未来を見通す “ 稚い淑女 ” <3>
両頬をモミジみたいなちっこい手が挟み込み、顔を強引に上向きにさせられた。
「柊兵くん、もっとよく顔見せて!」
うぉっ、さっきよりも顔が近いっ!
興味津々のこいつの瞳孔がわずかに開いたのまで肉眼で確認できちまうぐらいの距離だ。
……しかしつくづく自分が情けない。なぜなら現在の心拍数がすでに平常時の倍になっているからだ。いくら女が苦手だからとはいえ、こんなちびっ子すらも駄目だったとは……。立ち直れないくらいのショックに打ちのめされる。
「うふふっ、そんなに緊張した顔しないでよ!」
引きつっている俺の顔を見て、ミミは心底おかしそうにケラケラと笑った。
「今のはジョーダンよ、ジョーダン! あなた可愛いからちょっとからかってみちゃったっ! ねぇねぇ、もしかして柊兵くんって女の子にあまり慣れてないの?」
「うっ、うるせぇ! 余計な世話だ!」
怒鳴りはしたが、今のが冗談だったことに本気で安堵する。
「よしっ、じゃあ本題に入りましょ! 柊兵くんの話はよく分かったわ。でもあの占いは所詮はプレタポルテだしね。世の中には偶然も多いし、たまたま連続してピッタリ当たっちゃっただけじゃない? 明日はきっと外れるわよ」
「おい、占い師が “ 明日はきっと外れる ” なんて言っていいのかよ?」
「えぇ!」
遥か下の階で扉の開閉音が聞こえ、それによって発生した突風が階下から吹き上げてくる。その風が金の巻き毛を大きく波打たせる中、ミミは悠然とした態度で首を縦に振った。
「だって占いって決して絶対的なものじゃないもの。それに現実ってたった一つのものじゃなくて、見る角度を変えれば幾通りもあるものでしょ? だから詳しく柊兵くん個人の運命を知るためには出生天宮図を作らなくっちゃ。生年月日と出生地は分かってるだろうけど、出生時刻を知ってる?」
「んなもん知らねぇよ」
「やっぱり普通はそんなこと知らないわよね。母子手帳にはちゃんと記載されていると思うけど、今自分の母子手帳なんて持ってないでしょ?」
「持ってるわけねぇだろうが」
「そうよねぇ……。出生時刻が分からなくても一応作る事は出来るんだけど、正確なチャートに比べるとハウス解釈の精度は格段に落ちちゃうし……」
ミミは困り顔で小さなため息をつく。
「ねぇ柊兵くん、ちなみにお誕生日はいつ?」
「……十月十九日」
「ふーん。じゃあ天秤座ね」
「ライブラ?」
「天秤座の学名よ。リブラとも言うわ。……うん、柊兵くんは結構ストレートに特徴が出ているかも」
「どういう意味だよ?」
「あのね、<サインの法則>っていうのがあってね、この世に生まれ落ちた時に太陽がどの星座にいたのかでその人の性格や運命って決定するの」
ミミの背筋がさらに一層伸びた。
コホン、と軽く咳払いをし、この小さな占い師は長々と余計な講釈を勝手に垂れ始める。
「天秤座の性格はね、天秤という名の通り、元々バランスと社交性に優れていて、理性と感情の間に上手に均衡を取るの。だからたくさんの人との関わりを通して生きていく星座。多くの人間関係を通じて人生が発展してゆく星座。でも人の好き嫌いは十二星座中、一番ね。クールな面と強さを持つけど、意外とケンカっ早い所もあるわ。あっ、でも争いごとは幸運を遠ざけちゃうから気をつけてね。そして欠点は、虚栄心が強くって、八方美人で、ナマケ癖があること。それと十二星座中、最も美しいものを与えられていると言われているから整った顔立ちの人が多いのも特徴よ」
ミミは俺の顔を再びまじまじと見た。
「ほーら、やっぱり結構当たってそう! あなた、目つきはあまり良くないけど顔立ちは整っているし、とても綺麗な目をしているわ。この星座の人の身長は概して高くって、若い時は痩せ型でスマートな人が多いし。明朗で快活なタイプが多いんだけど、でもそこはちょっと違ってそうね……。そうそう、この星座の人ってエクボを持っている人も多いわ。柊兵くんある? ちょっと笑ってみてよ!」
「死んでもごめんだ」
「ケチねぇ……。あ、、それと悩みの原因の女の子って何座?」
「知らん」
「えっ、好きな女の子の星座知らないの? 冷たいのねー。…………あっ、そうか! じゃあ柊兵くんはもしかして逆に迷惑してるとか? その女の子に?」
返答に詰まる。
「………………あ、あぁ……」
たっぷり間を置いてから俺はようやくそう答えた。
そして返事を即答出来なかった自分自身に驚く。もしかして俺は……?
「ちなみにその迷惑している女の子の性格って快活? それとも控えめかしら?」
「……どっちも当てはまる」
「ふぇっ?」
俺の答えにミミは素っ頓狂な声を上げた。
そしてしばらく目を瞬かせて考えていたがやがて状況が飲み込めたらしく、口に手を当てて意味深に笑う。
「あらあら大変ねっ」
半分小馬鹿にしたようなその仕草にまた頭に血が上った。
「……あんたなぁ、占い師だからってよ、妙に上から見下すようなその物の言い方止めろよ。俺より年下だろ? 目上への礼ってもんを知らねぇのか?」
その時もともと上がり気味だったこいつの眉が更に吊り上る。
「私があなたより年下ですってー!?」
ミミは気色ばんだ顔で横に置いてある黒鞄に手を伸ばす。その中から財布を取り出し、一枚のカードを引っ張り出すと黄門の印籠ばりのパフォーマンスで俺の目の前にそれをズイ、と振りかざした。
「私、二十六歳なんだけどっ!?」
「何ッ!?」
驚愕の声を上げ、鼻先に突きつけられている運転免許証に目を凝らす。免許証に写っている小顔の女の髪は黒髪だが、間違いなくこの女だ。
『影浦深美』という氏名欄の横に生年月日が記載されており、俺より十年早い生年だった。このちびっ子が俺より十歳も年上だと?
「私って背が低いからどうしても幼く見られちゃうのよね。六年前にヨーロッパに占星術を学びに行ったことがあるんだけど、初等科の小学生と間違えられたこともあるわ」
当時の辛酸体験を思い出したのか、ミミはフンッと鼻を鳴らす。
「……俺、最初あんた見た時中学生かと思った」
「若く見られるのは女にとっては確かに喜ばしいことだけど、かといって若く見られすぎるのも困りものよ」
ミミは面白く無さそうな顔でゴールドラインが入った免許証を無造作に財布に戻す。そしてそれを再び黒鞄の中にしまおうとしたが、ケースの中を見て何かを思いついたようだ。
「今ここで出生天宮図も作れないし、これであなたを占ってあげるわ!」
黒鞄の中から出したタロットカードを見て俺は呆れた声を出す。
「あんた、星占いの他にそれもやるのかよ?」
「ふふっ、占星術の前は少しだけこれにハマッていたの。こっちは本職じゃないから遊びでちょっとしてみましょっ!」
完全にこいつペースで物事が進み出している。
カードを左脇に置いて黒鞄を閉じると、ミミはその鞄を俺の膝上にドサリと乱暴に投下しやがった。
「おいっ何すんだよ!?」
「テーブルが無いからこれをテーブル代わりにするの。ちょっと重いけど我慢して!」
またしても俺の意向は完全に無視だ。
タロットカードが黒鞄の側面上に置かれ、ばら撒かれる。すぐにキューピー人形のような小さい手が右回りに回り出し、カードを混ぜ始めた。
たっぷり二十秒以上はかき混ぜていただろうか。それが終わるとカードを一束に集め、今度はシャッフルを始める。手馴れているとすぐに分かった。カードが自らの意思で勝手に舞っているようだ。
「はい、これを三束に分けて」
ミミが俺にカードを押し付けてきた。やらないと帰してもらえそうにない。渋々三つの束に分けて黒鞄の上に置く。すぐにそれはミミの手によって一束にまた重ねられた。
そしてミミが厳かに命令する。
「……さぁ、あなたの未来よ。一枚引いてちょうだい」
なんだ、妙に緊張してきやがる。こいつの真剣な声に感化されたのだろうか。
「引いたら動かさないでそのまま平行にカードをひっくり返して」
言われた通りにカードを開けた。
そのカードを見たミミが「正位置で 【 恋人 】ね!」と驚嘆の声を上げる。
俺から見ると逆さまの絵柄になっているが、カードの上半分には、神なのか悪魔なのかよく分からないでっかい羽の生えた魔物らしき生き物が君臨し、カードの下半分には全裸の男が立っている。男の両脇には同じく全裸の女が二人。つまり男は二人の女に挟まれている絵柄だ。
カードの解説が始まる。
「このカードの意味はね、<恋愛>、<誘惑>、<三角関係>。そして、<二つの道のどちらかの選択を迫られる>という意味なの。もしかしたらこれは、近いうちに柊兵くんに何か決断が訪れるって前触れかもね」
―― 決断? 選択? どういう意味だ?
「二者択一の意味を持つカードだから単純に考えれば二人の女の子のどっちかを選ぶ、ってことなんだろうけど……」
ミミはそのカードを手に取り、真剣な眼差しでじっと見つめる。まるでそこから発する、鼓膜では聞き取ることの出来ないカードの啓示を聞き取ろうとしているかのようだ。
「でも柊兵くんは迷惑しているんだもんね、その女の子達に。……そうね、じゃあもしかしたら、この先あなたの前に現れる選択肢によっては、その女の子達を遠ざけることが出来るかもしれない」
「どういう意味だよそれ!?」
「う~ん、具体的には上手く言えないけど、近いうちに柊兵くんとその女の子達の間で何かトラブルが起きるのかも。そしてその時柊兵くんが取る行動でその子達との関係が変わるのかもしれない」
トラブルが起きるかも、なんてミミは言うが、あいつらとはしょっちゅうトラブってる。……というか、俺が一方的に翻弄されている。
じゃあ何か? この先、またあいつらが俺に何かしてきた時、思い切り突き放せばもうつきまとわれなくて済む、ということなのか?
「ミミさ~ん、どちらにおられるんですか~?」
下の階から男の声が聞こえてきた。
「あ、いけない。ここの責任者の人だ。私もう行かなくっちゃ。あ、でもこの椅子どうしよう……」
「俺が戻しておくから早く行けよ」
「あらそう? ありがと!」
四段上の階段から下りてきたミミは、椅子から立ち上がろうとした俺の肩をそのちっこい両手で軽く押さえた。
「最初見た時から思ってたけど、あなた結構優しい所あるわよね。だからもっと柔らかい表情をするように心がけなさい。その目つきでだいぶ損してるわ。分かった? はい、分かったらお返事は?」
またしてもその上段からの物言いに引っかかりそうになったが、(こいつは二十六、二十六、二十六……)、と何度も呪文を唱えて怒りを抑える。
急いでいるせいかミミは結局俺の返事を待たず、タロットカードを慌しく片付けはじめた。
そして黒鞄を閉じる前に、中から妙に分厚い一冊の本を取り出す。
「これ、私が書いた本なの。特別にタダで柊兵くんにあげるから今度読んでみて。出生天宮図の作成の仕方もここに紹介してあるから、今度自分で作ってみるといいわ」
胸元に強引に押し付けられた本の背表紙には、『愛と幸せに満ちた惑星の上で』 と書かれてある。驚く事に広辞苑に匹敵するくらいの分厚さだ。
「い、いらねぇよ!」
「フフッ、遠慮しなくていいのよ」
「マジでいらねぇって!」
「あなたとはまたどこかで出会えるような気がするし、じゃあそれまで貸してあげるっ」
ミミは俺に広辞苑もどきをさらにグイと押し付け、黒のローブと金の巻き毛をなびかせながら風のように階段を駆け下りていく。
「おっおい、待てって!」
手摺から身を乗り出して必死に呼び止めるも、ミミは足を止める素振りすら見せなかった。代わりに笑いかけられる。
「柊兵くん、あなたに大宇宙のご加護がありますように!」
「だから待てっての! これを持ってけ!」
「あ、言い忘れてたわ。あなたの星座と愛情が芽生えやすいハッピートライアングルは双子座と水瓶座よ。ではごきげんよう♪」
……畜生、行っちまいやがった。
踊り場に一人取り残され、押し付けられた本を片手に小さく舌打ちをする。
脳内に今しがたミミに言われた怪しげな予言が蘇り、強制的に俺のテンションを最低ラインにまで押し下げていた。
本当に近いうちにそんな二者択一が俺に訪れるのか?
で、もし予言が当たったら、その時の俺はどういう態度を取るんだ?
あいつらを冷たく突き放すのか?
自由になる為に?
本の黒表紙を燦然と飾っている青く丸い地球の写真を眺め、ひたすらに考える。
だが脳味噌をいくらフル回転させて考え続けても、今の俺はまだその答えを自らの中に見つけ出すことは出来なかった。
・―――・―――・―――・―――・―――・―――・―――・―――・―――・
実は今日は週に一度の空手の稽古日だった。
他の門下生達はとっくに帰り、いつものように俺とヒデだけが道場に残っている。これから組み手をやろうってわけだ。しかしさっきからヒデの顔に浮かんでいる薄ら笑いが気に食わねぇ。何か俺に言いたそうな顔をしてやがる。イラつく気持ちを封じ込め、上体を約十五度傾けて立礼。礼から直るとさらにヒデの口角が上がっているような気がした。
「……なんだよヒデ。勝負の前にニヤニヤしやがって」
「悪いが今日は余裕で勝てると思ってな」
「なに?」
「稽古に遅刻してくるわ、おまけに集中力は散漫だわ、そんな状態のお前に負けたら俺は今日限りで空手を止めてもいい」
言葉だけではなく、表情にまで漂うヒデの余裕とその挑発に、増勢したアドレナリンが体内を瞬時に駆け巡る。
「何だとっ!? よく言った! じゃあお前が空手を止めたらこの道場は代わりに俺が継いでやるから有難く思えッ!!」
「ご随意に」
怒気を帯びた声と物静かな声が交錯した後、道場の中に針が落ちる音も聞き取れるような無言が訪れる。
今の俺が集中力散漫だと? ぶっ倒した後で「さっきの話は無かったことにしてくれ」と泣きを入れさせてやる……!
こいつとやる場合に気をつけるべき点は、素早い足裁きと体裁きで懐に飛び込まれた後の回し蹴りだ。ヒデの回し蹴りは予備動作は大きいが体がデカい分、相当な破壊力を持つ。まともに喰らえば吹っ飛ばされちまう。
ジリジリと間合いを詰め、正面にいるヒデを鋭く見据える。
こいつとはしょっちゅう組み手をしているのでお互いの癖は知り尽くしている。相手の実力が分かっている分、当然弱点もすべて曝け出しあっている。だが、だからこそ戦う方策が見えてくる。
俺の得意技は出会いの中段逆突きだが、相手がヒデならたぶんこの動きは読まれるだろう。なら、その前に鋭く見えづらい前蹴りをノーモーションでぶち込むことに決めた。重心を体の中心よりやや前寄りにし、寄り足で間合いを詰める。
喰らえっ!!
だが俺の動きにヒデは素早く反応してくる。ふくらはぎの内側部分を左腕の肘で内から外へと下段払いで払われた。払った際の腰のひねりを利用して、ヒデの右拳の正拳が唸りを上げて襲ってくる。
「ぐっっ……!」
鳩尾に鈍い痛み。……畜生、逆突きを極められた!
ヒデは突いた右拳をすぐに引き、残心を取っている。完全に間合いを取られちまったか……!
勝負の行方を大きく握る鍵はカウンターだが、先に自分の間合いを取ることができた方がその後の勝負はかなり有利なものになる。間合いを取られるとそれがプレッシャーになり、苦し紛れな動作が出てきやすくなるからだ。動作も大振りなものになりがちで相手に動きを読まれやすくなってしまう。
加速と体重が最も乗った状態でヒデが素早く踏み込んできた。一気に勝負を決める気か!?
突きは何とかかわせた。だが体さばきでバランスを崩しちまった。体が開き、前足の爪先がヒデの正中線から外れる。すぐに反撃できる態勢を取れなかったその隙をヒデが見逃すはずもない。
―― 来るッ!!
内心でそう叫んだのと同時に、ヒデ得意の背足を使った横からの回し蹴りが飛んで来た。
……痛っ!
バランスを崩した俺はその蹴りを入り身で流しきれなかった。側頭部に軽い衝撃が走る。顔面目掛けて飛んで来た蹴りをかろうじて背腕で受けたが踏ん張りきれなかった。
「勝負ありだな」
拳を下げ、仁王立ちになったヒデが目を細めてニッと笑う。パワー負けし、左後方に尻餅をついちまった俺は沈黙で答えるしかない。……畜生、これだけあっさり勝負がついたのは久しぶりだ。
「心ここにあらずの浮ついたお前に俺が負けるはずないだろ? お前、今日の稽古に遅刻してきたが、どこに行ってたんだ?」
「……ヤボ用だ」
ミミ・影浦に占ってもらってたなんて死んでも言えねぇ。
「美月達とどこかに行ってたのか?」
「違う」
「何だ違うのか」
道着の黒帯に手をかけ、ヒデが近寄ってくる。ヒデは俺の前に来ると腰を下ろした。
「なぁ柊兵、美月と怜亜にあまり冷淡な態度を取るな。可哀想だろ」
「……ヒデ、お前、今まであいつらとずっと連絡取っていたって本当か?」
「あぁ。美月達が引っ越して二ヶ月くらい経った頃かな、電話が来てな、たまにお前の様子を教えてくれって言われたんだ」
「なんでその事、俺に黙ってた?」
「言わないでくれって頼まれた。お前、そういうの嫌がりそうだからってな」
「…………」
肩を大きく上下させて息を吐く。
嫌われないために俺に直接連絡をしないで、ヒデを通して俺のことを知ろうとしていたあいつらの胸中を考えてみる。
…………何だ、この気持ちは…………?
「それでさ、お前の写真も時々送ってたんだ、あいつらが欲しがるんでな」
「勝手なことしやがって」
「そう言うな。そうだ、それで参ったことが一つあったよ。中学の時、修学旅行や体育祭の写真をクラスで回覧していただろ? 俺、あいつらの為にお前が一人で映っている写真全部に二枚の焼き増しを申し込んでたんだ」
「何!?」
「そしたらな、そのお前の単独写真を映ってもいない俺が、しかも毎回必ず二枚注文するもんだからさ、俺、お前に気があるとクラスの一部で思われちまってたみたいでさ、あれには本気で参ったよ。しかも俺とお前は中学の時はいつも二人でつるんでたろ? だから柊兵も実は内心満更でもないと思われてたみたいだぜ」
ヒデはそう言いながら苦笑いをしたが急に愉快になってきたのか、今度は大声で笑い出す。
……おい、つーことは何か? 俺とヒデはクラスの奴らからホモと思われてたってことなのか!? 勘弁してくれ!
「その事を美月と怜亜に愚痴ったらよ、“ 柊兵に女の子が近寄りづらくなってラッキー! ” って喜んでんの。まったく憎めない奴らだよ。……お、柊兵どうした?」
「頭が……」
「あぁさっきの蹴り、お前咄嗟に背腕で受けたとはいえ、もろに入ったからな……大丈夫か?」
「いや、そうじゃなくてよ……」
頭を大きく垂れ、さっきよりも深くため息をつく。
( 柊兵くん あなたに大宇宙のご加護がありますように── )
別れ際にそう囁いたミミの声がどこかから聞こえたような気がした。