ゲット・ブルー
「ぎやぁ~」
俺の足の上にネズミが。すると、ネズミは、俺の足から飛び降りて、奥の壁の一番床に近いレンガを突いている。なんだろう。とその瞬間、その一つのレンガの縁が黄緑色に光り、その光が、俺の巾着と繋がった。なるほど、このネズミは、ロコが遣わしてくれたんだな。
俺は、そのレンガを拳で叩いてみた。レンガは、独楽のようにクルリクルリとその場で回り、隣の空間と思われる灯りを漏らしてくれた。俺は、屈みこんで、その空間を覗き込んでみた。
なんと。
「大丈夫かぁ~。俺の声が聞こえるかぁ~」
薄暗い隣の空間から、俺の目に飛び込んできたのは、紛れもなく幻影の女の子だ。
「んんんんっ」
「待っていて、どうするか、考えるから」
女の子は、俺の存在を認識したらしい。しかしながら、縛られているのと、猿轡のせいで、口をきけない。しかも、丸裸に縄。刺激的すぎる出で立ち。幻影は、カラーではなかったが、目の前にいる彼女のキレイなブルーの髪とこれまた鮮やかなブルーの・・・が、とても鮮明に俺の眼にに飛び込んでくる。正に、俺のピンクちゃんと比べてみたい感じなのだ。
すると、今度は、彼女の胸の巾着が光りだした。その光は、一筋に伸びてきて、腰ではなく、腿に隠していた俺の果物ナイフ、もとい、ドラゴンの剣へと繋がった。俺は、ナイフを抜いてレンガの縁を削るようになぞってみると、一つ分しか空いていなかったレンガが、四つ分取り除くことができた。素早く、身体を屈めて小さくして、隣の空間に入り込み、ブルーの女の子の元へと近寄っていった。
「大丈夫かい?今、解いてあげるから」
彼女を縛る縄を解こうとするも、固く、難解に結ばれているようなので、このナイフで慎重に切りながら解いていく。そして、猿轡も切り取ると、
「ありがとう。どうやってここに?」
「俺も、形に取られて、閉じ込められているんだ、君を見つけられてよかったよ」
「私?私は、明日、売られてしまう」
「大丈夫だよ。きっと、多分。これ、光ったでしょ」
「今の光は何?初めて見たわ」
「その巾着には、何が入っているんだい?」
彼女が巾着の中身を見せてくれた。黒く煤汚れた金属片のようだ。こんなものだから、丸裸にされても取り上げられなかったのだろう。
「小さなころから、持っている大事な物よ。薄汚い鉛でも」
「鉛なの?」
「多分」
「俺は、マーク。君のことを夢で見て、探していたんだよ」
「夢?私は、ルル。ゲトレ民族の末裔」
「末裔?」
「マーク。俺って?名前も男っぽいけど、あなた、男言葉なのね」
「それより、とにかく、逃げる算段をしよう」
「ネズミちゃん、ネズミちゃん。どこ行った?」
「ネズミ?」
「おっと、いたいた。ロコとマリーに伝えてくれ。潜入調査終了と」
「チュー、チュー」
「それと、ここから抜け出られる手段はないものかしらと」
ネズミは、急いで振り向いて、俺がもと居た隣の空間に消えていった。
「ルルか。すごい美人で、眩しいほどにグラマーなんだね」
「あなただって、あんまり、見ないで。はずかしいわ」
「目のやり場に困るから、これを羽織って」
俺は、上の衣を脱いでルルに羽織わせてやった。ルルは、上半身裸になった俺をマジマジと見つめて
「見事な胸ね。私とどちらが大きいかしら。うふふっ」
「少し長めの上着だから、これで我慢してね。覗かないようにするから」
「うふふっ、女同士ですもの。大丈夫よ。あなたは、その胸、出しっぱなしでいいの?」
「あっ、帯を巻いておくから、ルルは、縛られていた縄を帯代わりにして」
「そうね。お互い、艶めかしい姿ね」
「ルルって、セクシーすぎるよ。困っちゃうよ。どこもケガとかしてないの?」」
「はい、今のところは、柔肌に縄の跡だけ。でも、早く逃げないと、明日になったら、売られて、清い乙女の身体が傷物になっちゃう~っ」
「ルル?本当に、逃げ出したいの?」
帯で止めたとはいえ、ブルンブルンと俺のオッパイは、ちょっと邪魔でもあり、肩こりの原因となりつつあるが、そんなことを今は、気にしては、いられない。
この空間をまずは隅々見渡してみると、手ぬるいところは、なさそうだ。とりあえず、俺の居た隣の独房にルルを連れて戻ることにしよう。ルルの居た部屋の灯りを消した後、二人で順々と穴を潜り抜けた後に、レンガを元の状態に戻した。そして、同じように、この俺が閉じ込められた部屋の灯りも消した。発見を数秒でも遅らせられるかもしれないからだ。
「これから、どうしたらいいのかしら?」
「今、考えているんだよ。なんとかしようとね」
「でも、独りぼっちだったから、マークがいるだけでも、心強いわ」
「ちょっと、さっきのナイフを見せてくれる?」
「ああっ、これかい?」
ルルにナイフを渡すと、巾着の中の先ほどの金属を取り出して、ナイフの柄の部分で伸ばし始めた。
そして、伸びた一部分を切り取ると残りを巾着にしまい、一撮みの金属をナイフの刃先に塗るようにねじり込んでいく。
素手で二つの金属をねじり合っているだけなのにもかかわらず、みるみるナイフは、眩いほどの波紋を浮かび上がらせ、高熱で鍛え上げたような仕上がりを見せつけてきた。暗がりのなかで、ナイフの波紋が、先ほども見た、この頃見慣れ始めた、いつもの黄緑色の蛍光を二人の顔に浴びせ始めた。
「ルルは、魔法使い?」
「ねっ、やっぱり、同じ金属だ」
「えっ」
「さっきも光ったでしょ。同じもの同士でひかれあったと感じたのよ。言い伝え通りね」
「同じ金属?言い伝え?」
「只の鉛じゃなかったんだわ。やっぱり、この薄汚れた私の宝物」
「本当は、何なんだい?」
「古の昔に、勇者とカッチーナが婚礼の時に、ゲトレの王様から授かった品物と伝わっているわ」
「なんだとぉ。カッチーナ?刀鍛冶の?」
「よく知っているわね。ゲトレでも知っているのは、もう、私一人だと思っていたわ」
ルルによると、カッチーナは、名刀を鍛える刀鍛冶の長らしい。
そして、このゲトレで勇者に娶られているらしい。この勇者っていうのが、ブルースカイなら、俺とルルは、親類なのだろうか。待てよ、そうすると、ルルも勇者の血を引く者となる。
しかし、血を引く者は、俺だけの様な事をクリスティーは、言っていたような。それに、クリスティーは、勇者の恋人だったような。しかし、結婚はしていないようだった。ならば、俺は、クリスティーの血を引く者では、ないだろう。
「そのカッチーナは、ルルとは・・・」
「一応、御先祖様らしいけど、代々、この金属の謂れのお話として、聞かされてきただけだけど」
「そうすると、勇者の子孫なんだね」
「そうじゃないわよ。勇者は、既に身ごもっているカッチーナと結婚したんだもの」
「なんだって」
「このお話が真実か否かは、分からないけど。お話通りなら、私は、カッチーナの血は引いていることになるわ」
またまた、ややこしくなってきたぞ。話の筋は、通っている。勇者は、身ごもったカッチーナと結婚して、カッチーナとの間に他の子どもができなければ、俺とルルは、血が繋がっていない。
とすると、勇者の血を宿す姫は、また別の女性となる。ロコの先祖?マリーは、クリスティーだから違う。まぁ、わけがわからないな。今は、そんなことは、どうでもいいだろう。
「でも、さっきの光を見てしまってからは、ただの作り話じゃない感じね?」
「俺も、この光に翻弄させられて、ルルを探しに来たんだよ」
「まぁ、そうなの?どこから来たの?」
「ティーンだよ。ゲトレで刀鍛冶のカッチーナを探していたんだ」
「ティーン?聞いたことあるような、ないような」
「一応、俺は、勇者の血を引く者らしいんだ」
「そうなんだ。だから、女なのに、男言葉なのね。勇者らしく?」
「・・・、そうじゃないわよ。クセ?なのよ。うふふっ」
一方、そのころ、男になっているマリーとロコは、博打の真っ最中だった。幸い、負けても、勝ってもいない感じである。しかし、こういう博打場は、このまま、まともに帰らせては、くれないだろう。もしも、勝っちゃったりしたら、尚更、帰れなそうだ。
ロコの足元に何かが蠢いている。
さきほどのネズミだ。
「チューちゃん、どうだった?」
「うんうん。わかったわ。とにかく、マークをその独房から出してあげて」
「ロコ?」
ロコは、ポケットからビスケットを一枚取り出し、ネズミに渡している。
「マリー、そろそろ、逃げましょう」
「マークは?」
「何でも、ブルーのおけけの全裸の女の子をゲットしたらしいわよ」
「なんですって!」
怒りと嫉妬心から、我を忘れてマリーは、その怒りのままに、そう感情のままに、抑えられない気持ちを爆発させるように、化粧筆を持った手を天に突き上げた。
「ブルスカ・ショック~っ」
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