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私たちに しときなさい!  作者: IKEDA RAO
【 第二部 】  修学旅行編
57/65

厄介な運搬物だな 【 前編 】


「いやぁ~これでめでたく騎士(ナイト)役は決定ということですねっ!! ではでは花ちゃんのこと頼みます閣下!」

「まさか一回目であっさり勝負がきまるとは思わなかったよね。僕、ビックリしちゃったよ」

「これもすべては天命ということだな。心穏やかに己の運命を受け入れろ柊兵」



 ……どうやら運命の神とやらは俺にとっては使えない奴らしい。

 俺の意向を見事に読み違え、 “ 白十利の運搬拒否権 ” ではなく、このジャンケン勝負自体での純粋な勝利を寄こしてきやがった。

 この勝負には負けられねぇという気持ちをこめまくり、Victory(勝 利)の頭文字に引っかけたサインを選択したのだが、まさかそれが敗北のルートだったとは……。白十利の運搬役など絶対にしたくない、という気負いが入りすぎたのかもしれん。


 そういや使えない奴はもう一名いたな。

 ミミの奴、水場や白が幸運(ラッキー)だとかあんなくだらない占いメールを送って寄こすぐらいなら、ジャンケン勝負が来た時は何を出すべきかも書いとけってんだ。


「さてさて、こうして終わってみると選ばれた戦士はまさに最適な人選となりましたし、やっぱ神サマは俺ら下々の民のことをちゃーんとご覧になっているってことなんですかね~?」


 畜生、シンの奴、嬉しそうな顔しやがって……。自分が運搬役を逃れた嬉しさが全身から滲みでてるのがムカつく。


「柊兵、待機ポイントに着くまでは気を抜いちゃダメだよ? 先生たち以外に襲ってくる奴はいないと思うけどさ、本多のためにも僕らは絶対にリタイアは出来ないんだからね。だからちょっとでももし危険を感じたらさ、花ちゃんはすぐにリリースしてまず自分の身の優先を第一に考えるんだよ?」

「あー! また真田くんってば花にヒドイこと言ってー!! 花をその辺で釣ったお魚みたいに言わないでください!!」

「別に釣りたくて釣ったんじゃないし。それに荷物な花ちゃんより魚の方が食料になる分、よっぽど役に立つよ」

「うぅ~~~どうして真田くんは花にイジワルばかり言うんですか!!」

「いや、イジワルじゃなくて事実です」

「ヒドイですヒドイですヒドイですぅうううううう~~!!」


 騒々しい奴らだ。しゃあねぇ、面倒だがさっさとあの巨乳女を連れて一旦怜亜のところに戻るか……。

 白十利を連行するためにそちらに足を向けると、SMコンビが言い争いをしているすぐ横でガックリと地面に四つん這いになっている男がいる。周辺にどんよりと漂う負のオーラがハンパない。



「なぜだ……、なぜなんだ……、なぜこの俺を勝たせてくれなかったんだジャンケンの神よ……っ!! あんたは残酷だ……、残酷すぎだぜ……っ!!」



 今にも血反吐を吐くような形相で地面をかきむしっているアホが一名。俺らが予想していた以上の大ダメージを受けているようだ。そんな憔悴の敗北者に苦笑いを浮かべたヒデが近づく。


「おい将矢。確かお前、さっきそのジャンケンの神とやらに “ 我に絶対なる敗北を ” とか祈ってなかったか?」

「ああああああああああああ!!!!! そうだ!! 俺祈った!! 負けるように祈っちまったああああああ!!」

「そういえばその祈りの後、勝った奴が花ちゃんを送る役に変更になっちゃったもんねっ。ははっもしかして将矢が勝てなかったのは神さまに祈り直ししなかったのが敗因だったりしてっ」


 ヒデに続いて尚人までくだらない茶々を入れ出しやがった! そんなこと言ったら将矢の恨みがこっちに向かってくるじゃねぇか!!  


「ちっくしょおおおおおおおおお!! 最初のルール通りに負けた奴が花ちゃんの護衛役だったら俺がなってたかもしれねーじゃんか!! おい柊兵っ!! お前のせいだ!! お前が直前で勝手にルールを変えたからだぞ!?」

「なに!? ふざけんな!! 勝手に俺のせいにしてんじゃねーよ!!」

「いーやお前のせいだ!! 今の勝負は無効だ無効!! 今のは無しにしてもう一度勝負をやり直しだ!! いいな!?」


 予想通りアホがクレーマーへと進化しちまった。始末に負えねぇ。 

 そこへ、「ハイハイ、そこまでそこまで!」とシンが大きく手を打ち鳴らし、この場をまとめ出し始める。


「さっき恨みっこなしって言っただろ? 悔しいのは分かるけど往生際が悪いぜ将矢。ということで今回に限っては泣きの一回は無し!」

「うおおおおおおおおおおー!!!! 俺が花ちゃんのおっぱいを護衛したかったのにいいいいい!! そんで怜亜ちゃんにも会ってきたかったのにいいいいいい!!」


 ……どんだけ必死なんだこいつは。


「今回は我慢しなよ将矢。さっき女の子を紹介するって僕と約束しただろ? 楽しいことは他にもまだまだあるじゃん」

「尚人、分かってねぇ……。お前はなにも分かってねぇよ……。お前に紹介してもらうったってよ、まだまだ先のしかも顔も知らない未知の女より、鼻の先にある花ちゃんの揺れるおっぱいの方が俺にとってどれだけの魅力を放っているか……」

「んー、僕は楽しみは後に取っておくタイプだからなぁ……。でもとりあえずここは我慢だよ将矢。ね?」

「うぅ……俺のおっぱいぃぃ……」

「ほらほら背筋伸ばして! きっといいことはまだ他にあるって! 気を取り直していこうよ!」


 尚人は魂の抜けた躯を明るく励ました後、「柊兵、花ちゃんを届けたらすぐに追ってきてよ?」と俺に念を押してくる。


「それは分かってるけどよ、ここで一度別れちまえば合流するのは難しいんじゃねぇか?」

「そうなんだよね……。柊兵、待機ポイントからここまでの道順は覚えてる? 途中で毛田先生たちの攻撃を受けたから直進していたルートがずれちゃったけど」

「いや、大丈夫だ。待機ポイントからここまでなら来られる」

「ならここから僕らはまだ直進するよ。そして直進できなくなったら基本は左回りに進むことにするから柊兵もそのルートで追ってきて」

「分かった。でもなんで左回りなんだ?」

「ん、最初のスタート地点って確かここから左手側の方だったからさ」


 ―― どういう意味だ?


「何かあったらスタート地点に戻りやすくするためか?」

「ううん、違う。だけどあまり深く考えないでいいよ。進行方向を左回りにしてもたぶん意味がない可能性の方が高いから。とにかく僕らがまた合流できるように基本は直進、進めなければ左回りのルートで行こう」


 ここは尚人の指示通りにしておくか。

「分かった」と頷いた俺の横でなぜか怪訝そうに顔をしかめているのはシンだ。 


「なぁ尚人、お前本当は何か策があるからそのルートを指示したんだろ? 俺らは仲間なんだぜ? ちゃんと作戦内容も教えてくれよ」

「ちゃんと策があるならきちんと説明するよ。今回はそういうのじゃないもん」

「本当かよ~。なーんか嘘くさいんだよなぁ」

「もう疑り深いなぁシンは」

「だってお前とは付き合い長いし。それにお前ってさ、たまに肝心な部分をわざと黙っていることあるじゃん。実は密かに俺らに隠している情報とかあるんじゃないか?」


 そう水を向けられた尚人は思い出したように「あぁそういえばこの島に来てあらたな疑問は出てきたよ」と言いだした。


「お、やっぱあるんじゃんか!! なんだよそれ!?」

「寝袋の数だね」

「ハ……?」

「さっきさ、浜辺で自由行動中に小舟で寝袋が次々に運び込まれていること皆に教えたろ?」

「あぁ言ってた言ってた!! お前からそれ聞いて、今日風呂に入れないと分かって超ブルーにさせられたよ」

「あの後、伯田先生の号令がかかる前にまた偵察に行ったんだけどさ、どう見ても運び込まれた寝袋の数が足りないんだ。僕ら生徒全員分なんて無かったよ」

「どういうことだよそれ?」

「だからそこが分からないんだってば。先生たちの分も合わせたらもっといっぱい運び込まないとおかしいのに、全員分なんて絶対に無かったよ。見た感じじゃいいとこ半分ってとこかな。……いや、やっぱり半分もなかったな。もっと少なかった」

「ちょ、ちょっと待てよ。と、いうことは……?」


 今の情報から推測できる回答を求め、シンが俺とヒデにも視線を送ってくる。

 すると腕を組み、目を閉じた瞑想状態で尚人の報告を聞いていたヒデがボソリと己の推論を口にした。


「今夜この島に寝袋で泊らされる奴もいれば、そうじゃない奴もいるってことじゃないか?」


 まだ推測の域を出ていないが、銀杏高側から提供される今夜の宿のクオリティの歴然たる差を知ったシンの顔色が瞬く間に変わる。


「おいおいおいおい! そこまで下剋上なわけ!? ひどすぎね!?」

「そうかな? いかにも銀杏らしいやり口だと僕は思うけど」

「そうだな。この措置は俺ら生徒に弱肉強食の世界をリアルに体験させたいという銀杏側の意向なのかもしれんな」

「じゃあ勝てば豪華旅館で負けたら寝袋コースかよ!? あ! ちょい待ち! 今また残りの寝袋を運び込んでいるって可能性もあるんじゃね!?」

「残念だねシン。さっき運んでいた人の一人が、 “ これで全部だな ” って言ってたのを僕聞いちゃったんだよね。だからその可能性はかなり低いと思うよ」

「マ、マジかよ……」


 ―― どうやら過酷な試練はこのサバイバルゲームだけではないらしい。

 既定の賞牌(メダル)をいち早くゲットできればこの小島から脱出でき、クリアできなければ惨めな野宿コースということか。 


「くそっ、じゃあなんとしても勝たなきゃなんねーじゃん!! 美月ちゃんたちにアロマオイルマッサージをプレゼントしたくて頑張るかと思ってたけど、もう絶対に負けられねぇよ!! よし美月ちゃん探そうぜ!! 花ちゃん置いたらすぐ追ってこいよ柊兵!! 絶対にすぐ来いよ!? 怜亜ちゃん達と話し込んだりすんなよ!? いいなっっ!?」


 ……すげぇ、こんな貪欲で熱血なシンは初めて見た。

 こいつよっぽどこの小島で寝袋一泊生活が嫌なんだな。


「あ、柊兵。花ちゃんってちっちゃいのに結構重たそうだから頑張ってね。もしかしたら僕より重いかもしれないよ」


 とまたしても余計な事を言いだしたのは尚人だ。

 しかもこっそりと言えばいいものを、わざと白十利にまで聞こえるような音量で言いやがるから、プライドを傷つけられた白十利がまたも怒りで身体を震わせている。

 時間も無い事だし、これ以上場をおかしな空気にしないためにも、ここはお互いにさっさと出発したほうが良さそうだ。


「では閣下が戻るまではとりあえず俺が部隊長の代わりをしておくんでご安心を! よしみんな行こうぜ! 脱・寝袋ナイトだ!!」

「おう!!」

「うん頑張ろっ!」

「ちくしょうっ、俺のおっぱいいいいいぃぃぃぃ~~!! 末代まで恨むぜ柊兵っっ!!」


 気合いMAXのシンの号令でメンバーは森の更に奥深くまで走り去っていった。やれやれ、やっと動けるな。


「おい白十利、行くぞ」


 そう声をかけると、未だ自分の立場をまったく分かっていない図々しい小型小包がアヒルのように口を尖らせて文句を垂れ始めた。


「えぇ~~やっぱり原田くんになっちゃったんですかぁ~? 花、佐久間くんが良かったのにぃ~!」

「運んでもらう立場のくせに贅沢言うんじゃねぇ! それより俺がかついでいる時、ジタバタもがくなよ?」

「あの体勢はイヤです! あれ、すっごく苦しいんですよ!? 腰が痛くなってくるし、だんだん頭に血が上ってきちゃうんだもん!!」

「んな事言ったってお前脚も縛られてるから背負えないだろ。少しの間我慢しろよ」


 すると白十利はシャンと背筋を伸ばし、のほほんと緩んだ表情から急にキリッと引き締まったいい表情を見せる。


「ヤです。抱っこしてください」


 ―― マジか。



                挿絵(By みてみん)

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★ http://www.nicovideo.jp/watch/sm20882358

【 ★「私たちにしときなさい!」作品の、歌入り動画UP場所です↑ : 6分02秒 】


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