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不思議の国


 北の星の真下では、月食が鍵となって海を凍らせた。


 目的地が魔法の国であることを考えると、月食の鍵で違う空間に入れた感じだ。つまり、月食のある一定時間に、決まった位置、計算された座標軸に入っていることが、この国に辿り着ける条件となっていたのであろう。

 潜入までは、上出来といえるけれど、頭に過る違う空間、違う世界って言う事が、気にかかってならない。


「ティーナちゃん、今いるところは、本当は、あの黒い海の真ん中なんだろうね」

「私もそう思うわ、捻じ曲げられた別世界に、入り込んだってことね」

「また?また?捻じ曲げの世界ですか?」


「捻じ曲げの世界でも、ティーナちゃんの魔法が、効きているってことは、過去ではないのかな」

「過去とか、未来とかじゃなくて、ここも、私たちと同じ現在進行形なんだと思うわよ」

「現在進行形なら、空間だけが、隠されている?隠れているってことですか?」


「ちょっと、よくわからないわね、隠れ、隠され、同じ空間の表と裏って感じだと思うのよ」


 俺には、ティーナちゃんの言っていることが、半分も理解できないが、俺達の世界からは、見えない不思議の世界に迷い込んだ?進んで入りこんだことだけは、分かっちゃっている。


 ここは、もしも、偶然に、月食と定められた位置に遭遇したとしても、何もない白くて、寒い世界で、他を寄せ付けない仕掛けになっているのであろう。 到底、魔女、魔法使いの国の実体には、辿り着けないのであろう。


 三桃娘の話では、カルボーアは、北の果てと言っていたが、このような極寒の地とは、言ってなかった。言い忘れた訳ではないだろう。彼女たちは、この光景をきっと知る由もないのだ。ここは、外からの入り口であって、出入り口ではないことと予想される。


 ティーナちゃんの防寒着があるにせよ、風が強くなってきて、先ほどまで、明るい銀色の満月も霞むほど吹雪いてきている。


 害虫駆除の装置が着実に作動し始めたと考えるのが妥当であろう。


「このまま、進んでいいのかな?白い大地がどこまでも続いて見えるよね」

「無間地獄って感じよね」

「ティーナちゃん、怖いこと言わないで」


「このままだと、凍えてしまうもんな、考えなくちゃ」

「まあ、危なくなったら、帰ればいいのよ」

「そうですけれど、そんな簡単に帰れるかしら?」


 月食、海の座標をかみ合わせて、一つ目の鍵は、開けられた。まだ、何某かの鍵があるのだろう。いくつ鍵が掛かっているのかなぁ。二重鍵までなのかしら?もしかしたら、防犯対策が万全のようだし、ミスターおじさんに、なんとかしてますかって?尋ねられちゃうんじゃないだろうね。


 このままだと、ロコから下船時に渡されて、背負っている天幕一式をここに張る羽目になるのだろうか、でもなぁ、この吹雪では、ちょっと難しいだろう。いや、無理だね。また、足元は、雪というより、氷の上に雪が薄っすらだから、掘ってかまくらを作ることも出来ない。最終的には、お船を出して、一時しのぎの吹雪対策とするしかない。かもしれない。


 意識が朦朧としながら、白い大地を多分真っすぐに進んでいる。


 こういう吹雪の中は、方向感覚が狂って、真っすぐと思っていても、同じところをぐるぐるしているとか、何か物の本で見たことが思い起こされる。天は我々を見放したって叫びたい気持ちにもなるが、俺の横には、チビッコ版にしても女神様がいるんだから、この台詞は、相応しくないだろう。普通に考えて、天が女神を見捨てるわけないもんね。


 安心できる事柄を見つけてほっとしていると、久々に俺の巾着が、黄緑色に光り出した。驚いて巾着を手に取ると、俺の指も蛍の様に発光している。女神の指輪だ。

 振り向くと、ティーナちゃんの耳飾り、ロコの指輪も同じ黄緑色の光を発している。


 ドラゴンの牙、スーパードラゴンナイトが反応しているのだ。何かのお知らせ発光なのか、今まで通りならば、そのはずだ、女神様が現れるのかな?でも、もう既に現れているからなぁ。


「おおっ、ドラゴンの牙が物申すらしいな」

「この黄緑色の光には、助けられてきたので、吉兆の兆しですよね」

「私の指輪も蛍ちゃんになってくれているわ」


 黄緑色の各々の光が一筋に連なって、よく見えない吹雪の中を突き進んでいく、その筋の一つは、俺の腿からも放たれている。オロチちゃんの指輪からの光だと理解した。


 その光に導かれて俺達三人は、歩みを進めていく。


 大体のところ、時間にすると百を数えたくらいの辺りで、前が見えない程であった吹雪が晴れて、無風状態の唯々真っ白い大地と真っ黒い星のない空のみが目の前に現れた。俺達の黄緑色に発光した一筋の光の線は、白い大地と黒い空の間に吸い込まれていく。まだ歩けと言う事なのだろう。吹雪が止んだことで視界が鮮明になったことと、凍死も想像しそうな程であった寒さが、頑張れば耐えられる寒さになっている。


 月食のセピア色の世界を体験した時と同じような不思議な感覚を覚えている。白と黒の境目を目指して、進んでいるのか、全く動いていないかのような歩みを続けているからなのか、黄泉の国という言葉が、頭の中に浮かんできた。


「ねぇ、ティーナちゃん、昔のゲリアで爺さんが、俺達の事を黄泉の国からきた人って言っていたんだよ」

「そう」

「うんうん、覚えているわ」


「黄泉の国のことを爺さんは、知っているのかな」

「知っている?当たり前でしょ、単純にあの世ってことだもん」


「ティーナちゃんもしっているんだね、行ったことがあるの?」

「行ったことなんてあるわけないでしょ、あるのか、ないのかも、分からないわ」


「そういうことか、言葉と意味だけなら、俺だってしってるわい」

「マークが、言っているのは、お爺さんが私たちを見ていったことよね」


「だから、なんなのよ、黄泉の国なんて」

「今、歩いてたら、黄泉の国に向かっているような・・・セピアの時から・・・」

「えっ、イヤ~っ」


「バカ言っているんじゃないわよ、惑わす幻影の中を歩いているだけだと思いなさい」

「出られるの?」

「早く、出たいわ」


「なんか手掛かりがあるはずよ、多分」


 三人は、歩き続ける。どのくらいの時間が経っているのかも、分からなくなっているのは、時間の概念が、この世界に無いように思えるからなのかなぁ。


 黄緑色の光の線が、パタリと消えた瞬間に、黒い空間から白い小さな物が、白い氷の大地に転がり落ちた。


 見え辛い白い大地を小さな白いモノが転がっていく。素早い動きを目で追っていると見失ってしまった。


「チューちゃん、何処に行くの?」


 小さな白いモノの正体は、ロコのポケットから飛び出したチューちゃんの様だ。俺達の見失ったチューちゃんを銀色に光るグレーの物体が追いかけていく、こちらは、追いかけながら、俺達を誘導しているように見える。


「コンコン、いっちゃダメよ」


 追いかけていく銀色のグレーは、ロコの襟元をスースーさせてまで、白い大地に降り立った狐の襟巻。ティーナちゃんがロコにあげた生きている狐の襟巻ちゃんだ。


 コンコンって名前がついていたんだね。


 俺達の目では、確認できないチューちゃんをコンコンには、追跡できるらしい。暫く進んだ所で、コンコンは、立ち止まり、首を左右に何回か傾げながら、いきなり飛び上がると、その勢いで白い大地に頭を突き刺すように、突っ込んで見せた。

 

 コンコンの頭が白い大地に潜り込みながら、尻尾をグルグルと回している。白い大地に銀色のグレーがネジの如く、その姿を消していく。スパンとコンコンの姿もチューちゃん同様に見えなくなった。

 俺達は、コンコンの姿が見えなくなった所に立ち寄ると、ポッカリと穴が開いている。


 その穴は、穴の淵から、徐々に塞がっていくように見えた。咄嗟に俺は、右足をその穴に突っ込むと、底がどこまで続くのか分からないように、落ち込んでいく。


「マーク、危ない」


 ロコの差し伸べる手を握るも、身体が落ち込むことを防ぎきれない。ティーナちゃんがロコのもう片方の手を握るや否や、三人の身体が白い大地に飲み込まれていった。


 白い大地にコンコンが広げた穴は、もう見つけることは、出来なくなっている。




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