表の裏の裏
明るいお日様の光が、辺り一面に降り注いでいる。
足元には、青々と茂る草花、小川のせせらぎと鳥々のさえずりが、心地よく俺達を目覚めさせた。
辺り一面は、満月の夜空の白と黒の世界からは、想像もできなくらいの日の光に満ちた昼間の世界だった。頬かむりの頭巾、長めの綿入れ袢纏、毛皮の長靴姿の身体が、次第に汗ばんできていることを実感させる。
「ここは、どこだろう?」
「エアル、ここが、おそらく、目的地だと思うわよ」
「ここが、北の果て、魔法使いの国、カルボーア?なんですか?着いたんですね?」
ティーナちゃんが、指を鳴らすと、俺達の防寒装備が解き放たれ、元々の装備のみになった。俺の横には、オロチちゃんが、赤い眼と緑の肌を輝かせるように美少女の姿で実体化して寄り添っている。ロコは、オロチちゃんに抱き着いて、頬ずりしながら喜んでいる。
「チューちゃん、コンコン、どこなの?」
そういえば、チューちゃんとコンコンの姿が見えない。コンコンは、襟巻だから、防寒装備として、ティーナちゃんが片付けちゃったのかもしれないかな。そんなことはないか、ロコへのプレゼントだったもんね、生きている襟巻ちゃんは。
「どこなの?フイ~っ」
ロコは、呼びかけのみならず、カワイイ唇を尖らせて、澄んだ響く音を伴う口笛を吹いて見せた。遠くの方から、銀色に輝くグレーの塊が、緑の草木の間を縫うように駆け寄ってくる。コンコンだ。
コンコンは、俺の胸目掛けて飛び込んでくる。大喜びを身体全身で表現するように大暴れをしながら、俺のオッパイもブルンブルンと大暴れさせている。
はたと気付いたようにコンコンは、俺の顔を覗き込んだ。次の瞬間、ばつの悪い表情を浮かべ、俯き加減にロコに近づいていった。
「コンコン、どうして、私じゃないって、気が付いたの?詳しく聞かせてもらうからね」
「オッホッホ、だって、大きさも、弾力も全然違うもの」
「ティーナちゃんのイジワルっ~、コンコン、悪い子は、いいこ、いいこしてあげない」
「まぁまぁ、コンコンのお手柄で、目的地への扉の鍵を開けることができたんだから」
「チューちゃんは、どうしたのかしら?コンコン、チューちゃんは?」
コンコンは、チューちゃんを見失ったらしく、ロコの問いかけに応えることができないでいる。
それにしても、ここが、あの氷の世界と同じところなのだろうか。俺達の世界では、ここは、大海のど真ん中だ。そして、ティーナちゃんが表裏一体の世界といったが、月食によって白い大陸の世界に入り込んだのだった。その世界で、氷と雪の大地の穴に落ち込んだ先に、表と裏と、そして、もう一つの世界が用意されていたというのであろうか。
今、俺達が腰を降ろしているのは、森が広がっている昼間の世界なのだ。
時間軸には、歪みがないだろうとティーナちゃんは、いっていたけど、夜から昼間に移っていることから、その疑問を捨てきれない。また、馬鹿にされるだろうけど、ここが、黄泉の国なんじゃないのかとさえも頭をよぎっている。あの吹雪きの中で、俺達は、全員凍え死んでしまったのかもしれない?と考えているのは、俺だけなのであろうか?
「マーク、みんな、静かに、何かくるわ」
「オロチちゃん、何?」
ロコがオロチちゃんに抱き着きながら、怯えるように聞いている。オロチちゃんは、美少女姿のまま舌をベロ~んと出しながら、森の匂いを探っている。ティーナちゃんも俺の肩を抱き寄せながら、オロチちゃんのベロを覗き込んで、その小刻みな動きに注視している。
四人は、オロチちゃんを核として一塊となった。勿論、コンコンもロコの脚元に密着している。
「大発見だぞ」
「そうなの?」
「これをこの白いネズミが銜えていたなんて」
「・・・・」
「あっ、チューちゃんだっ」
「しっ」
ロコの口に手を当てて声を消し去ると同時に、ティーナちゃんが、咄嗟に俺達の身体を緑の葉っぱだらけにした。見事な素早い魔法だ。マリーでは、こうはいかないなんて、感心している場合ではない。
「んんっ、なんか言ったか?」
「いいえ、なんにも」
「その木の実が、大発見なの?只の団栗でしょ」
「これは、ドングリではない、そもそも木の実ではない、草の実だ」
「草?の?実?」
「私も、実物を見るのは初めてだ、ラッカセイという古の草の実だ」
「いにしえの?」
「そうだ、いにしえの、今やこの地では、絶たれてしまった草なのだ」
「へぇ~っ、絶たれているの?」
「まだ分からないか?それをこの白いネズミは、銜えていた、大発見じゃないか」
「なるほど、ねぇ~」
森の中を美しい二人の娘が、歩いてくる。
手には、白いネズミが尻尾を摘ままれて、ブラブラとぶら下げられている。お口に忍ばせていた南京豆は、今の話から想像するに、美女のもう片方の掌にあると思われる。
二人は、幸いにも俺達の存在に気付くことなく、目の前を通り過ぎていく。
この世界への鍵を開けたチューちゃんは、またもや、お手柄を挙げたらしい。恐らく、目の前を横切る二人の美女は、三桃娘が教えてくれた女ばかりのカルボーアにおける、言うなれば、働きバチさんのお嬢さんだろう。
そういえば、我が家の三桃娘に顔立ちが似ている感じだ。厳密には、姉妹ということらしいのだから当たり前の事なのかもしれない。チューちゃんのお陰で、この二人の後をついていけば、本拠であるハチの巣に辿り着けるかもしれない。
「チューちゃんが、捕まっちゃっている」
「ロコ、しっ、静かに」
「気づかれないように、後をつけましょう」
「綺麗な金髪の女の子だよね」
「マークは、どこ見ているのよ、綺麗とか、金髪とか、今、そこじゃないでしょ」
「そうよ、この緑の肌を褒めてよ」
「エアルは、金髪好きなのよねぇ~」
「とにかく、気が付かれないように、後を追いましょう、パッキンちゃんの」
然しながら、気が付かれないように後をついていくのは、結構難しい。
草木に紛れながら、森を抜けていく風の音にも隠してもらいながら、付かず離れずの距離感を保ちながら、こっそりとついていく。暫く歩くと森の開けたような所に出くわした。そこは、森と山とを分断するように絶壁の壁が続いていて、その崖全体が本体の城だということが、見て取れた。
何処までも続く崖に刻まれた彫刻、入り口と思しき正面の空間にも、美しく、壮観な彫刻の装飾が施されている。
どこかで見た感じがする。
チューちゃんをぶら下げた二人は、中へと消えていく。
「マーク、ゲトレの山、賭博場に感じが似ているわね、こちらのが、大きいけれど」
そうか、ルルと出会ったゲトレの遺跡あとにそっくりだ。関連性があるのかは、分からないけれど、似ている。見る者を威圧、圧倒させる為としか思えない彫刻と門構えなどは、この建造物を作った者のポリシーの共通性が感じ取れる気がする。
「なるほど、ロコ、ゲトレのね、本当にソックリだね」
「ゲトレ?」
「ルルの故郷なの?」
「そうなのよ、そのゲトレの山にこんな感じの古代遺跡があって、そこが賭博場と女性専門の奴隷市場なのよ」
「奴隷市場?女性専門?」
「ゲトレって、どこかで?」
「そこの奴隷市場に、ルルは、囚われていたんだよなぁ」
「それは、それとして、どうする?中に入る?」
「そこだよな、それに、もう、二人どころじゃなくて、金髪がウヨウヨいっぱいじゃないか」
「そりゃ、いっぱいいるでしょ、だって、ハチの巣に来ちゃったんだもの」
「このまま、御免くださいって、入れてくれそうにもないわよねぇ~」
そうなんだよなぁ、三桃娘によると、よそ者に対して、とても排他的な国と聞いているし、見るからに、圧倒的な人数が、本当に、こちらの気持ちを委縮させてしまう。だって、ハチの巣にウヨウヨの、ここにいる全員が、魔法使いだなんて、考えただけでも、信じられませんよ。
「このネズミが、どこでラッカセイを見つけたのかを聞き出すのよ」
「聞き出す?どうやって?私は、ネズミとおしゃべりできないわよ」
チューちゃんを城の一室に連れて来た先ほどの二人は、チューちゃんの銜えていた南京豆をテーブルに転がすと、チューちゃん自体は、大き目の瓶に放り込んで、こちらもテーブルの上に置いた。
「ねぇ、そのオットセイとかいうのが、発見だとして、そんなにすごいの?大事なの?」
「ラッカセイよ、無いものが、あるわけないモノがあるのは、すごいことでしょ、それに、栄養価が高いと言われているのよ」
「じゃぁ、どこにあるのかと、食料にしようかってのが、目的であり成果なのね」
「そうね、私たちが、斥候部隊の中で抜きん出る機会になるかもよ」
「功をあげて、もっと、高度な魔法を授かるのよ」
「それは、授かりたいわね」
二人の働きバチさんは、斥候部隊の一員として、魅力的な発見をしたようで、二人して、興奮しながら話に花を咲かせている。そして、どうやって白いネズミから南京豆の入手ルートを聞き出そうかと相談して、元々この話に目を付けた方の一人(美少女A)が、魔法によって、自らをネズミの姿に変化させてテーブルの上に降り立った。そして、もう一人(美少女B)が、そのネズミを白いネズミを入れた瓶に入れた。瓶は、それなりの深さをようしていて中の様子を伺い知ることはできないが、瞬く間に何かが瓶から飛び出して来た。
「キャァー」
飛び出して来た何かは、テーブルの横に、元の金髪美人の美少女Aとして現れた。もう一人の金髪美人である美少女Bもその悲鳴と予想に反した余りにも早い相方の帰還に床に腰をついて驚いている。
「なんなのよ、どうしたのよ、ビックリするじゃないの」
「どうもこうもないわよ、ネズミが・・・」
「ネズミがなんなのよ、そのネズミとお話しする為に、自分もネズミになったんでしょ」
「ネズミじゃなかったわ」
「なに?白いネズミ入れたじゃないよ」
「いないのよ」
床に腰を降ろしていた美少女Bが、瓶の中に手を突っ込んで中を確認している。
「おかしいわね、何もないわね」
「何もなくは、ないのよ」
美少女Bは、瓶の底の部分を探るように手を回すと、何か硬いモノに触れたので、それを掴みだしてみた。
「何だこれ?キャーっ」
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