振動音
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白骨から肉を付け、毛を生やして城の外を走る白くて小さな塊は、その白き毛並みを泥まみれにさせたお陰で、赤茶けた、どす黒いネズミの姿になっていた。
そこいらにいるネズミとなんら変わらない、多少小ぶりのネズミに変身していた。
変身なのか?
とにかく、我らがチューちゃんは、城の外壁を登りながら、内部へと続く隙間を発見したらしく、内部へとグイグイ潜り込んでいく。
もともとこの穴のような隙間は、ネズミか、もしくは、コウモリか、何物かが内部へと侵入する為にこしらえたモノのようで、有難いことに、色々な箇所に通じているようだ。
これの使用人と出くわさないことを願いながら、チューちゃんは、進んでいく。
そもそも、チューちゃんは、何をしているのだろう。
月食後の氷の白き世界から、このカルボーアへの入り口となる穴を発見して飛び込んでいった時から、勝手に自由な行動が過ぎると思いませんかね。自ら、逸れて、迷子のようになっているのだから。何か、思う所があっての行動なのか、聞いてみない事には、分からないことだが。
何しているのさチューちゃん。
城の壁の中に微かに響いている不思議な振動音をチューちゃんの耳がキャッチした。
トン・トン・ツー
トン・トン・ツー
トントン・ツー
この一定のリズムの振動を捕らえたチューちゃんの目が黄緑色に発光し始めた。チューちゃんは、この振動源に向かって、壁や隙間通路を使いながら、城の内部をどんどんと降下していく。
「ねぇ、マーク、なんか聞こえない?」
「うん、小さくだけど、カンカンって音が聞こえるような」
「カンカン?」
「トントンじゃないの?」
「ルルが、ゲリアの井戸で叩いた音に似ているわね」
「私の?金槌でトントンして、ツーっとした音?」
「本当だね」
「このトントン・ツーで、ネズミのシャレコウベを見付けたのでしょ」
「そうでしたわ、ティーナ様、それで、生き返らせて頂いたんですわ」
「まぁ、また、シャレコウベは、出てこないだろうけどね」
「チューちゃんが、トントンしているのかしら?」
ロコは、壁に耳を当てて、音の出所を見つけ出そうとしている。ルルが、物入から金槌を取り出して、薄暗い牢屋の壁を大きな音が立たないように、そうっと、そして、軽やかに、リズミカルに旋律を奏でるように叩き始めた。
トントン・ツー
トントン・ツー
ツー・ツーツー・ツー・ツー
トントン・ツーっとした音が振動となって牢屋の壁全体を伝わっていく。ルルのモールス信号擬きの振動音が無音の空間に響き渡る。
暫くすると、先ほど聞こえていたトントン音が、ルルのトントンに呼応するように、共鳴しだして来た。
トントン
ツー
ツー
トントン
トントン・ツー
トン・トン・ツー
ツー・ツー・ツー
ツー・トン・トン・ツー
「ルルのトントンに、さっきのトントンが応えている感じだね」
「やっぱり、誰かが、トントンしているって事よね」
「そのようね、誰かしら?」
「やっぱり、牢屋に入れられている者かしら?」
「ネーブルじゃないかしら?」
「いや、ネーブルは、あの様子では、別の取り調べに、連れていかれたと考える方がありだよ」
「じゃぁ、誰かしら?」
「ロコ、笛を吹いてくれないかい?」
「マーク、どっちの笛?」
「どっちねぇ、それぞれ違うのかな?それぞれ吹いて確かめる?」
ロコは、天使の笛とペテン師の笛であるアロンの笛を取り出して、横着にも二つとも可愛いお口に銜えて、同時に息を送り込んだ。
キュルルルルっ~
とても似ているが、二つの少し異なる、それぞれの笛の音が折り重なって、まるで糸を紡ぐ様に一つになっていく。
瞬く間に、いつものように、俺達五人をモクモクと靄というか霧が取り包んでいく。
その霧の中から、二人の金髪美人が浮かび上がってきた。その二人は、目を丸くしながら、こちらを見つめている。
その手には、脱いだ片方の靴が握られていた。
「わっ、誰?」
「この牢屋には、カーチンと私しかいないはずよね」
「おおっ、金髪ちゃんが出て来たぞ」
「マーク!鼻の下が伸びているわよ!」
「わっ、オバケ?カーチン!助けて」
「オバケ?失礼だな、君たちが、トントン音を出していたのかい?
「えっ、じゃぁ、あなた達も?」
トン・トン。・ツー
ルルが金槌で壁を叩くと、一人の金髪娘も手にしている靴の踵を壁に叩き始めた。
トン・トン・ツー
「おおっ、やっぱり、君たちなんだね」
「じゃぁ、あなた達も牢屋に入れられたの?」
「一緒に逃げる方法を考えようよ」
「お願いします、私たちは、このまま、処分されそうなんです」
「カーチン、でも、この五人も、同じ様に処分組でしょ」
俺達の目の前に現れた二人の金髪娘は、カボスとスダチであった。
まだ、それを俺達は知らないが。
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