第20話:無双しすぎたらしい。知るかよ。
鼻腔に広がる好い香り。
無性に柔らかく感じる甘い空気。
清楚に彩られた家具たち。
どこを見渡しても、僕たちではない者——女の子の部屋が、ここには広がっていた。
「もぉ、なんでそんな緊張してるの? 配信だとあんなかっこよかったのに」
「……妹以外に異性と関わる経験がなかったから」
「へぇ~、やっぱ司くんって初心なんだ♪」
いたずらっぽく笑うリン。
その顔を見るとやはり、紬が幻影のように重なってしまう。
すると、リンのスマホから「ピロン」と軽快な音が鳴った。
「お、またフォロワー増えてる! 配信アーカイブにスパチャも! うっひゃ~♡」
とまぁ、あの配信の反響はすごく、リンはずっと目に¥を浮かべてニッコニコ。ニヤニヤとも言える。
なので、僕らが会うにはリンの家しかなかった、というわけなのだ。外で話なんか出来やしないので仕方ない。
「どれどれ、『リンちゃんすっごく可愛かったし強かった!』……『グレイムって人強すぎて草』……『美男美女すぎてうらやま ワイ死亡』」
スマホを覗き込み、少しポストを見てみれば、そんな言葉たちが並んでいた。
ネットとはこういうものなのか?
あんまり分からないが、褒められているのは間違いない。通りでリンがあんな状態になっているわけだ。
「えへへ~♡ もっと褒めてぇ~♡」
「……わ、分かった」
目が怖い。これは“マジ”だ。
さっさとスマホに目をやり、再び読み始める。
「そうだな……『リンちゃん可愛すぎた 早くビリビリされたい』『あの骸骨たちが妬ましいまである』『グレイムとかいうイケメソを許さない』『温りのあるリンちゃん、温もリンちゃん』」
「ふふっ、ふふふふふふっ♡」
「スーパーチャットが1000円、500円……3万円!?」
「ぜ~んぶ司くんのおかげ!!! しゅき~~~♡」
瞬きする間に、気づけば僕はリンに抱きつかれていた。
Aランクの速度は伊達じゃない。というか残像すら見えなかった。
「っ……!」
「ふへへ、またおっぱいに興奮してるの~? 今度は感謝の気持ちと思って♡」
柔らかい感触、甘い匂い。
どうしようもなく鼓動が早まっていく。
抜け出そうと藻掻くが、信じられないくらいの強固さで全くびくともしない。
『マスター、なに現を抜かしてるんですか。聞くべきことを思い出してください』
ナイスAI!
——心の中でそう叫び、言葉を紡ぐ。
「そ、そういえばさ」
「——ん? どした?」
「リンの知り合いに呪いとかに詳しい人、いない? 特にそれを治せそうな人」
「呪い、か……」
その視線は、窓の外に広がる巨大な黒い桜へと向いていた。
「あれのこと、だよね」
「……あぁ」
「聞かせてよ、その話」
「……“魔神の呪い”。悲劇を齎す呪い。僕も、それだけしか知らない」
そっか、と物憂げに呟く。
「それを話したの、もしかして私が最初?」
「なっ、なんで分かったんだ」
「分かるよ、それくらい」
ありがとっ——そう、小さく聞こえた気がした。
「大丈夫。知り合いにいるよ、そういう人」
「本当か!?」
「ただし、これからも配信に出ること。そしたら紹介したげる」
「もちろん、それでいい」
すっ、と小指が差し出される。
「ん……?」
「約束するんでしょ?」
「あぁ、なるほど」
こういうとこまで、リンは妹みたいだ。
「指切りげんまん、嘘ついたら10万ボ~ルト、指切った」
「怖すぎだろ!!」
「まぁまぁ。いいじゃん、そーならないように気をつけてくれれば」
「それは……そうだが」
『おめでとうございます、マスター。これで——』
——希望を、未来へと繋げられる。
『これからも期待していますよ』
「《《ま、任せてくれ》》」
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これにて《《第二章完結》》となります!
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評価次第では三章も……?
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