月食
まん丸いお月様。
満月の月明りが、銀色に輝き、俺達の顔が、モノクロームにハッキリと伺えるほどである。
ただ、何かがいつもと違っている。まん丸が、陰りともなって、満月の姿を変えていく。
ほんの僅か時間で、月齢が変化することなどない。しかしながら、徐々に綺麗なまん丸の輪郭は、薄れていき、明るくないお月様となり、赤茶けた姿に変わり、俺達の顔もセピア色につつまれて、お互いの顔を確認できる明るさは無くなった。
「どうしたんだ、お月さんが、薄暗く赤さびた感じになったぞ、雲のせいではないね」
「最初に、欠けたわよね、満月なのに」
「ううう~ん、月食ね」
「げっしょく???ロコは、知ってる?」
「マーク、なんか、聞いたことがあるような、ティーナちゃん教えて」
「ある一定の期間で、星の影にお月さんが隠れちゃうって、感じ」
「魔法とかじゃないんだね、じゃぁ、危なくはないんだね」
「危なくなくても、気味が悪いわね」
ロコが、気味悪がるのも理解できる。俺だって、赤茶けたお月さんの下で、セピア色の月明りを浴びたことなんてない。
この世の終わりか、黄泉の国の入り口にでも来てしまったような気分になる。
黄泉の国?
ゲリア村の俺の爺さんが、俺達の事を黄泉の国の人々って、言っていたことをふと思い出してしまう。今夜の空とそれに繋がりがあるとか、相関性などあるはずもないが、どうして、爺さんは、黄泉の国の人なんていったのであろう。
「エアル、見てごらん、私たちは、いい時に尋ねてきたようね」
「ティーナちゃん、どういうことだい?」
「見て、海が見る見る凍り付いていくわ」
セピア色の世界で、真っ黒な海が真っ白の氷の世界へとセピア色から再びモノクロームの色合いに変化していく。
俺達の周り、いや、北の星の真下の海が、凍り付いて大地へと変化していっているのだ。半時も経たない間に俺達は、氷の大地に、お船ごと、飲み込まれてしまった。
ここが、到着地だったことを認識したのは、俺独りのはずもなく、ロコは、七輪、火の元の整理をして、ティーナちゃんと下船の準備をしている。
見上げるお月さんは、既に、赤茶けた薄暗く光る姿ではなく、元の銀色に明るく輝くまん丸満月に戻っている。そして、月明りに照らされる白い大地が、一段と白く真夜中に似つかわない明るさを生み出している。
縄梯子を伝ってお船から降りた俺達は、白い氷の大地に降り立った。
「マーク、ちょっと待ってね、これ、持っていて」
「私からは、足元に、これをあげるわね」
ロコは、巾着から木片を取り出し、チョンチョンっと指でつつく、俺達のお船が、ズバンっと消え去り、木片の型抜き模様と変化する。時を同じくして、俺達の足元に、毛皮の長靴とかんじきが装着された。これは、ティーナちゃんの気遣いだとすぐに分かった。
「ティーナちゃん、もう一つお願いしたいんだけど」
「何よ、高いわよ」
「ネクターから聞いたけど、ここカルボーアでは、男は危ないらしい」
「危ないの?だから?」
「俺を女の子にして欲しい」
「チョッキンして、転換していいのね」
「ちっ、違うよ、魔法で、一時的に、前にマリーにしてもらった・・・」
俺は、巾着の中からしまっておいた、ピンクゴールドの一本をティーナちゃんに差し出して見せる。貴重なサンプルだ。
「これは、以前、女の子として存在した時の証拠の証です、これを参考に」
「あっ、ゲトレの賭博場に行った時のね」
「サンプル?そんなものいらないわよ、チョッキンじゃないなら、チョチョイのチョイよ」
ティーナちゃんは、人差し指を俺に向けて、クルクルっと回したと思ったら、パッと、掌を開いて見せた。
何も変化を感じないが、下を向いても俺の長靴を見ることが出来ない。
足元を蹴りあげるとやっと自分の爪先が見えた。急いで胸を触るとあった。前より大きい。オロチちゃんの顔が向いているであろう腿の付け根にも手を寄せると、やっぱりだ。ない。
ない。ない。
「マーク、女の子になっちゃったの?みせて?」
「なっているはずよ、そのピンクゴールドは、マリーちゃんとロコちゃんがモデルでしょ、今回は、当然、私がモデル、上出来の仕上がり」
「それで、合点がいったよ、パイボンバーだ」
「なによ~、それ」
「でしょ、今回もサンプルを大事にしておきなさい、綺麗なブルネットよ」
「そうします、マイトレジャーにします」
締めのおうどんも、よく売れて、売り切れ御免状態の囲炉裏端では、プラムが食後の甘味として白玉ぜんざいのお椀を配っている。
羨ましや、こちとら氷の世界で、デザート抜きの潜入調査の真っ最中なんですけれど。
「本当に、プラムは、また一段とお料理の腕をあげたのね」
「おねえたま、ネクターにも教えてね、この丸いの、まん丸いの、お月さんみたいで、好き」
「もっと、頑張らなくちゃ、前線でも炊事係を任されるように」
「今回、ロコは、炊事係で行ったわけじゃないわよ、お船係だもん」
「じゃぁ、お船も習得に励まなくては」
「ロコに対抗心を燃やすのは、どうしてなの?」
「大体、いつも、ロコがマークのお散歩に駆り出されるから?」
「お船、カモメ偵察隊、ロコは、結構なんでも屋さんだもの、駆り出されるわよ」
「みんな、マークに、ついていきたかったのね」
「そりゃそうですよ、クリス様だって、そうでしょ?」
「ゴホッ、ゴホッ、白玉がっ、そうじゃないわよ、ワタクシは、どうして、ティーナを呼んで、私を呼ばないのかってことなのよ」
「今、何をしているのかしら?見つけたのかしら?」
「食料もそんなに持ってないから、一度、戻ってくるんじゃないかしら?」
囲炉裏端での談笑のなか、マリーは、髪の毛の念を送りながら、状況を覗き込もうと唸り始めた。
それを見たルル、プラム、ネクター、ボタン、ハタンも念を送り始める。クリスティーは、ぜんざいを食べながら、念力の映し出す映像を待っている。
六人の握りこぶしから燻るように煙が立ち込め、それぞれが、一つになって靄を作り出した。靄の中心に輝く星と満月が映し出される。その月明りの下に三人の人影が確認できた。
真っ白な風景に真っ黒な人影のみで、顔を伺うことはできない。声の通信も試みるが、こちらの声は、マーク達に届いていない感じである。そして、映し出された光景も、無音のままで、何も聞こえないままだ。
六人のオデコには、汗が滲んできている。念を送るにも結構な労力を要するのであろう。力尽きるように靄が消えていく。
「アルカティーナ様は、お役御免になったのかしら?」
「三人しか居なかったわよね」
「マーク、ロコ、オロチちゃんでしょ、今の人影」
「多分、そうよね、でも、人影の大きさが、一つ、小さかったわよね」
「真っ黒で、顔も姿もよく分からなかったわよね」
「ううっ~ん」
「真っ白の世界だったわね、マーク達は、どこに着いたのかしら?」
「北の魔法使いの国でしょ?」
「カルボーアは、あんな何もない、のっぺらぼうみたいな所じゃありませんよ」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
「まぁ、探索中ってことだけは、わかったわ、また、注意しながら、見守りましょう」
「はぁ~い」
「ぜんざい、おかわりしたいひとは?」
「お願いするわ」
「私です」
「私も」
「くださいな」
「ちょうだーい」
「ちよーうたいっ、ゴホっ、ゴホっ」
「そこ、まだ食べている途中でしょ、いいわ、全員、よそいます」
囲炉裏端での食事の時間は、まだまだ終わりそうもない。
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