第15話:知らない内に新武器が!?
「……もう地球行きたくない」
『何言ってるんですかマスター。やらなければならない目的がいっぱいあるでしょう。戦闘経験を積んで、探索者として成り上がり人脈を広げる。そうして妹を救う――』
「僕のセリフ全部言わないでよ!!!」
『えへっ』
「えへってなんだよ!?」
地球に長らく滞在する意味もないので、僕は再び宇宙船へと戻ってきて、いつも通りAIと漫才を繰り広げていた。
なぜかAIに言われてしまったが、ちゃんと色々目的があるのでゆっくりのんびりしているわけにはいかない。
だが、こうして引きこもりを敢行しているのには理由があった。
「だって、権力振りかざす男と静止時空で動けるお姉さんが僕の居場所を特定できる環境だよ!?」
今でも思い出せる――あのモノクロの世界で唯一輝く眼光を。
トラウマとしか言いようがない。もし戦うことになったら、先手を取らなければ首がすぐに飛ぶだろう。このアーマーが耐えれるかどうか……
『でも位置の特定は可能な限りしないと約束していたじゃないですか』
「人間なんか信用なるか! いつ裏切るか分かったもんじゃないし、裏切られて対処できる方法が即時の武力報復しかないし!」
『でも管区長から100万円ほど資金提供を受けたではないですか』
「うぐ! そ、それは……貰えるものは貰っておけばいいんだよ!」
『でも意地汚いとは思わないんですか?』
「ぐぬぬぬ……!」
ああ言えばこういうAIだなぁ!?
なんか論点ズレてる気がするし!
「と、ともかく! 次に地球に行くのはちょっと休んでから!」
『冗談ですよ。だから機嫌直してださい』
「そんな言葉に騙されないからな!」
『……仕方ないですね。とっておきのサプライズを用意してあります。武器庫に来てください』
サプライズ? とオウム返ししても、AIは何も答えてくれなかった。
はてさて、全く予想がつかない。
数週間程度の付き合いとはいえ、AIが僕の為にわざわざ何かをしたのってないんじゃないか? それこそ最初に武器庫を開けて《《戦いの準備》》を……ってのはあるけど。
ん? 戦いの、準備?
「い、嫌な予感が……」
◇
武器庫。
それは、物理的な侵入手段がない鋼鉄の城だ。
といっても、この船には僕以外いないので、開かれていた空隙を経由して入っていく。
「やっぱ何度見てもすごいよなぁ……」
剣、銃、銃、銃、よく分からん奇妙な機械がいっぱい――そんな感じで、ところ狭しと棚に金属製の何かが詰まっている。
船の内部は基本的に淡い水色がベースになっているが、ここだけ黒がメインの色合いになっていて、特別感が何倍にも増幅されているのだ。
『その棚の、下から3番目の列の右から2つ目の銃のトリガーを引いてください』
「下から……? 右……?」
いきなりのことで戸惑ったが、どうにかそれを辿る。
そこに飾られていた、何の変哲もない銃の引き金を引いてみる。
すると――
「棚が……!」
棚が扉のように動き、隠された通路が現れた。
パッパッパッ……と順番に光が灯っていき、最奥にある「それ」を輝かせる。
『これこそ、現時点で使える最も強い兵装――奔放なる死神です』
「おぉ――!」
それは、一言で言うならば、《《杖》》だった。
全体は角張った形状で、いかにも機械的な雰囲気を感じさせる。
見た目はブラックダイヤのように煌めいており、一番上につけられた、真っ赤なコアとよく調和している。
『最大出力であれば、大量のエーテルを消費する代わりに、対象はほぼ確実に消滅させられます。これであの二人にも対処できますね』
「そ、そうだね……」
せっかく興奮してたのに、生々しい話が出てきたせいで笑みが一瞬で引きつった。どうしてくれるんだ。
『全裸のマスターを1として、“船橋”の戦闘能力は30万。護衛は50万です』
「なんで僕が全裸である必要があるんだよ……?」
『それに比べ、奔放なる死神は53万! すごいでしょう! 大陸一つくらいなら余裕で制圧可能です!』
……おい待て。
それ、あの護衛も大陸規模の戦力だってことになるんじゃ?
ひえぇ……この先絶対逆らわないようにしないとっっっ!
『というか、私は怒ってるんです。あの便利などう――突撃姉妹の方々から頂いた高濃度のエーテル結晶。あれの珍しさは殆どの臣民すら気付かない物です。それを贅沢に使って万象の地平面に使ってしまうなんて!』
その声は、いつにもまして早口だったような気がした。AIなのに早口というのがまたなんとも理解しがたい。
「いやいや、使わないと僕死んじゃうでしょあの場面は」
『分かってます! だから説教をしてないんです』
「んな無茶苦茶な……!」
ひどい! そっちの思惑なんか知らないってのに……!
もう本当に怖い。僕の知らない内に大量破壊兵器とか――それこそ「地球破壊爆弾」みたいなものを用意しているように思える。今出てきても全然驚かない。
『怒らないでくださいマスター。今までのは半分冗談ですよ。エーテルは万物に宿っていますから、あのときに倒していた魔物の分でかなり賄っていました。だから気にしてなんかいません。ちょっとだけエーテル結晶も使ったことなんか、気にしていません』
「気にしてるじゃん!!!」
マジで何なんだよこのAIは!
あまりに人間みたいで、時々頭が違和感に襲われる。
『ではマスター。奔放なる死神を手に取ってみてください』
ずっと待ち望んでいた言葉が聞こえ、すぐに杖を引き抜いてみる。
『マスター。新しい武器を手に入れた気分はどうですか?』
「ずっしりと伝わる重さ――まるで、神になったみたいな全能感が溢れてくる」
もう二度と、あんな風に逃げ回るような失態は犯さない。
僕には宇宙がついている。永劫の星々が見守っている。
『機嫌を戻していただけたようで何よりです。では、再び地球に舞い戻るとしましょう』
「あぁ!」