賭博場
俺達は、この市場の中で行われている全てのセリを見て回った。一つのセリに十五人程度の女の子がそれぞれいて、賑わっていることこの上なしという感じである。女の子は、この町の者もいれば、俺達のように別の町の者もいるようで、品揃えも至れり尽くせり。何という市場なのであろう。
大体こんな市場のあるこのゲトレという町は、どんな町なのであろうか。普通ではないことは、確かである。しかし、殆ど存在を隠されている町がこんなにも賑やかなのも驚きの一つである。
「一通り見たけど、手掛かりは、無いわねぇ」
「このセリを見ていると、俺だって、ちょっとコワイよ」
「大丈夫よ、私とマリーが付いているわ」
「そうだ、ロコ。ここで笛は吹けないだろうけど、この町や市場のことを、カモメに聞けないかな?」
「カモメは、いなそうだから、う~ん、あっ」
ロコは、建物の隅に跪いて、何かを見つけたようだ。ネズミだ。ロコは、ポケットからビスケットを一枚取り出し、ネズミに渡し、丁寧にお辞儀をした後に立ち上がり、俺とマリーに向きなおった。
「ゲトレの町は、この市場で成り立っているそうよ」
「そうか、カモメじゃなくても、話が出来るんだもんね」
「ロコって、本当に優秀よね」
「全くだ」
「マークって、意地悪ねっ」
ネズミ情報によると市場の外は、酒場と道具屋くらいしかないらしく、市場に売りに来る者と
買いに来る者の他は、殆ど人はおらず、住民は僅かの様子だった。町にいる人々の出入りが激しいということになると、人探しは、難航するが、もしも、お目当ての者が、住人ならば、幻影の女の子はともかく刀鍛冶の情報は、掴めそうな感じもする。
「市場は、このくらいにして、町を見てみるか?」
「時間が無いものね、チャッチャとやりましょう」
「この町には、祠ないの?」
「う~ん、多分ないと」
「益々、ロコの聞き込み情報が重要になるね」
「でもさ・・・」
「マーク。何?」
「オッパイって、結構、重いんだね」
「やらしい」
「それに、乳首って、すごく感じるんだね」
「バカっ」
「これが、マリーとロコの乳首の融合体と思うと、はじいちゃいたくなるよ。ホラっ」
「イヤぁ~ん」
ロコと俺の声が交差する。遅れてマリーの声が、
「あっ、やさしくよ」
「ロコ、マリー。今、何って?」
「しらないっ!」
「この、変態野郎!」
この身体は、マリーとロコのサンプルから、マリーの魔法が作り出したもの。ということは、俺は、パンツの中に手をいれて、サワサワしたものを一掴みしてみると、キレイな明るいピンクがかった一本の物体が、指に絡んで取り出せた。
なるほど、マリーの金髪、ロコの赤い髪、その融合がこの美しい一本なのだ。キレイすぎるピンクゴールドちゃんだ。
「これが、何だか、わかるかい。俺の・・・を取り囲んでいるモノだよ。二人の合体版の一本ちゃん。キレイでカワイイぃ~」
二人は、俺の指に摘ままれている一本ちゃんに視線を集中させて、
「マークのエッチぃ~っ」
「マークは、変態よ。早くポイしなさい」
「これは、俺の一本ちゃんだよね。さっきまでの、ゴワゴワより、何だか少し、柔らかいゴワゴワになっている」
「バカっ」
「どうしてかなぁ~っ」
「本当だ。私のは、すごく硬くて、太くて、ギッシリしたのに変わってる」
「バカっ、ロコ。それは私も同じ。これは、マークの・・・」
「なんだかカワイイなぁ。宝物にしちゃおうかなぁ」
俺は、そう言いながら、一本ちゃんを二人に見せつけながら、胸の賽が入っている巾着にそれを、大切にしまい込んだ。
「新しく、俺達から始まる、宝物にコレを加えよう」
「バカ!」
「マークって、悪趣味ね」
「かわいいなぁ、俺のキレイなローズピンク。ピンクゴールドちゃん。俺たちの新しいお印に相応しい」
「それが、私とロコのって、知っていて言っているのよね。ヘンタイね」
「そんなに欲しいなら、女の子に戻ったら、いくらでもあげる・・・わよ」
「ロコ!、バカに付き合う事ないんだからっ」
「だって、マークが欲しいんだって・・・・、欲しいのかなぁ」
俺は、巾着を大事にするように胸に抱き、祈りをささげる乙女のようなポーズをとりながら
「主よ、我は、使える巫女です。このピングゴールドを巾着に加え、未来永劫伝えます」
って、祈りをささげた。テヘっ。
「処置なしね。筋金入りのヘンタイさんだったなんてね」
「そんなに、気に入ったのなら・・・」
軽蔑とそれに反する少しだけ満足気な瞳が入り混じるような二人の視線を確認できたのは、今日一の収穫であると感じる。
いささか俺も頭がおかしい。こんなことをしている場合じゃないことも、分かっているけど、俺は、一日間の女としての身体を満喫してきているのかもしれない。
市場を出て、町の散策調査に入ることにした。
町は、市場ほどの賑わいはなく、鄙びた感じの路地が連なっているだけである。路地の片隅にいた男が、マリーとロコに詰め寄るようにやってきた。
「よう、よう。あんちゃん。市場では、目当てのモノは無かったんだろう」
「近寄るでない」
「そう言うなよ。上等な代物。捌き切れないんだろう?」
「何だと」
「いい出物は、市場には並ばない。ゲトレ本物の市場に興味がないのかな?」
男は、含みを持たせた言い回しで、マリーとロコに言い寄っている。目当ては、俺であることは、確かなようだ。俺は、マリーとロコに目配せをして、話に乗るように伝えた。
「出物?俺たちの欲しがるモノがこんなちんけな港にあるというのか?」
「あんちゃんの持っている代物と同等なら、賭場で出回っている。エヘヘ」
「博打場?」
「来るなら、教えてやるがな。一万で」
「こやつ、侮りやがって」
ロコは、笛が姿を変えている棒のようなもので、男を殴り倒そうとしている。
「待て、あんちゃん。紹介札が無くては、博打場へは入れない。俺からしか」
「わかった、ならば、お前を殺して、奪うまでだ」
ロコの棒の先が、男の喉に突き刺さるように迫っている。男になっているロコは、とても強いらしい。俺がモデル?なの?本当?
「相手が悪いらしい。あんちゃん。やるな。これをやるから、命は頼む」
男は、黄色い小さな木札をロコに渡した。それを手にしたロコは、ポケットから一枚のビスケットを取り出し、男の口に入れた。
「おうっ、二度と阿漕な真似は、するんじゃないぜ。ベイビー」
ロコって、カッコイイ?しかし、俺は、見逃していなかった。ロコの脇の下から一筋の汗が滴っているのを。ロコ緊張しながら、頑張ってくれたんだ。
「マリー、マークを守れたわ。それにこれを手に入れたわ」
「うん、これでマークをカタにして、博打場に乗り込みましょう」
「マリー?なんか、おかしくありませんか?」
「おかしくないわよ。きっと、博打場が闇の取引場なのよ」
「では、順調ってこと?あと半日で頑張れるってこと?」
「大丈夫なのかなぁ?俺は、どうなるのよ?」
俺達は、木札を持って、脅した男から聞いた町の山側の洞穴までやってきた。そこは、洞穴といっても古代遺跡のような出で立ちで、山全体の壁面に様々な彫刻が施され、内部は、洞穴とは、思えないような、重厚な建築物のように感じられた。正に、崖の城郭って感じだ。
元々は、恐らく、この町、この国の城跡か何かであったろうことが想像できた。
入り口で、男から奪い取った黄色い木札を見せて、中へと入ると、松明の灯りと奥まで続く回廊が目に飛び込んできた。これが、博打場なのだろうか。突き当りの扉の入口で男が、声を掛けてきた。
「初めてかな?木札は、あるんだよな」
「これか、遊べると聞いたのだが?」
男は、木札に人数と印をつけて、ロコに戻した。促されるままに、扉を抜けると薄暗い空間に、小さなスペースの扉のない部屋のようなものが、並んでいる。そのそれぞれが、賭博場らしい。
各々を覗き込んでは、内部の様子を窺い、手掛かりを探しているとマリーの肩を叩く者が現れた。
「金儲けか?女か?」
「どちらも、かな」
「その女を賭けるなら、いい値が付いて、一石二鳥だが」
「これは、上物だからな、ちょっとやそっとじゃ」
「上物専門、高級専門が所望かな?女も命も取られる覚悟があるのかな?」
「そっちの出物も上物なんだろうな」
「当然だ。世界の各地から選りすぐりだ。高いぜ」
「いいだろう。どこだ」
マリーは、虚勢を張って男と相対している。大丈夫かな、俺を本当に賭けるのかな。男についていくと、一つだけ、暗い入り口がある。どうやらここらしい。中へ入ると、さらに細い洞穴のような回廊が続き、先が見えないように曲線を描くような形状をしている。
ようやく灯りをとらえて空間に出てくると、そこには、飾り窓が幾重にも連なっていた。それぞれの中には、実に容姿端麗で、本能から求めたくなるような美しい娘たちばかりが、こちらを見ているではないか。
先ほどの市場との違いは、愛玩専門用であることが一目で理解できる。
中には、縛られている者もいる。この中に、幻影の女の子もいるのだろうか?
「すごいわね。幻影の子もいるかも?」
「うん、みんな美人ね」
「俺も、こうなるのかなぁ。どうしよう」
「ここだ。さぁ、奥で遊んでくれ。おっと、女は、ここで預かるぜ」
「なんだと」
「ここの女と同じだ、商品、担保、賭けの対象ってことだ」
そういうと、男は、俺の腕を取り、二人から引き離なそうとする。
「帰りに、見受けすればいいんだよ。できればな。まずは、このお代だ」
男は、木札に百と書いて、マリーに渡した。やっぱり、形に取られているじゃないか。
「マリー、ロコ。頼むよ。負けないでね」
「マーク、調査、調査よ。女の子を探して」
「こっちも、博打場で探ってみるわ」
マリーとロコは、奥のスペースへと消えた。
俺は、飾り窓の裏手のスペースに男に連れられてきた。ロッカーのように小さな扉が開けられ、そこに押し込むように入れられ、施錠された。
俺には、飾り窓ではなく、一時預かりの独房のようなところが居場所の様だ。不安な気持ちもあるが、何だか懐かしい気分にもなった。
幼い頃、孤児院で俺は、このようなスペースによく閉じ込められていた。お仕置きを受けることが多かったのだ。そこで覚えたことは、脱走の技だった。ここの空間にも何かしらの手掛かりがあるはずと思いめぐらす。
マリーとロコが、スッポンポンいや、スッテンテンになるまでは、俺に時間があるはずだ。
んんっ、足元が、なんだか擽ったいぞ。