第9話:15歳、初配信です
「皆さんどうも! Gra-dos!」
探索者カードを手に入れて少し。
ニャワールとの連絡も済み、ミラー配信が始まった。
:うおおおおおおおお!!!!!!!!
:きたあああああああ!!!!!
:Gra-dos!!!!!!
突撃姉妹Ch.:始まったわね!!!!
:待ってたぞおおお!!!
す、すげぇ! コメントが荒ぶってる!!!
脳に直接文章が叩き込まれてくるのは中々不思議な感覚だが、なんかいいかも!!
「さ、さて! 今からダンジョン――この前僕が戦ってたとこみたいな場所を攻略していくよ! これがその入口!」
ダンジョンに入る方法は、空間に現れた亀裂を通ることの一つだけだ。
そして、それを覆うように「臨界支所」と呼ばれる協会の建物が建てられている。そこで受付をして、ダンジョンに入るのだ。
臨界支所の、分厚く頑丈な壁に覆われた監獄みたいな様相は、ドミナジオンに幽閉されてた時を想起させた。コンクリートの無機質で殺伐とした雰囲気は、精神がすり減る何かを秘めているとしか思えない。
いくらダンジョン絡みの“魔導災害”対策とはいえ、気が滅入ってしまう外観だ。
:これ俺らの使う空隙みたいだな
:空隙じゃんw
:向こうに平原が広がってるな……
:綺麗じゃの~
空隙とは、宇宙船で何度も見た空間の裂け目のことだ。
確かによく似ている――僕もそう思ったので、AIに配信前に聞いてみたが、『エーテルではなく魔力で動いているので別物の可能性が高い』と言っていた。
「ここはCランクダンジョン、【肉の行森】。人型の魔物がメインのダンジョンだ。地球の……文明レベル? が0.5とすれば、これは0.2くらいになると思う」
そう呟きながら、一歩、足を踏み出した。
――途端、世界が変わる。
身体の芯が違う次元に動かされたような、奇妙な感覚を浴びた。
風景が長閑になっているのも、その違和感に拍車をかけている。
「……ふぅ。それじゃあ始めようか」
:一人称視点がこんなにも良いとはwwwwww
:俺もなんか違う星に来た気分w
:テンション上がってきたああああ!!!!!
:グレイム様頑張って!!!!!
澄んだ空気と草の匂いが鼻腔をくすぐり、遠くには村なんかも見え、豊かな自然が広がっている。
そして、目の前には緑色の小さな生物がいた。
「ゴブリン……最初の敵として相応しいな」
:ゴブリン??
:知らない名だなぁ
:どっかの星にはいそう
:実際いるじゃんね?
棍棒を持ち、緑色の皮膚で、人間の子どもくらいの背丈。
明らかに地球上にはいないだろう生物が、そこで平然と歩いているのだ。
「グギャギャ……?」
こちらを見て、醜い声でゴブリンが言った。
なんらかの言葉なのか? あいにくとゴブリン語を翻訳する機能はないし、首を傾げてるけど可愛くないし。
『対訳を数個用意していただければ97%の精度で辞書を作成する機能があります。どうしますか?』
{あるんかい! ……いや、いいよ。聞く価値もない}
『了解しました』
その会話の間、グギャ……? と互いに見つめ合っていた。
……わりと不快だな、これ。
:目と目が合ってるwwwwwww
:俺らとも見つめ合ってる気分でヤバいwwwww
:医務星へ行くことを検討 気分が悪いため
:殺すのあくしろよ
「だよな。殺すべきなのはすんごい感じてた。ダンジョンってそういうもんだし」
ダンジョンは、敵の殲滅やゴールへの到達がクリア条件になっている。ここは前者なので、殺す理由としては十分だろう。
ということで、空間収納から取り出したのは、お馴染みのエーテルブラスター。
しっかりと構え、狙いを澄まし——撃つ。
「――」
刹那、反動もなく淡い水色の光が煌めいた。
一陣の風が吹き抜け、光る粒子が風に乗って消えた。
ただ、それだけだった。
:ゴブリン消えたwwwwwww
:消滅してて草
:棍棒以外なんも残ってねぇw
:あーあw
「あー、威力強すぎたかな?」
大型の熊を一撃で葬り去るような代物なのだ、小さい生物だったら跡形も残らず消えてしまうのは当然か。というか地面まで抉れている。ちょっと考えないとなぁ。
それと、棍棒は……いらないな。技術が何世紀違うんだって話だよ。
「まぁ、初めての魔物討伐は無事に達成できたな!」
:おめでとおお!!!
突撃姉妹Ch.:さすが私のグレイム
:あの熊と有翼生物はノーカンですかそうですかw
突撃姉妹Ch.:ちょっと!? グレイムはルトだけのものじゃないわよ!
「おいおい、姉妹は仲良くしてくれよ! まったく……」
コメントで喧嘩するとか、仲がいいにも程がある。なんだか羨ましい。そろそろ僕を兄として慕って愛してくれるような、可愛い少女と一緒に過ごしたいものだ。
視聴者たちも、二人のじゃれ合いを微笑ましく見守ってるようだった。
:かわいい……
;かわいい
:かわいいいいw
:てぇてぇ!!!!!
つられて僕も笑顔になっていた、その時だった。
「グギャッ!」「ギギッ……」「ブモォッ」
醜い声が、耳障りな音が、豚の鳴き声が、幾重にも聞こえた。それは数十、数百と同時に響き、森を揺らした。
「……へ?」
ふと、後ろを振り返る。
そこには、視界を埋め尽くすほどのゴブリンと、豚の魔物――オークが立っていた。
ゴブリンには様々種類があり、身長の大小や武器、肌の色も異なっている。
オークのほうはほとんど差はないが、ゴブリンに比べ圧倒的に数が少ない。ただ、あの大きな図体は武器たりえるだろう。
「ブモオオオオオオオ!!!!!!!」
そして、先頭の一体が叫んだ瞬間――大地が震え、こちらへと大群が押し寄せてきた。
「やばああああああ!?!?!?」