第6話 喋る聖剣【アルテミス・ノヴァ】
俺の聖剣が喋った……。
勿論、喋ったのは俺が先ほど描いて具現化した、ちゃんとした方の聖剣だ。
まあ、俺が中二病を拗らせていた時に生み出した聖剣をちゃんとした聖剣と言っていいのかどうかはわからないが。
そんなことは今はいい。
この聖剣の銘は【アルテミス=ノヴァ】。
特に深い意味はないが、とりあえず月と星の超エネルギーをイメージして考えた名と形であるとだけ言っておこう。
白と黄を基調としたいかにも神聖そうな直剣だ。
握って力を籠めれば、素人目に見ても恐ろしい程膨大な神聖なオーラとその力の高まりを実感出来る。
しかし、一番の驚きはそこではない。
何せ、俺の記憶が正しければこの聖剣に言葉を話す設定など加えた覚えはないのである。
そんな聖剣ちゃんが喋ったのだ。
俺の願望が反映されているのか、可愛らしい女の子の声だったのでちゃん付けでもいいだろう。
まあ、その割に喋り方は若干尊大な気もするが。
とりあえず、そのままの名前だと長いからアルちゃんと呼ぶことにした。
なんだか某アウトローな高校生を彷彿とさせるような呼び名だが、勿論無関係とだけ言っておこう。
残念ながら、この聖剣ちゃんの登場シーンにアンウェル○ムスクールは流れないのである。
さて、そんなわけで聖剣のアルちゃんとお話が出来ると判明した訳だが、一体どんな話をすればいいのだろうか?
とりあえず最初はジャブからだよな。
「ヘイアルちゃん、今何時?」
『父よ、我は○リィではないのだが?』
おお、しっかりと俺のボケを返してくれた。
ちなみにだが、このやりとりを見たお姫様のミクは「○リィ?おしり?」と可愛らしく首をかしげていたが、うちの可愛いユリアちゃんは相も変わらず氷のように冷たい目をして俺を見つめてくる。
というか、聖剣ちゃんは○リィが何かわかっているんだな。
もしかすると、この辺りの知識はある程度俺の記憶に依存しているのかもしれない。
そんな風に俺があれこれと考察していると、聖剣ちゃんの不機嫌そうなため息が聞こえて来た。
『はぁ……あと、アルちゃんとはなんだアルちゃんとは。我には父から賜った【アルテミス=ノヴァ】という素晴らしいお名前があった筈だが?』
「いや、だって長いし」
『それを父が言うのか?自分で付けた名であろうに……』
「まあまあ、それは今はいいじゃないか。それより、どうして喋れるんだ?」
『むぅ……なんだか良い様にごまかされたような気がするが、まあ確かに説明は必要であるな。よし、では心して聞くのだぞ?』
そうして、アルちゃんが得意げに語りだす。
……うん、なんだか小さい子が褒めてもらおうと一生懸命に頑張ってるみたいで可愛いな。
アルちゃんの声に呼応してピカピカと点滅する刀身もいい味を出している。
ただ少々、いやかなりか。節々に滲む香しい言い回しが気になったので、話の内容は簡単に自分の中で要約して整理した。
とどのつまり、このアルちゃんの人格は俺のデザインした聖剣の設定とは別枠。
その見た目と性能を模倣しただけで、本質としては違うらしい。
アルちゃんの人格は、この聖剣が生み出されたことで誕生した精霊の様な存在。
俺の事を父と呼ぶのは、自分が生まれるきっかけと宿る器を生み出した俺の事を、自分の創造者だと認識しているからだそうだ。
つまり、アルちゃんはついさっき生まれたばかりの赤ちゃんのようなもの。
といっても、俺の記憶から知識を引き継いでいたり、この聖剣の設定を反映させられるだけの戦闘知識や精神は有しているという事だ。
イメージとしては、天才的な剣術家が聖剣に宿っているようなものだという感じらしい。
そして、何度も口酸っぱく「だから子供扱いはしないように」というようなことを念押しされた。
まあ、それがかえって微笑ましかったというのは言わないでおいてやるのが華だろう。
ユリアやミクも空気を読んでか、うんうんと慈愛に満ちた笑みでアルちゃんの話を最後まで黙って聞いてくれていたしな。
『さて、そういうわけなので父よ。我の事はくれぐれも大事に扱うのだぞ?先も握りが甘く、ひやひやしたからな』
「ああ、勿論大事にさせてもらう。ただ、俺は剣の手入れをした経験とかはないぞ?」
『まあ、その辺りも我が一から教えてやる故、父は言う通りにするだけで良い。それよりも、まさかこのまま我を持ち歩くわけではあるまいな?』
「いや、そのつもりだけど?」
『父のアホ!バカ!』
「急な罵倒!?」
『当たり前だ!我をなんだと思っておる!それとも父は、大人のレディを裸で連れ回す鬼畜だとでも言うのか!』
「いやいや、戦闘で剣を振ってる時は何も言わなかっただろ?」
『剣を振ってるときはノーカンだ』
「ノーカン?」
『うむ、ノーカンだ』
「……」
これ以上は不毛と悟り、俺は素直に押し黙る。
……正直、どういう理屈なのかは全くわからない。
とりあえず、聖剣心は乙女心よりも複雑らしいという事だけはわかった。
うん、戦闘時は良くてどうしてそれ以外はダメなんだろうな。
まあ、そこに納得は出来ずとも、確かに剣を裸で持ち歩くというのは不便というのはわかる。
この聖剣を出力するときに鞘は描いていなかった為、後付けではあるが鞘は鞘で新しく描いてみようか。
まあ、といってもこんな場所だしあまり時間はかけられないだろうけどな。
― ― ― ―
――――聖剣の鞘の作画に、一時間近くもかけてしまった。
……とりあえず、言い訳だけさせて欲しい。
俺の当初のプランではこうだった。
鞘のクオリティは、あくまでも聖剣を持ち歩くのに支障がない程度で、と。
色もなるべく単色で、シンプルな動物革っぽい感じの材質をイメージしていた。
当然だ。時間があるなら話は別だが、今は危険なダンジョンのど真ん中。
いくらユリアの護衛があるとはいえ、落ち着いてお絵かきなど出来るはずもない。
しかし、そこはアルちゃんがごねにごねた。
この我を納める鞘を適当に拵えるなどありえないと。
言う事を聞いてくれないならもう今後力は貸さないとまで言って。
――――結果。俺は描いている最中に何度もアルちゃんからあれやこれやと注文を付けられ、気付いたときには完成までに一時間。
まあ、そのおかげで確かに俺自身も納得のいく出来栄えにはなった。
性能の方も、アルちゃんに言われた通りにイメージしたので呼び戻し機能や自動洗浄機能など色々と多機能な鞘になった。
まあ、呼び戻し機能に関しては聖剣本体には設定していなかった為実用的ではあるが……。
それ以外の細々した機能の中には、完全にアルちゃんの私心によって設定させられた昨日も多い。
無論、その注文の中にはビジュアル面も含まれる。
おかげで鞘のデザインは中学生男子が大喜びしそうなコテコテの装飾がこれでもかと施されていた。
むしろ、それらを一時間で仕上げたのだから我ながら素晴らしい腕前だと自画自賛する。
うん、本当に大変だった。
勿論、大変だったのは俺だけじゃない。
俺が作業に集中している間は、ミクやユリアが文句の一つも言わずに周囲を警戒してくれていたのだ。
二人共本当に聖人過ぎると、感謝の念に堪えない。
まあ、ごねまくったアルちゃんが一番悪いのはそうなのだが……それでも俺に甘さが無かったと言えば嘘になる。
流石に申し訳なく思って、途中せめてものお詫びにとリンゴやモモなどのフルーツをさっと描いて出力した物を渡しておいた。
こちらは鞘とは別に新規作成して、気合で5分程度に収めて作画した。
勿論、簡易的とはいえ色もきちんと美味しそうに見えるように塗った。せめてもの感謝の念だ。
結果として初めての食べ物の具現化となったが、上手くいったので良しとする。
こと食べ物に関しては、やはり美味しそうに描くひと手間は重要だったのかもしれない。
二人も俺の描いた果物を気に入ってくれたようで、随分と美味しそうに食べてくれた。
「んん!この木の実とってもおいしい!……モモっていうの?ありがとうユヅル様!私これ好き!」
「なるほど、どれも美味ですが……このあっさりした風味の果実が特に好みですね。ありがとうございます、マスター」
ミクはモモを、ユリアは和梨を特に気に入っていた。
どちらも塗りには少し時間がかかったが、こうも喜んでくれたのだから頑張って描いた甲斐があったというもの。
それぞれ皮むきや切り分けは自分でやってくれたので、そこもかなり助かった。
しかし、それはそれとして二人に迷惑をかけた聖剣ちゃんにはきちんと「ごめんなさい」と言わせておく。
『ど、どうして我が!』
と、最初は抵抗していたアルちゃんだったが、「嫌ならこの鞘を使わずにお前を持ち歩くぞ」と言ったら素直に「ごめんなさい」してくれた。
なんだかんだと言って、アルちゃんのこういうところは微笑ましくて和むな。
そう感じているのはどうやらミクやユリアも同じだったようで、一安心である。
二人も笑顔でアルちゃんの我儘を受け容れてくれていた。
……余談だが、俺が喋る聖剣を扱うと判明したことで、ミクの中で俺を神の眷属なのではないかと疑う気持ちがまた一段上がってしまっていたのは、言うまでもない。
何とは言いませんが作者は生徒の中だとアルちゃん推しです。アル様万歳。
でもたまにノアに誑かされます。ごめんねユウカちゃん。
↓同時連載中
「The Hero's Sweet Brides~学園の女子だけ貞操観念が逆転していくサバイバルクラフトゲームで、俺だけ既に神殺しと畏怖された異世界の救世主~」
https://kakuyomu.jp/works/822139838557577613
※もう一つのリンクはノクターンノベルズの為ここでは割愛。
・作者X
https://x.com/Shuu_Souzuki
作品の執筆状況などをたまに投稿していく予定です。




