落ちるマンション
言うまでもなく、本作はフィクションです。
広報すぎみやべ 2009年12月号
不審者にご注意を
杉宮部市中央にて不審者の目撃情報が三件報告されています。時刻は午後六時から八時、いずれも黒いニット帽を被り紺色のジャケットを着込んだ三十代~四十代の男性とのことです。付近にお住まいの方はご用心下さい。
毎朝新聞地方版 2010年1月18日
素人物専門業者を摘発
警視庁保安課は16日、裏DVDを販売したとして店長ら20~60歳の男計7人をわいせつ図画販売目的所持などの容疑で逮捕したと発表した。今回の逮捕は強姦事件の被害者を起因としており、余罪の追及を視野に入れて今後も捜査が続けられる。
広報すぎみやべ 2010年2月号
空き巣被害増加
姫木や中央など、住宅密集地を中心に空き巣の被害件数が増加しています。会社や学校などで留守になった昼時を狙うケースがほとんどです。またマンションの八階での被害も報告されています。戸締りと貴重品の管理は徹底しましょう。それでも万が一の際には、すぐさま杉宮部警察署へご一報下さい。
日読新聞社会面 2010年3月5日
女子高生が飛び降り自殺、巻き添えで重傷者も
埼玉県で県立高校に通う女子生徒が、自宅マンションの屋上から飛び降り自殺を図ったことが四日、明らかになった。女子生徒は全身を強く打ち、搬送された病院で死亡が確認された。また飛び降りた際、偶然通りかかったマンションの住人に直撃しており、こちらは鎖骨を骨折するなどの重傷を負っている。女子生徒はこの二日前、ストーカーによる被害を警察に相談したばかりだった。
広報すぎみやべ 2010年5月号
落下物にご注意を
中央にて、マンションからの落下物による事故、事故未遂が立て続けに五件報告されています。今一度ベランダの使用法、落下物の有無をご確認の上、安全対策を行うよう心掛けてください。小さな植木鉢でも、十階相当の高さから落下すると自動車のボンネットを貫くほどの威力を持つに至ります。ベランダには、可能な限り物を置かないようにしてください。
埼玉新聞社会面 2010年6月10日
偶然か悪戯か、落下事故多発
ここ二ヶ月で、杉宮部市における落下事故が急増している。自殺者が通行人を直撃したという痛ましい事件を皮切りに、同じマンションで報告があるだけでも十八件の届けが上がっている。県警も捜査に乗り出したものの、今のところ有力な目撃情報などは入ってない。マンションの下層に住むある住人に話を聞いたところ、昼夜を問わず二日に一度ほどのペースで落ちてくるらしく、十八件という数字はあくまで氷山の一角とのこと。落ちてくるのは植木鉢が多いものの、中にはフォークや茶碗といった食器からハンガーや傘といった日用品まで含まれている。今のところ、何者かの故意による犯行とは断定されていない。
週刊女子 2010年7月6日号
夏から始めるガーデニング特集・コラム『行き過ぎた安全主義』(一部抜粋)
そもそも滑稽なのは、かの連中が下らない一例を持ち出してガーデニング全体を否定しようとしているところだ。埼玉で起きている一連の落下事件は、発端となった自殺者の事件以外全てが悪戯であろうと容易に推測できる。もちろん良識の無い一部の不心得者が存在することは確かだし、そういった連中が非難されるのは当然のことと思うが、台風すら想定して固定器具を購入する一般的な愛好者を十把一絡げに、それどころか極めて愚かな悪戯を行うような輩と混同されるのは我慢ならない。聞けばあの事件では、食器や雑貨どころか、室内にあった(しかもネットに入れて吊るされていた)観葉植物までも地上に落とされているというではないか。こんな有様でガーデニング自体を非難しようというのだから、驚くを通り越して呆れてしまう。とはいえ、もちろん私達も慢心することなく安全を追及し、これからも楽しいガーデニングライフの充実を――
月間レムリア 2010年9月号
女子高生の恨み? 埼玉落下事件におけるポルターガイスト
最近ネットでも話題になっている埼玉の落下事件を、我々も独自に調査してみることにした。まず何が起きて現在に至っているのか、そのあらましを追ってみることにしよう。
そもそもの始まりは今年の3月、話題となっているマンションの屋上から一人の女子高生が身投げしたことから始まっている。自殺を図った彼女は、その時偶然通りかかったマンションの住人を巻き添え(彼は重傷ながら一命を取り留める)にして、その若い命を散らしてしまった。
そしてこの半月後に起きた鉢植えの落下による最初の被害者が発生してから、以降は立て続けに同マンションで落下事件が多発しているのである。被害届けが出ている以上、もちろん警察も動き出して捜査を開始している。しかし最初の被害者が届けを出してから四ヶ月以上も経過しているにもかかわらず、犯人の特定には至っていない。悪戯をしている犯人は何処の誰なのか、ということは警察に任せることとして、どうしてこの限定された状況下で犯人の特定が出来ないのか、その部分を重点的に考えてみたい。
まず何が落ちているのか、警察の発表とマンションの住民からの聞き込みにより、その内訳を列記してみた。基本的にはベランダにあって当然の物、鉢植えや小型のシャベル、あるいはハンガーといった物がメインではあるものの、その中に混じって食器や傘といった不自然な代物があることは見逃せない。そして、これだけの落下物が証拠として挙がっているにもかかわらず、犯人の特定に結びついていないというのも不自然な話だ。しかしそんな疑問に、マンションのある住人は興味深い証言を我々に明かしてくれた。
落下物の大半は新品で所有者のハッキリしない物ばかりなのだが、幾つかの物品には明らかに所有者がわかる物もあったという。言うまでもなく警察も事情を聞きに訪れたらしいのだが、その家というのが例の自殺した女子高生の自宅だったのだ。そして驚くべきことに、それらの物品が落下した当時(いずれも昼から夕刻にかけて)残された夫婦は共働きであったため、自宅には誰も居なかったというのである。警察の調査によれば、この夫婦の証言は複数の同僚によって裏打ちされており、結果として誰もいない部屋から物がなくなって落下したことになる。またこの夫婦以外にも、室内に下げてあった観葉植物がネットを引き千切られるようにしてなくなっていたと証言する上層階の住人もおり、複数犯や模倣犯の存在も視野に入れての捜査は難航しているようだ。
しかしここで、我々は大きな疑問にぶち当たる。この一連の事件に自殺した女子高生が何かしら関わりを有しているのは良いとして、彼女が落下事件を起こすだけの理由を抱えているのかどうか、ということだ。彼女が自殺した時に偶然衝突したマンション住人は、同じマンションに住んでいるという以外の接点がなく、関係性は薄いとされている。そもそも、もしその男性が標的だとしたら彼だけを狙うのが筋というものだろう。何故こうも、不特定多数を狙うような状況が生まれるのだろうか。
この素朴な疑問を解決すべく、我々は女子高生の自殺に至るまでの経緯を調べてみることにした。すると驚くべき事実が浮かび上がってきたのである。
まず彼女は、自殺の二日前に警察を訪れている。その理由はストーカー被害に対する相談である。そしてこのストーカーは、未だに特定されていない。半年ほど前、すなわち彼女が自殺する二ヶ月前に強姦されるという痛ましい事件が起きているのだが、その相手がストーカーと同一人物であるかどうかすら未確定である。いずれにしても彼女は心と身体に傷を負い、その上忍び寄ってくる更なる恐怖から逃れようと自殺を図った可能性が高い。その想いが恨みという形で凝り固まったとすれば、周囲を巻き込もうという動機にも一定の理解が出来よう。しかも、もし彼女が偶然通行人に当たったのではなく、マンションに入ろうとしている何者かを『故意に』狙ったのだとすれば、そのターゲットに対する共通項も見えてくるのではないだろうか。
ともかく、あのマンションには何かがある、そう感じたのは紛れもない事実だった。
日読新聞地方版 2010年8月8日
マンション落下事件に光明、容疑者が任意同行される
埼玉のマンションで起きた一連の落下事件において、県警は三十代の無職の男を容疑者として確保していることを発表した。マンションから落ちてきた落下物の一つに彼の指紋が付着していたことから、その経緯について詳しく事情を聞いている。容疑者の男性は問題のマンションから百メートルほど離れた別のマンションの九階に住んでおり、問題のマンションに両親が暮らしていたことから頻繁に出入りしていた。
毎朝新聞地方版 2010年8月9日
事件解決への糸口、容疑者特定の真意
七日、県警は一連の落下事件の容疑者として、付近のマンションに住む三十代の男に任意同行を要請した。容疑に対し男は「誰にも当てていない」と否認している。しかし複数の証言からマンション内を徘徊している容疑者の姿が目撃されていることが判明している。同容疑者は以前、覗き行為により逮捕された経緯がある上、彼の自宅から大量の自作DVDが押収されており、余罪も含め慎重に捜査が進められている。
週刊現在 2010年8月21日号
これで本当に解決か!? 埼玉落下事件に見る身近な闇(一部抜粋)
同容疑者の抱える状況の中で最も危惧すべきことは、彼の個人的な異常性よりも、むしろ一人の女性を病的なまでに付け回しながら生活をしていけるだけの時間的、経済的余裕があることである。一般的にニートと呼ばれる人間の全てが、このような余裕に溢れている訳ではもちろんないだろうが、その潜在的な危険性については議論の余地があるだろう。反社会的な状態にありながら放置する親はもちろん、それが可能となるシステムにも問題がある。
彼は両親の財で付近のマンションの一室を購入し、そこから周囲を眺めてはターゲットを吟味していた。そして狙いを付けると一気に近付き、その生活を丸裸にする。生活習慣はもちろん、その経歴を探偵に依頼して把握、隙を見て合鍵を作った彼は度々女性宅に侵入していたらしい。盗聴器や隠しカメラなど言うに及ばず、強盗を装っての強姦まで行った彼は、その映像を業者に売り払い、小遣い稼ぎまでしていたというから驚きだ。ここで問題なのは、もちろん彼の欠片ほども存在しない良識もさることながら、明らかに違法な行為の手助けをする装置が安価に手に入り、違法と知りつつ問題のある映像を購入してくれる組織が身近に存在することである。
現在、例のマンションで起きていた落下事件はパッタリと止んでいるらしい。しかしだからといって、かの容疑者一人の犯行と決め付けるのは早計だろう。彼は物を落としたことは認めているが、誰かに当てたことはないと、被害者の出ている案件の全てを否認している。これ幸いと静観を決め込んでいる別の犯人が居ないと、これから模倣犯が現れないと、どうして断言することが出来ようか。
日本はもはや安全な国などではない。このような事件が起きた背景をしっかりと刻み、明日の糧に変えていく努力をすべきであろう。
埼玉新聞社会面 2010年8月28日
事件の舞台となったマンションに不法侵入相次ぐ
埼玉落下事件の容疑者が任意同行されて二十日が経とうとしている。ようやく静寂を取り戻したかに見えた同マンションに、新たな問題が浮上している。インターネットや情報誌で話題となった心霊スポットとして、不法侵入を試みる者が増え始めている。落下物が頻繁に落ちていた時期は、住人ですら足の遠のいたマンションが、今は気軽に近付ける心霊スポットとして注目を浴びている。未だ捜査中であることを理由に立入禁止の区域も少なくないのだが、そういった場所で写真撮影をする姿も目撃されている。その大半は若者で、子供の姿も見られることから、地域や学校への注意喚起を行う必要性に迫られている。一方の容疑者は未だ容疑を否認しており、拘留期間が延長された。
広報すぎみやべ 2010年9月号
不法侵入は犯罪です
中央のマンションに最近不法侵入者が増えたという報告があがっています。警察による捜査も続いており、立入禁止区域も数多く設定されています。無視して侵入すれば、相応の罰則を問われることにもなりますので、絶対に入らないようにしてください。
日読新聞社会面 2010年9月10日
実況見分中に容疑者死亡
9日、埼玉落下事件の実況見分において容疑者、倉松広也(33)が死亡したとの発表が県警よりなされた。倉松容疑者が密かに侵入して時折物を落としていたとされる808号室の真下のあたる歩道で確認作業を行っていた折、頭上から突然降ってきた刃渡り二十センチの包丁に左胸を貫かれ、近くの病院へ搬送されたものの死亡が確認された。凶器には指紋が付いていたものの、所有者は当時職場に居ることが確認されている。また咄嗟に見上げた何人かの捜査員が屋上に女性と思しき人影を目撃しており、事件との関連も含めて捜査の進展が待たれる。いずれにしても明確な警察の失態であり、今後の捜査に影響を及ぼすことは必至である。




