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のどごし


 俺が、果物ナイフで藪を作り、外から見えないようにして塞いだはずの、山の入り口の穴が、ぽっかり口を開けている。


「よそ者のそなたは、この山への捧げものする」


 神輿でも担ぐように、数人の兵隊に掲げられた戸板に乗せられた俺は、穴に目掛けて放り投げられる。そして、乗せてきた戸板も投げつけられると、兵隊が運んできた、岩だの、石だのを穴に積み上げていき、その間を土で塞いで完全に洞穴に蓋をしてしまった。見た目には、生き埋めになっていないが、処刑というのは、このように山に捨てられるという事だったのだ。


 おそらく、俺だけではなく、この穴は、ダハスに害為すものを捨てる場所、間接的な処刑場であることを理解することができた。


 昨日から、何も口にしていないし、ひどく乱暴も受けて、傷だらけの体中が心身ともども、痛みを覚えている。本当に、クタクタなのに、でも、やっと、この苦痛から解放されると思うと安堵の気分になっていくのが不思議でもある。


 真っ暗闇の中で、俺は、手枷、足枷、腰には、重みのある鎖が巻かれたまま、洞穴の地面に転がっていた。


「オロチちゃん、出てきておくれ、宜しく頼むよ」

「うん、まずは」

「おおっ」


 オロチちゃんは、出てこないで、合体版のガンメタちゃんへの変身を選択したようである。もはや癖になってきているジンジン、ビリビリの全身の刺激を味わっていると、暗闇でも目が効くようになってきた。

 そして、今回は、身体が縮んでいく初めての感覚を覚えると、スルリと手枷、足枷、腰の鎖を抜け出してしまった。全身の自由を取り戻すと、本来のガンメタちゃんの大きさに戻っていく。


「そうか、ありがとう。オロチちゃん」

「まず、鎖を取らなきゃって」


 ガンメタちゃんは、全身のキズを丁寧に、その長く、先が二つに分かれている舌で舐めてくれている。その動きと感触は、とても優しく、心地よく、痛みが段々と薄れていくように感じられた。くまなく舐められるって、とってもゾクゾクして、堪らない行為だと目覚めてしまったかもしれない。


 合体ガンメタちゃんの姿で自分自身を舐めているってことは、自らを慰めていることになるのであろうか?違うだろう、だって、本当は、オロチちゃんが、俺を柔らかいベロで、優しくしてくれているのだからね。


「ありがとう、オロチちゃん、優しいね、キズが癒えたよ」

「私のマークが、傷だらけで心配だったのよ、でも、出てこいって、言われるまで、我慢したんだからっ、誉めてね」


「わかっているよ、ありがとう」

「じゃぁ、チューして」


「うん、でもさ、今は、合体ガンメタちゃんの姿だから」

「あとでね、予約したわよ」

「はいはい、オーダー承りました」


 鎌首をもたげて、ガンメタちゃんは、体を起こすと、もともとオロチちゃんの棲み処の洞窟を見渡す。


「洞穴は、暗いから、しばらく、このままガンメタちゃんでいくかいな」

「ここは、私のお家だったところよ、よく分かるわ」


「松明もないから、俺は、このままじゃないと見えないもんね」

「じゃぁ、奥まで行ってみる?」

「とりあえず、進もうか」

「わかったわ」


 俺達は、山頂を目指して、進んでいく。今回は、燃え滾る山頂ではないようだから、熱くないのはいいことかもしれないが。奥へ奥へと進んでいくと、幾重にも迷路のように入り組んでいる洞穴は、この前、みんなで山を登った時と、いろいろと違う様だ。


 俺には、あまりよく分からないことではあるが、オロチちゃんによると、穴自体の細部が異なっているというのだ。穴の掘られ方や、坑道の数等が違うらしい。やはり、この前来た山の穴ではなく、ダハス同様に同じ穴であっても、違う穴なのだろう。


 山自体、火を噴いてもいない。ここまで来ると、理解力の乏しい俺の頭でも、時間、時代が異なっていることが原因であること以外に説明できないと思い始めた。


 オロチちゃんも、洞穴を歩き回って、自分の棲み処では、無いことを確認しだした。奥まった穴の角々を曲がって、いきついた行き止まりを見て分かったらしい。


「マーク、この穴は、私がいた穴ではないわ」

「やっぱりね、この山は、火の山だけど、まだ、火を噴いていないのだろう、時代が違うんだよ」


「本当は、ここに、私のお部屋があるはずなのよ。私が作った空間がないのよ」

「だから、まだ、オロチちゃんが作ってない穴なんだよ」


「それなら、これから作るっていうの?」

「そうか、だから、ここに閉じ込められたのか?」


「だって、前の時も、どうしてここにやってきたのかは、覚えてないのよ、それに、元は、マークはいなかったわ」

「わかっているよ、でも、これが始まりなんじゃないかな?」


 そうすると、この先、このまま、山が火を噴くまで年月を待たないといけないのか?

 かつてのオロチちゃんが、どの位の悠久の時をここで過ごしてきたのかは、分からないけど、俺の生涯では、とても足りそうにない。


「オロチちゃん、山のてっぺんに行ってみようよ」

「うん、わかったわ」


「あと、なんか食べるモノないかなぁ」

「そうね、昨日から何も食べていないモノね」


 俺の空腹は、ガンメタちゃんのハラペコでもある。提案にオロチちゃんは、素早く坑道内を探しまわっている。

 何を探しているのかなぁ?薄々は、気付いていたことであるのだが、坑道内の壁にある拳大の穴を発見したガンメタちゃんは、穴に息を吹きかける。

 穴の中から、やっぱりね、モグラが失神しながら出て来た。また、違う穴にも同じように息を吹きかける。

 今度は、大き目のガマガエルが出てくる。


 勘弁してほしいが、今は、俺もガンメタちゃんそのものなのであるので、やむを得ないことだろう。


「オロチちゃん、これが、食べ物なんだろ」

「そうよ、マークには、食べたくないものでしょうけど、食べないと、生きてゆけないわ」


 オロチちゃんが迷うことなく、ガマガエルを加えて飲み込んだ。

 土臭いなんとも表現しがたい味わいがお口の中に充満したあと、逆流性食道炎を引き起こしてしまいそうな、のど越しを体験しながら、飲み込んでいく。


 大丈夫か、本当に、俺の胃袋。


「ゴホっ、ゴホっ・・・、オロチちゃん、ちょっと待ってくれ」

「マーク、人の姿のお食事が、美味しいのはわかるけど、ここでは、ないのよ」


「わかってるよ」

「それに、合体のガンメタちゃんの姿じゃなきゃ、マークは、食べられないでしょ」


「生のままも、つらいんだけど・・・」

「仕方ないわよ」


「焼いて食べるってのは?どうかしら?」

「早く、食べて、栄養つけて、てっぺん行くんでしょ」


 俺の提案は、却下されたようだ。


 モグラなら、焼けば、生のガマガエルより良さそうな物なのに、まぁ、火を起こすまで難儀だけどさ。そんなことを考えているのが、分かるのか分からないのかだけど、ガンメタちゃんは、モグラをまたまた丸呑みにしていく。

 ああっ、チクチクするのど越し、この土臭さは、何とかして欲しい。


 本当は、オロチちゃん、脳みそだって一緒なんだから、言葉にしなくても、分かるんじゃないの?


 一応、お腹を満たしたガンメタちゃんは、山の頂上を目掛けて、穴を進み登っていく。食事の後のこともあって、俺は、意識を失ってしまったらしい。


 結構な時間を掛けて辿り着いたのは、ルルに頼んで溶接した山頂への穴だった。

 そうだ、もう、ここを抜けると擂鉢のような燃え滾る火の山てっぺんのはずだ。火を噴いていないてっぺんは、どんな感じなのであろう。穴に入って、這い上がっていこうと、首を伸ばしたところに、目に入るものがあった。


 登る穴の横に、見覚えのある羽の生えた渦巻き模様が彫られている。焦げてはいない。


「オロチちゃん、渦巻模様だ」

「うん、見えているわ、これで、あの教会に帰れるのかしら?」


「試してみようよ」

「はい、それ」


 スイッチらしい石は、見当たらないけれども、オロチちゃんは、合体姿のガンメタちゃんのまま、その言葉を唱えた。


「カ・シ・ム・カ・シ・ム・シ・マ・ウ・ラ」


 光もしなければ、音もしない。そして、吸い込まれもしない。何も起こらない。

 続けざまにオロチちゃんは、言葉を発する。


「ラ、イ、ミ、ラ、イ、ミ、タ、マ、タ、マ」


「エ、ヌ、ジ、ア、イ、ブ、ル、ス、カ」


 隠れ教会に刻まれていた三つの言葉は、この渦巻には作用しないらしい。


 落胆の感情は、合体した同一のカラダの為なのであろうか、とても、とても、よく共感できた。

 なにも起こらないことを無言で納得しあった俺達は、山頂へ向かうために最後の穴に首を突っ込んでいく。



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