甘酸っぱい香り
ロコとプラムは、さきほど、俺が釣り上げた魚を捌いている。
オロチちゃんはというと、大き目の鍋を手に甲板を歩いてくる。
マリーとルルは、持ち運び出来る焜炉の配置に余念がない。
甲板上にて頂く、いつもの夕食前の光景であるが、実に手際が良く、連携の取れた動きである。
そして、それを横目で追いながら、俺は、倉庫から持ってきた牛蒡を自慢の果物ナイフでささがきにしながら、三人の魔女っ娘に対処している。
マリーお得意の衣出し魔法による産物を身に纏って、少しだけ、気持ちを落ち着かせたように見える三人は、立ち込める今夜の献立の香り誘われるように、食器や食膳の支度をしている。
夕食の支度の風景に同化していく三人は、極々自然極まりなく見える。この分だと、既にボールギャグを外された堅いお口も、ゆるゆると軟らかくなってくることだろう。
食べ物のチカラって、本当に絶大だね。
そうそう、俺達も耳栓を外して、三人も口枷もないので、生の声を聴かせてもらうことになるのだが、もう、呪われる心配をすることは、無用でしょう。
だってねぇ、お腹ペコペコリンの者しか、この甲板には、いないのだから。
いつもの通りに、鍋を取り囲むようにして、腰を降ろして、出来上がった夕食を頂きましょう。
取り急ぎの有り合わせの具材での食事だけれども、鍋にしちゃえば、とっても豪勢な感じに見えちゃうのが、鍋料理のイイトコロでありますよね。
夕餉を頂きながら、単純なもので、蟠りをなくした面々が名乗りをあげる。
まずは、俺達ファミリーが順々に名乗って、ようこそとばかりに、みんな一様にペコリと頭を下げた。さっきは、イジメていたわけじゃないからねって、感じかな。それを受けた魔女っ娘の三人も今度は、本当に自らの声を披露するように、名乗り始めた。
「お控えなすって」
「早速のお控えありがとうござんす」
「手前、生国と発しますところ、北の果てのカルボーア、名はネクタリン、長女でございます。人呼んで、光と火と水を操る三つ子魔女の三姉妹と申します」
あららっ、股旅物かしら?今どき珍しい仁義を切ってくださいましたわ。
三つ子だったんだね、通りで、ソックリなわけだ。分身の術か何かと思っちゃっていましたわ。
冗談ですけど。
「私は、ふざけないで普通に、話しますわね、私は、次女のボタンキョウです」
「私は、三女のハタンキョウでーす」
ネクタリンにボタンキョウ、それに、ハタンキョウ。
これまた、甘酸っぱい香りが漂ってきそうで、美味しそうな娘さんに、ぴったりの名前ですね。違った、綺麗な娘さんに似合ったカワイイお名前と言いたかったのです。
「私たちは、国の禁忌に触れたために、所払いの刑になったのよ、ねぇ~」
「所払い?」
「ええっ、国外追放ってことだったわね、でも、その場で命を奪われないだけで、事実上の死刑と同じなのよ」
「死刑じゃないでしょ、殺されてないもの」
「でも、縛られて、食べ物も無しよ、そして、こんなボロボロの船でサヨナラですよ」
「それでも、死刑じゃないと思うよ。現に生きているし、君たちは魔法使いなんだろ、魔法で何とかできるでしょ」
「それが、そう上手くいかないのよ、自由が効かない身体では、狼煙のまぼろしが関の山だったわ」
「やっぱりそうだったんだね、でもその狼煙が、俺達を釣り上げたんだよ」
「釣り上げられたのは、私たちの方でしょ。お腹いっぱいにしたら、どこかに売り飛ばすんでしょ」
「お望みとあれば・・・・」
「ウソですわ、助けてくれてありがとう。この変態野郎!」
「聞き間違いかな?ありがとうの後が、良く聞こえませんでしたよ」
「仕方ないわよ、誰が見たって、マークは、ヘンタイさんだもの、ねぇ~っ」
「何、言っているんだい、マリーが吊るして、プラムがパンツを切り裂いたんでしょ」
「バカ言わないでよ、マークのして欲しいことをしてあげただけよねぇ~、プラムっ」
「そうよねぇ~、マリーの以心伝心で、私に、パンツ脱がせたいって言ったくせにぃ~」
「本当かい?俺が、ホントに??、頭の中で、いったの?そうだったっけなぁ~」
心の声が、聞こえちゃったのかしら?????
コワイ。
三人の魔女の顔に笑みが戻っている。とりあえず、救出&救難については、一段落したという事であろう。
「ところで、ネクタリンたちは、何処へ行くとか、決めているのかい?」
「うううん、決めてないわよ、まずは、縛られているのをなんとかと思っていたから」
「マーク達は、航海の途中だったの?」
「違うわよねぇ~、ちょっとそこまで、今晩のおかずの調達に散歩がてらに出掛けただけよね」
「どうして、意地悪な事いうのかねぇ、成り行きで、お船で沖まで出ちゃっただけなのに」
「だけねぇ、ロコのデート戦略に乗っかっちゃったんでしょ」
「私、戦略なんてしてないわ、お魚を釣るためよ」
「へぇ~、それで、ゴールドちゃん大漁って訳ね。良かったわね、美味しそうよね、ギュッ」
「痛いなぁ、ルル!どうして、つねるんだよ」
「だって、金色いいなぁ~」
「ルルのサファイヤブルーだって、とっても綺麗だよ」
「本当?好き?」
「うん」
「わーい」
「青だけじゃないでしょ~、マーク!」
「もちろんだよ、確認しなくても、大好きです」
「マークの興味って、カラフルなのね、色好みのヘンタイさんなのね」
衣の上から手で、下っ腹を抑えて隠しているのだろうか、三つ子ちゃん。
ちょっと、失礼じゃありませんか。
「もう、その北の果てお国には、本当に戻れないの?」
「そうね、戻ったら、戻ったで、向こうも困るでしょうね、だって、事実上の死刑だから」
「そうなったら、本当に、磔の刑にされちゃう危険性が高いわよね」
「大体、どうしてまた、そんな大罪を犯してしまったんだい?」
「どうしても、食べてみたかったのよね」
「そうよね、味が知りたかったのよね」
「そしたら、オマケもついてきちゃったのよね」
「味?オマケ?」
ネクタリン、ボタンキョウ、ハタンキョウの三人は、国で禁忌事項といにしえより、禁じられている、禁断の果実を口にしてしまったというのである。それは、国の管理する一箇所でしか実を実らせることができない神事の儀式のみにつかわれる果実だった。
禁断の果実の正体は、産毛が美しく、穢れを知らない少女の頬のような白桃のことだと教えてくれた。いくら、神事に使われる白桃であっても、死刑にされては、堪らないと感じられた。しかし、そんな単純ないきさつでもなろうことは、明らかだ。それと、ハタンの言っていたオマケも気にかかる。
「ハタン、おマケって?もしかして、万歳した男のオモチャ?それとも、天使のおもちゃ箱のこと?」
「万歳?天使の?違うわよ、禁断の声を手に入れて、言葉を操る魔女になれたのよ」
言葉を操る?一体どういうことなのだろう?さっきの呪いの言葉と言い、言葉を操る魔女になったという意味に少し、いや、かなり興味がわいてきた。
新しい魔法の習得の目論見からも、かなりの角度で、知りたいモードに入らされている。マリーに覚えさせようかな?それとも、いい加減に魔法の修練に勤しまなくてはならないと、伯母上からも、クリスティーからも口が酸っぱくなるほど、お小言を頂戴しているから、俺が教えてもらおうかなぁ?
できるかな?まだ、何一つの魔法もつかえないのにね。ねぇ、どーやって、まほーって、使えるようになるの?俺もできるのかしら?
血筋っていうけど、勇者の血じゃなくて、ペテン師の血筋だぞ。まぁ、マナニーニは、正当な魔法使いだけどさ。使えるようになるなら、使えるようになりたいってのが本音だよね。
欲深いのは、誰だって同じだよね。いけないことででしょうか?
俺って、悪い子ちゃんなのかしら?
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