第5話 作画スキルの汎用性
いつまでも頭を抱えている訳にもいかない為、いい加減動き出すことにした。
ミクによれば、安全に腰を据えられていたこの場所が特殊なだけで、ここから先は本当に気を抜けないらしい。
祈りの神像の間から出発する際に、俺はミクから一つの忠告を受けていた。
「大丈夫だとは思うけど、一応ここから先は結構強い魔物が出るから気を付けてね!」
彼女が言うには、ここは【悲願の遺跡】というダンジョン。
元は祈りの遺跡という名であったが、そのあまりの危険性からほとんどの者が願いを叶えられずに命を落とすという事で、この名に変わったという。
たとえ命を落とすとわかっていても、それでも叶えたい願いがある者だけが訪れる遺跡という事だ。
そのような物騒な逸話が出来るくらいには、ここで出る魔物は強力らしい。
しかも、遺跡全体の規模も広大な為に一日で帰還するのは難しいと。
まあ、ここは実際に最奥まで攻略してきた彼女の助言に素直に従おうと思う。
そう思って慎重に行動しようとしたのも束の間の事だった。
「グマアアアアアッ!」
……何やらでっかい熊が俺達に襲い掛かってきた。
それもただの熊じゃない。
鋭い牙に異様に発達した筋肉。
色は黒色に近く、禍々しい紫のオーラを纏っている。
極めつけは、俺達の背丈をゆうに超えるその巨体だ。
見た目だけでも一目でヤバそうだとわかるのに、動きが絶対に熊の速度じゃなかった。
俺がその速度に危機感を感じた時にはもう遅いか、というほどの俊敏さである。
これは死んだか?
しかし、そう覚悟しそうになった瞬間、脅威は既に消え去っていた。
何かと思ってはっとした時には、既に真っ二つに両断されてただの肉塊となり果てた熊の怪物。
見れば、ユリアが事も無げな佇まいで俺達の正面を張っている。
彼女の絶技を認識できなかった俺には、ただその結果だけを見て理解することしかできない。
両手に握られた得物を静かに血振るいする彼女は、まさしく冷酷無比な仕事人。
その美しい容姿の中にあるハードボイルドな魅力に、思わず見入ってしまった。
「まあ、こんなものですか」
……何それ格好いい!
決め台詞まで完璧に決めて魅せたユリアに、俺のテンションも有頂天だ。
まるで子供のように、素直に目を輝かせてしまった。
どうやら、この遺跡の魔物よりもうちの子の方が何倍も強いらしい。
そうわかった以上、ここから先の戦闘も全てユリアに任せておけば良い気もするが……。
正直、クールに強者を気取ってみせたユリアの勇姿を前に、俺も同じことがやってみたいと思ってしまった。
――――男の子だもの。仕方がないよな。
なので、試す。
勿論無謀な事はしない。あくまでも俺は俺で、手にした異能力を活用するのだ。
まず最初に検証するのは、この作画スキルで魔法が再現できるのかどうか。
やはり異世界と言えば魔法だ。
その中でも定番中の定番と言えば、ファイヤーボールか。
頑張って数分で描く。
とりあえず試し打ちと、魔物の脅威が落ち着いている内に出力して結果を確認してみる。
――――結果、俺の描いた絵は、ちゃんと魔法として使用出来た。
しかし、威力が低い。
何がダメだったのだろうか?
……イメージの問題か?
確かに、俺が今回イメージしたファイヤーボールは【ザ・初級魔法】といった弱めの魔法だったが。
試しに、今度はチート系主人公が繰り出す様なファイヤーボールをイメージしてみるか?
――――いや、ダメだ。
こんな閉鎖的な洞窟で、爆発的な威力を伴う魔法を出力するのは危険すぎるだろう。
というか、そのような危惧もあって俺は最初に初級魔法的なファイヤーボールをイメージしたのだ。これでは本末転倒である。
故に次だ。今度はもっと試しやすそうな魔法で試す。
そうだな……雷なんてどうだろう。
ここは水場というわけでもないし、範囲魔法のようなものではなく、対象に直接直撃させるタイプの魔法をイメージすれば周囲への被害も少なくて済みそうだ。
早速描いて出力してみる。
……と、丁度そこでさっきのやつと同じ熊型の魔物が現れた。
あまりにも都合が良い。
今まさに出力するというタイミングで現れてくれたので、ありがたく的として活用させてもらう事に。
いざとう時も、ユリアにさっと倒してもらえばいいだけなので安心だ。
――――結果、今度は満足のいく威力が出せた。
精度の方も問題ない。しっかりと狙い通りにモンスターの頭上に魔法を落せた。
威力も上々。先ほどから静かに見守ってくれていたお姫様の感激した声が、ちょっと気持ちいい。
……正直、調子に乗って連発したい気分にもなったが、流石に自重する。
とりあえず、今は更なる検証だ。
この雷の威力の強さは、昔俺が黒歴史ノートに書いた【神雷】というとても強力な雷魔法をイメージして描いてみたものだ。
それが良かったのだろうか?
最初に試してみたファイヤーボールとは威力も精度も雲泥の差。
これに関してはやはりイメージが大事なのか。
ものは試しと、今度はきちんと狙って高い威力を出してみる事に。
強い雷と言えば、やはり日本の雷様か。おへそを隠さなきゃいけないやつだ。
とりあえず、白紙の上部に黒い雲に乗った簡単な雷様のイラストを描いてから、本命の雷を描いてみる。
――――出力。
瞬間、現れたデフォルメされた雷様。絵に描いた通り、黒い雲に乗っている。
そこで、またしても丁度良く熊型のモンスターが出現した。
それに反応してか、雷様が一瞬で新たなモンスターの頭上に転移する。
それからはほんの刹那の事。
怪物の頭上に、容赦なく超威力の雷が落とされた。
まさしく神の天罰と言うに相応しい、正確無比で無慈悲な一撃。
「うっ……」
……しかし、とんでもなく眩しい。
相変らずユリアの方はどこ吹く風といった様子だが、お姫様の方もこれにはかなりびっくりした様子である。
かくいう俺も想像以上の威力と轟音に戦慄していた。
イメージとしては、ピカーンッ!ゴロゴロバコーンッ!!って感じだ。お腹に響く感じのやつだな。
だが、やはり描いた絵そのものだけではなく、その時のイメージや設定もこの能力においては重要要素であるという事はわかった。
とりあえず、攻撃魔法はこの辺りにして、次は武器にしてみよう。
無論、俺に武術の心得はないが、それはこの作画スキルの汎用性の高さに賭ける。
再現する物は、またしても俺が昔描いた黒歴史ノートを参考に。
まさか異世界に来て、俺の黒歴史ノートがこんなにも役に立つとは思わなかった。
しかし、それも道理かもしれない。
なんだかんだと、中学生が考えた最強の設定なんてのは、いざ現実に転用できるとなれば馬鹿に出来ないだろう。
故に、俺は素直に期待に胸を躍らせて、今度は最強の武器を再現するべく一つの剣を描き始めていく。
今回再現するのは、黒歴史ノートの中で主人公の俺が使っていた聖剣だ。
剣自体が確かな意思を持っており、武術の心得がなくとも勝手に最適な動きをしてくれるという特殊な剣。
あとは魔法の触媒として最適であったり、形を自由に変えれたり保てたり、強力な必殺技が使えたりなどなど。
他にも様々な能力を設定した記憶があるが、はっきりと覚えているのは主にそのような設定だ。今の状況にもそぐっていると思う。
それを実際に描いて、出力してみた。
「おお……」
見た目は完全に俺が昔思い描いた通りの聖剣だ。
試しに握ってみる。
凄い……それに、なんだか随分としっくりくるな。
何度か実際に振ってみても、俺が黒歴史ノートの中でイメージした通り。
その剣筋は、自分が素人とは思えないほど様になっていた。
しかし、今後これに頼り切りになるのもそれはそれで不安だな。
この様になった動きを身体に覚え込ませるためには、当然しっかりとした鍛錬が必要になるだろう。
せっかくの異世界なのだし、ちゃんとした剣術とかを教わってみたい気もする。
その為にも、この先教えを請えるような人と出会えればいいのだが……。
そんな風に思案していると、またしても都合よく現れたの熊の怪物。
しかも、今度は八体。おそらくだが、俺の魔法の音で寄ってきてしまったのだろう。
憧れの魔法を使えた事に対する感動があったとはいえ、流石に軽率な行動が過ぎたかもしれない。
普通なら絶望するような状況だ。
しかし、今の俺はテンションが上がり過ぎていてそれどころではなかった。
むしろばっち来いと言わんばかりに、ウキウキで戦いを挑んでみる。
――――ズパンっ。ズバンッ。
強靭そうな大柄な熊の怪物も、まるで豆腐みたいにスラスラと両断できる。
実戦においても、聖剣の設定はしっかりと反映されていた。
剣術の心得などないはずの俺が、まるで達人のような動きで大立ち回りである。
何なら、凄まじい聖剣の切れ味の良さを楽しむ余裕まであった。
――――やべえ、俺ツええ。
全然疲れない上に、一人で十体近くの魔物を相手に無双してしまった。
戦闘中何度か別個体の乱入があったにも関わらず、この危なげない勝利。
これにはうちのユリアさんもクールな表情のままパチパチと生暖かい拍手を送ってくれている。
天真爛漫なお姫様のミクにいたっては――――キラキラと目を輝かせてこっちを見つめてくれていた。
まるで、「私の運命の人はこの人だったんだ!」と言わんばかりの熱の籠った目だ。
……え、違う?
すんっと、拍手する手を止めてジト目でこちらに圧をかけてくるユリアさんには、どうやら俺のバカな考えなど全部お見通しらしい。
まあ、確かにこんなことで簡単に惚れてもらえるとは思ってなかったけどな。
しかし、それはそうとして当のミクの瞳は依然としてキラキラと輝いている。
おお、シュタッと俺の傍まで飛び跳ねてきてくれた。
近い。一体俺は何をされてしまうというのか。
「ねえねえユヅル様!あの動きはどうやったの!?私の国でもあんなに凄い剣術は見たことないよ!」
……とても純粋な目をしてこちらに教えを請うてくる。
困った。この動きはあくまでも聖剣のフルサポートがあってのもの。
今後は自力でも強くなれたらと思ってはいるが、それだってまだまだ先の話。
今の俺はただの剣術素人。人に教えられる事など何も無いのである。
しかし、そこに思わぬ鶴の一声がかかった。
『……父よ、頼むからもう少ししっかりと柄を握って欲しい』
――――誰だ?
そう思って辺りを見回すも、誰もいない。
『父よ、我はここだ。父の握っておる剣を見よ』
言われた通りに手元の聖剣を見下ろす。
『父よ、我は戦いにおける最適な動きは制御できても、きちんと握ってくれない事にはすっぽぬける。気をつけよ』
ピカピカと光りながら言葉を発する聖剣に、お叱りを受けてしまった。
ああ、なるほど、喋っていたのは聖剣だったのか……。
「わ、悪い……」
素直に反省する俺に、聖剣は刀身を光らせながら「うむ……」と鷹揚に返事を返してくれた。
――――ん?いや、待て。
俺、この聖剣に喋る機能なんて設定していたか?
↓同時連載中
「The Hero's Sweet Brides~学園の女子だけ貞操観念が逆転していくサバイバルクラフトゲームで、俺だけ既に神殺しと畏怖された異世界の救世主~」
https://kakuyomu.jp/works/822139838557577613
※もう一つのリンクはノクターンノベルズの為ここでは割愛。
・作者X
https://x.com/Shuu_Souzuki
作品の執筆状況などをたまに投稿していく予定です。




