船出
「私は、ロコ。この船の奴。自由にしてくれてありがとう」
「俺は、マーク。元労働者で、今は、旅人って感じ」
「私は、マリー。優秀な魔法使いで、マークの思い人」
「思い人?マリー?嘘を教えちゃいけませんな」
ロコは、代々この船の奴だと教えてくれた。召使の家系なのだろうか。自由と引き換えに協力を申し出てきた美少女。この目を見る限り、俺達を騙しているようには、思えない。孤児院を出てから出会った女性では、話も筋が通っていることと、なにより、一番正直さを感じる。そして、わざとらしくない色気をムンムンと醸し出している。
「俺たちは、ゲトレに行きたいんだが、ロコは、行き方知っているの?」
「知らないわ。でも、大丈夫、任せておいて」
ロコは、船首に立って歌い始めた。すると、どこからともなく、カモメが数羽飛んできて、ロコの顔の周りをクルリクルリとした後に、またどこかへ飛び去って行った。
「ここから南西に、一週間の所にあるらしいわ」
「どうして、分かったの?魔法?」
「カモメに聞いてみたのよ」
「カモメ?」
「私、動物とお話ができるのよ。信じてもらえないけど」
「えっ、そんなことができるの?魔法よりもすごく実用的で、役に立つね」
「えっ~それ、どういう意味なのよっ」
とっても、マリーは、不機嫌な様子だ。
「ゲトレに俺達を届けてくれたら、本当に、ロコは自由になれるよ」
「はい、自由になったら、皆様のお供をしてもいいですか?」
「えっ、お供って」
「自由が欲しい、でも、その後、どうすれば」
「自由って言うのは、自分でやりたいことを決められるってことだよ」
「なら、私も一緒に」
「まぁ、いいか。仲間は多い方が楽しいかもね」
「マーク。この浮気者!」
「いいじゃないか、ロコは、恩人だよ。こうやって、ファミリーって増えていくのかな」
「ファミリー。やっぱり、お婆ちゃんが言った通りだ」
「なんだい?」
「私の家系に伝わるお話で、いつの日か積年の願いをもたらす光が差し、導かれるって」
「光?」
「それ」
ロコの指さす俺の胸には、巾着の革袋がホタルのように淡いが力強く点滅している。今まで光っていなかったのに。夕日の光の中でも確認できるくらいに黄緑色の光を放っている。俺は、革袋から賽を手のひらに出して、ロコに見せた。
「俺もこの光に導かれ?唆されて?ここまでやってきたんだよ」
「まぁ、導かれてでしょ。運命の光よっ」
「運命の光?」
「俺も、なんだかわからないけれど、後戻りできない状況で」
「伝説は、本当だったんだわ」
ロコは、ポケットから何かを取り出して、俺とマリーの前に差し出した。小さな革の巾着だった。
「あらまぁ。ロコも」
「何が入っているんだい?」
ロコは、中身を出した。小さな木片だった。
「ドラゴンの牙では、無いようね」
「これは、伝説では、家を成すものらしいです」
「家?」
「私とマークは、賽が入っているのよ」
次の瞬間、その小さな木片が、黄緑色に発光し、俺とマリーの賽も呼応するホタルのように二三度発光し、光を消していった。
「私、マーク様。マリー様にお仕えいたします」
「お仕えしなくていいさ。それと様はやめろ」
「そうね。ロコ。私もマリーで、そして、こやつもマークで」
「そっ、そんな」
「こやつは、ともかくとして、それでいい。召使じゃないんだから、家族、ファミリー、仲間なんだよ」
「そうよね。この世の中で、運命のファミリーなのよ」
「いいんですか?家族?仲間って?」
「自由に、自分の気持ちを言い合える関係。イヤなことはイヤ。自分はこう思うと言い合えるのが仲間、そして、互いに大切にと思い合う、これがファミリーだと思ううけどね」
「気にすることないのよ、このスケベ男を立派なオトコに成長させるのが、私たちの務めよ」
「スケベ男?」
「関係のないことを言うなよ。この、へなちょこ魔法使いが」
「誰が、へなちょこなのよ。私がこの船を手に入れたんじゃないのぉ」
「うふふっ、へなちょこスケベに、へなちょこ魔法使い」
「バカぁ~。自分だって、へなちょこ水先案内人でしょ」
ロコも、マリー同様に、会うべくして会った者なのだろう。本当に導かれているのかもしれないと感じられた。でも、三人でいるとなんだか、楽しい気持ちになれる感じがする。
久しぶりに、本当に笑った気がした。三人でたわいもない話をして笑っている。これが、本当に家族ってものなのかもしれない。望むと望まざると手にしてしまったこの家族、このパーティーを大事にしたいと思い始めている。
巨乳金髪の非の打ちどころのないボディでムラムラさせる、お馬鹿さん魔法使いと、短髪ボーイッシュで健康美が爆発している、こちらもブルンとボインのナビゲーター。俺は、女運が良いのだろうか?そういうことも頭にかすめながら、船は進み、夜も更けていった。
船に乗って、三日が経った。ロコによれば、順調に船は進んでいるらしい。
ゲトレとは、一体どんな町なのだろうか?大体、ティーンから初めてよその町に行くのだ。それも船で一週間も離れた町に、好奇心よりも不安感を拭い切れないというのが本当の所だ。
刀鍛冶のカッチィーナとは、どのような者だろう。祭司も代々の言い伝えと言っている以上、その者も、俺同様に、それを受け継げし者なのだろうか。なかなか厄介な話であるな。その者は、現在も、刀鍛冶なのかも定かでないわけで。居るのか居ないのかも、行ってみなければ分からない。
冒険というよりも、トホホな放浪ってのが、しっくりくる感じがする。事実上、この船を略奪してしまったのだから、町に屯しているならず者となんら変わりない集団なのだ。
これが、勇者のパーティーなのか?大体、勇者って、自分で名乗るヤツなどいない。他人の評価のものだろう。それを受け継がされている時点で、頭がおかしい話である。綺麗どころと常に一緒に居られる身分は、なかなかのものだけれども、俺は、一体、誰に、何をさせられているのだろうか?
「マーク。これから、嵐がやってきそうよ」
「こんなに晴れているのに?」
「ロコは、なんでもカモメさんが、教えてくれるの?」
「いや、カモメじゃないわ。海のうねりをイルカが教えてくれてるの」
「なるほど」
「ゲトレの前に、どこか岸に船を着けて、嵐をやり過ごさないと」
「わかったよ、ロコに任せるよ」
「アイアイサー、てねっ」
ロコは、小さな入り江を見つけ、そこに船を着けた。嵐を凌ぐ整えを完了させて、一安心との顔をしている。
「今晩は、このままこの入り江に停泊させるわね」
「分かった。見事な判断。ありがとう」
「ロコは、本当に船乗りなのね」
「陸より、船の上にいるのが、長いから・・・、変?」
「いや、頼もしいよ。その胸の膨らみくらいに」
「キャっ、マーク。どこ見てるのよ!」
「マーク。マークのおっぱいは、ここにあるでしょっ!」
「ゴメンナサイ。マーク。私、ロコのオッパイも、あなたのモノでした」
「ロコ、マークは私のフィアンセなのよ」
「そうなの?でも、マークの私を見る目は・・・」
「マーク!どっちが、欲しいのよ!」
「マリーも、ロコも、何言ってるんだい。家族だろ」
「・・・・」
「・・・・」
「両方のオッパイが欲しいに決まってるじゃないか」
「この変態ヤロー、浮気者っ」
「どうぞ、仰せのままに」
「ロコ!、こいつは、変態よ」
「変態でも、私を解放してくれた勇者」
「勇者?知っているの?」
女二人に、自身を取り合われて何だか、嬉しい気持ちもさることながら、俺はこの先、まともに伴侶を得ることができるのだろうかと不安がよぎる。
俺って、こんなにモテモテのキャラじゃないはず、だった。これも運が向いてきたのか?二百一歳年上の魔法使いと、同い年位の野生少女。どちらも本当に美味しそうだ。
童貞の下半身は、この数日間は、はち切れんばかりなのに、この我慢は、俺しか知る由もない。これが、理性だ。俺は、エライ。
「ロコは、いくつなんだい?」
「十六よ。マークは?」
「同い年だ。マリーは、二百一歳年上だよ」
「ニヒャク????」
「バカぁ。一つよ、私は、十七」
「一つ、おねえさん。なんだ」
「なによ!」
「私は、まだキレイなカラダよ。マーク」
「なにを。私だって、マークだけの身体なんだから」
「えっ・・」
「待て、待っ。俺は、俺だッて・・・」
「誰とも?マリーとも?」
「・・・・」
ニヤリと、なんだか、ロコは、嬉しそうだ。マリーは、プンプンとご立腹な様子。
「ここの入り江から、上陸してみるかい?」
「どこへ?」
「なんかゲトレのことを知っている者もいるかも?」
「この入り江からは、町はないわよ」
「でも、誰かいるかも?」
「食料は、この船にあるから、調達の必要は・・・」
「マークは、船酔いで降りたいだけよね」
「あっ、ゴメンネ。二人は、船に慣れてないものね」
「そういうことじゃ・・・」
俺達は、船から降りて、真っ暗な浜辺に上陸した。月が出ていない。今日は、新月だったっけ?
水から上がって、森の中に入りかけた時、俺の胸の革袋がまた閃光と伴に、大きな木を指し示す。
「あっ、またまた、お出ましかな?」
予想通りに、祠が、木の根元に存在している。光に導かれるまま、近づいていくと、その扉がゆっくりと開き、神々しいクリスティーが出現してきた。
「新しい女を手に入れたのね。やはり、手が早い。この好き者めっ」
「なんなんですか?ゲトレに行く途中ですよ」
「マークのナビゲーターよ。大事になさい」
「・・・」
「オホホっ」
今回も、俺達三人が女神と遭遇している空間が、真っ暗闇の異世界のようになっていた。そして、今、気づいたのだが、今回は、俺達三人が、真っ裸だということだ。信じられないことに、一糸まとわぬ丸裸なのだ。
「イヤっ。キャーっ」
「あん、見ちゃダメっ~」
「おおっ、スゴっ。俺も、股間が苦しいぃ~」
その姿を楽しむように、クリスティーが口を開く。
「オッホッホ。男と女。本来の姿で己たちを確認せよ」
「確認?何を確認しなくちゃいけないの?」
「大きさ、色、形、匂い、いろいろと好みがあるでしょう。もっとも、ブルースカイはなんでも来いよね」
「俺達を弄んでいるのか?この色狂い女神め」
「自分の生き写しの私のハダカを見せつけたいのね?このマリーの」
「ダメ。見ないで。日に焼けていない部分は、マークだけの部分だもの」
「ハダカは、一番美しいが、そなたたちにそれなりの衣と装備を与えよう」
「装備?」
「マークとマリーには、この衣を。ロコちゃんには、この衣と天使の笛を与えよう」
「笛?」
「その笛の使い道は、そなた自身で見つけ出すのよ」
「クリスティー様、私には?」
「マリーちゃんは、杖があるでしょ。ああっ、新しい下着はあげましょう」
「おっ、俺は?」
「衣だけよ。マークは、勇者。剣もあるし、女もいるし」
気が付くと、三人とも裸ではなく、三人とも、こぎれいな旅人の格好になっていた。マリーとロコは、活動的な姿になり、新しい下着も貰ったらしい。
「まずは、ゲトレに入ること、そこから・・・。まぁ、いいか」
「ちょっと、俺達は、なんのために」
クリスティーは、いつものように、一方的に言う事だけ言って、祠に消えていこうとしている。
「待ってくれ、勇者って、これから、何する者なんだ?」
俺の言葉が暗闇に消えていくのと同時に、当たりが、入り江の森に戻っていた。
「今のは、一体、なんなの?夢?」
「夢じゃないわよ。私たちの格好を見てよ。それとその笛」
ロコは、手のひらに乗せている短い筒を口に当てた。
「キュルルルル」
静かで、軽やかな旋律が流れるとぼやっと、俺達は、靄のようなものに覆われ、ある風景が浮かび上がってきた。その中に男女が裸で縺れ合う光景が・・・
「イヤっ」
「あれっ?今のハダカの女は、クリスティー?」
「なんとなく、そんな感じに見えたわね」
もう一度、ロコは、笛を口に当てた。
「キュルルルル」
またまた、霧の中に包まれた。今度は、苦痛な表情のハダカの美しい女が、縛り上げられている光景が映し出された。
「イヤ~ん。これは、エッチな笛なんだわ」
「なんだ、なんだ」
「どうして、縛られているのかしら?変態に捕まったのかしら?」
「もう一回、ロコ。笛を吹いてくれないか?」
「キュルルルル」
今度は、美しい音色だけしか現れなかった。
「ただの幻覚じゃなさそうだ。これから起るお告げか?昔の記憶か?今起きていることか?なんらかのお知らせなのか?」
「新手のポルノ?マークの頭の中が見えちゃうんじゃないの?」
「バカっ。いつも、いつも、ヌードばかり考えているか!」
「そうなんだ。じゃぁ、ただのエッチな笛じゃなさそうだよね」
「そう?エッチな笛じゃないの?マークは、私に吹かせたいだけじゃないの?」
おそらく、何かの予兆を示す道具らしいことが想像ができた。水先案内人に相応しい装備ってことなのかな。しかしながら、どの装備も使い方が分からないので、手探りに試すしかないのが問題だ。
「装備って、みんな使えそうで、使えないモノ?役に立つのかなぁ」
「そんなことないはず・・・っ、だけどなぁ」
「不思議な道具って感じは、するわね」
「なんだか、どっと、疲れたな。船に戻ろう。村も無さそうだし」
「本当ね。でも、衣替えできたわ」
「そうね。元の服も、足元に、綺麗に畳んで置いてあるものねっ」
俺達は、今まで着ていた衣を拾い上げて、船に戻ることにした。
なんだか、この入り江に上陸したい気持ちになったのは、祠に導かれてのものなのかと、一杯食わされた感じで、モヤモヤするけれど、旅人らしい姿にしてもらえたのは、ゲトレの町でも自然に振舞えそうに思えた。
船に戻り、三人で食事をとった。なにしろ、この船には、船底に樽があり、食糧も金子の貯えもあった。また、見当たらなかった積み荷も、燃料の炭、お宝の布地の反物があった。本当に、外見からは、想像できなかった位に充実した物件、いや、船を博打の形というか、結果的に、強奪して手に入れてしまった代物らしい。
今となっては、本当にこの船が我が家だ。今まで暮らしてきた中で、一番快適で、居心地のよい場所を俺は、手に入れたことをググッと実感した。
「マリー、前から聞いてみたかったのだけれど、勇者ってなんなのだろう?」
「私もよく知らないわ。血を受け継いでいるだけじゃないの?」
「魔法とか、不思議な力とか、ないの?」
「ないんじゃないの。そんな簡単に魔法なんて身につかないものよ」
「じゃぁ、非力だな。難しい冒険なんて無理じゃん」
「冒険?マークとマリーは、冒険をしているの?」
「よく分からないんだよ。こうしろとか、ああしろとか、それでここまで来たんだよ」
「考えることなんてないんじゃないの?こんなにグラマーで、美人で、ムラムラする女の子に囲まれていられるんだから」
「そ、そんなに、見つめないで。さっきの私のハダカを想像しているのね。特に、日に焼けてない部分を」
「想像してないよ。今度は、スケスケ眼鏡でも、おねだりしてみるかな」
「何かの使命で、さっきの夢の中の女神に導かれるの?」
「だから、あれが、女神なのかも知れないモノらしいんだよ」
「女神クリスティーよ」
「マリーとクリスティーはどういう関係なんだい」
「私は、クリスティーに似ているのよ」
「似ているのは、似ていると思うけど」
「私の・・・。私は、女神様の末裔?選ばれし、勇者の相手?とにかく、マークを待たされたのよ」
「誰に?」
「女神クリスティーにね」
「二百年も?」
「う、うん。二百年、二百年って、言わないで」
「すっ、すごーい。マリーって、本物の魔法使いなのね。長生き~っ」
「ロコ!ふざけないで、生きている時間は十七年よ。閉じ込められていたのが・・・」
「もう、いい。俺が、悪かった。頭がおかしくなる」
ここ数日、こんな感じで船の上では、この堂々巡りの議論をしているが、いつも、分からないで終了する。
本当に、お馬鹿な三人だ。誰か頭の良いヤツが出てこないものだろうか。




