第12話 美容用品
さて、とりあえずミクとユリアが魔法でお湯を沸かし終えたという事で、俺も一度作業の手を止めて浴槽を出力する。
――――うん、ちゃんとイメージ通り。ローマ風の白い石の浴槽になったな。
そこに、ミクとユリアが湧かしてくれたお湯を投入。
その後、お風呂の水はけや仕切りの導入はミクがやってくれる事になったので、浴場として整える作業は彼女に任せた。
ユリアの方は引き続きお湯の温度を一定に保ってくれるらしい。
こちらとしてもまだ作画作業が残っていたので、どちらも有難い申し出だった。
ここは素直にお言葉に甘えさせてもらう。
俺はこの時間を使って、再び自分の作業へと戻った。
今描いているのは総じて美容品。
タオルやお湯を汲む為の容器は、「私の収納魔法にある物を使ってもらって大丈夫」とミクに言ってもらえたので、有難くそちらを借りさせてもらう事に。
ドライヤーも魔法で乾かせるので必要ないらしく、そういった日用品は時間の都合上今回は作画しない。
ただ、当初の予定通り、作画する美容品の中にはボディーソープやシャンプーなども考えている。
これは魔法ではなく、実際に俺が作画スキルで生み出した品を使用しようという訳だ。
理由は勿論美容の為。
魔法で泡を立てられるとしても、その泡に美容的な効果は特にないらしいからな。
実際ミクにもそれとなく聞いてみたが、彼女が洗い物の時に使っていた魔法はあくまでも汚れを落とす為だけの魔法との事。
生成される泡も見た目だけで、普通の泡とは違って水に流さずとも時間が立てば自然消滅するらしい。
ただ、水と合わせて使えば効果が高まるらしく、全く意味がないという訳でもないという事だ。
故に、ミクも水道を使って皿を洗っていたのだろう。
ならば、俺が描くべきは美容効果の高い石鹸類。
これは作画スキルで描いた絵を出力する際、その絵にイメージした設定を絵のクオリティに伴なって反映できることから可能だと考えた。
そうなると、考えるべきは描き分けだ。
まずはボディーソープ。そしてシャンプーとリンス。
こちらは作画コストの都合上、三人で使い回すことを想定してそれぞれ一つずつ作る。
それでも三種類あるが、全部同じ石鹸だろ!とは言ってはいけない。
それぞれ違った成分と、それに伴った役割がちゃんとあるのだ。
しかし――――
見た目はほぼ一緒だ。それだけは否定できない。
ならばどうやって描き分ければいいか?
――――うん、正直言ってボディーソープ、シャンプー、リンスの描き分けなんて雰囲気だ。少なくとも俺は、ボトルに張られているラベルのデザインや色を変えるくらいである。
いくら成分に違いがあるとはいえ、液状石鹸の違いを色の違いだけで判別することはできない。
それぞれ特定の色とイメージが結びつく物ではないからだ。
だから色に違いを付けたとしても、これがボディーソープ、これがシャンプー、これがリンスだなんて見分けられない。
無論、ボトルの形を変えただけでも同様だ。察してくれと言うしかなくなってしまう。
強いて言うなら、家庭によっては購入している商品の差で見分けが付けられるくらいか。
あとは実際に手に取って感触を確かめてみればわかるだろうが、ただの絵の状態ではそんなことは当然出来ない。
だが、作画スキルで具現化する以上、描き分けが出来ないでは困る。
実際に形にする以上は、特定する何かが必要だった。
そこで、ボトルのラベルである。
というか、改めて考えてみてもそれ以外に違いを付ける方法なんて思いつかない。
正直、そんな力技で大丈夫なのかと思わなくもないが、こればっかりはそう信じて描いてみるしかないだろう。
ダメだったらその時はその時だ。
少なくとも美容効果の高い液状石鹸くらいは作れると思うので、そうなったら大人しくそれで妥協しよう。
とはいえ、まだ試しても無いのにダメだった時の事ばかり考えていても仕方がない。
まずは三本、ドロッとした白色の液体の入ったガラス製の瓶を描く。
瓶の作画も出来るだけ頑張って、高級感を大切に。
ただ、あくまでも一日分だ。作画コストも考慮して割と小さめに描いた。
デフォルメイラストみたいな感じだな。
最後にそれぞれ色違いのラベルをつけて完成だ。
ラベルもラベルで出来るだけ質の良い品に見えるよう、お洒落なデザインに仕上げる。
ラベルの中央にも、それぞれ【ボディーソープ】、【シャンプー】、【リンス】と筆記体で記した。
筆記体で描いたのは当然デザイン性を重視しての事だ。
一応、「美容効果よ高まれェ!!!高まれェ!!!」と何度も念じながら作画作業を進めてはみたが、見た目の高級感があるに越したことはないだろう。
作画のクオリティが与える影響に関しては実証済みなので、意味はあると思う。
いや、あってくれ。
うまくいくように祈りつつ、出力。
試しにシャンプーとリンスの瓶から、それぞれ右手と左手に内容物を出してみた。
――――うん、滅茶苦茶いい匂いだ。
まあ、残念ながら香りは全て同じなのだが。
癖のないシャボン系の香りである。
これはまだミクやユリアの香りの好みがわからない為、あえて無難に統一した形だ。
なので肝心なのはその性質。
シャンプーとリンスで比較したのは、感触で違いがわかりやすいからというのもある。
そして、実際にしっかりと違いがあった。
シャンプーの方から出た液体はドロッとした手触りであるのに対して、リンスの方から出た液体はハンドクリームのように滑らかな感触だ。
この分なら、ボディーソープの方も問題なく具現化できているのではないだろうか?
こちらは実際に使ってみないことには判断が難しい。
美容効果に関しても同じくだ。
しかし、シャンプーとリンスの違いが明確に生まれたことは大きな収穫である。
まさか、本当にラベルの色と文字を変えるだけでいいなんてな。
これは色々と応用が利きそうだ。
それこそ、次に作画するつもりだった化粧水と乳液にも使えると思う。
まあ、こちらは化粧水の方を透明の液体に、乳液の方を白の液体にすれば良いだけに思えるが。
違いが明確になるに越したことは無いので、同様にラベルをしっかりと付ける。
ガラス瓶もラベルも、石鹸類の時と同じく高級感を意識してデザイン。
こちらはより直接的な美容品だし、完成した絵の雰囲気で効能にも大きく影響しそうな気がする。
俺は相も変わらず、「美容効果よ高まれェ!!!高まれェ!!!!」と何度も心の中で念じながら作画作業を進めていった。
こちらは二人へのプレゼント用なので、気合はばっちりだ。
筆の進みも早い。
気づけば十数分で完成。そして出力。
――――うん、この二つも特に問題はなさそうだな。
ちゃんと二つ一組で二セット用意したし、後は二人に渡すだけだ。
時間がない中ではあったが、どちらも小瓶なためそこまで時間はかかっていない。
石鹸類と合計して、20分以内には収められたと思う。
丁度良い事に、俺の準備が整ったところでミクの方の作業も終わったようだ。
見れば俺が浴槽を出力したあたりに、遺跡の床を盛り上げて作ったと思われる石のしきりがいくつも出来ていた。
そこの隙間から、ミクがひょこっと顔を出す。
「ユヅル様、こっちの作業は終わったよ!」
相変らずの愛らしい笑顔で報告してくる彼女に、胸がドクンッと高鳴った。
ドキドキ、ドキドキ。
やはり、こう改めて意識すると緊張してくるな。
あまり気を使わせないという意味でも、それとなく渡せるのがベストだとは思う。
だが、正直言って悩ましい。
現実の女の子を好きになったのも、異性にプレゼントを渡したいと思ったのもミクが初めてだ。
どんな風に渡せば喜んでもらえるか。そのうえで、俺の事を異性として意識してもらえるか。
渡すものが美容品という事もあって、どうしても慎重にならざるを得ない。
そんな時だ。
俺の背後に、ふっと一つの気配が迫る。
「マスター」
ユリアの声だ。
そう気づいて振り向くと、そこにはいつも通りのすました顔で佇むユリアの姿があった。
※補足
ミクがタオルや桶を持っていたのは、濡れたタオルで身を清めるのに使用していたためです。一応魔法でも綺麗には出来ますが、本文中にもある通りその魔法の効果を高めるためにひと手間加えている形になります。
ちなみに対象を綺麗にする魔法を実際に水と併用して効果を高めて使う人はごく少数で、この世界ではかなり綺麗好きな人の特徴の一つ。普通に魔法だけで綺麗にした方が早いので、ほとんどの魔法使いはそうします。
またそういった魔法使いのほとんどは、「え?どうして一瞬で綺麗に出来る魔法を使っているのに、わざわざ余計な一手間を加えるの?」と水を併用して効果を高めている魔法使いにマジレスしてキレられるまでがセット。
↓同時連載中
「The Hero's Sweet Brides~学園の女子だけ貞操観念が逆転していくサバイバルクラフトゲームで、俺だけ既に神殺しと畏怖された異世界の救世主~」
https://kakuyomu.jp/works/822139838557577613
※もう一つのリンクはノクターンノベルズの為ここでは割愛。
・作者X
https://x.com/Shuu_Souzuki
作品の執筆状況などをたまに投稿していく予定です。




