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光の羽のメッセンジャー ~星空モチの約束~

作者: 星空モチ

ほしぞら村は、夜空の隅っこ、オリオン座とプレアデス星団の間に浮かぶ、ふわふわした雲のようなところ。そこではいつも、夜明け前の空のように深い青紫色の光が揺らめいていた。


星空モチは、その村で一番小さな住人。体はまるで羊毛フェルトで作られたような手触りで、頭のてっぺんにはクリスタルのような小さな星が揺れている。


「むにゃむにゃ...あと5分だけ...」


星空モチはいつものように、ふわふわの雲ベッドで丸くなっていた。昨夜は満月の星占いで村の皆に幸せのメッセージを届け、ぐったり疲れ果てていたのだ。


でも、耳をすませば何かおかしい。いつもの朝は星たちのさざめきでいっぱいなのに、今朝はなんだか静か過ぎる。


「あれ?みんなどうしたの?」


モチはゆっくりと目をこすりながら起き上がった。窓の外を見ると、村の広場に星たちが集まり、どよめいている。


「大変です!昨夜、また星の赤ちゃんが一つ、地球に落ちてしまいました!」


長老星のホシオが震える声で告げると、集まった星たちからは悲しみの光が放たれた。


最近、ほしぞら村では奇妙なことが起きていた。生まれたばかりの星の赤ちゃんたちが、次々と村から姿を消し、地球へ落ちてしまうのだ。


「これで5つ目...このままでは星座のバランスが崩れてしまう...」


長老ホシオの声には深い悲しみがこもっていた。彼は千年以上もの間、星の道を守ってきた古い星だった。その長い歴史の中でも、こんなことは初めてだという。


モチは胸がキュッと締め付けられる感じがした。星の赤ちゃんたちは、まだ自分の輝き方も知らないうちに、見知らぬ世界に落ちてしまったのだ。


「わたし、行きます!」


思わず口から飛び出した言葉に、自分でもびっくり。いつもおっとりとしたモチが、こんなに勢いよく発言するなんて珍しいことだった。


「星空モチ、君は何を言っているんだ?」長老ホシオが驚いた顔で尋ねる。


「わたし、地球に行って星の赤ちゃんを探します!だって、わたしにはみんなの声が聞こえるから...」


そう、モチには特別な能力があった。「星のおしゃべり」——星たちの気持ちを聞き取り、言葉にできる不思議な力だ。


村人たちは戸惑いの表情を浮かべていた。誰も地球に降りたことはなかったし、帰ってこられるかどうかも分からない。危険すぎる冒険だった。


「でも、このままじゃ星の赤ちゃんたちは迷子のまま...それに、地球の人たちも困っているかもしれない...」


モチの言葉に、長老ホシオはゆっくりと頷いた。深いしわの刻まれた顔に、懐かしさと決意が混ざったような表情が浮かぶ。


「実は私にも秘密がある。かつて私も地球を訪れたことがあるのだ...」


村人たちからどよめきが起こった。誰も知らなかった長老の過去。ホシオは続けた。


「その時、一人の人間の女の子と友達になった。彼女は星を愛し、いつも空を見上げていた...」


ホシオの目は遠い記憶を追いかけているようだった。それは300年も前の話だという。


「星空モチ、お前なら行ける。お前の中には特別な光がある。私が持っている『光の羽』をあげよう。これがあれば地球と星空を行き来できる」


長老は懐から、虹色に輝く小さな羽を取り出した。それは触れるとふわりと浮かび、モチの背中にぴたりとくっついた。


急に背中が暖かくなり、モチの体が淡く光り始めた。不思議な感覚。心臓がドキドキと高鳴る。これが冒険の始まりの予感なのかもしれない。


「行ってらっしゃい、モチ。星の赤ちゃんたちは、きっとお前を待っている」


村人たちに見送られ、モチは光の羽を広げた。体がふわりと宙に浮く。


「みんな、待っててね。絶対に星の赤ちゃんを連れて帰ってくるから!」


そして——モチは深い青の空へと飛び立った。知らない世界への旅立ち。小さな体に大きな決意を抱いて。





大気圏に突入した瞬間、モチの体はキラキラと輝きながら流れ星のように地球へと落ちていった。暗い夜空を横切る光の筋に、地上の子どもたちは歓声を上げる。


「ねえ見て!流れ星だよ!」


「お願い事しなきゃ!」


モチは小さな森の中へと降り立った。星空から見るのと地上は全然違う。木々の匂いや虫の音、風の感触。すべてが新鮮で不思議だった。


「うわぁ〜、地球ってこんなところなんだ...」


きょろきょろと周りを見回していると、近くの茂みから「しくしく」と泣き声が聞こえてきた。


「だ、誰かいるの?」


恐る恐る茂みをのぞき込むと、そこには小さな子ギツネが一匹。片足を怪我してうずくまっていた。


「どうしたの?大丈夫?」


子ギツネは驚いた様子でモチを見上げた。夜の森で淡く光る不思議な生き物に、最初は警戒している様子。


「足、痛いの...お母さんとはぐれちゃって...」


モチは優しく手を差し伸べた。「大丈夫、一緒にお母さん探そう?わたしも探し物があるんだ」


子ギツネの傷口にそっと触れると、モチの指先から星の粉のような光が零れ落ち、傷がみるみる癒えていく。


「わあ!痛くなくなった!」


子ギツネは驚いて飛び跳ねた。


「これは星の癒しの力。実はね、わたし星空モチっていうの。星の赤ちゃんを探しに来たんだ」


二人は森の中を進んでいった。モチは時々空を見上げる。どこかに星の赤ちゃんは落ちているはず。


そのとき、遠くで人間の声が聞こえた。


「ポン太!どこにいるの?ポン太!」


懐中電灯の光が森の中を照らしている。


「あっ!人間だ!」子ギツネは身を縮めた。


「大丈夫、きっと優しい人だよ」


光の方へ進むと、そこには小さな女の子がいた。泣きはらした目で辺りを見回している。


「ポン太!お願い、帰ってきて...」


モチは子ギツネを見た。「もしかして、この子が探してるのはあなた?」


子ギツネは尻尾を振った。「うん、たぶん。いつも餌をくれるんだ。でも人間は怖くて...」


「大丈夫、この子は友達だよ」


モチは女の子の前に現れた。女の子は目を丸くして驚いた。


「あ、あなたは...?」


「わたし星空モチ。この子を探してたんじゃない?」


モチが光る手で示すと、茂みからおそるおそる子ギツネが姿を現した。


「ポン太!!」


女の子は喜んで駆け寄り、子ギツネを抱きしめた。嬉しそうな二人を見て、モチの胸は温かい気持ちでいっぱいになる。


「あのね、わたしも探し物があるの。星の赤ちゃんって見なかった?キラキラ光ってて、小さくて...」


女の子は不思議そうにモチを見つめ、ゆっくりとポケットから何かを取り出した。


それは、淡く青白い光を放つ、小さな星の欠片だった。





「これじゃない?昨日の夜、お庭に落ちてきたの」


小さな女の子・ミキが手のひらに乗せているのは、確かに星の欠片。でも完全な星の赤ちゃんではなかった。


「これは星の赤ちゃんの一部だけみたい...」モチは慎重に触れてみる。「でも、この光を辿れば、きっと本体に会えるはず!」


女の子は目を輝かせた。「わたし、手伝うよ!星の赤ちゃん、一緒に探そう!」


ミキの案内で、三人は小さな町へとやってきた。夜の街灯がオレンジ色に輝き、人々はほとんど眠りについている。星の欠片が持つ青い光は、ミキの家から少し離れた公園の方向へと導いていく。


「あそこに何かある!」


公園の滑り台の下で、青白い光が揺らめいていた。近づいてみると、それは小さな星の赤ちゃん。まるで怯えた子猫のように震えている。


「大丈夫だよ、怖くないよ」モチがそっと語りかける。星の赤ちゃんは少しずつ落ち着いてきた。


「どうして地球に来ちゃったの?」


星の赤ちゃんは小さな声で答えた。「お母さん星を探してるの...長老ホシオが言ってたんだ。わたしのお母さんは、ずっと前に地球に落ちたって」


モチは驚いた。ホシオが300年前に会ったという人間の女の子...それと関係があるのだろうか?


「おや、そこにいるのは...」


振り返ると、杖をついたおばあさんが立っていた。優しそうな目をしたそのおばあさんは、驚くことにモチを見ても全く驚かない様子。


「あなたは星から来たのね」おばあさんはにっこり微笑んだ。「昔、祖母から聞いた話を思い出すわ...星からの来客について」


おばあさんは自宅に彼らを招き入れた。部屋の棚には、古い星座の地図や天文学の本がぎっしり。壁には手描きの星空の絵が飾られている。


「ほら、見て」おばあさんは小さな木箱を取り出した。開けると、その中には小さな星の欠片がいくつも。「祖母が拾ったものよ。代々受け継がれてきたの」


「これって...」モチの目が丸くなる。「落ちてきた星の赤ちゃんたちの欠片!」


おばあさんは古い日記を見せてくれた。そこには300年前、少女だった彼女の曽祖母が星と友達になった記録が残されていた。


「ホシオだ!」モチは興奮して叫んだ。「これは長老ホシオのことだよ!」


星の赤ちゃんも日記に近づき、ページから淡い光が放たれた。「お母さんの気配がする...」


日記の最後のページには、不思議な地図が描かれていた。町の外れにある丘への道筋。


「そこに行けば、星の赤ちゃんのお母さんに会えるのかも」


「今から行こう!」ミキが立ち上がった。


「でも真夜中よ」おばあさんは心配そうに窓の外を見る。「明日の満月の夜がいいわ。星との繋がりが最も強くなるから」


モチと星の赤ちゃんは、一晩ミキとおばあさんの家で過ごすことになった。明日の満月の夜に、すべての謎が解き明かされるかもしれない...





満月の夜、一行は丘の頂上へと向かった。星明かりだけで十分なほど、道はくっきりと照らされている。モチ、星の赤ちゃん、ミキ、そしておばあさんのヨシエ。四人の影が月明かりに長く伸びていた。


「この丘は昔から『星見の丘』って呼ばれてるのよ」ヨシエおばあさんが息を切らしながら杖をつく。「祖母はよくここで星を眺めていたって」


丘の頂上に着くと、そこには古い望遠鏡が据え付けられていた。錆びついてはいるが、レンズは月光を反射して煌めいている。


「ここで待つのね?」ミキが空を見上げる。星々が普段より大きく、近く感じられる夜だった。


モチは背中の光の羽を広げた。「うん、でもまずは…」


モチは持っていた星の欠片を、星の赤ちゃんと並べてみた。するとぴったりとはまり、より強い光を放ち始める。おばあさんの箱からの欠片も次々と引き寄せられ、星の赤ちゃんを形作っていく。


「不思議ね…」ヨシエおばあさんが目を細める。「まるで磁石みたい」


星の赤ちゃんは、完全な姿を取り戻していくにつれて、どんどん明るく輝いていった。


「あのね、実はわかったんだ」モチが言った。「この星の赤ちゃんたち、迷子になったわけじゃないの。みんな何かを探しに地球に来たんだ」


日記に記された地図、300年前のホシオの訪問、そして星の赤ちゃんたちが地球に落ちてきた理由—全てが繋がり始めていた。


空から不思議な光の筋が降り注ぎ始めた。まるで星からの光のカーテンのよう。その中心に向かって、星の赤ちゃんが浮かび上がった。


そして突然、周囲の空間が歪み、ほわっと温かい光に包まれる。そこにはホシオの姿が透けて見えた。まるでホログラムのように。


「長老ホシオ!」モチは驚いて叫んだ。


「よく来たな、星空モチ」ホシオの声が優しく響く。「そして…久しぶりだね、エミ」


ヨシエおばあさんは涙ぐみながら微笑んだ。「おばあちゃんから聞いた通りの方…でも、なぜ私の名前を?」


「君はエミの曾孫…彼女にそっくりだ」ホシオが答える。「実は300年前、私はある約束をしたんだ。エミとの約束を」


ホシオは昔語りを始めた。エミという少女が病気で星が見えなくなりそうだった時、ホシオは彼女に「いつか星の子を送る」と約束したという。エミは回復し、一生星を研究し続けた。その血は今、ヨシエとミキに受け継がれていた。


「星の赤ちゃんたちは、エミの子孫を探していたんだ。星を愛する家族との絆を求めて」


その時、星の赤ちゃんの体から七色の光が放たれ、ヨシエおばあさんの持つ木箱から最後の欠片が飛び出した。それは小さな星の核。赤ちゃんの心臓部分だった。


「これが…」おばあさんは思い出したように目を見開いた。「おばあちゃんがいつも『私の宝物』と呼んでいたもの…」


核が星の赤ちゃんと一つになった瞬間、まばゆい光が辺りを包んだ。


閃光が収まると、そこには人間の形をした星の家族が立っていた。長い間別れていた母星と子星たちの再会。彼らは光の粒子のように輝いている。


「ありがとう、星空モチ」母星が優しく微笑んだ。「あなたのおかげで家族が再会できました」


モチは照れくさそうに頭をかいた。「わたし、星のおしゃべりができるから。きっと彼らの気持ちがわかったんだと思う」


星の家族はヨシエとミキに感謝の気持ちを伝え、空へと浮かび上げっていった。


「また会いに来るからね!」星の赤ちゃんたちが手を振る。


別れの時、モチも光の羽を広げた。でも心のどこかで寂しさを感じていた。


「また来てね、モチちゃん」ミキが抱きついてくる。


「うん、必ず!」モチの目に涙が光った。「今度はみんなで星占いをしよう。満月の夜にね」


光の羽で空へと舞い上がるモチ。地上では二人が見送っている。夜空には新しい星の輝きが増えていた。


ほしぞら村では、帰還したモチと星の赤ちゃんたちを村人総出で歓迎した。長老ホシオは満足そうな表情でモチの成長を見守る。


「これからは、人間と星をつなぐ架け橋になろう」モチは決意した。「どんなに小さくても、みんなを癒せる力がある」


それからというもの、満月の夜になると、丘の上の古い望遠鏡はいつも不思議な光に包まれるようになった。そして空を見上げれば、星空モチの姿が見える気がするのだ。


ミキは大きくなっても星を見ることをやめなかった。そしていつか自分の子どもにも、星空モチの物語を語り継いでいくことだろう。


どんなに遠く離れていても、心はいつもつながっている——星空モチが教えてくれた、宇宙一の真実。



<終わり>

みなさんこんにちは!です。拙い物語を最後まで読んでくださり、心から感謝します。


私のペンネーム"星空モチ"を使って、かわいいキャラクターとして物語を紡いでみました。この物語は、ある満月の夜に窓から見えた星空に触発されて生まれました。星が瞬く様子を見ていると、「もし星たちにも事情があって、時々地球に降りてくるとしたら…?」という空想が広がり、筆を取らずにはいられなくなったのです。


主人公は、実は私の飼い猫がモチーフ。丸くてふわふわした見た目と、おっとりとした性格が似ているんです。いつも誰かのために頑張る健気な姿勢は、私自身が目指したい理想の自分でもあります。


執筆中に最も苦労したのは、星の世界と地球の世界をどう繋げるかという点でした。ファンタジーでありながらも、読者の皆さんに「もしかしたら本当にあるかも?」と思ってもらえるような世界観を目指しました。長老ホシオと少女エミの300年前の約束という伏線は、物語の最終稿で加えたものです。最初は単純な「迷子の星を探す冒険」だったのですが、もっと深いテーマが欲しいと感じたのです。


実は、ヨシエおばあさんのキャラクターは私の祖母がモデル。祖母は天文学が大好きで、小さい頃によく星空の物語を聞かせてくれました。この作品は、そんな祖母への密かなオマージュでもあります。


物語の中の「どんなに小さくても、誰かを癒せる力がある」というメッセージは、私自身が日々感じていることです。私たちは皆、星空モチのように、自分では気づかないような特別な力を持っているのかもしれません。その力に気づき、誰かのために使うことで、自分自身も輝けるのだと思います。


次回作では、星空モチが別の星座を旅する物語を考えています。宇宙にはまだまだ不思議がいっぱい! もし今回の物語を楽しんでいただけたなら、ぜひコメント欄やSNSのリプライで感想を聞かせてください。皆さんの言葉が、次の物語を紡ぐエネルギーになります。


最後に、いつも応援してくれる家族、特に夜中の執筆を見守ってくれた我が家の飼い猫に感謝します。そして何より、この物語に時間を割いてくださった読者の皆さんに心からのお礼を。


満月の夜、ふと空を見上げたとき、星空モチが皆さんに手を振っているかもしれませんよ。これからも星々のように輝く物語をお届けできるよう、精進してまいります!


また次の物語でお会いしましょう!

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