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北へ


 波の揺れが、心地よい眠りの世界に、この俺をいざなってしまう。


 甲板から見上げる空は、青一色。爽やかな風が身体をすり抜けていく感じが、とっても気に入っている。


 どのくらいの日数を費やすのかも分からない航海って、初めてのことかもしれない。今までは、ロコがカモメさんの情報部によって、ある程度の予定が見込めたが、今回は、北へ向かうだけの手掛かりしかない。漂流していた三桃ちゃんの船だって、俺達が見つけた海域に流れ着いたのか、処刑の時に、魔法で飛ばされたのかさえ定かでないからだ。


 お天道様と星を頼りに北へ北へとロコは、船を進ませている。


 新居の完成と三桃娘をお披露目する為に、女神の指輪を摘まんで、クリンクリン可愛がって、久々にアルカティーナとクリスティーをお呼び立てしたホームパーティーも、もう一昨日のことになる。


 ゲリアの地を再興させたい気持ちは、女神たちも共感してくれている。ただ、新居祝いの品が、二人揃って丸被りってことには、似た者同士であることが、再確認させられた。


 どうするんだいこれ?


 広間には、実物大の五尺六寸はあるセミヌードの女神像二体が鎮座している。迷惑な贈り物であることこの上なし。


 見た感じ石像と思われる二体は、重さも実物位で、尚且つ、温かく、柔らかく感触もリアルなのである。ちょっと、リアル過ぎて、気持ち悪いが、要りませんとは、俺には言えなかった。


 恐らく、きっとおしゃべりも出来る機能も付いちゃっているじゃないかしら?なんなら、瞼を閉じたり、開いたりしながら、ミルクも飲めちゃいそうである。


 マリーとネクター、ボタン、ハタンの我が家の魔法使いカルテットは、その後、朝晩、手を合わせて拝んでいる始末。玄関の門扉の両脇にでも置きなおせば、魔除けになると思うんだけど、そんなことしたら、きっと、俺は、その石像に首輪でつながれた狛犬にでも、されちゃうに違いない。


 二人の女神にカルボーアのことを尋ねたところ、その名も、存在も聞いたことが無いとのことだった。しかしながら、ゲリア村の言い伝えでは、北の果て、北の空の不動の星が頭上から見下ろす所に、魔法の種子が芽吹いたと聞いたことがあると話してくれた。それがカルボーアを意味しているのかは、分からないらしい。


 三桃ちゃんたちは、金髪ではない魔法使いの親分の一人、ブルネットの栗毛の女神様に興味津々で、その髪の毛に触れながら、頬ずりまでしちゃっている。そこまでされたら、アルカティーナが家族の証である女神の指輪を三桃ちゃんにも授けたのは、自然の流れだろうさね。ルルごめんよ、模造品を作らせてあげられなくて。ホンモノが頂けちゃった。


「ロコ、カモメさんに情報提供をお願いできないのかい?」

「聞いてはいるんだけれど、まだ見聞きしたカモメさんは、現れないのよ」


「それだけ、遠いいってことなんだろうね」

「うん、あと・・・」


「あと?なんだい?」

「本当にあるのかしら?ってことも・・・」


「あるだろ、我が家のピーチ姫たちがいるんだから」

「そうだけど、私たちだって、時間をひん曲げられるのよ、空間だってひん曲げられるんじゃないの?」


 なるほど、ロコの言う事にも、一理ある。


 魔法使いの国なんだもんな。想像では、女神輩出の国と仮定したんだから、それくらいの事は、朝飯前なのかもしれない。そうすると、俺達のお船は、永遠にたどり着けないんじゃないかいな。

 でもだよ、だとしても、こちらの世界に送り込むことが出来ているんだから、逆に潜り込むことだってできるでしょう。多分。


 今回の航海は、先発隊として、お船には、欠かせないロコと俺の腿には、欠かせないオロチちゃん?腿と桃が違うけどって、いや、腿にも欠かせなくはないか。そして、チューちゃん、前回の食料調達隊の三人と一匹で、場所探しを目的にしている。

 場所が特定できれば、俺達には、逃げかえることも、再び訪れることも造作もなくなる。


 後発隊は、うちの広間で女神像に見守られながら、髪の毛の念力で具に見ていてくれているらしい。無論、三桃の金髪も今回から俺の巾着の紐には、しっかりと結ばれている。

 まぁ、的外れな目的で、見張っていなけりゃ、とっても心強いことなんだけれども、如何せんうちの美人さんたちは、目の付け所が違うので、こっちは、こっちで気にしないで、参りましょうって感じだね。


「オロチちゃん、今日のご飯は、何にするんだい?」

「今回は、食料もちゃんと積んできだから、釣りをすることもないのよ」


「釣らなくていいのも、ありだね」

「マークは、女の子を釣りたいんじゃないの?オンナだらけの国で」


「オロチちゃん、だから、目を光らせましょうね、ゴールド・ラッシュを求めているのよ、エッチなマークは」

「ロコまで、何いっているんだか、それより、ご飯ちゃんと頼むよ、オロチちゃんの味付けは・・・」


「分かっているわよ、何、作ろうかなぁ?」

「マークってイジワル、そんなこというと、チューちゃんをそのまま、お口にねじ込んじゃうんだから」


 そういえば、食料は、一週間分くらいだったよな。どこにも辿り着けなかったら、行きかえりで、精々、三日ってところだな。釣り道具もあるから、それも必要になるかもしれない。あと二日で手掛かりをみつけられるのかしら?


 賢いプラムが用意してくれた割には、兵たんが少ない感じだよね。行きかえり分を見込んでないんじゃないの?あらっ、珍しいこともありそうだ。それとも、しっかり者のプラムのことだから、倹約しているのかな、家計の切り盛りは、大変だもんね。


 いくらアンクレットやドラゴンの牙があるからっていっても、テレポーテーションに頼り過ぎてはいませんか?どこにいても、帰って来られるって思っているんでしょ。


 まぁねぇ、俺だってわかっているさ。一度知っちゃうと戻れないのが、人間の性ってものってことくらい。文明に後戻りはないわけだ。納得。使えるものなら、活用しない訳ないものね。


 景色の変化のない大海原を進んでいくのは、感覚的に、凪いでいることも有るが、全く進んでいなくて、ただ時間が止まった世界に俺達のお船がポツンと浮かんでいるような錯覚に陥ってしまう。


 ロコもオロチちゃんも同じように感じているようで、ちょっと不安な感じなのか、二人とも肌を触れ合うように、傍に寄り添っている。


 そして、静かだ。波の音も、カモメの声すら聞こえない。


「静かだねぇ、あれから半日、風景が変わらないと、進んでない感じがするね」

「うん、そうなのよ、でも、雲の流れと日が暮れて明るさが変わってるから」

「ちょっと、気味が悪い感じよね」


「そろそろ、夕餉にしましょうよ、ロコの味付けの牡丹鍋」

「獲ってきたのは、ワタシよ」


「オロチちゃん、わかってますよ、だから、魚でなくて、お肉が食べられるんだもんね」

「毛付の生肉を食べさせるわよ」


「お料理も勉強してね、火を通すお勉強」

「わかってるわよ、ロコに教えてもらうわよ」


「ハイハイ、ケンカしてないで、食べましょうね、キノコもいっぱいよ、海で山の幸って贅沢でしょ」

「兵たん持たせてくれてありがとう」


 様子を伺ってくれているだろうお家の六人に向けて、夕餉の頂きますを三人と一匹で申し上げます。因みに、チューちゃんには、ロコが南京豆を頬張らせています。


 一方、お家の広間でも、夕餉の準備が整って、今まさに鍋を中心に六人が囲炉裏を囲んでいる。こちらも同じ牡丹鍋、昨日オロチちゃんが仕留めた猪が食卓の主役なのだ。こちらの料理長は、プラムなので、お船の味付けとは、同じ食材でも異なっています。


「ねぇ、おねえたま、いい匂いがしますわね、赤いお花のようなお肉ですわね」

「ボタンちゃんの大好きな、ボタン鍋よ」


「ボタン???」

「猪のお肉が牡丹の花の様なので、牡丹鍋っていうのよ」


「名前からして、美味しそうね」

「早く、ちょうだい」


「プラムは、お料理もお上手で羨ましいわ」

「ルル、マリー、妹たち、お料理と算盤勘定なら教えられるわよ」

「プラムお姉たま、教えてくださいまし、お料理も、お帳場も、賢い良妻賢母を目指します」


「現状は、ロコが、マークの胃袋を抑えているから、私も、もっと上達しなくちゃ」

「プラムは、この辺にしておいてよ、これ以上、上達したら、追いつけなくなりそうね、私たち」


 マリーとルル、御心配には、及びませんことよ。ちゃんと、教えてられる得意が二人にだってあるじゃないか。三桃ちゃんたちもそうだよ。俺も頑張らなくちゃね。


 ハタンが、人差し指に嵌めている一昨日貰ったばかりの指輪を、クリンクリン弾いている。しし鍋の猪肉と椎茸を摘まみ出そうと右手で箸を持とうとしたとき、クリクリしたまま、ギュッと摘まんで、弾いてしまった。


 鍋の煙と湯気が、たちまち増幅して、部屋中に満ちて来た、天井の見えない先の方から一筋の光柱が、床まで貫いたと思うと、石像と全く同じ女神様お二人が、我が家の一間しかない広間にお出でなさいました。


「なんと、新居祝いの宴が済んだばかりというのに、お肉を一緒にというのだな」

「ティーナ、かわいい家族は、思いやりがあるのう」


「まっこと、クリス、いい家族が、二百数余年ぶりに帰ってきたわね」

「あらっ?マークは?」


「エアルは?さしずめキンパツ魔女狩りにでも、出掛けたのかしら?」

「そうなんです、ティーナ様、私をおいて、新しい金髪がほしいようです」


「金髪だけが、美しいわけでもあるまい」

「そうですよね、この、サファイヤブルーもマークのお気に入りです」


「金が一番ですわよ、この光を受けて、黄金色に輝く三姉妹の髪」

「成金っぽくて、下品よね」


「プラムお姉さま、ひどーい」


 図らずも、呼び出してしまった我が家のご意見番を無下にするわけにもいかず、これでもかと、歓待を余儀なくされるファミリー。楽しそうじゃないか。


「そうか、やっぱり、赴いたのか、そのカルボーアとやらに」

「ええ、かなり、乗り気でしたよ」


「私は、世界の違う魔法は、色々と危ないと思うけどね」

「そうね、新しいものは、理解できないものね、でも、ティーナは、手伝うんでしょ」


「クリスぅ~、抜け駆けしないでよね」

「だって、金なんでしょ、私が必要でしょ」


 女神の考えは、至極、的を得ていることである。


 あの、ちょっと、夕餉の猪肉に夢中のご様子な我が家の食卓。俺達の見守りは、どうなっているの?ちゃんと見てますか?まぁ、いいか、こちらの牡丹鍋は、締めの雑炊に移っております。


「ロコのご飯は、いつもながら、美味しいわよね」

「だろ~、ナマばかりは、よくないよ、オロチちゃん、お刺身ならいいけどさ」


「意地悪ばっかり、いいわよ、ちゃんと、ロコに教わるから」

「うん、簡単よ、オロチちゃんは、合体の仕方を私に教えてね」


「うん、教えちゃう、脚をこんな感じに絡ませてね」

「あっ、イヤ~ん」


 ロコが合体の仕方を習ってもできる様になるのかしら?出来ちゃったら、それはそれで・・・。


 悪ふざけは、この辺にして、夜空の星を見ながら、船が本当に北へ進んでいるのかを確認している。


 久しぶりに、ロコが、天使の笛を取り出して、口に銜えた。


 夜に笛なんて吹いちゃうと、蛇が来ちゃうよ。もう、俺の横にずっと、来ていますけれど。



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