心の樹木
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木漏れ日が、優しく降り注ぎ、心地よい風が頬を撫でていく。
静かな中に、鳥のさえずりが聞こえてくる。無機質な何も無き空間である牢獄から、解放されたことが正に実感できる場所に、俺達は、佇んでいる。
「日の光が、眩しいわね」
「気持ちの良い所だね、空気が澄んでいるのが分かっちゃうわ」
「ここが、チューちゃんを見つけた泉の森なのかい?」
「うん、多分、ここ」
「多分?」
「うん、ここへ、辿り着く前に、木の裂け目に入り込んだものだから」
「木の裂け目?」
カボスとスダチに言わせると、大きな木の裂け目を覗き込んだ時に、中に吸い込まれるように入り込んだらしい。そして、抜け出した先に、この泉が広がっている森に辿り着けたらしい。
では、どうやって帰ってこられたのかと疑問が残るが、この場所で、チューちゃんを見つけて追い回しているうちに、木の裂け目の外に出ていたと言うのである。
つまり、ライム姉妹は、この泉の森までの道のりを認識できていないのである。西の森の木の裂け目までを見つけ出したということが、真相とのことだった。
そうだとするならば、この泉まで良く来られたものである。
「あっ、あったわ、私のパンツ」
「カボスちゃんのパンツかい?」
「違うわよ、私の」
「スダチちゃんは、泉で濡らしていないのに、自分で脱いだんでしょ」
「うん、そこの木の枝に掛けておいたの」
「カボスちゃんのは?」
カボスは、恥ずかしそうに、伏し目がちに指を指した。
スダチのパンツが掛かっている木の枝の近くに、目立たないように、隠しながら、小枝にパンツが掛かっている。掛かっているというよりも、干してあるのかな?
「見ないで!」
「カーチンのパンツ、まだ、ぐっしょりよ」
「私のは、ほら、履けるわ」
「当り前よ、スーチンは、濡らしてないもの」
カボスは、パンツを履いたスダチに隠れるように、自分のパンツを握りしめて、まだ履けるくらい乾いていないことを確認している。
「こんな時は、マリーがいれば、パンツをいくらでも出してもらえるのにね」
「パンツっていえば、オロチちゃん、パンツ間違えて履いちゃった、ごめんね」
「パンツ?あら?」
オロチちゃんとネーブルは、パンツを確認して。
二人のパンツが入違っていることを認識すると履き替えようと脱ぎだした。
「オロチちゃん、ネーブルちゃん、ここで、履き替えないでいいよ、もう、履いちゃっているんだから、後にして頂戴」
「パンツ出してあげてもいいけど、マリーと一緒じゃ、つまんないから」
ティーナちゃんは、そういうと、俺の握っているペテン師の鍬の柄から松明にした熱くない火にパンツを翳すようにカボスに指示する。ちょこっと、パンツを翳しただけで、燃えるわけでもなく、気持ち良い状態にパンツが乾いてしまった。
「ありがとうございます」
「それで、パンツを濡らしたのは、この泉のどこなんだい?」
「あちらですわ、その辺りかと」
「その辺りに、チューちゃんが、いたってことよね」
森の中の泉の畔といった感じの所だ。特に何も目に留まるものもない所である。
チューちゃんがロコの元から、カボスの指さす方向へと飛び出していく。そのチューちゃんの行方を全員が目で追っていく。泉の手前に、辺りに似つかわない木の切り株にチューちゃんが乗り上げると消えて無くなってしまった。
「チューちゃんが、また、消えちゃったわ」
「本当に、消えちゃったように見えたわよね」
俺は、その切り株を手で撫でてみると、泉が消え去り、緑豊か草原に一本の木がそびえ立つ光景が目に入ってきた。足元には、チューちゃんの姿は確認できるが、ファミリーの姿は、ない。
「マーク!」
「マークも消えちゃったわ」
ティーナちゃんに促されて、全員で切り株の年輪を触れていく。
「あっ、みんなも来てくれたね」
「マーク!」
「チューちゃんもいるわ」
「ここは、どこでしょうね」
恐らく、切り株がスイッチなのか、扉なのか、西の森の木の裂け目と同じ様に、空間移動の仕掛けなのだろう。
もしかしたら、目の前の木が、さっき手を触れた切り株の元の姿なのかもしれないと思えた。
時間移動のスイッチなのでは、ないであろうか。
「マーク、この木が、禁断の果実が成る木なのかしら?」
「この木が、さっきの切り株なんじゃないかなぁ」
「エアル、その可能性は、高いわよね」
チューちゃんが、木に登っていったと思うと、南京豆を頬張って戻ってきた。
南京豆は、どこにあったのであろうか。この木から取ってきたようにみえたけれど。南京豆は、地中に実るもののはずだ。
「チューちゃん、その南京豆は?私があげたモノじゃないわよね」
「スーチン、リンゴが成っているわ、ほら」
今度は、カボスが林檎を目の前の木からもいで、ガブリとかじっている。カボスちゃん、リンゴ美味しそうだね。
リンゴをかじると歯茎から血が出ませんか?出るわけないか。
「カーチン、そのリンゴどこにあったの?私は、このハッサクを食べちゃうわ」
「スダチちゃんが、ハッサク食べて、カボスちゃんが、リンゴを食べている?どういうこと?チューちゃんは、南京豆食べているし」
「ちょっと、待って、ちょっと、何か見えても、まだ、食べないでね」
ティーナちゃんは、そういうと、左手の親指と人差し指で輪っかを作って、右手の人差し指をその輪に向けて、クルリンっと回すと、指の輪っかに、キラリと光る円形のガラスの板が出て来た。そのまま、ティーナちゃんは、その丸いガラス板越しに、カボスとスダチ、チューちゃんを覗き込んで、うんうんと、頷いている。
「何か分かったのかい?ティーナちゃん。教えておくれよ」
「やっぱりだわ、これが、エアルの言う通り、禁断の果実の樹木ね」
「やっぱり、そうなの?」
「この木は、その者の欲しがるものを与えてくれる正に、禁断の樹木なんだわ」
「ということは、リンゴでも、ハッサクでも、南京豆でも、そうそう、三桃娘の食べた白桃でも食べられるの?」
「そうね、相対する本人が、食べたいものならばね、そして、食べれば、禁断の力、言葉の魔力が授かるってことね」
「えっ、私たち、食べちゃったわ。女王の魔力の一つを授かっっちゃたの?」
「すごいわね、求めていたものをみつけちゃった」
「でも、処刑されちゃうんでしょ」
「・・・・・」
カボスとスダチは、顔を見合わせている。
「チューちゃんも魔法ネズミになっちゃったの?」
「ロコ、チューちゃんは、もともと、魔法ネズミでしょ」
「うん、そうだけれど、言葉を操る者になったのかなって?」
「チューちゃんは、もともと、言葉を発しないから、その効果がわからんね」
「みんなは、何がこの木になっているの、この木のためにここまで、来たのですもの、頂きましょうよ」
ティーナちゃんも、樹木から白桃をもぎ取って、薄皮を向いている。
「ティーナちゃんは、白桃が欲しかったの?」
「そうじゃないけど、白桃って、ネクターたちに聞いていたから、白桃だと思っていたのよ」
「なるほど」
「エアルは、何が成っているの?」
「・・・・」
ティーナちゃんが、丸いガラス板のレンズを俺に向けて覗き込む。
「ヘンタイね」
「ティーナ様、私にも、マークを覗かせて」
どうやら、丸いガラス板は、人の心を読める代物の様だ。考えていることが、見えちゃうの?そんなもの、出しちゃダメでしょ。
ロコも、ティーナちゃんから手渡された丸いレンズで、俺の方を覗き込んでくる。
「どれどれ、マークは、木に何を成らしたいのかなぁ?」
「えっ?何だこれ、タマゴくらいの大きさの猫柳の花穂みたいのが、いっぱいね、赤、青、黄色、黒、金、緑、カラフルね」
「なんだろう?なんですかね?ティーナ様、ヘンタイですか?」
ティーナちゃんが、ロコに耳打ちしている。見る見るとロコの顔が赤くなってきている。もう一度レンズを覗き込んで確認している。
「マーク!どうして、赤いのばかりじゃないの?いろいろの色が一杯じゃないよ」
ルルとオロチちゃんもレンズを借りて、覗き込んでいる。
「本当だ、どうして、青だけじゃないの?」
「緑まであるわ、茶色もあるけれど、少ないじゃないよ」
「エアルは、それで、何色の実を食べるんだい?」
俺は、仕方なくピンクゴールドに輝く実を摘んで、掌に載せた。
そもそもこの実は、食べられるのであろうか。よく見ると外見は、毛足の長い猫柳の花穂のようだが、中身は、アケビのようだ。半分に割ってドロドロツブツブの果肉を口にして、優しい甘みに包まれた。
「ピンクなの?どうして、赤を食べないのよ、やっぱり、ホンモノが欲しいのね、うふ」
「違うわよ、ホンモノは、青で」
「ノーノー、茶色ですわ」
ロコは、メロン。ルルは、巨峰。オロチちゃんは、マンゴー。ネーブルは、蜜柑。コンコンも油揚げを銜えている。
それぞれが、それぞれの果実の味を堪能している。これで、言葉を操る魔法を享受したことになったのであろうか。俺も言葉の魔法が使えるようになれたのかしら?
ファミリーへのお土産として、マリー、プラム、クリスティー、ネクター、ボタン、ハタンの分も収穫しなくては、いけないが、誰が収穫するのが正解なのだろうか?
ここは、やっぱり、ティーナちゃんだろうね。三桃娘の言った通り、白桃を持ち帰るのが一番だ。白桃が禁断の果実なのだということにしておきませんか。
「お土産用には、ティーナちゃんが白桃をもいでおくれよ」
「いいわよ、でも、白桃だけが、真実じゃないってことは、隠しきれないわよ」
そのことは、帰ってからだ。
「マークって、本当にエッチなのね、そんなことばかり考えているのね、それに、美味しそうに食べちゃったもん、ピンク」
「やっぱり、血筋からして、ヘンタイさんなのよね」
「私は、ヘンタイさんでも気にしないわ、合体しちゃうもん」
「あっ、オロチちゃん、ずるーい、私だって、ヘンタイさんでも、大好きなんだから」
「ロコまで、私は、マークがヘンタイさんって知っているもの、サファイヤブルーにチューしてもらったもの」
「ルルだけ、ずるい、私もチューされたい」
「オロチちゃんは、合体までしているんだから、私がチューしてもらうのよ」
「じゃぁ、ロコ、一緒にしてもらいましょうよ」
ティーナちゃんは、みんなをよそに、お土産用の白桃を収穫して、物入れの皮の袋に仕舞っている。
俺は、この禁断果実が処刑までされる代物なのならばと、お土産用ではなく、あの城に持ち帰ろうと、みんなで収穫することを提案し、それぞれが、それぞれの果物を収穫して、箱いっぱいにした。その箱は、ロコに頼んで、木片に収納してもらった。
「では、そろそろ、帰りましょうか」
「ここから、お家に飛んで帰りましょう」
「お家じゃなくて、城に戻るよ、カボスちゃんにスダチちゃん、ネーブルを送らなくちゃ」
「私たち帰ったら、処刑されちゃうもん、もう、帰れないわ」
「そうだった、また、捕まっちゃう」
「みんなは、もう、一つ大きな魔力を身に着けたんでしょ、生かそうよ」
「でも、前に禁断の果実事件の娘は、力を持っていても、処刑されたものねぇ」
とにかく、城に帰って、処刑を止めさせようよ。
どうしたら、いいのかは、これから、考えるとして。
まだ、どうしたらいいのかは、わからないけれど、それは、言わない方がいいよね。何とかなるでしょ。このままでは、あの城、あの国では、息が詰まるものねぇ。
ハチの巣をぶっ壊して、養蜂家にでも、なっちゃおうかしらってね。
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