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六人の輪


 モルシン・アルカ教の教会の中では、二人の女神と四人の美女が、相まみえるように激論を交わして、もう、ビジョビジョって感じである。美女、美女。


 確かに、みんな熱くなって、汗ばんでいることも事実である。


 アルカティーナとクリスティーは、思い出そうとすると、頭の中に靄が掛かって思い出せない記憶を辿っていく。


 勇者ブルースカイ、アロンの姿が思い起こされる。マナニーニが消えた日。


 マナニーニがその手にエアルを抱きながら、ドラゴンの羽が家に落ちてきたことを思い出す。しかしながら、その光景は、思い出されるのだが、それ以外は、モヤモヤとしたままである。村はずれに、確か四人で何かの実験をしていた場があったような気がするのではあるが。


「村はずれで、何かしていたような思い出?があるのだけれど」

「私もよ、それを思い出そうとすると、急に思い出せなくなるのよ」


「村、はずれ」

「大昔の魔術訓練の場が・・・」


「私たちが、魔法を習ったところ?どこだったかしら?」

「それが、思い出せないのよ」


「女神様、そういえば、村の長のアテルさんは、村の西に羽の生えたヘビを祭った教会があるといっておりました」

「そなた達は、昔の村に先ほどまで、いたのであろう」


「西の教会?覚えているか?クリス」

「覚えていないわ」


 アルカティーナとクリスティーの両女神は、自らの実体化を持続させるために、互いの耳飾りに手を添えて魔法の言葉を紡ぎ出す。


「エ、ヌ、ジ、ア、イ、ブ、ル、ス、カ」


 特段、何も起こらない様子だが、一瞬、二人の女神の身体が、黄緑色のいつもの光に包まれだけで、他の者には、変化を見ることはできなかった。


「これで、このままの姿でいられるわね」

「とにかく、その西の教会?跡地?を確認しましょか」


「昔のように、仲良しに戻って?」

「そうだな、そもそも。お前が、マナからアロンを引きはがしたのだ」

「それは、反対よ、ワタシからアロンを奪ったのよ」


 二人は、口論を始めたが、今、重要なことは、それではない。


 マークの行方が知りたい四人は、その声をシンクロさせる。


「女神様、行きましょう」

「・・・・・」


 女神二人を増やした六人は、アルカ教会を出て、坂道に出て来た。ゲリアの村がある方向で、その道を登り始める。既に夜も明けて、空が白々として明るさを感じられるようになっている。

 暫く、山へと続く道を進んできた一行は、夜中に四人が確認した藪で道の塞がれたところまで辿り着いた。


「これでは、進めないわね」

「でも、私たちは、この先から、この道を下ってここまで来たんですよ」


「そうでしょうけど、時間を遡れないから・・・」

「女神様のチカラ、魔法でもダメですか?」


「マリー、魔法で全てを解決できないわ、出来ていれば、あなた、二百年待たずとも」

「そうですか」


「さきほどの、呪文は、ずっといられる魔法では?特別なお言葉なのでは?」


「あの呪文は、どうして、唱えられたのでしょうね?クリス」

「ティーナも分からないで、唱えたの?」


 二人の女神は、困惑している。


 記憶の扉をこじ開けようとするも、それぞれの祠のごとく自動扉のような塩梅には、いかないらしい。


 ティーナが指をクルリクルリと回しながら、藪をつき示す。


 みるみると藪が左右両脇へと押し開かれて、人独りが通ることができるような獣道が出来上がった。その道を分け入って、坂道を登っていく。


「このままじゃ、埒が明かないわね」


 クリスが、指を鳴らして魔法をかける。


 瞬く間に、六人は藪の細道を三倍速くらいの動きで、つき進んでいく、目にも留まらぬ動きとは、こういうことを言うのであろう、誰かが見れば、天狗様が通っているくらいに思うのかしら。


 六人は、藪の中から円形の石垣のあるところまでやってきた。井戸のはずだが、淵から覗き込んだ先は、水もなく、いろいろな物が落ち込んで、底までもみることができない有様である。

 無論、村の家屋もない。昨晩寝ていた納屋もあろうはずもない。


「村が、一瞬で、廃墟になっちゃったわ」

「いや、時が流れたということなのだろう」


「では、時を戻せますか?」

「時を操る魔法は、できておらぬ?」


「出来てないはず?よね?」

「はずと、言われると、どうしてか、頭痛がしてくる」


「クリスもなのか?」

「まるで、思い出せないようにされている感じ、結構、昔から、あの子を探し出したころから」


 マリー、ロコ、ルル、プラムの四人は、為す術なく、クリスとティーナに付き従うしかない。ロコの肩に乗っていた白いハツカネズミが、何かに怯えるように話しかける。


「あっ、チューちゃん、どうしたの?」


 ちょうど井戸のこの辺りで、このネズミの頭蓋骨を見つけたのだ。先ほどの村はずれの光を見る寸前まで、この場所でベビに追い回されて、追い詰められていたというのである。


「この場所で、ヘビに追われていたようなのよ」

「ヘビねぇ、それは、関係ないだろう?」


「ヘビねぇ、ヘビって、なんかひっかかるわねぇ」


「西にあると聞いた、羽の生えた蛇の教会へいってみましょうよ」

「それしか無かろう」

「西のはずれって、とにかく、飛んでみるか」


 アルカティーナとクリスティーは、みんなで手を繋ぐように促す、丁度良いと思われる井戸の丸い石垣を六人が取り囲むように手を繋いで繋がった。


 六人の繋いだ手を雷のような光が端から端まで、円を描くように光の環を届かせると、そっと、ゆっくりと、石垣の周りを足が勝手に回りだす。かごめかごめと、口ずさんでみたくなったのは、マリーだけではないだろう。


 回転が速くなっていくうちに、景色は無くなり、白々とした空間に浮かびながら、六人の輪のみが存在している光景をみんなで見ている。


 頃合いなのか、定められた所なのか、六人の輪は、地面に降り立った。そこは、藪ではなく、森への入り口だった、里山の頂上へと向かう中腹といった所だろうか。


 マリーの巾着が黄緑色に光っている。マリーは、巾着の中から、賽子を掌に出してみると、賽の中心が息づくように点滅しながら光っている。


「マリー、ドラゴンの牙が、光っているのね」

「クリス様、ドラゴンの牙って、本当に牙なのですか?」


「牙と思い込んでいるが、なんだったけ?本当は?クリス」

「ティーナ、牙でしょ?マナがそう言っていたような?いなかった?ような?」


「でも、感あり、反応ありでしょ。マークもそれを持っている」

「どこが、その教会でしょうか?」


 辺りは、森で、どこにも、教会らしき建物もない。だいたい、時代が違うので、村自体もなかったことには、なかなか気が回らない。


 ルルの巾着も光ってきた。ルルも中身を掌に出すと、こちらは、黄緑色の蛍光ではなく、キラキラと金粉を撒き散らすように森の傾斜に蝶々が飛んでいくかのようにその光を靡かせる。


 ロコは、自分の巾着が光っていないのか確認するも、何もなっていなかった。プラムもアンクレットを人知れず確認していたことは、言うまでもない。


 クリスティーが、木々の間に何かの巣の様な穴を見出した。


「穴が開いているわ、タヌキか、キツネの巣があるのかしら?」

「どこですか?チューちゃん、ちょっと、見てきてくれる?」


 ロコが、白いハツカネズミを地面におろして、お願いしている。ネズミは、自らも獲物にされまいかと怯えているが、ロコの頼みなので、恐る恐る中へと入っていった。


 ネズミが穴に入ってかなりの時間が経過している。やはり、中の何某かに食べられてしまったのであろうか。心配していると、穴の中から白い小さなものが戻ってきた。


 ロコのハツカネズミである。


 偵察ネズミの報告を受けると、ロコは、二人の女神に中の様子を説明する。


「中は、かなり深いらしいです、おおきな広間があって、焼け焦げているとのことです」

「焼け焦げ」


「あと、ヘビがいっぱいいるような感じだそうです」

「ヘビだらけということか?」


「いえ、いないのに、いっぱいのヘビに取り囲まれたように感じるらしいです」

「まいっちゃったわね、入るしかないのかしら?ねぇ~」


 六人の美女が、それぞれの顔を見合している。



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