星を目指して
甲板上の食卓、雑炊も食べ終わった鍋から、再び湯気が立ち込めてくる。
覗き込む三人と一匹をもくもく、もやもや、視界が不鮮明となるような霧が包み込んでいく。
久々の天使の笛の幻影は、白い靄の中で、真っ暗な空に真上に輝く星を浮かび上がらせている。その星の光を浴びて、キラキラと輝く氷なのか、水晶なのかの様な島のようなものが、一瞬見え掛かったところで、幻影の霧が晴れて、空っぽの鍋が目に戻ってきた。
「なんだろう、今のが、目指すところ?なのかな?」
「うん、そんな感じに見えたわね」
「とっても、寒そうな所に見えたわね、キラキラしてクールなイメージ」
「寒いのかい、オロチちゃん、温めてあげるからね」
「うん、こんどは、抱っこしながらの、合体、お願いね、ギュウっと」
「ええっ~、私だって寒いわ、ギュウっと、合体してよね」
真上に見えた星には、見覚えがある。今は、目線より少し上に見えているあの星が、きっと同じ星であると思われる。そうすると、まだまだ、遠いことも自ずと分かってしまう。
「ロコ、あの星が真上となると、まだまだ、かなり遠いいよね」
「うん、あの星よね」
「北の目印の星でしょ、本当に北の果てなのね、寒くて合体だけじゃなくても、刺青で避難が必要かも・・・」
「オロチちゃんは、特に寒さが苦手だもんね。さすが。火の山の守り神」
「私だって、寒さに弱いのよ、温めるの忘れちゃイヤよ」
「ロコ、まず私が温まってからよ」
寒さ対策もさることながら、あと二、三日では、到底たどり着けない。
一度、本拠の我が家に戻って検討しなおすか、または、この前の様に、みんなをお船に呼び寄せるか、はたまた、このまま先発隊だけで向かうかだ。マリーたちに相談すれば、飛んできてくれることだろう。全員で乗り込むのは、まだ早いだろうし、反って身動きが取れなくなりそうだ。
どうしたものかなと首を垂らしていると、首から掛かっている巾着ともう一つの首飾りのメダルがユラユラと揺れているのが、目に留まった。ちょこっと、身内の知恵を借りてみようかな。
俺は、そんなに考えるでもなく、極々自然な動作の流れで、揺れているメダルを摘まんで口に銜えた。
俺の口を中心に懐かしいような黄緑色の蛍光発光が灯り始めた。
プラムの牡丹鍋もお肉と具材が、みんなのお腹に収まって、締めのおうどんが投入され、グツグツと煮込まれているところに注目が注がれている最中、アルカティーナが待ちきれないとばかりに箸を伸ばした先の鍋が、アルカティーナの視線から薄らいで消えていく。鍋を囲んでいる美女たちの視線からは、アルカティーナが黄緑色の蛍光に包まれて、蛍の光の旋律が聞こえてくるように、足元から、徐々に、薄らいで消え掛かっていく。
「あららっ、ティーナ様、おうどん大好きじゃありませんでした?」
「食べるわよ、プラムの腰の強い、シコシコちゃん」
「ティーナ、どこにいくの?まさか、マークの呼び出し?」
「おうどんの後にして欲しかったわ、でも、クリスは、呼ばれないのね?うふふっ」
「そんなことないわよ、呼ばれるに決まっているわよ、順番でしょ」
「うふふっ、やっぱり、私が一番なのね。流石に、エアル、血の濃さね」
女神を含む七人の美女たちは、吞水を手に持ったまま、呆気にとられるように、その身体が消えかけているアルカティーナと言葉を交わしながら、見送りを終えた。
ワイワイと談笑に溢れていた囲炉裏端が一瞬静かになったが。
「締めのおうどんの最中に、呼び出しなんて、マークは、どういうこと?」
「やっぱり、マークの呼び出しなんですか???」
「私を呼ばないで、どうするのよ、ティーナだけってことは、指輪の呼び出しじゃないわね」
「私たちも、呼ばれていませんよ?」
「久しぶりに、祠で行ってみようかしら?」
「でも、今日は、新月じゃありませんよ」
「どうして、ティーナなのよ~っ、金髪の女神は、ここにいるのよ、私が大きくしたのに」
クリスティーは、マークがアルカティーナを呼び出したことが、とても面白くないらしい。
らしいではなく、ありありとそれは、見て取れた。
だから、同じ様に、呼ばれなかったことを残念に思っているマリー、ルル、プラム、ネクター、ボタン、ハタンは、言葉を発することもできないでいる。
俺の口から零れ落ちるような黄緑色の蛍光は、だんだんと光の大きさと光度を増しながら、甲板の床に流れていく。その光の中から、ブルネットの栗毛髪が美しく、吞水を左手に持ったままの、一際、可愛らしい少女が食卓に登場してきた。
「鍋の締めのおうどんは?」
「伯母上?そうか、メダルだから、ティーナちゃんなんだね」
「牡丹鍋をプラムにご馳走になっていたのよ、今、最後のおうどんの時間なのよ」
「こちらの締めは、雑炊でしたけど、もう残っていませんわ」
「ひどいわ、呼び出しておいて、食べさせてくれないなんて」
「大丈夫ですわ、ティーナちゃん、夜食用に用意した焼きおにぎりで、お茶漬けにしてあげますわ」
「俺にも、ちょうだいな」
「私にも」
「食べたばかりなのに、もう、お腹すいたの?じゃぁ、デザートじゃなくて、早めのお夜食に、みんなもしましょ」
ロコのごはんは、いつでも食べたい。
ティーナちゃん、俺、オロチちゃんは、お茶碗の中で、お茶に揺らぐ、焦げた醤油の香りの塊を箸で突いている。無口になる。みんなに配った後、ロコも同じように、塊を突いて、形を崩していく。
「香ばしいわねぇ、そのままでも、美味しいけど、硬いオコゲが軟らかくなるのも、たまらないわねぇ」
「ロコのご飯は、美味しいでしょ~」
「一手間が、うれしいわよね、勉強になりますわ」
「お粗末様です」
ティーナちゃんのご機嫌がナナメから真っすぐに成りつつあるところで、俺は、ティーナちゃんにさっき見たばかりの幻影の話をしてみる。
「エアルっ、マーク、どうして、私、ティーナを呼んだの?少女版」
「俯いていたら、メダルが目に入ったのさ」
「まぁ、かわいい、指輪で呼ばないで、エアルだけにあげたメダルでなんて」
「それに、ティーナちゃんのが、俺も話しやすいしさ」
「これも、いいわよね、チビッコ版は、エネルギー節約モードだから、ずっと帯同できるわよ」
「そうなの?ずっと?」
「呼び出された時に、本体は本拠に戻っているわ、だから、大丈夫、任せなさい」
「頼りにしています、ティーナちゃん」
「言っておくけど、魔力もチビッコ版だからね、それでも、クリスティーを凌ぐわよ」
「それって、チビッコ版って、言っておく必要ないと思います」
「とにかく、あの星の真下に移動してみましょう」
「今、いっちゃうの?ティーナちゃん」
「行っちゃうわよ、だって、真下なんでしょ、そのクールな白い島」
「それは、幻影によるとですけど」
「計算しなさい、ここから見上げて、あの星の角度は、およそ四十五度程、そこから真下、その海上と現在地を結んで」
「ティーナちゃん、算盤勘定は、プラムじゃないと」
「星を読んで、方角を見極めるのと同じですね」
「そうよ、ロコちゃん、星と海上を直角にして、こちらを四十五度にすると」
「ティーナ先生、一対一対二の平方根なので、一、進めばいいんですね」
「正解、星との距離から商を求めて、そこに飛ぶのよ」
「先生、頭痛くなってきました」
「エアル、魔法も、錬金術も、学問が大事なのよ、サイコロ任せの行き当たりばったりは、ダメよ」
「・・・・、励みます」
ティーナちゃんとロコは、難しい方程式を甲板に書きながら計算している。
解が出るまで、大人しく待っておりましょう。だって、仲間に入れないんだもん。難しいことは、先生と航海士にお願いして、こちらは、緑の肌を攻略しましょう。
俺は、狙いを定めて、南京豆をオロチちゃんの襟の合わせ目掛けて、一つ、二つと放り込むことに成功した。
「いやーん、中まで、入っちゃったじゃないよ~」
「今、取ってあげるからね」
「いいわよ、エッチっ~」
「探してあげるよ、どれどれ、見せてごらん、暗くてよく見えないねぇ」
「いいってば、ほら、出て来たじゃない、裾から、二つ」
「あ~ん、ちょうだい、ちょうだい」
「まぁ、可愛い、美味しくなっちゃったわよ、はぁ~い」
「マーク!何してるの!計算ができたわよ」
俺とオロチちゃんの夜のお店ごっこは、強制終了となりました。
なにとぞ、ブックマークと評価をよろしくお願いいたします。
また、ご感想をお聞かせくださいますと、うれしいです。
執筆と更新の励みになりますので、作品と併せてよろしくお願いいたします。




