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明日のわたしへ

掲載日:2026/05/06



ちゃんとしなさい。


何度そう言われてきたか、もう数えていない。


ちゃんと起きて、

ちゃんと働いて、

ちゃんと笑って、

ちゃんと人に迷惑をかけず、

ちゃんと年相応に生きなさい。


あなたはそのたび、うなずくふりが上手くなった。


朝、目覚ましより先に目が覚めるのは、不安だからだ。


カーテンの隙間から入る光に、今日も始まってしまったと思う。


スマホには返していない連絡。

母からの「元気?」

友達からの「今度会おう」

通販の発送通知。

誰も責めていない文字たちが、責めてくる。


顔を洗って、鏡を見る。

ひどい顔だと思う日と、まだなんとかなると思う日がある。

今日はその中間だ。

いちばん扱いに困る日。


あなたは恋もした。

馬鹿みたいに信じて、

少しだけ疑って、

結局ぜんぶ失った恋もあった。


「重いんだよ」と言われた夜、帰り道のコンビニでプリンを買ったことを覚えている。

傷ついたのに、スプーンをつけてもらう礼儀だけは忘れなかった。


家族のことも、うまく愛せなかった。

母の優しさは、ときどき息苦しかった。

父の無口は、ときどき刃物だった。


でも歳をとるたび、あの人たちも初めての人生だったのだと知る。

あなたを育てながら、自分の未熟さにも育てられていたのだろう。

許せないことは残っている。

でも、理解してしまった憎しみは置き場所がない。


洗濯物を干しながら泣いた日がある。

靴下の片方が見つからないだけで泣けた日もある。

そんなことで、と思うだろう。

そんなことで泣けるくらい、別の何かをずっと堪えていたのだ。


あなたは特別じゃない。

代わりはいくらでもいる。


電車に乗れば、似たような顔で似たように疲れた女たちがいる。

スーパーでは献立に悩む女がいて、ドラッグストアでは値札を見比べる女がいる。

みんな少しずつ負けながら、誰にも見せず暮らしている。

だから安心しなさい。


あなた一人が惨めなんじゃない。

あなた一人が弱いんじゃない。

そこら辺にいそうな女たちの胸の奥にも、声にならない嵐はある。

それでも、夕方になると空腹は来る。

洗えば皿はきれいになる。

好きだった歌を聴けば、少しだけ血が巡る。

ドラマの続きを見たくなる。

どうでもいい芸能ニュースに笑ってしまう。


人生は、壮絶な絶望だけではできていない。

こういう、しょうもない回復でつながっている。


恋をまたしたっていい。

しなくてもいい。


母に優しくできる日だけ優しくすればいい。


仕事が見つからない日が続いても、人格までなくしたわけじゃない。


何者にもなれなくても、今日のあなたにはなれている。

それだけで、充分に難しい。


ねえ、明日のあなたへ。

期待はしない。

でも少し信じている。


コンビニであたたかいものを買って、

洗い物をして、

眠れなくても横になって、

また朝が来たら、

嫌そうな顔で起きなさい。


その程度でいい。

その程度を続けた人だけが、いつか救われる。

だから今日も、生き延びて。


誰のためでもなく、

あとであなたがあなたを見捨てないために。



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