第11話 異世界だからと風呂キャンなんて許されない
さて、俺は現在、黙々と絵描き用のタブレットとにらめっこして作画作業に勤しんでいた。
これは勿論、物理的に食事が出来なかったアルちゃんへの埋め合わせをする為だ。
鞘の時と同じように何か贈り物をする形にしようと思っている。
ただ、正直最初は何を送ったものかと悩みに悩み筆を迷わせていた。
なので、そこは素直に本人から要望を聞いて用意させてもらう事に。
その方がアルちゃんにとってもいいだろう。
そういったことも踏まえ、実際にプレゼントする事にしたのが今まさに作画している一枚の布である。
アルちゃんの手入れをする用の布だ。
質感や刺繍にもしっかりとこだわって、丁寧に作画している。
そこまで作画コストの高い絵ではないが、それでも完成にはまだ少しかかりそうだった。
その間、ユリアとミクは水道を使って洗い物をしてくれている。
洗剤くらいは俺の方で用意しようかとも思ったが、ミクが魔法で泡を出しているのを見て不要と悟った。
俺が思っていた以上に、この世界の魔法は便利らしい。
ミクが洗って、ユリアがそれを清潔な布で拭っている。
会話が弾んでいる辺り、あの二人もこの短い間に随分と距離が縮まっているようだ。
ちなみにユリアが使っている布も俺が描いたものでなく、ミクが収納魔法にしまっていたものを使わせてもらっているらしい。
魔法、やはり便利な力である。
さて、そういう訳なので俺は俺で作業を進める。
二人の洗い物の音をBGMに、都度アルちゃんの要望を聞いて贈り物の布を仕上げていった。
完成は、丁度ミクとユリアの洗い物が終わったあたり。
出力して、早速実物をアルちゃんに見せる。
『おおっ、これはまさしく、我ほどの剣にも見劣りしない高貴な布だ!ふふんっ、触り心地もよさそう……さあ、父よ、父よ!何をしておる、早くそれを使って我の手入れをせんか!」
「あはは、はいはい、わかったよ」
俺は興奮気味なアルちゃんの声に促されるまま、彼女のお手入れをしてあげる事に。
アルちゃんを鞘の内から抜き放ち、その刀身をあぐらをかいて座る俺の膝の上へと乗せた。
『うむ、苦しゅうない』
上機嫌な可愛らしい声と、ピカピカと光る刀身の様子が相変わらずシュールで愛らしい。
ユリアとミクにはまたしばらく暇を持て余してもらうことになってしまうが、ここはしっかりとアルちゃんを労わらせてもらおう。
今後、アルちゃんには死ぬまでお世話になるような気もするしな。彼女との親交を深める時間も大切にしなければ。
ただ、それはそれとして暇になる二人にはお詫びとしてそれぞれ桃と和梨をデザートとして渡しておく。
どちらもほんの数分で描いたが、出来は存外悪くなかった。
二人も喜んでくれたようで、一安心である。
― ― ― ―
さて、あれからアルちゃんの気の済むまで聖剣本体の手入れをしていたが、そろそろ時間もいい時間。
ベッドの作画作業にとりかからなければいけないのもそうだが、それはそれとしてもう一つだけやるべきことが残っていた。
――――そう、お風呂。お風呂の準備である。
正直、真っ当な日本人である俺に風呂なしは厳しい。というか耐えられない。
他の人は知らないが、少なくとも俺は毎日お風呂に入らないと気持ち悪くてダメな人だ。
割と綺麗好きだから、というのも理由の一つだが。
昔から温泉目当てで旅行に行くのが一つの息抜きとなっているくらい、俺自身お風呂が好きなのも大きな理由。
しかし、現実問題として、今からお風呂を作画している時間なんてあるのだろうか。
そう自問自答するも、答えはすぐに出る。
正直、これに関しては一つ良い考えがあると。
そう、この世界には俺の作画スキル以外にも、便利な魔法という力が存在している。
ミクから夕飯の際にも色々と魔法について話を聞いてみたが、その話から察するに、お湯を沸かすのもいけるはずだ。
実際に、二人が洗い物をしている時にも魔法の便利さは十分目の当たりにさせてもらった。きっとなんとかなると踏んでいる。
そういうわけなので、早速順を追ってプランを整理だ。
まず、俺が思うにお風呂を描く上で一番作画コストが高いのはお湯の表現である。
これは正直凝り始めるとキリがない。
液体の表現は手を抜こうと思えば抜けるが、それでもお湯がメインのお風呂でそれをするのはかなり抵抗感があった。
それこそ、透明感が無さ過ぎるとお湯の性質にも影響する、なんてことが万が一にもあるかもしれないからな。この辺りは要検証してからにしておきたい。
なので、一旦浴槽だけで考える。
勿論浴槽も大事だとは思うが、これはぶっちゃけ簡単に描いても割とそれっぽく仕上がると考えているからだ。
具体的には、白い石製のお風呂をイメージしている。
サイズは少し大きめにするにしても、色は白だしほとんど線画だけで事足りるだろう。
イメージとしては、ローマ風の浴槽だ。
しかし、そうなると肝心のお湯はどうするのかという話。
ここで、魔法の話に戻る。
ミクの魔法か、あるいは天使としての設定からユリアの魔法に頼れないかと考えた訳だ。
まあ、ファイヤーボールの時のように俺が描いて再現することもできるだろうがそれでは本末転倒だからな。
試しに、俺が浴槽を作るからお湯を魔法で出せないだろうかと二人に聞いてみたら、ミクもユリアも食い気味に承諾してくれたので有難く任せることにする。
どのみち、俺がお風呂の準備をするまでは待ってもらうしかない為、そういった意味でも丁度良かった。
考えていたプランが採用できるとなれば、最早筆に迷う事も無い。
俺は黙々と浴槽を描いていく。
……大人が数人入っても問題ないくらいの広さで描いたのは、勿論下心があっての事だと言っておこう。
まあ、純粋に広いお風呂の方が良いからという理由もあるにはあるけどな。
それはそれ、これはこれというやつだ。
― ― ― ―
……よし、こちらは浴槽の作画が無事に終わった。
ミクとユリアの方はどうだろう。
試しに見てみると、部屋の隅の方で魔法を行使する二人の姿。
ミクが空中に大きな水の玉を作り、そこにユリアが手を突っ込んで魔方陣を展開していた。
察するに、ミクが水自体を用意して、ユリアがそれをお湯にしているという形なのだろう。
……うん、とりあえず小屋の中が水浸しになるから外でやってもらおうかな。
一応気を使ってか、部屋の隅でやってくれてはいるようだが。
どのみち風呂も外に作る予定だ。
ここでお湯をつくられても、外に運ぶまでに大惨事である。
ガチャリっ。
そんなわけで外に出て、仕切り直し。
二人には申し訳ないが、改めて小屋の外でお湯を作ってもらう。
俺はというと、既に浴槽は完成しているため一見手持無沙汰にも思えるが。
それならそうと、次はそれ以外の細々としたものを揃えていきたい。
お風呂周りの日用品だ。
とりあえず、皆で使い回す用の石鹸類。
泡を出せる魔法が使える者達に石鹸類が必要なのかと思わなくもないが、香りに美容効果にと、こだわれるところをこだわれば意味はあると思うんだよな。
それを試すという意味でも、色々と試行錯誤してみようと思う。
あとは、お風呂上りに使う化粧水や乳液とかも用意したい。
こちらはミクとユリアへのプレゼントにと考えている。
アルちゃんに鞘を贈ってあげた時もそうだったが、やはり自分の描いた絵で誰かに喜んでもらえるのは嬉しいからな。
それがスキルの恩恵によるものであったとしても、二人の喜んだ顔が見たいという一心だ。
……うん、正直に白状しよう。
これで質の良い美容品が出来れば、二人の好感度を稼げるかもしれない。なんて下心もちょっとはある。流石にな。
まあ、俺も化粧水くらいはお風呂上りに塗ったりしていたので、たとえ好感度が稼げなかったとしても無駄にはならないだろう。
俺は自分自身に言い訳しつつ、美容品の作画作業に取り掛かった。
↓同時連載中
「The Hero's Sweet Brides~学園の女子だけ貞操観念が逆転していくサバイバルクラフトゲームで、俺だけ既に神殺しと畏怖された異世界の救世主~」
https://kakuyomu.jp/works/822139838557577613
※もう一つのリンクはノクターンノベルズの為ここでは割愛。
・作者X
https://x.com/Shuu_Souzuki
作品の執筆状況などをたまに投稿していく予定です。




