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囚われの町


 船は、港に向かうことなく、入り江の外れに、ひっそりと隠れるように着岸した。状況判断の優れたロコの機転だろう。


「ここは、隠された町。直接乗り込むのは危ない感じね」

「俺達をすんなり受け入れては、くれないかもな」

「どうするの?鍛冶職人を探すんでしょ」

「鍛冶職人に会いに来るために、ここに来たの?」

「まぁ、そうらしい」


俺達は、闇に乗じてゲトレの地に降り立った。入り江の外れの為、港の中心までは、かなり遠い。草叢を分け入り、海岸沿いを港の灯りを手掛かりに進んでいく。到頭、三艘の船の着く港までやってこられた。港は、意外にも明るく、賑わいを見せている。振り向き俺達の船を望むが暗さと入り江の形状により、ここからは、見出せることが出来なかった。


「随分と賑やかね」

「ティーンの港よりもすごいな」

「ここが、隠された町なのかしら?」


この町、この港が、賑わっているのは、一目瞭然である。しかしながら、なにやら異様な感じも拭いきれない。大勢の人々、異国の出で立ちの者、入り乱れて、港奥の市場へと向かっている流れに紛れて進んでいく。


「おう、兄ちゃん、上物を持ってるな、セリにかけるまえに、取引しないかい?」

「何?セリ?」

「いくらなら、その二人を売ってくれるかい」


マリーとロコは、気色の悪いものを見る目をしながら、俺の左右の腕にそれぞれがしがみ付いてきている。そういえば、周りを見ると人々は、縄に縛られているか、鎖に繋がれて、引かれている者ばかりだ。なるほど、人買いの港なのだ。この町の商品は、人だ。ということは、女性の人買い市場があるに違いない。だからこの男も、俺に声を掛けてきたに違いあるまい。


「俺の女は、一寸やそっとの値じゃ手放せないぜ」

「うふふ。そうだろう。それぞれ三百万ゴルゴットでどうだ?」

「なんてことを、マーク」

「高いの?安いの?イヤ。マーク」

「悪いな、市場に行くから、諦めてくれ」

「ちっ、しかたねぇ。気が向いたらまたな」


マリーとロコの俺を握る手の力が強くなってきているのを実感しながら、市場へと向かう通りを進んでいく。


「マーク。ここは、奴隷市場かしら?」

「私も、マリーも、売り物と思われているみたい」

「そんな感じだね。暫く、そんなふりをしてみようよ」

「いやぁ~ん、売り飛ばさないで。私なら、超高値がついちゃうぅ~」

「売るわけないだろ、てか、超高値って。マリー?頭、大丈夫?」

「怖いわ。マーク。みんなのいやらしい目が気になるわ」


ロコの言葉通り、俺達、いや、マリーとロコに向けられている視線は、町中から、頭から爪先までを舐めるように絡みついて、異常なほどに集中しているように感じられる。その視線の絡み合う視線を振りほどくように通りをどんどん進んでいくと、大きな屋根を持つドーム状の建物にたどり着いた。入り口の屈強な男が問いかけてきた。


「買い付けか?出品か?それとも、冷やかしか?」

「入るのに、理由がいるのか?」

「入場券の値段が違うのだ。さっさとしてくれ」

「いくらだ?」

「買い付けと出品は、五千。観覧が一千だ。」

「では、観覧で」

「品物を持っていて、観覧?帰りに増えてたり、減っていたら、違反金は、百万だぞ。とにかく、一万払えよ」

「一万?五千だろ」

「二人いるじゃねぇか!それに、手数料が掛かるんだよ。坊主。手数料がな!」


納得はいかないが、ここで揉めても良いことはなさそうなので、渋々一万を渡すと、入場券を返してきた。入場券には、1+2=3と表記されている。きちんとしているのか、していないのか、よく分からないシステムだが、これで、この市場に入場することができる。

市場の中は、とてつもなく広い空間と大勢の男たち、其処彼処で行われているセリの状況が、怒号と歓声を渦舞わせて広がっていて、俺達を飲み込んでいく。


「なんなんだこれは」

「こんなことが行われている所があるなんて」

「マーク。怖い」


セリで、其処彼処で大勢と並んでいる女の子は、みんな若く、とても美しく、みずみずしく、新鮮なのがよく分かる。正に、夢の生鮮市場だ。

大切な部分は隠されてはいるが、殆どの肌をあらわにした格好で、柱のような丸太に繋がれて陳列されている者もいる。この女の子たちは、単なる召使としてではなく、どうみても愛玩を目的として、売られているように見受けられた。

目移りしてしまいそうな、美女ばかりで、不謹慎であるが、下半身にググッと緊張が走る。


「マーク。本当に、売り飛ばさないでね」

「マークは、売るより、女の子を買っちゃうんじゃないの」

「幻影の女の子もここにいるのかしら?」

「でも、幻影は、繋がれていたけど、囚われている感じだったよね」

「それに、なにも着ていなかったわ」

「マークの好きそうな。マッパ!丸裸だったよね」

「マーク。どうして、前屈みになって歩いているの?」

「この状況で、変態野郎!」

「バカっ、意識とは関係ないんだよ」

「男の子って、どうしようもないわね」


マリーとロコの視線が、俺に突き刺さる。本当に、俺を軽蔑している目を向けている。

俺は、軽薄ではあるが、この状況で、大切な仲間を失うわけにはいかない。


よくよく考えたような顔をしたマリーが、指を指すように、化粧筆みたいな小さな物を天に突き上げ、これまた、小さな声で呪文を唱えた。


「ブルスカ・ショック~っ」

聞き覚えのある呪文は、市場の喧騒に打ち消されているが、俺たち三人には、ハッキリと強く響いていた。


「マリー、何の魔法?」

「あららっ、マーク。私」


マリーは、突き上げた物を降ろし、得意気な顔をして、俺を見下ろしている。んっ、見下ろしている?。


えっ、横を見ると、えっ、ロコも俺を見下ろしている。見下ろしている?。というよりも、俺が少し小さくなったようだ。マリーとロコが少し大きくなったのか?。


俺は、自分の身体を確認するように見渡した。なんだ、なんなのだ。胸に大きな膨らみが二つマンゴーでも隠しているように盛り上がっている。下を向いても自分の足が見えないくらいだ。まさかと、股間に手を当ててみると、えっ、えっ、無い。ないじゃないか。下を向いていて、さっきからうっとうしいと思っていたが、髪も長くなっているじゃないか。どうしたことかと、マリーを見ると、えっ。マリーとロコは、短髪になっており、あの惚れ惚れするようなオッパイではなく、厚く逞しい胸板が備わっている。


透かさず、マリーとロコの股間に手を当ててみる。


「イヤっ、エッチ!」

「あん、ダメ!」

「あるじゃないか~っ」


やっぱりだ、そこそこ立派なモノが、存在していた。


「マリー、どういうことだ」

「うふふっ、上手に変換できたようね」

「マリー、私。男の子になっちゃったの?」

「えっへん、これなら、売られないもん」

「このバカ。下らない魔法で遊ぶんじゃない」

「マリー、イヤーん。胸がな~い。変なモノが、付いていて歩きにくいよ~」

「こんなことしなくても、売るわけないだろ。早く戻せ!」

「大丈夫よ、一日したら、元に戻る予定だもん」

「一日?」

「一日?予定?」


参った。それでなくても、これからどうやって、幻影の女の子と刀鍛冶のカッチーナへの手掛かりを探そうかと思案していたのに、どうしてマリーは、こんな余計な事するんだろう。本当に売り飛ばされそうな不安を感じたのであろうか。


いずれにしても、本格的に男と女が、入れ替わっている。このままの状態が一日続くのなら、この状態で、ことに当たらなくてはならないわけだ。


「マリー。男と女を入れ替えて、どうする作戦なんだい?」

「う~んっと、マークをセリにかけるわ」

「えっ、マークを売っちゃうの?」

「バカ野郎」

「そうじゃないけど、潜入捜査よ」

「なにしているんだよ。へなちょこ魔法を使って」

「へなちょこじゃないわ。よくできているじゃない」

「マリー、私のオッパイ。明日には戻るわよね。それと・・・」

「大丈夫のはずだけど・・・」

「だけどって、どういうことだ」

「これ、困るもん。なんか気持ち悪いもん。ウインナーみたいで」

「マークは、言葉遣いを女らしくしなさいね。一日なんだから」

 

 傍らにあった水瓶に、姿を映してみると、なかなかの美男子二人と、これまた、なかなかどうして、見目麗しい美少女がいた。本当に高値で売られそうで怖い。さっきまでのマリーとロコの気持ちが少し理解できるような感じがする。


「こんなに美人だと、マリーやロコより、高額の超高級品じゃないか」

「何言ってるのよ。モデルは、私とロコよ。サンプルがこの二人しかないもの」

「じゃぁ、このウインナーは、マークがモデル?」

「あったり前じゃないよ」

「そっか、大事にしてあげるね。一日よろしくです」

「ロコ。あんまり観察するなよ」

「今は、私のだもん。いいでしょ」

「じゃぁ、俺も、ロコとマリーの合わせ技の品物をじっくり観察しちゃうよ」

「エッチぃ~、ダメよ」

「ロコ。ダメって言ったって、するわよ。この男は、男は、エッチな生き物だもん」

「お前が、しておいて、そういうこと言うな」

「だって、そのものじゃないもの。二人の融合だもの。でも、こっちのは、サンプルがマークだけだから、ほぼコピーよ」

「負けた」


本当に、くだらないよ。もう、分かったから、考えなくてはならない。

ただ見学するよりも俺を売るふりをしながら、この市場を探るって言うマリーの策は、道理を得ている。しかし、マリーとロコを売るふりでもよかったはずだけど。まぁ、仕方ない、やってみるとするかな。



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