表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/20

第9話:15歳、初配信です

「皆さんどうも! Gra-dos!」


 探索者カードを手に入れて少し。

 ニャワールとの連絡も済み、ミラー配信が始まった。


 :うおおおおおおおお!!!!!!!!

 :きたあああああああ!!!!!

 :Gra-dos!!!!!!

 突撃姉妹Ch.:始まったわね!!!!

 :待ってたぞおおお!!!


 す、すげぇ! コメントが荒ぶってる!!!

 脳に直接文章が叩き込まれてくるのは中々不思議な感覚だが、なんかいいかも!!


「さ、さて! 今からダンジョン――この前僕が戦ってたとこみたいな場所を攻略していくよ! これがその入口!」


 ダンジョンに入る方法は、空間に現れた亀裂を通ることの一つだけだ。

 そして、それを覆うように「臨界支所」と呼ばれる協会の建物が建てられている。そこで受付をして、ダンジョンに入るのだ。


 臨界支所の、分厚く頑丈な壁に覆われた監獄みたいな様相は、ドミナジオンに幽閉されてた時を想起させた。コンクリートの無機質で殺伐とした雰囲気は、精神がすり減る何かを秘めているとしか思えない。


 いくらダンジョン絡みの“魔導災害”対策とはいえ、気が滅入ってしまう外観だ。


 :これ俺らの使う空隙(ヌラ)みたいだな

 :空隙(ヌラ)じゃんw

 :向こうに平原が広がってるな……

 :綺麗じゃの~


 空隙(ヌラ)とは、宇宙船で何度も見た空間の裂け目のことだ。


 確かによく似ている――僕もそう思ったので、AIに配信前に聞いてみたが、『エーテルではなく魔力で動いているので別物の可能性が高い』と言っていた。


「ここはCランクダンジョン、【肉の行森(こうしん)】。人型の魔物がメインのダンジョンだ。地球の……文明レベル? が0.5とすれば、これは0.2くらいになると思う」


 そう呟きながら、一歩、足を踏み出した。

 

 ――途端、世界が変わる。


 身体の芯が違う次元に動かされたような、奇妙な感覚を浴びた。

 風景が長閑(のどか)になっているのも、その違和感に拍車をかけている。


「……ふぅ。それじゃあ始めようか」


 :一人称視点がこんなにも良いとはwwwwww

 :俺もなんか違う星に来た気分w

 :テンション上がってきたああああ!!!!!

 :グレイム様頑張って!!!!!


 澄んだ空気と草の匂いが鼻腔をくすぐり、遠くには村なんかも見え、豊かな自然が広がっている。


 そして、目の前には緑色の小さな生物がいた。


「ゴブリン……最初の敵として相応しいな」

 

 :ゴブリン??

 :知らない名だなぁ

 :どっかの星にはいそう

 :実際いるじゃんね?


 棍棒を持ち、緑色の皮膚で、人間の子どもくらいの背丈。

 明らかに地球上にはいないだろう生物が、そこで平然と歩いているのだ。


「グギャギャ……?」


 こちらを見て、醜い声でゴブリンが言った。


 なんらかの言葉なのか? あいにくとゴブリン語を翻訳する機能はないし、首を傾げてるけど可愛くないし。


『対訳を数個用意していただければ97%の精度で辞書を作成する機能があります。どうしますか?』

{あるんかい! ……いや、いいよ。聞く価値もない}

『了解しました』


 その会話の間、グギャ……? と互いに見つめ合っていた。


 ……わりと不快だな、これ。


 :目と目が合ってるwwwwwww

 :俺らとも見つめ合ってる気分でヤバいwwwww

 :医務星へ行くことを検討 気分が悪いため

 :殺すのあくしろよ


「だよな。殺すべきなのはすんごい感じてた。ダンジョンってそういうもんだし」


 ダンジョンは、敵の殲滅やゴールへの到達がクリア条件になっている。ここは前者なので、殺す理由としては十分だろう。


 ということで、空間収納カプセルから取り出したのは、お馴染みのエーテルブラスター。


 しっかりと構え、狙いを澄まし——撃つ。


「――」


 刹那、反動もなく淡い水色の光が煌めいた。

 一陣の風が吹き抜け、光る粒子が風に乗って消えた。


 ただ、それだけだった。


 :ゴブリン消えたwwwwwww

 :消滅してて草

 :棍棒以外なんも残ってねぇw

 :あーあw


「あー、威力強すぎたかな?」


 大型の熊を一撃で葬り去るような代物なのだ、小さい生物だったら跡形も残らず消えてしまうのは当然か。というか地面まで抉れている。ちょっと考えないとなぁ。


 それと、棍棒ドロップアイテムは……いらないな。技術が何世紀違うんだって話だよ。


「まぁ、初めての魔物討伐は無事に達成できたな!」


 :おめでとおお!!!

 突撃姉妹Ch.:さすが私のグレイム

 :あの熊と有翼生物はノーカンですかそうですかw

 突撃姉妹Ch.:ちょっと!? グレイムはルトだけのものじゃないわよ!


「おいおい、姉妹は仲良くしてくれよ! まったく……」


 コメントで喧嘩するとか、仲がいいにも程がある。なんだか羨ましい。そろそろ僕を兄として慕って愛してくれるような、可愛い少女と一緒に過ごしたいものだ。


 視聴者たちも、二人のじゃれ合いを微笑ましく見守ってるようだった。


 :かわいい……

 ;かわいい

 :かわいいいいw

 :てぇてぇ!!!!!


 つられて僕も笑顔になっていた、その時だった。


「グギャッ!」「ギギッ……」「ブモォッ」


 醜い声が、耳障りな音が、豚の鳴き声が、幾重にも聞こえた。それは数十、数百と同時に響き、森を揺らした。


「……へ?」


 ふと、後ろを振り返る。

 そこには、視界を埋め尽くすほどのゴブリンと、豚の魔物――オークが立っていた。

 ゴブリンには様々種類があり、身長の大小や武器、肌の色も異なっている。

 オークのほうはほとんど差はないが、ゴブリンに比べ圧倒的に数が少ない。ただ、あの大きな図体は武器たりえるだろう。


「ブモオオオオオオオ!!!!!!!」


 そして、先頭の一体が叫んだ瞬間――大地が震え、こちらへと大群が押し寄せてきた。


「やばああああああ!?!?!?」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ