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妹に聖女の座を奪われ極寒の地に追放されましたが、冷酷公爵様の不器用な溺愛と巨大もふもふ精霊王に囲まれ幸せです  作者: 黒崎隼人


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エピローグ「黄金の波と未来への約束」

 それから1年の歳月が、穏やかに、しかし確かな変化を伴って北の領地を通り過ぎていった。

 かつて氷の墓標と呼ばれ、一年中雪と氷に閉ざされていた死の大地は、今や国中で最も豊かで美しい実りをもたらす黄金の土地へと変貌を遂げている。

 今日は、北の領地が春を取り戻してから初めて迎える、大規模な収穫祭の日だった。

 公爵邸のバルコニーに立つルシエルの視界には、見渡す限りに広がる小麦畑が、風に揺れて黄金色の波を作っている光景が広がっていた。

 木々には色鮮やかな果実がたわわに実り、その重みで枝がしなるほどだ。

 空気中には、熟した果実の甘い匂いと、土の豊かな香りが満ち溢れている。

 広場には無数の屋台が立ち並び、色とりどりの旗が風にはためいていた。

 祭りの音楽を奏でる楽団の陽気な旋律と、領民たちの笑い声が、途切れることなくバルコニーまで響いてくる。

 ルシエルは手すりに両手をかけ、眼下に広がるその光景を眩しそうに見つめていた。

 彼女の身にまとうのは、領地で収穫された最高級の絹で織られた、純白のドレスだ。

 金の刺繍が施された裾が風に揺れ、彼女の髪に留められた青い鉱石の髪飾りが、陽光を乱反射して美しく輝いている。


「少し、肌寒くはないか」


 背後から低く穏やかな声が響き、同時に分厚い毛皮のショールがルシエルの肩にそっとかけられた。

 振り返ると、正装に身を包んだカリスが、柔らかな眼差しで彼女を見下ろしている。

 1年前の今日、凍てつくような応接室で初めて彼と顔を合わせた時のことを思うと、まるで別人のような穏やかな表情だった。

 ルシエルはショールの端を胸元で引き合わせ、カリスに向かって微笑んだ。


「ありがとうございます。でも、カリス様がそばにいてくださるので、少しも寒くありません」


 カリスは微かに照れたように視線をそらし、ルシエルの隣に並んでバルコニーから街を見下ろした。

 彼ら二人の姿を認めた領民たちが、次々と広場の中心に集まり、歓声を上げ始める。


「カリス公爵閣下、万歳!」

「ルシエル奥様、美しい春をありがとうございます!」


 人々の感謝の言葉は、決して儀礼的なものではなく、心からの喜びと敬意に満ちていた。

 カリスは片手を軽く挙げて領民たちの声援に応え、その後、ルシエルの手を取って静かに口を開いた。


「この豊かな景色は、すべてお前がこの土地にもたらしてくれた奇跡だ。お前がいなければ、この領地は今も深い雪の下に沈んでいただろう」


 カリスの言葉に対し、ルシエルは小さく首を横に振る。


「私一人の力ではありません。カリス様が私を信じ、守り抜いてくださったからです。そして、この土地の人々が、どんなに厳しい冬の時代でも、決して生きる希望を捨てなかったからこそ、この実りがあるのです」


 ルシエルの言葉に、カリスは深く頷き、彼女の指先にそっと口づけを落とした。

 二人はバルコニーを離れ、領民たちと共に収穫祭を楽しむために広場へと向かう。

 巨大な銀狼のブランも、首に色鮮やかな花の首飾りをつけて、嬉しそうに二人の先導を務めていた。

 広場に降り立つと、すぐさま人々の輪が彼らを包み込む。

 ルシエルは子供たちから花束を受け取り、カリスは長老たちからその年で一番出来の良い果実酒を献上された。

 誰もが笑顔で、誰一人として飢えや寒さに苦しむ者のいない世界。

 王都での偽りの生活を捨て、すべてを失ったと思っていたあの日から、ルシエルは自分自身の力で、本当の意味での豊かな居場所を築き上げたのだ。

 日が沈み始めると、空は美しい茜色に染まり、やがて深い群青色の夜空へと変わっていく。

 広場の中央には巨大な焚き火が焚かれ、火の粉が星空に向かって舞い上がっていた。

 祭りの熱気は最高潮に達し、人々は手を取り合って輪になり、豊穣を祝う踊りを踊り始めている。

 ルシエルとカリスは喧騒から少し離れた小高い丘の上で、街の美しい灯りを見下ろしていた。

 夜風が静かに吹き抜ける中、カリスはルシエルの肩を引き寄せ、自分の広い胸の中に彼女をすっぽりと包み込んだ。


「ルシエル。俺は、お前に何も与えてやれない不器用な男だが……お前の笑顔だけは、何があっても守り抜くと誓う」


 カリスの言葉は、夜の静寂の中に深く、確かな響きを持って溶け込んでいく。

 ルシエルはカリスの胸に顔を埋め、彼の力強い心音に耳を澄ませた。


「私はもう、世界中のすべてのものを手に入れました。あなたのそばにいられるだけで、これ以上の幸せはありません」


 ルシエルが顔を上げると、満天の星空を背景にして、カリスの優しく美しい顔があった。

 二人の唇が静かに重なり合い、永遠に続く穏やかで幸福な未来への誓いが交わされる。

 丘の麓では祭りの音楽が鳴り響き、足元ではブランが満足げに喉を鳴らしている。

 氷の墓標と呼ばれた北の地は、彼らの愛によって、永遠に枯れることのない春を謳歌し続けるのだった。

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