「では、自己PRをどうぞ」
「では自己PRをどうぞ」
そう言われて僕は汗水を流しながら必死に語る。
「えっと! その! この暑い日々が続く現代です! が! その! わた! わたわた、私がいましたら!」
すると目の前に座っていた少女が笑う。
「落ち着いてください。ゆっくり話して。何と言いますか、あなたらしくと言うか」
「うっ……」
息を飲む。
自分よりずっと年下の子供にこんな事を言われるなんて……。
少し気恥ずかしい気持ちになるが、だからこそ自分の滑稽な程の緊張を客観視出来た。
「安心してください。あなた達は人よりずっと優れているんですから。ですが、現代においてはその事をしっかりとアピールしなければならない」
「はっ、はい!」
少女は微笑む。
「雨女さんってご存知ですか?」
「はっ! はい! 勿論です!」
「そうでしたか。今年の梅雨は全く雨が降らなかったでしょう? 彼女がここに来てくれたおかげで雨を降らせていただき本当に助かったんです」
そう。
ここは云わば妖怪達が一夏を過ごすためのバイトの斡旋場。
現代の日本では妖怪などそもそも信じられていない節さえあれど、それでも僕も含めて今もこうして『生きている』のだ。
そして目の前の少女はここら辺りでは最も強い霊感を持つ一族の末裔だ。
僕ら妖怪とは昔から時には戦い、時には手を取り合って生きてきた。
そして、すっかり平和となった今の時代においてもこうして繋がっているわけだ。
「さて、少しは肩の力が抜けましたか?」
「はっ、はい!」
少女はにっこりと笑う。
「それでは改めて。あなたの自己PR……いえ、能力を教えてください」
おかげで僕は落ち着いて自分を出せた。
「はい! 小豆が洗えます!」
「げっ……」
「げ?」
「あっ、いえいえ。なんでもないです……えっとぉ、小豆洗いさんですか?」
明らかに少女の顔は歪んだような気がしたが……。
きっと、勘違いなのだろうと僕は思うようにした。
と言うか、もう思わないとやっていけないよ、ちくしょう。
「えーっと……小豆洗いさんね」
少女の顔は明らかに険しい。
当然だ。
現代において小豆を洗う仕事はあまり一般的ではないだろう。
「保育園や幼稚園のお手伝いは……あっ、ダメか。夏休みが近いんだ。うーん……お米でも研いでもらう? いや、今って無洗米も多いし……うぅーん……どうしよう」
今にも頭を抱えそうな少女に僕は言う。
「やっぱり仕事なんてないですよね?」
「あっ! 待って! 待ってください! 手先は器用なんですよね!?」
「まぁ、小豆を洗うくらいですから……」
「それじゃ、パソコン使えますか!? あの、最悪、指を二本だけ立ててぽちぽちするだけで良いんで!」
「まぁ、それくらいなら……」
「はい! それじゃ! 小豆洗いさんの今年の夏はデータ入力でお願いします!」
それって明らかに僕じゃなくてもいいよね?
そう思ったけど、縋るような少女の表情を見て何も言えなくなってしまった。
「はい! よろしくお願いします!」
「こちらこそ、よろしくお願いします!」
こうして、今年の夏も僕はどうにか乗り越えることが出来そうだった。