打ち捨てるのか、引き回すのか、それが問題だな
Team・不死鳥から選別された哀れな礎、ウラナリ・本多。
奴は、BB弾とペイント弾の爆撃によって壮絶に散った。
淡紅色まみれの生贄となったあいつの犠牲を無駄にしないためにも、まずはこの危険地帯から速やかに脱出をすることが先決だ。
「柊兵! 尚人! こっちだ!」
別方向に退避していたシンが俺たちを見つけ、声を張り上げる。
背後から追っ手の気配はない。犠牲者は出ちまったが毛田たちの攻撃範囲内から何とか逃げ切れたようだ。周囲を警戒しつつ集まり、今後の行動について残ったメンバーで再検討に入る。
「まず僕らが一番に決めないといけない項目はさ、花ちゃんの処遇だよね。そろそろお別れの時だと思うんだ」
誰よりも真っ先に尚人がそう発言した途端、白十利は麻縄で厳重に縛り上げられたその豊満な身体をビクリと震わせる。一気に青ざめたその表情を見ると、恐らく体内に嫌な予感が走ったのだろう。
「まままま待って下さぁいっ!! まさか花をここに置いていくわけじゃないですよね!?」
「できれば助けてあげたいんだよ? でも本多のためにも僕らはどうしても勝たなきゃならないんだ。だから悪いけどここに一人で残ってさ、通りがかった他の部隊に拾ってもらってよ」
「ひっひどいです~~っ!! こんな状態の花をここに置き去りにしていくなんて!!」
たった今、バッドエンド決定のフラグが自分の頭上にグサリと突き刺さった白十利は、ピーピーと騒々しく喚き出した。そりゃそうだろうな。
「これならあの檻に閉じ込められていた方が全然マシでした!! 檻の中ならジロジロいやらしー目で見られたり、小枝でツンツンされるだけだったもんっ! こんな身体の自由が利かない状態でここに取り残されたら花はきっと弄ばれますぅ!! 飢えた男の子たちに捕まってこのカラダの隅々までジューリンされちゃいますよぉー!!」
「それ、多分大丈夫だと思うよ? だってその縄、僕ら四人がかりでも解けなかったんだから」
「何ですかっヒトゴトだと思ってえええ~~!!」
「うん、他人事だよ? 僕らは早く自分の部隊の捕虜を探して一番にゴールしなきゃならないんだ。だからおとなしくここに残ってねっ」
── おい、ここで出んのかよ。必殺の尚人スマイルが。
しかし状況が状況なだけに、この場が和むことも、微笑みかけられた巨乳女子がその笑顔に陥落することも無さそうだ。
「ひどいですひどいですーっ! 真田くんは爽やかで優しい人だと思っていたのに鬼ですっ!! 冷酷ですっ!! 悪魔降臨ですぅ!!」
白十利は湧き上がる怒りをその場で飛び跳ねることで表し始めた。必然的にまたその巨峰が盛大に揺れ動く事となる。
「おやおや~? どうなされましたか閣下?」
突然シンが俺の顔を覗きこんできやがった。
「ご尊顔がいたく赤面しておられますよ? ちなみに閣下は花ちゃんの身体のどの部分に反応なされたのですか? できましたら俺にだけこっそりと」
「うっうるせぇ!! 黙ってろ!!」
シンの野郎っ、分かっているくせにわざと聞きやがって!
二つの肉塊だ、なんて言えるか!!
「ふええぇ~~ん! こんな所に置き去りにされるなんてイヤですううぅ~!! お願いですから花も一緒に連れて行って下さああぁ~い!」
……嘘泣きまで始まったか。こいつも必死だな。
何とかしてやりたいが、この緊縛女をこのまま連れ回すには無理があるしな……、どうしたもんか。
「待てよ。白十利の言う事ももっともだぞ? 確かに足手まといにはなるがこいつをこんな所に一人残していくわけにはいかないだろう」
「わぁ!! 佐久間くんは優しいですぅ!」
孤軍奮闘中の白十利にここでようやくフォローが入る。
ヒデが垂らしたこの蜘蛛の糸に目を輝かせて飛びついた白十利は、その後蔑んだ視線を尚人に叩きつけた。
「花は迂闊でした!! このグループの人たちはみんな素行が悪い人たちばっかりで、真田くんだけが違うと思っていたけど、真実は全然違ったんですね!! 本当の悪人は真田くんだったなんてビックリです!!」
「おい尚人、いいのか? かなりの言われようだが」
一応確認しておくぞ、という様子でヒデが尚人に反論する機会を振ってやる。
しかし当の本人は、「いいんだよヒデ。花ちゃんは小さすぎで全然僕の好みじゃないしどう思われたって構わないさ」と一刀両断だ。
「ひどいですぅ真田くん!!」
「ごめんごめん、ちょっと言いすぎちゃったかな。あ、そうそう花ちゃん、話は変わるんだけどね、君は僕ら男子から “ 魅惑の小型高性能 ”、って言われてるの知ってる?」
「え!? あっ、そ、それはぁ、えーとぉ……うふふっ」
怒りモードを一旦停止し、嬉しそうな表情で急にもじもじとし始める白十利。
……こいつ、完全に自分の仇名を知ってやがるな。
しかし、すかさず尚人が爽やかスマイルを浮かべたままでその喜びに真水をぶっかけるようなことを言う。
「花ちゃん、喜んでいるところ悪いけど、それ、あまり真に受けない方がいいと思うよ? 巨乳な女の子が好きだっていう男の割合って、実はそんなに高くないんだよね。それに胸の大きさと頭の良さって反比例するっていう迷信もあるし。あ、でも確か花ちゃんもあまり成績よくないよね? この間のテストもクラス内で下から数えた方が断然早いというか、結局最下位じゃなかったっけ?」
「成績のことは言わないで下さいぃぃぃぃ~~!!」
一番突っ込まれたくないウィークポイントだったのか、白十利が絶叫する。
「あははっ、せっかくだからもう一つ言わせてもらおうかな? 僕から見た花ちゃんってさ、すごく小柄すぎて、胸の大きい小学生にしか見えないんだよね。それだけ胸が育つよりさ、その分を身長に割り当てられたら良かったのにね。残念だけど君の年齢的に考えてもこの先大した成長も見込め無さそうだし、ちっちゃな花ちゃんはこれからずっと極一部のマニアックな男にしか好かれない、とても偏った人生を送る事になるんだろうね。ご愁傷様です!」
「うううう~~~真田くんなんて大嫌いですうううぅ!!」
しかしそう言われても尚人の表情が曇る事は一切無い。それどころか相変わらずの清清しさで悠然と微笑みを返してやがる。むしろ、「嫌ってくれてどうもありがとう」と今にも言い出しかねない表情だ。
「花ちゃんに嫌われてもダメージゼロだから全然構わないよ。それにそうやって涙ぐんでもムダだよ? 世の中のすべての男が女の子の涙に弱いとは思わないことだね。少なくともこの僕には一切効かないと思ってほしいな。分かったらそろそろここに残る覚悟を決めてよ。ね、チビ花ちゃん?」
「ううう、ひどい、ひどすぎですよううぅ……!」
……何やってんだこいつらは。
グスグスと涙ぐむ白十利と、水を得た魚のように妙にイキイキとした尚人。
傍から見りゃ完璧にSとMの関係じゃんか。