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女性主人公 短編

小悪魔な私が氷の皇子をからかったら、監禁部屋で徹底的に躾けられました。~「私にこんな真似をして、ただで済むと思っているの?」と脅したら、余計に彼を興奮させてしまったようです~

掲載日:2025/12/15

 第一章:自称・小悪魔の誤算


 シャンデリアの煌めきが、磨き上げられた大理石の床に反射している。  

 王城の大広間で開催されている夜会。着飾った貴族たちが談笑する中、私は扇子で口元を隠し、優越感に浸っていた。


(今夜の主役も、間違いなく私ね)


 私はミラ・ローズベリー。

 伯爵家の娘であり、この社交界で密かに「小悪魔」と呼ばれている女だ。  


 栗色の巻き髪に、計算し尽くされた可憐なメイク。

 男たちは私と目が合うだけで頬を染め、少し甘い声を出せば尻尾を振ってかしずく。男を転がすことなんて、赤子の手をひねるより簡単だと思っていた。


 ――あの、「氷の皇子」を見るまでは。


 広間の隅、バルコニーへの入り口付近に、その人はいた。  

 第二王子、アレク・フォン・ラインハルト。  


 プラチナブロンドの髪に、凍てつくようなアイスブルーの瞳。

 彼に近づこうとする令嬢たちは、その冷ややかな一瞥だけで氷漬けにされたかのように立ちすくみ、すごすごと退散していく。  


 まさに難攻不落。

 だからこそ、私の狩猟本能が疼いた。


「見てなさい。あんな堅物、私のテクニックでイチコロにしてあげるわ」


 私はグラス片手に、獲物を狙う猫のようにしなやかに歩き出した。


 

 ***


 夜風が吹き抜けるバルコニーは、広間の喧騒が嘘のように静まり返っていた。  

 アレク様は手すりに肘をつき、退屈そうに月を見上げていた。横顔だけで溜め息が出るほど美しい。


「……こんばんは、殿下。お一人ですか?」


 私は鈴を転がすような、一番自信のある声色で話しかけた。  


 アレク様がゆっくりと振り返る。

 その瞳には、何の感情も浮かんでいない。


「……何か用か?」

「いいえ、ただ……少し酔ってしまって」


 私はよろけたふりをして、計算通り彼の胸元へと倒れ込む。  

 当然、支えてくれるはずだ。そして至近距離で見つめ合い、私が上目遣いで微笑めば、どんな男も落ちる。


 ガッ。


 しかし、予想に反して私の体は空中で止まった。  

 抱き留められたのではない。アレク様が、私の肩を片手で乱暴に掴んで静止させたのだ。まるで、汚いものに触れるかのように。


「……茶番は終わりか?」


 低く、地を這うような声。  


 見上げると、そこには絶対零度の瞳があった。

 背筋がゾクリと粟立つ。  


 まずい。

 これは、私の魅力が通じていない?


「あ、あの……ごめんなさい、私……」

「僕の視界をうろちょろと、羽虫のように目障りな女だ」


 吐き捨てられた言葉に、私のプライドが音を立てて傷ついた。


 羽虫ですって!?  


 カッとなった私は、とっさに彼との距離を詰め、その耳元で囁いた。

 これは奥の手だ。


「……そんなにつれないと、寂しいですわ。本当は、私に触れたいのでしょう?」


 吐息混じりの挑発。

 これで動揺しない男はいない。  


 そう確信した、次の瞬間だった。


「――ほう」


 ガシッ!


「きゃっ!?」


 世界が反転した。  

 手首を万力のような力で掴まれ、私はバルコニーの壁に叩きつけられていた。  


 逃げようとする私の顎を、アレク様の手が強引に持ち上げる。  

 さっきまでの無関心な瞳は消えていた。

 代わりにそこにあったのは、獲物を前にした肉食獣の、ギラついた瞳。


「僕を誘惑するつもりか? いい度胸だ」

「っ!? は、離して……!」


 本能的な恐怖に、私は身をよじった。  

 けれど、アレク様は愉しげに口角を吊り上げると、そのまま私の腕を引き、バルコニーから続く離宮の廊下へと強引に歩き出した。


「ちょ、ちょっと! どこへ連れて行く気ですか!?」

「静かにしろ。自分から誘惑してきたんだろう。その気にさせた責任を、たっぷりと取ってもらう」


 

 ***


 通されたのは、王族専用の豪奢な私室だった。  

 重厚な扉が、カチャリという重い音と共に施錠される。

 魔法によるロックだ。  


 私は部屋の中央で、震える足を必死に隠しながら彼を睨みつけた。


 ここで怯えたら負けだ。

 私は「小悪魔」なのだから。  


 それに、私には強力な味方がたくさんいる。

 彼だって王子とはいえ、有力貴族たちを敵には回せないはず。


「離して! 私にこんな真似をして、ただで済むと思っているの?」


 私は顎を上げ、精一杯の強気な声で叫んだ。


「私を誰だと思っているのですか? 騎士団長の息子であるジェラール様は、私の願いならなんだって聞いてくださるわ! それに、財務大臣の甥のミハイル様だって、私に夢中なのよ!」


 どうだ、と私は鼻を鳴らす。  


 ジェラール様は剣の腕が立つし、ミハイル様は大金持ちだ。  

 彼らが動けば、第二王子の立場だって危うくなるかもしれない。

 そう脅しをかければ、きっと彼も顔色を変えて謝罪するはず――。


「……それが、どうした?」


 返ってきたのは、あまりにも冷淡な反応だった。  

 アレク様はゆっくりと私に歩み寄りながら、嘲るように笑う。


「騎士団長の息子? ああ、あの腰巾着か。大臣の甥? 金勘定しか能のない豚だろう」

「なっ……!?」


「彼らがどうしたと言うんだ? まさか、その程度の羽虫の名前を出せば、僕が怯えるとでも思ったのか?」


 一歩、また一歩。  


 彼が近づくたびに、圧倒的な「格」の違いによるプレッシャーが押し寄せてくる。  

 壁際まで追い詰められた私は、へなへなとその場に崩れ落ちそうになった。


「そ、そんな……彼らは、私のためなら……」

「思い上がるなよ、メス猫」


 アレク様が私の前に跪き、視線を合わせる。  

 その顔は至近距離にあり、整いすぎた顔立ちが余計に恐怖を煽った。


「彼らがお前に夢中なのは勝手だが、今、この部屋の支配者は僕だ。そしてお前は、愚かにもその支配者の寝床に自ら飛び込んできた」


 彼は私の髪をひと房すくい上げ、それに口づけを落とす。  

 優しい仕草なのに、背筋が凍るほど怖い。


 でも――

 何故だろう。  


 その冷酷な瞳に見下ろされていると、体の奥が熱くなるような、奇妙な感覚が走った。


「虎の威を借る狐かと思ったが、ただの躾のなっていない子猫だったようだな」


 アレク様の手が、私の首筋に這う。  

 ひやりとした指先の感触に、私は「ひぅっ」と情けない声を漏らしてしまった。


「よろしい。他所の男に尻尾を振るその癖、僕が徹底的に直してやる」


 逃げられない。  


 そう悟った瞬間、私の心臓は恐怖とは別の、甘い予感に早鐘を打ち始めていた。



 ***


 第二章:氷の王子の熱い躾


「ひっ……!」


 首筋を撫でた彼の指先があまりに冷たくて、私は弾かれたように身を縮めた。  


 逃げなければ。

 本能がそう警鐘を鳴らしているのに、足がすくんで動かない。蛇に睨まれた蛙とは、今の私のことだ。


 アレク様は、獲物を追い詰めるのを楽しむように目を細めると、私の腰を抱き寄せ、そのまま背後の豪奢な長椅子カウチへと押し倒した。


「あ……っ!」

「暴れるな。ドレスが破れてもいいなら別だが」


 私の抵抗を先読みしたかのような言葉に、動きを封じられる。  

 彼は私の太ももの両脇に手をつき、覆いかぶさるようにして私を見下ろした。


 逃げ場はどこにもない。  

 至近距離にあるアイスブルーの瞳。

 そこには、普段の無関心な色は微塵もなく、昏く濁った支配欲が渦巻いている。


「さて、ミラ嬢。さきほど君は、騎士団長のご子息や、財務大臣の甥の名前を挙げていたな」


 アレク様は私の耳元に顔を寄せ、低い声で囁いた。


「助けを呼んだらどうだ? 大声で叫べば、誰か駆けつけてくれるかもしれないぞ。『ジェラール様、助けて』と」

「そ、それは……」


「呼べないのか? それとも、僕に組み敷かれている今の状況を、誰かに見られたくないのか?」


 図星だった。  

 こんな無様な姿、誰にも見られたくない。

 それに、心のどこかで――この状況が終わってほしくないと思っている自分がいることに、私は戸惑っていた。


「だんまりか。……口ほどにもない」


 ふっ、と鼻で笑うと、アレク様の手が私の首元からデコルテへと這う。  

 冷たい指先が触れた場所から、カッと火がついたような熱が広がる。


「んっ……や、やめてください……っ」

「『やめて』? おかしいな。さっきバルコニーでは『本当は触れたいんでしょう?』と挑発していたくせに」


 彼の手つきは意地悪で、執拗だった。  

 ドレスの上から敏感な脇腹をなぞり、耳元に熱い吐息を吹きかける。


「ひゃうっ!」

「ほう、可愛らしい声で鳴く。社交界で見せる澄ました顔より、よほどそそるな」


 屈辱で顔が熱くなる。  

 私は「小悪魔」なのよ。


 男を惑わす側なの。


 こんな、子供扱いされて、遊ばれて……!  

 悔しい。


 悔しいはずなのに。


(どうして……こんなにゾクゾクするの……?)


 彼に見下され、冷たい言葉を浴びせられるたび、身体の奥が疼く。  

 怖いと思っていた冷徹な視線が、今は私だけを捉えている。

 その事実が、どうしようもなく私を満たしていく。


「君のような生意気な女が、どうすれば大人しくなるか……教えてやろうか」


 アレク様が、私の唇のすぐそばで囁く。  


 キスされる――

 そう思って目を閉じた瞬間、彼は不意に身体を離した。


「……え?」


 目を開けると、彼は冷ややかな笑みを浮かべて私を見下ろしていた。


「なんだ、キスされるとでも思ったか? 浅ましいな」

「っ!? ち、違いますっ!」


「嘘をつけ。顔に『してほしい』と書いてあるぞ」


 彼は私の顎を指でくいと持ち上げ、左右に振って品定めをする。  

 まるで市場に並ぶ商品を値踏みするような目。


「いいか、ミラ。これからは僕の許可なく何かを期待するな。触れてほしいなら、そう口に出して乞え」

「そ、そんなこと……言えるわけ……」


「言えないなら、このまま放置するだけだ」


 アレク様は私から手を離し、本当に立ち去ろうとする素振りを見せる。  

 途端に、強烈な焦燥感が私を襲った。  


 嫌だ。このまま彼がいなくなってしまったら、この身体の熱はどうすればいいの?  


 置いていかないで。

 もっと私を見て。もっと私をいじめて。


 気づけば、私は彼の袖を掴んでいた。


「……っ」

「どうした? まだ何か用か?」


 背中を向けたままの彼の冷たい声。  

 私のプライドは、音を立てて崩れ落ちた。  


 高飛車な令嬢としての矜持よりも、彼に支配されたいという欲求が勝ってしまったのだ。


「……て……」

「聞こえない」


「……して、ください……」


 私は震える声で、顔を真っ赤にしながら懇願した。


「もっと……私に、触れてください……アレク様……」


 しばくの沈黙の後、彼がゆっくりと振り返る。  

 その顔には、嗜虐的でありながら、どこか甘く蕩けるような満足げな笑みが浮かんでいた。


「もう素直になったのか? 口ほどにもない。だが、約束通り――」


 彼は再び私に覆いかぶさると、今度は優しく、けれど逃げられないほど強く私を抱きしめた。


「褒美を与える。君が泣いて許しを乞うまで、たっぷりと可愛がってやろう」


 重なる唇。  

 氷の皇子とは思えないほど情熱的な口づけに、私の思考は白く染まり、彼への服従を誓う甘い沼へと沈んでいった。



 ***


 第三章:甘やかな降伏


 小鳥のさえずりと、カーテンの隙間から差し込む朝日で目を覚ました。  

 意識が浮上すると同時に、身体の節々に心地よい気怠さを感じる。まるで嵐に揉まれた小舟のようだ。


「……ん……」

「おはよう。随分と深く眠っていたな」


 頭上から降ってきた涼やかな声に、私はバッと身を起こそうとして――

 腰の痛みによろめき、再びシーツの上へと沈んだ。  


 目の前には、すでに身支度を整えたアレク様が優雅に紅茶を飲んでいる。  

 昨夜の獣のような熱っぽさは微塵もなく、いつもの「氷の皇子」のように涼しい顔だ。けれど、私を見るその瞳だけが、所有欲に満ちた熱を孕んでいた。


「あ、アレク様……。おはよう、ございます……」


 昨夜の記憶が奔流のように蘇り、私は顔を真っ赤にしてシーツを被った。  


 あんな声を出すなんて。

 あんなに乱れて、彼に縋り付くなんて。  


 かつての私なら、プライドが許さなかっただろう。

 けれど今は、その記憶さえも甘い砂糖菓子のように胸を焦がす。


「逃げるな。顔を見せろ」


 短く、絶対的な命令。  

 私はビクリと肩を震わせ、おずおずとシーツから顔を出した。


 逆らえない。

 いいえ、逆らいたくない。


 アレク様は満足げに頷くと、サイドテーブルから細長いベルベットの小箱を取り出した。


「お前に似合うと思って、職人に作らせていたんだ。……こっちへ」


 手招きされ、私はベッドの上を膝歩きで彼のそばへと寄る。  

 彼が箱を開けると、そこには深い青色の宝石――

 サファイアがあしらわれた、繊細な意匠のチョーカーが収められていた。  


 それは装飾品というより、どこか「首輪」を連想させるデザインだった。


「美しい……」

「僕の瞳と同じ色だ。これを着けていれば、誰が見てもお前が『誰のもの』か分かるだろう」


 アレク様は私の首に冷たい金属を這わせ、カチリと留め金を嵌めた。  


 首元に感じる重み。

 それは私を縛る鎖であり、同時に彼に守られているという証でもあった。


「……あの、アレク様。一つお聞きしてもよろしいですか?」

「なんだ」


「『作らせていた』ということは……昨夜のことがなくても、これを私に?」


 私が恐る恐る尋ねると、アレク様はきょとんとした後、意地悪く口角を上げた。


「当たり前だろう。ジェラールやミハイルのような羽虫どもが、僕の獲物に群がっているのが不愉快で仕方なかったからな」


 彼は私の頬を指の背でなぞる。


「いつか捕まえて、二度と他の男に色目を使えないよう躾けてやるつもりだった。……まさか、お前の方から罠に飛び込んで来るとは思わなかったが」


 そう言って、彼は喉の奥でクツクツと笑った。  

 私は呆然とした後、じわじわと胸の奥が熱くなった。  


 私が彼を狙うずっと前から、私は彼に狙われていたのだ。あの冷たい視線はずっと、私をどうやって捕まえるか計算していた眼差しだったなんて。


「……ふふ」


 自然と笑みがこぼれた。  

 「小悪魔」なんて自称していた自分が恥ずかしい。

 私は彼の手のひらの上で踊らされていただけだったのだ。  


 でも、それがどうしようもなく嬉しい。


「どうした? 嫌だったか?」

「いいえ……」


 私は首を横に振り、彼の膝に頬を擦り寄せた。  

 チョーカーの宝石が、私の鼓動に合わせて揺れる。


「嬉しいです。……ご主人様」


 その言葉を聞いた瞬間、アレク様の瞳が怪しく光った。  

 彼は私の腰を抱き寄せ、耳元で低く囁く。


「……いい響きだ。その呼び方、気に入った」


 朝の光の中で、氷の皇子が溶けるように甘く微笑む。  


 この先、私が社交界で男たちを惑わすことは二度とないだろう。

 だって私は――

 世界で一番素敵なご主人様に飼われる、忠実な愛猫になってしまったのだから。

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