壁抜け
今日もご覧いただき、ありがとうございます
「チューちゃん」
ロコは、起き上がったチューちゃんと何かを話し合っている。
俺達は、それを見ているだけだ。その輪にコンコンも加わって、話している。なんだか、奇妙な光景であるが、我がファミリーでは、特段変わった光景でないことは、もう慣れてきております。
ロコは、通訳するように、その要約を俺達に話し出した。
なんでも、チューちゃんも、トン・トン・ツーの信号音の根源を探してここまできたようなのである。それに加えて、単独行動をしていたのは、自分でも制御できない本能とでもいうべきものなのか、得も言われぬ良き匂いに誘われて、突き進んで行動しているらしいとの事である。その匂いの大元がなんであるのかは、チューちゃん自身も分からないとのことだった。
ロコが、チューちゃんに単独行動を控えるように促しているが、本能に逆らうことは、難しい事だろう。
俺は、ルルに頼んでチューちゃん用の小さなハーネスとそれがロコの足首に繋がるように伸び縮みするワイヤーのような物を作って欲しいとお願いしてみた。
早速ルルは、巾着から金属片を取り出して器用な手先で素早く工作していく。あっというまに、小さなハーネスと小指位の長さのリードが出来上がった。
ロコは、ブレスレットにしていたアンクレットを足首に嵌めて、そのアンクレットにハーネスを装着したチューちゃんをリードで繋いだ。小指ほどの長さしかないリードは、チューちゃんの動きに合わせて、伸び縮みして、なんならどこまでも伸びていきそうである。
流石だ。
これなら、大海原で、カジキマグロに繋いで釣りをしている真似までも出来ちゃうスゴ技の代物に見える。
流石だ。
どんどんと腕を上げているのが見て取れる。俺も頑張らなくちゃね。
ハーネスを装着したチューちゃんは、またもや、動き出し始めた。
動きの速度を素早く上げて、壁の中に飛び込んでいく。本当かよ。何もない壁に吸い込まれるように、チューちゃんは、消えていった。よくよく壁を見てみると、極々薄い隙間を発見することができた。
チューちゃんも流石だ。
普通のネズミなら通り抜けられないだろう隙間を縫うように行き来できるらしい。ゴキブリ並みの機動力を身に着けているんだね。ちょっと、気持ち悪い。ごめんよ。
壁から、また、トン・トン・ツーっと振動音がしてきた。カボスとスダチが、痺れを切らして靴を叩き鳴らしているのだろうと思うけど、早いよ。もう少し、待っておくれよ。
他の者にトントン信号を気付かれては、都合が悪いじゃないか。
「カーチン、あの人たちは、私たちの事、助けてくれるのかしら?」
「スーチン、あの人たちは、ただ者ではないと思うわ、魔法の上級者よ」
「じゃぁ、助かるの?」
「助かりたいものよね」
「近くの牢屋にいるのかしら?」
「さぁ、どこだか」
「トントンに返答がなくなっちゃったの?」
「うん、早く連絡お願いよ~」
カボスの靴を脱いだ左足は、冷たい床の上から、自分の右足の上に移動した。その移動した左足の甲の部分に生暖かい感触と卵一個分位の重さを覚えたカボスは、しゃがみ込むように足の甲に顔を近づけていく。
生暖かい物が、左足の甲からカボスの顔に飛びついてきた。
「キャーッ」
「どうしたの?カーチン?」
カボスは、しゃがんだ状態から海老反りになって、床に倒れ込んだ。頭の上には、薄汚れた白いだろうネズミが、乗っている。
「カーチン、ネズミが頭の上に乗っているわ」
「ネズミなの?」
「うん、ネズミ、暗いからよく見えないけれど、多分白かったネズミさん」
「えっ、また、ガイコツネズミ?????」
「ガイコツじゃないわよ、森から捕まえて来た様な白い生ネズミよ」
「ナマ?ネズミって、スーチン、バカねぇ」
「カーチン、なんかつけているわ、このネズミ」
スダチは、チューちゃんを掌に載せて、じっくりと観察している。
「どこから来たのかしら?どこにも入れる所なんてないものね。扉さえ、どこにあるかも、わからないわよここは」
「カーチン、紐?針金?見たいのが繋がっているわ」
「本当?」
チューちゃんは、スダチの手を飛び降りると、壁の中に飛び込んで消えて行った。呆気にとられる二人。
呆然としちゃってます。
ロコの手元に戻ってきたチューちゃんは、もう一つのトン・トン・ツーの振動源を発見したと報告している。これで、カボスとスダチの牢屋が特定できたことになる。
あくまでも、チューちゃんには。
どうやって、カボスとスダチの所にいくかだ。もしくは、二人を俺達の所につれてくるかである。
「俺達の誰かが、二人の所にいければ、一度行った所として、ドラゴンナイトで行き来できると思うんだけど」
「アンクレットでもいいんじゃない?あとは、どうやって、行くかよね、チューちゃんしかいけないものね」
「マーク、私にお任せを」
「オロチちゃん、ミミズくらいの大きさになって、チューちゃんといくのかい?」
「うん、それも、考えたけれど、途中で、壁の中におきざりになっちゃったら、困るもん、刺青で行ってくるわ」
「イレズミって、チューちゃんにイレズミ入れちゃうの?入れるの?」
オロチちゃんは、まずは、ミミズくらいの蛇になってから、チューちゃんの背中に飛び乗ると、皮膚の表面と同化していく、薄暗くなった白い毛皮の下に、蛇の刺青が鮮やかにクッキリと刻まれた。
チューちゃんは、あまりの衝撃に、またまた、ピクリともしなくなって、失神している様子だ。
ロコが、優しく、撫でると、起き上がったチューちゃんは、再び壁の中にダイブしていく。
「ネズミさん?どこですか?」
「いないわねぇ、幻覚が見えるようになったら、おしまいよね」
「あっ、いたわ、今度のネズミさんは、気持ちの悪い模様が入っているわ」
「模様?」
「うん、ミミズ模様よ」
「どれどれ?」
「ほらっ、捕まえたわ、ねっ、紐がついてるでしょ?」
「ミミズ模様は?」
「誰がミミズですか?」
「アギャッーっ」
カボスとスダチの目の前に、姿を現したのは、ネズミの次は、それを狙う蛇だった。
それも、二人の腿位の太さのデッカイ大蛇だったものだから、二人は、床に倒れ込んで、動けなくなった。動いて、逃げたいのが本当なのだが、二人とも腰が抜けて身動きがとれないのでる。
そんな二人の金髪娘を気遣うそぶりも無く、そのままオロチちゃんは、カボスの腿に巻きついて、アンクレットというよりも、腿輪になった。勿論、ドラゴンナイトも彫刻も立派に施されています。カボスの腿輪のドラゴンナイトが蛍の様に光だして、点滅しているのをスダチは、声も出せずに見ているだけだ。
次の瞬間、カボスの身体が腿輪のドラゴンナイトに吸い込まれて行って、すっかりとその姿を消滅させてしまった。
「あっ、カーチンどこいくの?おいていかないで」
カボスの身体が消え去った後には、カチンと音を立てて腿輪が、牢屋の床に転がっている。その輪っかをスダチは、拾い上げて抱き抱えると、その胸の中から跡形もなく輪っかは、消えて無くなった。
ロコの元では、チューちゃんが既に戻ってきている。間もなく、床に金属音を響かせて何かが落ちたような聞き覚えのある音が響くと、俺達の前にカボスが姿を現した。それを確認すると同時にオロチちゃんは、また、チューちゃんと同化して壁の中に消えていった。
ほんのひと時の間に、俺達の牢屋にカボスとスダチを連れてくることができた。オロチちゃんの機転とアンクレットに感謝だね。
本当に頭の切れるファミリーで、鼻高々だよ。
「改めまして、ありがとうございます」
「まだ、助かったわけじゃないからねぇ」
「それはそうですけれど、ひとまず、お話もできますし」
「カボスさんとスダチさんは、白いネズミとラッカセイを見付けたんでしょ?」
「どうして、それを」
「それで、捕まっちゃったんだね」
「はい、その通りですわ」
「どこで、その白いネズミを捕まえたんだい?」
「西の森の奥の泉の近くでしたわ、でも、どうして?」
「これを見てごらん」
俺がロコの掌を指さすと、ロコは、その手をカボスとスダチの鼻先に突き出した。
「あっ、このネズミ」
「そうだよ、今二人をここに連れてくるのに一肌脱いだ白いハツカネズミだよ」
「あなた達のネズミちゃんでしたの?」
「うん、因みに、キツネもいるんだよ」
コンコンが、二人の足元に擦り寄って、その存在を確認させている。
そして、もう一つ、ロコは、物入から南京豆を取り出して。チューちゃんにあげると、俺の口にも放り込んだ。
そして、カボスとスダチの掌の上にも、幾粒かの南京豆を載せた。
「おおおっ、ラッカセイ、ネズミちゃんも食べちゃったわ」
「美味しいよ、お口に入れて、食べてごらんよ」
カボスとスダチは、初めて食べる南京豆を恐る恐る口に運ぶと、興味津々に噛み砕いた。
「うん、美味しい、どんぐりとは、やっぱり違うわね」
「カーチン、美味しいね」
「こんな南京豆で、捕まっちゃうなんて、ここは、どんな国なんだよね」
「南京豆?ラッカセイでは?」
「うん、ラッカセイね、呼び名は、いろいろあるんだよ」
「これは、この国では、もう絶滅している草の実なんですよ」
「へぇ~、俺達の所では、いくらでもあるんだけどさ」
「えっ、では、あなた達は、この国の方では、ないって事ですか?」
「もう、仕方ない、そうだよ、この国の外の世界から俺達は来たんだよ」
「そとの世界の人々???」
「本当に外の世界があるんだね、カーチン」
「外の世界の人が、何をしに、ここへ来たのですか?」
「魔法の国の禁断の果実、白桃を食べに来たのさ、それに女王の魔法を見てみたくてさ」
「禁断の果実ですって!」
禁断の果実
ぜひ、ブックマークと評価をよろしくお願いいたします。
ご感想も、ぜひ、お聞かせください。
執筆と更新の励みになりますので、作品と併せてよろしくお願いいたします。




