呪いの言葉
ロコとオロチちゃんは、やはり、まともには、歩くことが出来ないらしく、甲板からの下への階と続いている階段を転がるように落ちていく。
ロコは、身体を丸く丸めて、転がる自由落下に身を委ねるようにしている。その方が、ケガをしないだろうし、とても早く目的地である船底まで辿り着けると考えているんでしょう。多分。
行き当たりばったりで、転がっている訳じゃないはずだ。
バタン、ゴロンゴロンと最下部の船底床に、ロコの身体が叩きつけられる。
「イテテ、首と足首が、ちょっとヤバイかも」
「ゴメンネ、ロコ、でも、上手に丸くなっていたわよ。私の身体も、いろいろぶつかったけど」
「うん、早くここまで、来られたわよね、オロチちゃんがクッションになってくれたんでしょ、アリガト」
「そんな、ロコ、ちゃんと守るわよ、マークと約束したもん」
ロコは、立ち上がり、オロチちゃんは、ロコの脚から身を解離して、鎌首を大きく擡げたまま、目の前で縛り上げられているように見える三人の娘を見つめている。
見つめられた娘たちは、正に蛇に睨まれた蛙がごとく、目を見開いたまま、驚きから声すら発することも出来ない様子だ。そもそも猿轡をさせられているから、声は聞こえる訳もない。でも、その者たちの目を見れば、驚き慄いていることは、確かなようだ。
ロコは、俺の少しだけ大きく、ちょびっとだけ逞しくなった果物ナイフを手にしたまま娘たちに近づき、間合いを詰めていく。薄暗い船底でキラリとナイフが輝くと、オロチちゃんの二股に分かれた長い舌先も、ツヤツヤと艶めかしくテカリながら目標に近づいていく。
「あなた達は、ここで、何をしているんですか?」
「・・・・」
「事件ですか?事故ですか?救急ですか?火事ですか?」
「・・・・」
「そなた達は、新手のプレイを楽しんでおるのかや?」
「・・・・」
オロチちゃんは、転がっている三人の娘を取り囲むように蜷局を巻き始めて、その鎌首は、それぞれを上から覗き込むような体制でロコを待っている。ロコは、先ほどよりも更に、少しずつ間合いを詰めて、果物ナイフを頭上に振り上げる。それを見た娘さん達は、縮み上がるように体を丸くして、固く固くその目を閉じ切っている。勢いよくではなく、素早く慎重にロコは、三人の猿轡をナイフで切り落とした。
「さぁ、あなた達は、この船で何をしているの?」
「・・・・」
「船の中には、煙は見えないけど、船には、火が付いているかもしれないわよ」
「あなた達こそ、ここで何をしているのですか?」
「えっ、あなた達の船を見つけて、乗り込んできたのよ」
「わぁっ、海賊ですね」
「ちっ、違うわよ。助けようと、様子を伺いに」
「私たちを殺すのね、その大蛇に食べさすのでしょ」
「なんか、感じ悪いわね、あなた達」
「海賊が、私たちを弄んでから、売り飛ばしたり、殺したりするのね」
「本当に、いけ好かない感じねぇ、オロチちゃん、帰りましょ」
オロチちゃんがロコの脚に再び巻きついていく、ロコは、三人に背負むけて階段の方向へと、またもや、歩き辛そうに進んでいく。今度は、上りだから、上がっていけるのかしら。
「待って!手足の縄も外して!」
「外してくれないと、呪いの言葉で自由を奪うわよ」
ロコは、一人の娘のその言葉に振り向きかけたが、オロチちゃんが、透かさずロコの腿に吸い込まれるように刺青になって、驚異のアシスト歩行を開始する。
と同時にチューちゃんが、上の階からロコの肩に落ちてくると、口に含んでいた南京豆をロコの両耳に一粒ずつ押し込み、自らの耳を畳んだ。
その様子を察するようにオロチちゃんも刺青姿の絵柄の耳穴を墨で塗りつぶした。
縛られたままで、猿轡だけを外されて、口の自由を得た女の子が、何やら呪文のようなものを囁いている。
その後に、残りの二人も、意味不明なことを、唱え始めた。
チューちゃんを肩に乗せたロコが、甲板の出入り口から、海賊のオモチャのように飛び出して来た。そう、とてつもない勢いで、跳ね上がってきたのだ。
「マーク、耳を塞いで」
俺は、無音の世界のまま、ロコが飛びついてくる光景をまるでスローモーションかのように見ている。ドカッっと、ロコがぶつかるように両手を俺の首に回しながら、抱き着いてくる。
俺も、甲板の上に寝転んだまま、ロコを抱き留めた。
「マーク、耳を塞いで」
「あっ、南京豆」
そうなのよ。チューちゃんと俺は、南京豆を顔の穴に、何個入れられるのかを競い合っていた最中だったのよ。下らない事この上なくて、面目ない。
だから、俺の鼻の穴も、耳の穴も、南京豆で塞がれている。チューちゃんは、お口にしか入れられないと、強烈にお口に詰め込んでいた。俺の口は、チューちゃんより大きいので、公平を期す為にも、俺は、口以外での勝負と相成ったのだ。
オロチちゃんの姿が見当たらないと思っていると、美しいムチムチのロコの太腿に濃紺のヘビのイレズミが入っている。もしやと、その刺青に見とれていると、たちまち実体化した蛇が俺の脚に巻きついて、瞬時に肌に溶け込んで、刺青となった。
「マーク、聞こえる?」
「ああっ、オロチちゃん聞こえるよ、でも、声じゃないよね」
「うん、刺青から、身体を通して話しているのよ」
「俺も、話さなくても聞こえるんでしょ」
「もちろんよ、今、船底の女は、私たちに呪いの言葉を浴びせているのよ」
「呪いの言葉?」
「だから、みんな耳を塞いで聞こえないように、聞かないようにしているのよ」
「なるふぉど、俺は、既に、南京豆で塞がっているよ」
「知っているわ、バカねぇ~、うふふ」
「でも、これが、役に立っているんでしょ。チューちゃんは、言葉が分かるのかもね」
「ロコが猿轡だけを切り解いてあげたら、いきなり」
「じゃぁ、このまま、船に戻って、逃げる?」
「いいけど、他の者が見つけたら、今度は、呪いの言葉の餌食よね」
「じゃぁ、仕方ないから、もう一度、猿轡をしに行くか」
俺は、巾着の紐に括り付けられたファミリーの髪の毛を握りしめて、念をゲリアの我が家で待っているマリー、ルル、プラムに送る。
熟れてきているのか、感度良好に通信できるようになってきている。
「マーク、長い散歩ねぇ、どこまで行っちゃったの?」
「三人とも、よく聞いてくれ、まず、耳栓をしてくれ、綿でも、豆でもいいから、音が聞こえないように」
「バカなこといわないでよ~」
「早くしてくれ、しないと、進めないぞ」
「ハイハイ、綿を濡らして、詰めたから、本当に聞こえないわよ」
「よし、そしたら、そのまま、アンクレットのテレポでここに来てくれ、今すぐに、待っているよ」
「なによ~、いきなり」
そうは言っても、間髪を入れずに三人は、それぞれのアンクレットの石に掌を当てて念を投じている。
いつものように、光に包まれたかと思うと、それぞれがそれぞれのアンクレットの石に吸い込まれていく。そして、新居の床に三つのアンクレットがメビウスの輪を描きながら回転している。
それぞれがパタンと倒れて止まった時、アンクレットそのものもまた、床から消えてなくなった。
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