第9話 夕飯の支度も作画スキルで
ガチャリっ。
満を持して、ミクを小屋の中へと案内する。
「わぁ……」
中を見渡すなり、早速目を輝かせて感嘆の声を漏らすミク。
どうやらお気に召してもらえたようだ。
やはり家具が少ない分寂しげな内装ではあるが、それでも中の広さや電化製品、水道などを見て一つ一つに新鮮な反応を見せてくれるミク。
期待通りの反応がもらえて、思わずにやけてしまう。
「凄い……っ!魔法を使ったわけでもないのに、何もない所からこんなにお水が!それにこの照明と、エアコン?これがユヅル様が言ってた電気の力なんだね!」
水道の方も良い反応だったが、案の定、ミクにとってはLEDの照明やエアコンが特に衝撃的だったようだ。
何度も点けたり消したりしては、未知の力で起動する電化製品を前に感動してくれている。
まあ、俺の作画スキルで具現化させた電化製品が本当に電気で動いているのかは不明だが……。
その辺りは俺にとっても未知数な為、勝手に電気が供給されている物と仮定して無理やりに納得しておく。
さて、そういう訳で今ある物については一通り紹介できた。
後は足りない椅子だけささっと作画して追加していき、人数分を揃える。
途中、アルちゃんに注文されて木製のスタンドも作った。
アルちゃん曰く、ここに鞘ごと立てかけてもらい、自分も一緒に座っている気分になりたいとのこと。
思わず三人そろって「可愛いかよ」と思ったのは本人には内緒だ。
さて、そうなると次はやはりベッドか。相変わらず肝心の寝具がないよね、という話になるのだが……。
ベッドは……まあ、まだ俺の中で葛藤中の為、色々と理由をつけて夜まで待ってもらう事になった。
うん、申し訳ないという気持ちは当然ある。
本当は最優先で作るべき物である筈なのに、「もし大変そうだったら私は全然床でも構わないから遠慮せずに教えてね!」と無邪気に笑って流してくれたミクに罪悪感で胸が張り裂けそうになったりもした。
それに、ユリアの俺を見る目もひどく冷たい。
彼女の事だから、きっと俺の浅ましい葛藤など全部お見通しなのだろう。
だが、20代後半に差し掛かろうというのに、未だ童貞の俺には重要な葛藤だった。
今まで女の子と閨を共に出来たことなど一度もなかったのだから、そう簡単には諦めもつかない。
我ながらどうなんだ?とは思うが、ここはユリアの理解を得るべくせめてもの弁明を添えておく。
「ユリア、とりあえず夜にはちゃんと結論を出すから、罵倒するならその時の俺の選択を聞いてからにしてほしい」
「はい、マスターの選択次第では、しっかりと苦言を呈させていただきます」
「あ、ああ……お手柔らかにな?その代わりと言ってはなんだが、寝袋を描いたりして手抜きすることはしない。少なくとも、ふかふかのベッドは約束するよ」
「ふかふかのベッド……わかりました。今回だけですよ、マスター」
なんとかユリアの理解も得られたところで、俺はすかさず話題を反らすことに。
「それよりもさ、皆お腹が空いてないか?」
「うん、私もお腹空いてきたかも。そろそろ夜ご飯にする?私の食料、皆にもわけるよ?」
「あはは、ありがとな。だが、実はこれも俺に良い考えがあるんだ」
「もしかして、あの木の実?モモ?」
「まあ、それはそれでデザートに描いてもいいかもしれないが。今回は普通に料理も描いてみるつもりだ。せっかくだから、俺の元居た世界の料理を楽しんでもらいたい」
「わぁ!確かユヅル様の世界って、ご飯が凄く美味しいって言ってたよね?」
「ああ、期待してくれていいぞ?とびきり美味しそうに描いてやるからな!」
俺はどんっと胸を叩いて高らかに宣言した。
「わぁっ!楽しみだなぁ!」
「……ふふっ、マスターの故郷の味ですか。確かに気にはなりますね」
『我、食べられないんだが……?』
――――若干一名?悲し気な声も聞こえてきた気がするが、まあ、流石にこればかりはどうしようもないのでまた別に埋め合わせを考えておこう。
それ以外は、概ね良い反応が返ってきたな。
みんなからパチパチと温かい拍手も貰えたことだし、俄然気合が入るというものだ。
俺の画力が試される。
一応、ちゃんとした料理の心得も全くないわけではないが、それを全て美味しそうな料理を描く為の糧としたのが、ここで存分に活きる訳だ。
実際の料理の腕前は普通でも、絵に関してはプロなのだからきっとおいしい料理を作画スキルで生み出せるはず。
そう信じて、筆を走らせる。
こうなると問題はやはり量だな。
しかし、実のところ三人前の料理を描くことに関しては、一つ妙案があった。
それは、ズバリ鍋料理だ。
まあ、鍋にこだわる必要はないけどな。
それこそ、大きめの調理器具に入れた料理を取り皿で取り分ける方式にすれば、量の問題は容易に解決できる筈だ。
取り皿を別で描く労力なんて、料理を描くのと比べればほんの些細なもの。
故に、肝要なのは何を描くか。
やはり、ミクに初めて口にしてもらう故郷の味だ。
とりあえず、日本人のソウルフードである白米は外せない。
故郷の主食だ。米を描くのは少し大変だが、それでもとびきり艶のある美味しい白米を描く。
ここでコピペが使えればいいのだが、やはりコピペ系の機能は何度見ても無くなっている。
保存機能は残っていたが、そのデータの複製なんかも勿論出来なかった。裏技発掘は失敗に終わる。
まあ、それでも作画ソフトに導入していた様々な特殊ペンや一部フィルターなどは問題なく使えたため、そういった機能をうまく活用することに。
丁度、楕円型の模様をばらまけるペンがあったので、大雑把な米の全容はそれを散らして描いていった。
まあ、サイズ調整も自由にできるし、違和感のある部分は都度修正していけばいいだけだ。この方が効率的に作画できるだろう。
結果として、完成までに要した時間は十分程。
程よい大きさの木の桶に、三合分くらいの炊いた白米が入っているイラストが書き上がった。
湯気までしっかりと描いて、炊き立てである事も表現。中々おいしそうに描けたのではないだろうか。
まあ、ミクたちにはできてからのお楽しみとしているので、長々と達成感に浸っている訳にもいかない。
幸いミクたちの方はお喋りが盛り上がっているようで、そこまで苦も無く待ってくれている様子だが。早く仕上げるに越したことはないだろう。
とりあえず、あまり沢山は描けないので、今回は満足度の高い一品に絞って勝負しようと思う。
無論、メインとなるオカズの事だ。
当初の想定通り、鍋で煮込むような料理で考えているが。
とりあえず、せっかく白米を描いたのだから米が進むオカズがいいな。
俺の故郷では定番の鍋料理で、かつ白米に合う料理だ。何が良いだろうか?
そこまで考えて、はっと一つの料理が頭に浮かぶ。
味も無難に美味しいし、みんなで和気あいあいと食卓を囲める豪華な鍋料理。
――――そう、すき焼きだ。すき焼きにしよう。
家庭によっては、すき焼きを特別な日に食べるご馳走と言う人もいるくらいだ。
初めて振舞うには、丁度良い品なのではないだろうか?
そうと決まれば、早速すき焼きを描いていく。
具材はシンプルに牛肉、白菜、白滝、木綿豆腐に、変わり種として個人的な好物でもあるホタテ。キノコ類は風味の好き嫌いもあると思うので、あえて今回は無しにした。
肉を多めに描き、ボリューミーに作画していく。
鍋敷きの上に大きな鉄なべがあり、そこにすき焼きを描いている感じだ。
しっかりと熱々に描いて、出来たてであることも演出する。
オカズを一品に絞ったということもあり、丁寧に愛情込めて仕上げていった。
料理は愛情だとよく言うが、その工程が絵を描くことに代わったとして、それは変わらないと信じたい。
みんなに喜んでもらいたい一心で、とにかく美味しそうなすき焼きを描いていく。
その結果どんな味になるかはまだわからないが、それでも前に描いたフルーツの事を考えれば期待できるはずだ。
集中してどんどん描いていく。
どうか美味しいすき焼きになって欲しい。
――――完成だ。
一応、料理の他に生卵も三個用意して、取り皿も適当に人数分描く。
お茶碗も無地にはなってしまうが、まあ、料理が入ればそれでいいので今回は妥協。
お箸も一応人数分描いてみたが、念のためミクとユリアにはフォークとスプーンも用意しておこう。
ここまでで大体40分くらいだろうか?
まあ、実際に料理を作るのと同じくらいの時間で支度が済んだなら、悪くないペースだったと言えよう。
ミクたちの方も完成が近い事を悟ったのか、すっかり静かになって待ってくれていた。
これ以上焦らすことも無いだろう。いよいよ完成した料理のお披露目だ。
しっかり美味しそうにかけたので大丈夫とは思うが、こうも期待してもらっている手前失敗は避けたい。
俺は作画スキルと自らの画力に祈りつつ、描いた品をまとめて出力していくのだった。
すき焼きにホタテはガチで美味しいと思うんだよね。まあ、試した事は無いんですけど。
↓同時連載中
「The Hero's Sweet Brides~学園の女子だけ貞操観念が逆転していくサバイバルクラフトゲームで、俺だけ既に神殺しと畏怖された異世界の救世主~」
https://kakuyomu.jp/works/822139838557577613
※もう一つのリンクはノクターンノベルズの為ここでは割愛。
・作者X
https://x.com/Shuu_Souzuki
作品の執筆状況などをたまに投稿していく予定です。




