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流れ星


 冷たい風が吹きすさび、辺りは雪が積もって一面雪景色、いや、猛吹雪の山頂に、大蛇と一人の男が現れた。


 と言っても、誰一人、それを見ている者なのどいない。草木一本も生えていない荒涼とした山頂は、擂鉢状ではなく、剣先の如き頂を現している。

 白一色で、鍬の刃が突き刺さった腰から流れ出る真っ赤な血が、足元の雪に鮮やかに滲んでいく。


「お前、身体が存在しているな、石だけが残っている目論見だったはずが」

「ここが、いにしえの山頂なのか?」


「かなり昔に戻ったのに、もっと、昔じゃないといけないのかな」


 再びアロンは、ドラゴンナイトを右に捩じり込んで、あの呪文を唱えた。


「カ・シ・ム・カ・シ・ム・シ・マ・ウ・ラ」


 先ほどと、同じように、光と激しい渦に飲み込まれていく、独りと大蛇。


 再び目を開けるとそこには、赤い土だけに覆われ、激しい風が吹きつける禿山の山頂だった。


「まだ、お前さんもいるのか?」

「・・・・」


「やはり、捌くしかないのかな?」

「そなた、自由が効かないのに強気だな」


 アロンの足は、ガンメタちゃんの締め付けによって膝から下は、砕けているはずだ。


 まだ使える腕でアロンは、小さな笛を取り出した。見た目から、ロコの天使の笛によく似ている。幻影をみせるのだろうか、この男は、錬金術師で魔法の産物をいろいろ発明してきているらしい。幻影だけの為では、無いことが想像できた。


 すぐさまオロチちゃんが判断を下す。

 ガンメタちゃんの締め付けを解き、その尻尾の先で、アロンの手にされた笛と、アンクレットを奪い、その身体を赤い土の上に転がらせて、男から離れる。


「貴様、返せ!」


「貴様に、夢を見せてやる、今この世界に、生きとし生けるモノは、だだの一つもない」


「だから、心配するな。さぁ、返せ」


 アロンは、このような状況でも、俺達を説得できる自信があるのであろう。


 俺だけならば、騙されるかもしれないが、オロチちゃんが傍にいてくれる。そして、皮肉な事であるが、腰の辺り、ちょうど腿の上辺りの熱くズキンズキンとした痛みもこの憎しみの感情を増幅させる手助けをしてくれている。


 鍬は、大蛇姿の身体に突き刺さったままだ。


 冷静に考えれば、頭の弱い俺でもわかるのは、目の前の男の必死さである、この目に映るのっぴきならない表情から余程この道具が大事なのであろう。


(「マーク、大丈夫?」)

(「ああっ、オロチちゃん、かなりのキズだし、二人とも早く手当しないとね」)

(「そうね、早く逃げましょう、石の捻りの秘密が分かったわ」)

(「本当?捻り度合のこと?」)

(「うん、マークも分かった?あと、あの言葉も」)


 上半身だけの力で、アロンは、にじり寄ってくる。俺達の合体姿である大蛇のガンメタちゃんから、赤い土の山頂の大地に赤い血が滴り、水たまりのようになっている。こちらも、早くなんとかしないと、思うように動けなくなりそうである。


 その時、呪文も、さらには、石も捻っていないのに、先ほど聞いたような轟音が耳をつんざいてくる。空気を引き裂いて脳天をかち割るような衝撃が山全体を飲み込んでいく。


 とてつもない轟音は、音とも思えないくらいで、空気を震わせて、肌からジンジンと伝わってくる。


「なんだ、そなた、また、おかしなことを」

「魔法の暴発か?早く、よこせ、貴様もこちらに来い!」


 この男の発した言葉さえ聞き取れないほどの、衝撃的な轟音が頭の上から聞こえてくる。


 鎌首を天に向けて、正に天に昇る竜が如く身体を見上げて見ると、激しい光を伴って、太陽の様な真っ赤な大きなものが、青い空を引き裂いて、この場所を目掛けて落ちてくるのが目に映った。


 この世の終わりという言葉が一瞬のうちに思い浮かぶ。放心状態の俺とは違いオロチちゃんは、急いで、ガンメタちゃんの上半身のみを俺とオロチちゃんの姿に分離変身する。腰から下は、合体姿のままの大蛇である。


 少しの猶予も無いとばかりに、オロチちゃんは、アンクレットの石を左に、アロンが右に回した分を戻す様に捻りながら、大きな声である言葉を叫ぶ。


「ラ、イ、ミ、ラ、イ、ミ、タ、マ、タ、マ」


 そのあと、すぐさまにオロチちゃんは、俺の頬を両手で掴んで、前にもしたように濃厚なディープキッスをしながら、きつく抱き着いてきた。俺も両手でオロチちゃんを抱きしめる。腰から下は、一緒のガンメタちゃんのままだから尻尾までも、自分の身体でグルグルに締め付けた。


 その時、とてつもない大きな音と目を開けていられない光の洪水に包まれて、目も耳も全く効かなくなった。


 微かに、目の前の男、アロンが、水が蒸発するように消えていくのが見える。俺達も消えて無くなるのだろうと思いながら、俺は、目を閉じていった。


 耳を冷たい風がビュービューとかすめる。


 風の音だけが聞こえている。閉ざされた目を開けると、そこは、吹雪の中の山頂だ。先ほど俺達のいたところと思われる、雪の上にガンメタちゃんの鮮血が、残っているのが目に入る。


「戻ってきたのかな?」

「うん、一回分ね、もう一回いくわよ」


 オロチちゃんは、アンクレットの石を左にグリグリ捻りながら、再度、今の言葉を発する。


「ラ、イ、ミ、ラ、イ、ミ、タ、マ、タ、マ」


 光に包まれて、自分自身が消えていくのが実感できた。次の瞬間、俺達は、青空を仰ぎ見ることが出来る、擂鉢状の山の山頂に戻っていた。


 そうだ、ここは、今日、アロンに会ったその場所である。しかしながら、今、ここにアロンの姿を見ることはない。俺とオロチちゃんが、半分ガンメタちゃんの姿で佇んでいるだけである。 

  

 オロチちゃんは、すぐさま、ガンメタちゃんの姿から完全に俺とオロチちゃんの姿に分離変身してくれた。二人して、綺麗な青空を見るように仰向けに、地べたに寝転んでいる。


 俺の横には、腿から抜け落ちた鍬が転がっている。出血を伴ったのは、どうやら俺だけの様子だ、良かったオロチちゃんは、無傷のようだ。


「マーク、ひどい怪我」

「オロチちゃんは、大丈夫だったかい」


「うん、分離した時に、治癒したらしいわ、でも、マークが」

「とにかく血を止めれば、何とかなるでしょ」


 オロチちゃんが、傷口を舐めてくれる。緑の肌の美しい女の子のままで、舐めてくれても効き目があるのかどうか分からないが、とっても気持ちがよい。痛みを忘れてくる。


 オロチちゃんの舌は、腿だけに留まらず、腿の付け根まで丁寧に舐めてくれている。股のホクロを確認するように舌を這わせながら反対の腿まで舐めてくれる。そっちは、ケガしてないのでは。


 オロチちゃんの不思議の力なのであろう。俺の腿のパックリ切り裂かれた傷口は、縫い合わせたように塞がって、見る見る治ってきた。しかし、傷跡までは、今回は消すことが出来ないらしい。


 痛みが消えてくると、先ほどの光景が目に浮かんできた。あれが、アロンが話していた流れ星が天から降ってきたところなのであろう。


 丁度、その瞬間にかち合ってしまったのだ。時間操作の悪戯が出した結論ということであろう。自業自得というものであろう、村を遡って破滅させるなどといっているから、自らを消滅させてしまったのだと俺は、納得した。


 仇を討ったことになるのであろうが、特段気持ちを動揺させることもなかった。そんなことよりも。


 オロチちゃんは、呪文というか、切っ掛けの言葉と、石の捻り、鍵開け方式の仕掛けの謎を解いてくれたようだ。


 ここまで、戻って来られたのは、紛れもなく、オロチちゃんのおかげである。 


 今回の時空を超える渦は、場所を変えることは起きていない。隠れ教会から、ダハスの隣の島に飛んだ時とは、何が違うのだろう。今回と違うのは、羽の生えた渦巻模様とトンガリ石くらいしか思い当たらない。


 俺は、俺の身体から抜け落ちた血塗られた鍬を手に取り、アロンが掘り起こしていた山頂の擂鉢の最下部に刃を当ててみる。巾着から、いつもよりも激しい黄緑色の蛍光が発せられている。


 勢いよく、鍬の刃を力いっぱいに振り下ろす。カチンっと、何かに当たった。当たったというよりも、押してはいけないモノを押し込んだ感じが鍬の柄からドクドクと伝わってくる。


「いかんな、オロチちゃん、何かを掘り起こしてしまったらしい」

「なに?今の、カチンってこと」


 体中に振動と地鳴りが響いてくる、先ほどは、天から劈くような轟音が身体に響いていたが、今度は、足元からガンガンと響いてきている。


 急いでオロチちゃんは、俺と合体してガンメタちゃんの姿のなり、擂鉢状の山頂の底から、這いだすように淵まで登っていく。登り切ったか切らないかのところで、更に、とてつもない轟音を携えて擂鉢の底が真っ赤な輝きを零れさせたかと思うと、天に届くかの如く、赤くドロドロとした大地の源を勢いよく噴き上げさせた。


「キャー、火の山が、火を噴いちゃったわ、起きちゃったのね」

「俺達が、火の山を目覚めさせちゃったってことなのかな?」


「急いで、降りよう、ここまで来た穴へ、はやく」


 ガンメタちゃんは、山頂に続いた穴に、ドロドロの溶けた土に飲み込まれる寸前で飛び込むことができた。穴を滑り落ちるように、身体を一本のネジのようにグルグル回転させながら降りていき、山を登ってきた坑道まで、戻って来られた。


 その入り口の横には、入る前にも確認したが、羽の生えた蛇の渦巻模様が壁に彫り込まれている。隠れ教会との違いは、回りに秘密の言葉が円形状に彫られていないだけである。


「オロチちゃん、この渦巻模様の前で、もう一回試してみようよ」

「そうね、仕掛けが分かったしね」


 ガンメタちゃんが俺とオロチちゃんに分離していく。灯りのないこの場所で、俺は、視界を失っていく。肩に担いだ鍬が少し邪魔だけど、俺は、オロチちゃんの身体をしがみ付くように抱き寄せた。


「オロチちゃん、頼むよ」

「はい、それでは、アンクレットの石を、今回は、右でも左でもなく、そのままで押し込むように」


「そのままでね、でも、スイッチのように押した方がいいかもね」

「そうよね」


「では、どうぞ」

「エ、ヌ、ジ、ア、イ、ブ、ル、ス、カ」


 その言葉を発するのと同時に、オロチちゃんは、アンクレットの石をグイっと押し込むように力を入れた。


 俺も、負けまいと、オロチちゃんのオッパイのさきっちょをグイッと押し込んであげちゃった。


「エイっ」

「あっはぁ~ん、いや~ん、いきなりぃ~」


 俺達二人の身体を大きな光の渦が取り囲んで、回転する波の中に飲み込まれていく。この渦のグルグルも段々と慣れてくるのだから、慣れって、本当に恐ろしいものですね。


 そんなことを考えていると、渦の流れが優しくなってきて、すぅ~っと消えていく。真っ暗闇に放り出された俺達二人は、確認するように、声を掛ける。


「オロチちゃん」

「マーク、さきっちょが、オッパイにめり込んじゃったわよ~」


「どれどれ?」

「見えないでしょ、それに衣があるもの」


「ここらへんでしょ。ほら、引っ張り出して、ア・ゲ・ルね」

「あんっ、強く摘まんじゃダメよ~っ」

 

 オロチちゃんのさきっちょが、ちゃんとプクンっと出っ張ったであろうことを確認して、ここがどこなのかと思っていると、さきっちょを弄ばれて、悔しいような、嬉しいようなオロチちゃんは、またまた、俺との合体ベビ姿であるガンメタちゃんに変身してくれた。おかげで、辺りが良く見えるようになった。


 ここは、火の山のてっぺんに続く穴の前だった。


 そう、いま噴かせてしまった火の山のドロドロから逃れるために、飛び込んだ穴の出口のままである。


 しかし、オロチちゃんのさきっちょをイタズラする前と違うことは、壁に羽の生えた渦巻模様が無く、壁が焼け焦げているだけた。そして、穴が開いていたであろう所が、岩と岩でがっしりと溶接でもされたように、塞がれているのである。


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