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序章 頭が追いつかない

 

 ――蓮水(はすみ)理世(りぜ)は、それはもう過去一番で困惑していた。


 なぜ、こんなことに……。

 内心つきたい大きなため息を無理やり飲み込み、現実逃避したい気持ちを必死に抑え込む。

 今ここで現実逃避をしたところで、後々困るのは自分なのだ。逃げるのは楽ではある。楽ではあるのだが、ここで逃げたところで仕方がないのはよく理解していた。

 ならば、何としてでも向き合うしかない。

 それを理解しているからこそ、理世は現実逃避をすることはなかった。

 だが、そんなことを考えているほんの数秒の間でも、目の前では現実とは思いたくもない言い合いが繰り広げられていた。

 自分を挟んで、行われている会話は。

「だから、てめえのじゃねえだろうが!」

「ああ! まーた妹に向かって『てめえ』なんて言ってる! 兄さんの口の悪さ、いい加減にしてよね! ねー、リゼさん」

「ああ? そうやって、リゼをすぐに味方につけようとすんの、やめろ。リゼが困んだろうが」

「何、サラッと呼び捨てしてるのよ! いくら兄さんが歳上だからって、そんなの許さないんだからっ! リゼさんは、私のものよっ!」

「だから、俺のだって言ってんだろうがっ!」

 口々に言い合いが繰り広げていくが、理世はなんのことだかさっぱりだ。

 この会話を繰り広げているのは、絶世の美男美女である。会話から、兄妹であることだけは理解できた。兄と妹、そこまで仲が悪いというわけではなさそうだが、なぜか言い合いをしている。それも、理世に関することで、だ。

 そして、今聞いている会話だけでも、理世と知り合いであることだけは理解できた。自己紹介もしていないのに、理世の名前を知っているからそうなのだろう。

 そうなのだろう、と言うのには理由がある。

 なにせ――。

「……俺の記憶には、一切思い当たる節がないんだよなあ」

 そう、理世にはまったくと言って良いほど彼らについての記憶がないのだ。思い当たる節が一切ないのである。

 強いて言うなら、理世の中にあるのは一時的に保護した兄妹のこと。だが、彼らとは年齢に大きな差がある。

 なにせ、理世が出会った兄妹の妹に関しては、一〇にも満たない子どもだったのだ。今この場にいる少女は、どちらかと言えば女性の括りに入るだろう年齢に見える。

 兄に関しては確かに似ている部分があるが、それにしては体つきが大きく変化していた。見た目が似ているからと言って、この青年が自分の知っている子どもだったかは断言できない。それに、自分が知っている幼い妹の兄は、確か中学生ぐらいの男子だった。見るからに目の前の青年は成人して何年か経過しているだろう。

 となれば、理世の中では彼らとは初対面という認識になるわけであって。

 思わず今の状況に頭を抱えてしまうのは無理もないだろう。

 理世の腰をさりげなく抱いて自分の傍にしっかりと引き寄せている青年と、空いている右手にベッタリと自分の身体を引っ付かせながら理世から離れない青年の妹らしき女性。

 理世はその光景を第三者の視点から見て、やれやれと肩を落とす。


 できれば、この光景が夢であることを祈って――。

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