本日のキーワードは 【 補助 】!? <後編>
「柊兵! 早く答えなさいよーっ!」
「お願い! 教えて柊ちゃん!」
両脇の雄たけびは最高潮だ。
しかしあのチビ占い師とは周囲に話すのを憚るような特段な関係ではないのに、こうして「言え」と迫られてもこちらとしては困惑するしかない。だが今それをここで必死に釈明してもこいつらに信じてもらえそうに無いのは明らかでもある。どうする……?
「もしもーし、そこのお二人さ~ん? どうせ柊兵くんを責めるんならさ、その疑惑メールを最後まで見てから判断したほうがいいと思いますよー?」
俺が本気の窮地に追い込まれているのを見かねたのか、シートから身を起こしたシンが珍しく助け舟を出してくる。そして「柊兵くん、俺もそのメール見てもいいか?」と続けて尋ねてきた。
「あぁ」
俺が頷いたので、シンは「ちょっと失礼」と言うと美月の手から華麗に携帯を取り上げ、携帯画面をスクロールしながらミミからのメールを無言で読み始める。だが途中で一度軽く噴き出し、その後は空いた片手で笑っている口元を覆い隠しながら続きを読んだ。
「……いやぁ~なるほどなるほど! これはなかなかに興味深いメールですねぇ~!」
メールを読み切った後の第一声がこれだった。
慇懃ぶった口調にプラスして勿体をつけたその言い方に、美月と怜亜の関心は一気にシンへと移ったようだ。俺への追求を一時中断して二人ともシンへ視線を送る。
「シン! 何て書いてあったのよ!?」
俺の身代わりとなって美月の追求を受けたシンは、喉元からこみ上げてきている笑いを抑え、おそらく自身最上級の笑顔を見せる。
「もちろん美月ちゃんからの直々の頼みとあれば、この楠瀬慎壱、どんな事でも喜んでお答えいたしますよ! でもまずその前に、お二人には柊兵くんの浮気疑惑が完璧に晴れた事を慎んでここにご報告させていただきます!」
「えっホント!? じゃあ柊ちゃんはミミさんとはお付き合いしていないの? 教えてシンさん!」
「イエッサー!」
シンは歯並びのいい白い歯を見せ、「では柊兵閣下のお許しも出ておりますので、僭越ながらご報告させていただきます!」と宣誓すると、わざと声色を高めにして “ 女から届いた ” という雰囲気を存分に醸し出しながらミミのメールの続きを読み始めた。
「 【 柊兵くんは今日から修学旅行でしょ?
せっかくの銀杏高校の一大イベントを柊兵くんに心から楽しんでもらいたいから、
この三日間の天秤座の運勢をまたまた勝手に占っちゃいました~♪ (^o^)ノ
……優しいミミお姉さんに感謝するのよ?
じゃあ早速発表するわね! 今回の天秤座の星のお告げはズバリ ≪ 補助 ≫!
修学旅行の間、きっとたくさんの人たちがあなたをアシストしてくれると思うわ!
そして肝心の恋愛運! 今の柊兵くんにはこれが一番重要よねっ! ヾ(*´∀`*)ノ
あなたのラブ運が高まるポイントは ≪ 水場 ≫ でラッキーカラーは ≪ 白 ≫よ!
では色んな意味で三日間の柊兵くんの健闘を祈りまーす☆
~ あなたのミミお姉さんより ~ (*^з^*)CHU♪ 】」
「……何それ?」
ミミの星占いメールを聞いた美月が渋い顔で呟く。
「ハハッ、だから柊兵くんがこの修学旅行を楽しめるように、ミミっていう占い好きなおねーさんがラブラブ恋愛占いをしてくれたってことじゃないですか? なぁ柊兵く~ん?」
シンが笑いをこらえながら俺の顔を見た時、「ねぇシンさん」と今度は怜亜が口を開いた。
「ミミさんからのメールはそれで終わりなの?」
「うん、そう。これで終わりだよ」
シンは怜亜に向かってそう答え、
「 【 この間の柊兵くん、獣みたいにすっごく激しすぎて、私カラダが壊れちゃうかと思った~! 】 とか、【 今夜は二人っきりで朝までずっとイイ事しようね♪ 】 なんていう禁断の秘め事系は何も書かれてませんでしたからどうぞご安心を!」
とまったく余計なフォローを付け加えやがる。
「そうだったの……。でも良かったわ! 柊ちゃん、疑っちゃってごめんなさいっ!」
片手で首元を軽く押さえ、怜亜が俺に向かって微笑んでくる。
おい怜亜、なんだそのメチャクチャ心底安心したような笑顔は。分かり易すぎだっつーの……。
「あたしもごめんね、柊兵!」
美月も一気に機嫌を直したようだ。しかしデカイ声でそう謝った後、
「シン、それ貸して!」
とまた携帯を取り返し、俺に向かってそれを二三度振ってみせる。
「柊兵! 今回はあたし達の勘違いだったけど、他に怪しいメールは無いんでしょうねー?」
と念押しをしてきた。面倒なので「無ぇよ」と素っ気無く答える。
「あっそ。じゃあ念のためにメール全部チェックしちゃおー!」
受信メールボックス一覧を美月が開こうとした時、
「おっと! そこまでですよ美月ちゃん」
隣席にいたシンが上から手を伸ばして携帯をスマートに奪い取る。
「さすがにそこまではやっちゃいけないなぁ。パンドラの箱を強引に開けたっていいことなんて何もないんだよ? それに例えやましい事がなくってもさ、柊兵くんにだって一応プライバシーがあるんだ。美月ちゃんはそう思わない?」
シンにそう優しくたしなめられ、美月も少し反省したようだ。
「うん……、そうだね、シンの言うとおりだね。ごめん、柊兵。やりすぎちゃうとこだった」
「そうそう、良い子良い子!」
美月が素直に応じたのでシンはにこやかに笑う。そして「ホラ柊兵、しまっとけ」と美月の頭越しに俺の携帯を返して寄越した。
「サンキュ」
礼を言い、携帯をジャージのポケットに突っ込んだ。
知り合ったばかりの頃はひたすらチャラいだけの男かと思っていたが、こいつも実は結構いい奴だ。後は俺をいいように弄ぶ例の癖さえなければとりあえず言う事はないんだがな。
しかしミミの奴、何の用件かと思ったらこんな下らないことをわざわざメールしてくるとはな……。
確かに巷では評判のよく当たる占い師かもしれないが、俺にとっては史上最凶のウザさを誇る占い師だ。
だが、ここでふと俺の中で次なる新たな疑問点が浮上してくる。
……なんであいつは今日俺らが修学旅行に行く事を知ってるんだ?