・・・とうとう敵に捕まっちゃった。」
そう口に出してみても、あまり後悔していない自分がいる。そう、これでよかったのだ。自分はカイたちと一緒にいることはできないのだから。自分でそう決めたから。
きっと自分といるとみんなに迷惑をかけてしまう。それが嫌だった。
「大丈夫、わたしは一人で大丈夫。」
そう、ビルの屋上で目覚めたときと一緒ではない。今は自分が誰なのか、どんな状況に置かれているのかを知っている・・・まあ、状況は最悪だが。
「ふう・・・」
たった一つだけおいてあったソファに身をうずめて、ミアは嘆息した。
と、そのときミアは背後に何かの気配を感じた。
振り返ろうとしてふと気付く。この気配には覚えがある。
「セドナ?」
「ああ、そうだよ。」
振り返ったミアのサファイアの瞳には漆黒の瞳と漆黒の髪を持つ青年が映っていた。
逃げなくては――理性はそう告げた。
なぜ?――本能はそう問いかけた。
危険だから――理性は答えた。
なぜ?――本能はもう一度言った。
――この人から敵意は感じられないのに?
かろうじてミアは飛び退るのをやめた。
「どうして、どうやってここに?『セドナ』さん。」
「オレの名前はクロウだよ。そろそろ覚えて欲しいな、ミアちゃん。それと、オレは空間転移を使える。こんな部屋に閉じ込めたところでオレには意味がないのさ。」
「じゃ、クロウさん。何をしにきたの?」
「・・・相変わらずつれないな、ミアちゃん。」
クロウはくすりと笑った。
その表情が先日会ったときより柔らかなものだった。
「オレはちょっと昔話をしにきただけだよ。」
「昔話?」
「そう。」
クロウはにこりと微笑んだ。
「すごく昔の話も・・・ちょっと最近の話も。もしかしたらキミの知りたいことが分かるかもしれない。」
ミアは少し違和感を持った。クロウの表情が以前よりも柔らかい。やはり何かあったのだろうか?それともワナ?
それと同時に、少し話を聞いてみたいという気持ちもあった。最初よりはずいぶんいろんなことが分かったといえ、まだまだすべてとは言えない。知りたいことはたくさんある。
ミアはきゅっと唇をかみ締めた。
「じゃあ、教えて。私、昔話が聞きたい。」
「そうだね。」
クロウはにこりと笑った。
「さて・・・それじゃあ、どこから話そうか?」
「最初から。本当の最初から聞きたい。」
「じゃあ、昔話だ。」
クロウは目を細めた。
「おれたちが力を授かったところから話そうかな。」
クロウの話は長かった。
天から力を授かり、その力を忌まわしいものとされ世界各地を転々とし、最終的に日本にたどり着いた一族。現在は一つの教育組織として『力』を持つものが集まっていること。『天智』という名をもち、初等部から大学院までの教育課程を持つ大規模な組織。
話を聞き終わってミアは嘆息した。
「そんな歴史があったんだ・・・」
「そうだ。でもそれは『力』を持つ者なら誰でも知っている歴史と同じ。それだけじゃない。オレたちイレブンスにはもう一つの歴史がある。」
「もう一つ?」
「そうだよ。オレたちはもっと別の歴史を知っている。それは、すべてを無に帰すシナリオに直結している。」
「『すべてを無に帰すシナリオ』・・・?」
ミアは眉根を寄せた。
「そうだ。オレたちイレブンスが太古から守ってきたシナリオだ。」
そう前置きして、クロウは先ほどカイに話したことをミアに話して聞かせた。
その間ミアは困惑したような表情でただ聞くしかなかった。言い伝えでしかなかった『力の消失』がこんな形で実現される。ショックというよりは圧倒された。壮大な、ガイアの意思に。
「ガイアの力をもらうと、今までの力が使えなくなってしまうの?」
「すぐにというわけではないが、そうだ。もとの力は弱り、半月たたないうちに消滅してしまう。代わりに使うガイアの力も持続性はない。個人差はあるが1年ほどで完全に消え去ってしまうだろう。」
「そうやって、『力』を天に帰すんだ・・・。」
ミアはぎゅっと拳を握り締めた。
「そうだよ。ああ、怖い顔するなよ。要するに『力』が消えるのはキミが直接的な原因ではないのだから。」
「・・・そう。」
このときの感情をどう表現していいかわからない。
ほっとしたような拍子抜けしたような。不思議な安堵感と喪失感が同居した。自分は『力の喪失』を引き起こす災厄ではなかったのだ。
「どうやらそのせいらしいな、アポロたちのもとを去ったのは。」
「・・・」
「キミは優しい子だ。ずっと昔からそうだったよ。だからこそオレは・・・」
クロウはそこでいったん言葉を止めた。
「もう少しだけ話してもいいかな?これはオレの懺悔だよ。」
「何?」
ミアのサファイアブルーがクロウに向けられる。
変わっていない。何も変わっていない。この子はいつも真っ直ぐだ。
「本当にキミは変わらないな。」
「どういうこと?昔からわたしのこと知ってるの?懺悔って、何?」
「・・・せっかちだな、月の姫様は。」
「その名前、あんまり好きじゃない。」
ミアの台詞に、クロウは目を丸くした。
「本当にキミはもう一人のミアかい?本体とまるで似通ってきてるな。」
「もう一人とか言わないで。わたしはミアだよ。もう一人わたしの中にいるのも知ってる。・・・それでもわたしはミアでしかない。」
悲しくなった。
また、あの喪失感を――自分は誰なのかという不安感を呼び覚ましたくはなかった。
「わかったよ。とにかく、オレの話を聞いてくれるか?」
「・・・いいよ。」
クロウは微笑んだ。
やはりこの間とは違う柔らかな感情のこもった表情だった。
「今からだいたい十五年くらい前の話。日本のある場所で、酷い事故が起こった。電車が脱線して線路沿いのマンションに突っ込んだ。・・・悲惨だったよ。百名以上の方が亡くなった。怪我をした人もその数の比じゃない。戦後最大の列車事故といわれるくらいに。」
クロウは目を伏せた。犠牲者のことを思うように。
「その事故で、それも一番被害のひどかった一両目の車両で生き残った女の子が一人だけいたんだ。当時まだ3歳。その子が生き残ったのは奇跡だった。ただ、とても残酷な奇跡だった。」
「・・・」
「女の子は両親を失った。親戚同士でどういった話し合いがあったのかはわからないが、その子はいわゆる施設に入る。身寄りのない子が引き取られる施設。そこで女の子は一人の男の子に会うんだ。」
クロウはふっと遠い目をした。
ミアは眉を寄せる。
「ありがちな話だろう?男の子は女の子よりずっと年上だった。小学校高学年くらい。でも仲良くなった。男の子は孤独だったからうれしかったんだ――それがたとえ8つも年下の小さな女の子でも、初めて出会った仲間だったから。」
サファイアブルーの瞳。光を当てると青色に透ける濃青の髪。
自分の仲間なのだと一目で分かった。
「クロウさん。それは・・・『わたし』で『あなた』なの?」
「・・・ああ、そうだ。」
クロウは静かに微笑む。
ミアは、セドナという人物はこんなに笑う人だったろうかと思う。
「じゃあ、私の両親はもういないの?」
「・・・そうだ。」
「そう・・・」
それで少し納得した。自分が過去を知りたいとは思っても両親や親戚に会いたいとは思わない理由が。
「ミアちゃんはその頃まだ月の人間たちにその存在を気づかれていなかった。でも強い力を持つキミが組織に見つかるのは時間の問題だった。オレにはなんとなくキミがルナになるのが分かっていた気がする。優しい心と強い力を持った長。キミはルナにぴったりだった。」
「・・・もう一人の私が?」
ミアが聞くと、クロウはふるふると首を横に振った。
「オレに会ったとき『美愛』という人物はまだ『キミ』だった。もう一人のキミを作ったのはオレだよ。」
「・・・?」
クロウの漆黒の瞳には悲しみと苦悩が浮かんでいた。
「ど、どういう・・・?え・・・?作ったって・・・?」
「オレの力は精神に干渉することだ。キミはルナになるには優しすぎた。きっと途中でこわされてしまうと思った。だから――オレはもう一人のキミの人格を作った。・・・信じられないよな。小学生のやることじゃない。でも、オレは覚えてるんだ、キミが覚えてなくても。」
あの時クロウはまだ3歳のミアにすべてを話した。力のことも、イレブンスのシナリオのことも。むろん3歳の少女にそんなことが理解できるはずもない。首をかしげて聞いていたのを覚えている。
おかしかったのは自分だ。小学生とは思えないような理解力。記憶力。そのために自分が孤独なのだと知ったのは後からだが。
「おれはミアちゃんの中に強い心をもった人格を植えつけた。それが、今の『本体』だ。そしてきみは『オリジナル』。もともとの人格だった。」
「・・・??」
ミアは混乱した。話が難しい。分からない――聞きたくない。
「キミは、ミアだよ。十七年前に生れたときからずっと。キミの名は『藤代美愛』という。もう今となってはその名も意味を成さないが。」
「じゃあ、わたしは昔この体を使っていたの?記憶をなくしたために現れたわけではなく?」
「そうだ。」
クロウはうなずいた。
「オレがキミをあやつってアポロを攻撃させたときなぜかキミがでてきてしまったんだ。本体の深く、奥深くに眠らせたはずなのに。なぜだ?」
問われて、ミアは答える。
「それは」
もう一人の私が心の奥深くに閉じこもってしまったから。
カイを攻撃したせいで。大切な人を傷つけたせいで。
――ああ、そうか。
今なら分かる。
もう一人のミアの気持ちが。
「もう一人の私はね、きっと・・・」
わたしと同じ。
「カイがすごく大切だったんだよ。だから、カイを攻撃してしまったときに消えてしまったんだ。カイを自分の手で傷つけた衝撃に耐えられなかった。だから、かわりにもう一度『わたし』が生まれてきたんだよ。」
ミアはにっこりと笑った。
あの時ビルの屋上で目覚めてからずっと持っていた不安感が初めて完全に消え去ってしまった気がする。
「ありがとう、クロウさん。」
ミアは微笑んだ。
「オレは・・・礼を言われるようなことはしていない。」
「ううん、きっともう一人のわたしも同じことを言うよ。クロウさんはずっとわたしを守っていてくれたんだね。」
「・・・なのに?」
「え?」
「オレのエゴなのに?キミに別の人格を植え付け、人生をめちゃくちゃにしたオレなのに?」
「どうして?クロウさんはわたしのことを思ってそうしてくれたのに?」
ミアはもう一度笑った。
「ありがとう。本当に。わたし、これで本当の意味で自分で生きていけるよ。」
はじめてしっかりと自分の意思が持てた気がした。
「ミアちゃん。」
「それでね、あの、ひとつだけお願いがあるの。」
「なんだ?」
「わたし・・・その『終末のシナリオ』を手伝いたい!」
クロウは驚いた。『本体』のミアならともかく、『オリジナル』のミアが言い出すとは思っていなかったからだ。
「もしわたしが力の消失を起こすものとして今までずっと厭われてきたのなら、その言い伝えも本当にしてやる。」
ああ、そうだ。
弱いと思わせていて、ミアはずっと強かったのだ。自分が干渉するまでもなく一人の力で運命を切り開いていける強さを持っているのだ。
クロウはふっと微笑んだ。
「そうだな。ミアちゃんにも手伝ってもらおう。」
ミアの顔がぱっと輝いた。
「それには、まずここを出ないといけないな。」
「う・・・。」
嫌なことを思い出してミアは顔をしかめた。
「大丈夫だ。キミには仲間がいるだろう?・・・少し、待っていなさい。きっと助けに来てくれる。」
「仲間・・・」
カイやルイトの姿が思い浮かんだ。それにユリアにテツヤさん。
「わたし勝手に飛び出してきちゃったんだ。許してもらえるかな?」
「それこそ大丈夫。ここでミアちゃんを見捨てるくらいなら最初から命を懸けたりしないよ、彼らは。」
クロウはぽん、とミアの頭に手を置いた。
「さあ、少し眠りなさい。・・・もう一人の自分と会ってくるといい。」
「・・・?」
どういうことだろう・・・と思ったのもつかの間、ミアの意識は急速に沈み込んでいった。
体が浮遊しているような感覚に陥った。
ああ、これは夢の中だ――ぼんやりとそう考えた。
「起きろ。」
「?」
突然呼ばれて振り向く。
そこに立っているのは・・・
「わたし?」
「まあ、そうだろうな。」
が、そのときミアは唐突に気がついた。
「ああ、もう一人の『わたし』?」
「そうだな、それが一番適格だ。」
『もう一人のミア』はにやりと笑った。ミアは、もう一人のミアと初めて対面していたのだ。
「はじめまして・・・というべきなのかな?」
「いや、べつにかまわない。『わたし』は『おまえ』で『おまえ』は『わたし』なんだからな。」
目の前のミアはにこりと笑った。
「それよりも・・・ずっと会いたかった。話してみたかった。わたし自身であるおまえに・・・。」
「わたしも会ってみたかった。もとのわたしであるあなたに。」
にこりとミアは微笑み返す。
「お前のほうがオリジナルだったんだな・・・通りでセドナの干渉がないとわたしが外に出られないわけだ。」
「でもミアとしてずっと生きてきたのはあなただよ?私は、だって何も知らなかった。ルイトに会うまで、何も分からなかった。それは・・・3歳くらいで封印されちゃったせいだったのかな?」
「おそらくそうなんだろうな。」
少し目を伏せたもう一人のミア。
自分が榊川琥狼によって作られたものだと聞いて、どれほどの衝撃を受けたのかミアには知る由もない。
「悪かったな・・・ずっと体を借りていて。」
「ううん、わたしこそ後から来たのにずっと体を使っていて・・・ねえ、どうにかして二人で住めないかな?この体、二人で使っていけないかなあ?」
「それは・・・」
もう一人のミアは口をつぐんだ。
「できないことはない。だが、それはきっと苦労する。わたしとミア、お前は違う。わたしがいてもいいことはない。少々癪だがあのセドナに頼んでわたしを消すのが一番・・・」
「嫌だよ!」
ミアは思わず叫んだ。
「せっかく会えたのに!こうやって話もできたのに!」
「だが」
「ねえ、『もう一人のわたし』・・・わたし、あなたと友達になりたい。」
ミアはもう一人の自分の肩に額を押し当てた。
「おまえ・・・」
「ねえ、だって同じ体にいるんだよ?きっと仲良くなれるよ?きっとお互いのこと一番わかる親友になれるよ?だから、お願い・・・消えるなんて言わないで・・・?」
もう一人のミアは唇を真一文字に結んだ。
まるで泣きそうになったのをこらえるように。
そのままどれだけの時間がすぎただろう。
もう一人のミアはふっと表情を緩めて口を開いた。
「じゃあ、こうしよう。おまえ、ルナの名前が嫌いだろう?」
「まあ、あんまり好きじゃないかな。」
ミアは顔を上げる。
「わたしが『ルナ』になろう。おまえは『ミア』のまま生きていくといい。」
「・・・?」
「どうせ力の使い方もよくわかっていないのだろう?その分をわたしが補ってやる。きっとこれからも力は必要になる。『ルナ』としてせねばならないことはわたしが全部引き受けてやろう。」
「・・・『ルナ』?」
「そうだ。」
『ルナ』はにこりと笑った。
「じゃあ、もう消えるっていわない?」
「ああ。」
「一緒の体で生きていってくれる?」
「ああ。」
「じゃあ・・・」
ミアはまっすぐにルナの瞳を見つめた。
「友達になってくれる・・・?」
ルナはそのサファイアブルーの瞳を少し細めて微笑んだ。
「ああ。」
「ほんと!」
ミアはぎゅっとルナに抱きついた。
「やった!!すごく・・・うれしい!!」
「それはよかった。」
同じ顔。同じ瞳の色。同じ髪の色。
それでも魂は別のものだった。もともとミアの中に息づいていた魂と、榊川琥狼によって作られ十年以上かけて育てられてきた魂。
「大好きだよ、ルナ。さっき初めて会った気がしない。ずっと昔から知ってる親友みたいだ。」
「わたしもそう思う。」
ルナは微笑んだ。
「お前はいい子だ。きっと周囲の人に好かれる。周囲の人間が手助けしてくれる。だから、大丈夫だ。」
「ルナも助けてくれる?」
「もちろんだ。」
心が温かくなった。
今なら何もかもがうまく行きそうな気がする。
「さあ、そろそろ行くんだ。・・・カイが、ルイトが、みなが待っている。」
「うん。絶対だいじょうぶ!だって、ルナもついていてくれるんだよね?」
「あまり買いかぶるな。」
ルナは苦笑した。
「ねえ、ルナってカイのことすっごく大切なんだ。わたしと一緒だね!」
ミアの言葉に一瞬ルナはきょとん、とした。
が、すぐに困ったように頭をかいた。
「その話はまた今度だ。さあ、行け。」
ルナがしっしっと手を振ると、その光景がだんだん霞んでいった。
ふっと気がつくと、やはり小さな部屋にいた。ソファにうずくまるようにして眠っていたらしい。無理な体勢だったのか少しばかり体の節々が痛かった。
「ルナ・・・。」
自分の中に向かって呼びかける。
何だ?
返事があって、一瞬驚いた。が、かまわず続けた。
「大好きだよ、ルナ。」
返事はなかったが、確かに自分の中にいる存在が感じとれた。
胸に手を当てると、温かかった。
「大丈夫。二人なら、大丈夫だよね!」