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猛暑

作者: 古数母守

 猛暑が続いていた。暦の上ではすでに秋だったが、最高気温が35℃を超える日が続いていた。暑さで倒れる人が続出したこともあり、外で作業をする人たちにはファン付きのスーツの着用が義務付けられた。スーツに取り付けられたファンは常に身体を冷却し、長時間作業が続いても熱中症を防ぐことができた。やがて通勤中のサラリーマンもファン付きのスーツを着るようになった。この頃では朝夕の通勤時間にしても、汗だくになる程の暑さだった。駅を出て、会社まで歩き、ロッカー室で着替える頃には汗で濡れた服が肌にべったりとまとわりつく程であり、その不快さに耐えきれなくなったのだった。携帯型のファンを持ち歩いていた女の子たちも、次第にファン付きのスーツを着るようになった。しばらくして爽快感のある肌着で人気のあった衣料品店が安価で冷却性能に優れたファン付きスーツの販売を開始した。その後、ライバル社が競合製品を販売し、価格がさらに下がり、そして誰もがファン付きのスーツを着るようになった。お父さんもお母さんもおじいさんもおばあさんも犬も猫も、みんなファン付きのスーツを着るようになった。


 暑さは一向に収まる気配がなかった。収まるどころか益々暑くなっていた。最高気温は40℃を記録していた。地球温暖化がどんどん進行しているようだった。人々はファン付きスーツでなんとか暑さを凌いでいたが、冷却性能が足りないせいか次第に不快感を覚えるようになっていた。そんな中、新型のファン付きスーツが開発された。新しいモデルではファンの小型軽量化が図られると共に回転数が上がり、冷却性能の抜本的な向上が図られた。さらに小型の熱センサーが全身をカバーするように配置され、内部の温度を均一に保つための機能が追加された。新モデルは飛ぶように売れた。もはや新モデルのファン付きスーツがなければ、外も歩けないと言われる程だった。


 その後も暑さが止まることはなかった。やがて最高気温が45℃を記録するようになった。そして当然、最高気温45℃に対応したスーツが販売されることになった。もはや外気に直接、肌をさらすのは危険であり、熱気を吸入するのも危険であり、全身を外気から遮蔽する構造が採用されていた。ファンで廃熱するとか、肌に涼しい風をあてるといったこともなくなり、冷却に特化された繊維で全身を包み、直接冷却する構造となっていた。視界を確保するため、頭部は透明な強化プラスチックが採用された。つまりヘルメットだった。その姿はSFアニメの登場人物が着る宇宙服のようであった。ヘルメットはスマートグラスの役割を果たしており、人々はそこに映し出される画面を見ながら、ネットワークに接続し、必要な情報にアクセスしていた。


 そして温暖化はさらに進行した。温暖化というよりは熱帯化だった。いやそれ以上だった。すでに最高気温は50℃を超えていた。最高気温50℃に対応するため、さらなる性能と機能の向上が図られたスーツが開発された。それは宇宙飛行士が使う生命維持装置とよく似ていた。水を入れたタンクと酸素用のタンクが内蔵されていた。バッテリーも内蔵されていた。以前よりかなり重量が増してしまったため、パワーアシストモジュールも組み込まれていた。そのため、お年寄りでも着用できた。このスーツは外を出歩くには最低の装備だった。この温暖化は、いや熱帯化は、いや火の玉化はいつになったら終わるのだろう? 人々はそう思いながら、不安な夜を過ごした。


「落ち着いて、ゆっくり乗船してください。決して押したりしないでください。皆さんが全員乗船したことを確認してから出発します。大丈夫です。指示に従ってください」

宇宙事業団の係員が人々を避難船へと誘導していた。遂に人類は熱くなりすぎた地球を放棄することになったのだった。

「これからどうなるのでしょうか?」

不安な人々は係員に聞いて回った。

「大丈夫です。皆さんの通常装備であれば、火星でも十分生きていけます」

パワーアシストモジュール付きの宇宙服を普段着としている人々に係員は言った。

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