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いけにえ


 大きな黒い塊が、森の中を音もなく進み、山を下りていく。


 既にもと居た坑道からは、大分下ってきていて、麓から海岸線へと辿り着いてきている。ここから臨む海岸線には、小舟が数隻と数人の人影を確認することができる。


「オロチちゃん」

「なに、マーク」


「人がいるから、元の姿に戻ろう、オロチちゃんは、危ないから刺青に、俺一人で接触してみるよ」

「わかったわ」


 癖になりそうな、身体がジンジンとする感覚に酔いしれながら、黒光るガンメタちゃんから俺の身体に変身していく。勿論、腿から足首にかけては、鮮やかな濃紺の蛇のイレズミが入っている。


 刺青は、衣で隠した方が良いかしら?でも、隠しきれない大きさだもんね。


 情報を得るためにも、人との接触は、避けることができないと判断した俺は、恐らく漁師であろうその集団に声を掛けてみる。


「もしもし?」

「・・・・」


「もしもし、ここは、どこですか?あの山は、ダハスの島のやまですか?」

「お前、何者だ!」


「俺は、山の奥で迷ったものです」

「山の奥?鉱山か?ガスで頭がやられたのか?または、滝にでものまれたのか?」


「おかしな者がいるぞ、よそ者だ!盗人だ」

「鉱山には、もう何もないだろ」


「では、どこかの密偵か何かかもしれんぞ」

「ちょっと、待ってくださいな、ここがどこだか教えてほしいだけですよ」


「うるせぇ、ここが、どこだか分からないで、ここにいるのか?バカやろう」

「そうだ、海岸に打ち上げられていたなら、いざ知らず、山から下りてきて、知らないでは、済まされないぞ」


「あやしい男だ、怪しい刺青をしているぞ、取り押さえろ!」


「マーク、払いのけましょうか?」

「しっ、オロチちゃんは、出てこない方がいいと思うよ」

「わかったわ、でも、いつでも、でられるわよ。いつでも、言ってね、一緒だもん」

「忘れてないから、頼りにしているよ」


 二、三十人位の男たちに取り囲まれて、その者たちの手に握られている銛が俺の喉元に突き立てられている。本当に逃げることは、できないだろう。オロチちゃんが暴れてくれれば、この場をやり過ごせるやもしれないが、オロチちゃんですら、無傷というわけにもいかないであろう。


 俺は、咄嗟に、刺青のオロチちゃんの口に、果物ナイフと首から掛けている巾着を押し込んで、隠してもらうと、両手を万歳との如く掲げて、降参の姿勢を示した。


 男たちは、縄で俺を縛って、自由を奪った。後ろ手に縛られた縄と腰ひもを引っ張るように小舟に放り込むと、今日の漁の成果と共に、向かいの島へと帰り始めた。六、七隻の小舟の船団が帰える島が段々と近づいてくる。  


 見覚えのあるさほど大きくない船着き場に、多くの人々が、迎えに出てきている。


 そうだ、ここは、ダハスで間違いない。しかし、どことなく、船着き場の雰囲気も、集まっている人たちも、この間、出航した時とは、違う感じがする。それに、プラムの親父さんである村長の姿も見えない、辺りも、見知らぬ人々だらけである。


 俺は、漁の荷揚げと同様に引き上げられて、そのまま、引きずられるように、今回は本当に連行されていく。行先は、やっぱり思った通りの、赤い瓦の大きな屋敷。プラムの家に相違ない。


 グイグイと、早く歩けと小突かれながら、今回は、玉座の間ではなく、中庭の地べたに放り出されるように転がされた。縛られているので、顔から落ちて、擦りむけたまま、痛みを覚えたまま、仰ぎみると、其処には、プラムの親父さんではない者が、見下ろしていた。


「長。鉱山の島で、怪しい者を捕らえました、まだ、お宝が残っていたのを探していたようです」

「そうか、お前は何者だ、あの鉱山でなにをしていた?」

「なにも、していません、ここは、ダハスですね」


「何もしていないわけなかろう。ダハスと知って、潜入していたのだろう」

「村長と話をさせてください」


「わしが、ムラオサだ!」

「プラムの父上の村長は?」


「何を訳のわからんことをいうのだ、今日は、牢に繋いでおけ」

「はっ」


 俺は、引きずり起こされて、またまた、グイグイと連行されていく、城の奥まった所に蔵の様な建物につくと、俺は、地下へと続く階段を降ろされていく、いかにも牢屋と思しい暗くて、息の詰まりそうな無数の監房が連なっている一つに、押し入れられた。どう考えても重罪犯としての扱いである。牢に押し込まれていても、縛った縄を解いてくれる気配もない。


「静かにしていろ、処刑は、明日になるだろう」

「まってくれ、どうしてこうなるんだ」


「ダハスでは、よそ者を受け付けない。この島々に入るよそ者は、何人たりとも生かしてはおけない」


 連行してきた男たちは、それだけを教えてくれて、立ち去ってゆく。俺の知っているダハスでないことも気になることであるが、この先どうしたものかと、思案していると。


「マーク」

「なんだい?」


「ここは、ダハスっていうけど、私たちが海に出航したダハスじゃないわね」

「そうなんだよな。プラムの親父さんでは、なかったし」


「でも、似ていたわよね、プラムにも、プラムのお父さんにも」


「似ている感じもするけどさ」

「あの綺麗なグリーンの髪、プラムの髪と一緒だったでしょ」


「それは、そうなんだけど」

「これから、どうする?」


「いよいよ危ない時は、オロチちゃんにお願いするよ」

「うん、わかったわ」


「しばらく、このまま、縛られたまま、この火の噴いていないダハスを探ってみようよ」

「マークって、縛られて嬉しいの?もしかして?」


「バカッ、ちがうよ」

「うふふっ、マークになら、ワタシ、縛られてもいいわよ」


「えっ、今度してもいいの?」

「うん、でも優しくよ」


 どうして、俺達ってこんな状況でも、要らないことに幸せを求めてしまうのだろう。我ながら、まいっちゃうよ。


 思考だけでも楽しんでいないと可笑しくなりそうなことも本当である。じゃぁ、いいのかな。今度、オロチちゃんを縛っちゃおうっと。


 冷静に考えるに、ここは、ダハスで間違いない。でも、長は、プラムの親父さんではない。火の山は、火を噴いていない。人々に俺達の見知った者が誰一人としていない。


 ここまでから、分かることを整理すると、ダハスという器に違った具材が入っている、かつ丼かと思ったら、親子丼だったみたいな。うな丼だと思ったら、穴子丼だったみたいな。

 ちょっと違うな、リゾットかと思ったら、ゲロだったみたい?これが、当たっているかもしれない。


 これまた、下品で失礼しました。


「マーク、本当に、ここのダハスは、なんなのかしら?村の納屋でもお月様が変だったんでしょ?」

「そうなんだよ、三人娘も少女姿の世界だったし、あの村は、過去形の世界なのかな?」


「過去形?過去の世界に迷い込んだっていうの?いつ?迷い込んだの?」

「それがわからないんだよ、でも、今は、おかしい村の世界から、更にダハスに飛んできている」

「ましてや、俺達の知らないダハスだぞ」


「その理屈でいくと、このダハスも過去のダハスなんじゃないの?」

「あの村と同時期のダハスなのかなぁ?」


「そこまでは、分からないけど・・・」

「マーク、本当に縛られているのが、好きなわけじゃないでしょ?」


「えっ、解かれると、なんか食べたくなっちゃいそうだから?お腹すいたよね」

「私を食べたくなっちゃう?」


「うん」

「やっぱり、エッチねぇ~」


 オロチちゃんは、俺の腿辺りから剥がれるように、蛇の鎌首をもたげて実体化してくる。


 そして、俺の横に緑の肌の美少女姿で寄り添って、その手に持った俺の果物ナイフで俺を縛り付けている縄を切り、自由の身にしてくれた。開放感と身体の自由を享受するように、オロチちゃんを強く抱きしめて、その唇を本能的に奪ってしまった。


「んんっ、わぁ~い、嬉しい。マークからチューしてもらったわ、大好きよ」

「あっ、ごめんね、ありがとうの気持ちと、独りじゃない喜びの気持ちだよ」


「謝ることなんてないのよ、私は、マークのものなんですもの、嬉しすぎるわ」

「みんなには、内緒だよ」


「合体のことも?」

「そうそう」


「言い触らしちゃうも~ん」

「ダメよ~、内緒~」


「二人だけの秘密?」

「その通り、トップシークレットだよ」


 秘密は、いいけど、みんなと、また、ちゃんと、顔を合わせることができるのであろうか?あの楽しい生活に、俺のファミリーとの楽しい生活に戻れるのであろうか。


 二人して、これからをどうするのがいのか、あの隠れ教会へ戻るには、どうすればよいのか相談していると、先ほどオロチちゃんが、俺の縄を切ってくれた果物ナイフに違和感を覚えた。

 俺は、牢の通路側によって、通路の灯に翳すようにルルが鍛えてくれた波紋を確認する。素晴らしい波の模様が美しいままキラリと光る。しかしながら、刃の背、波紋の反対、峰の部分に筋が入っていることに初めて気が付いた。細かい切れ込みの様な筋が二本入っている。


「こんな筋、入っていなかったぞ」

「勇者の剣でしょ、入っていなかったの?折れちゃったの?」


「折れたとかではないのよ、筋、よくいえば、模様が増えたような?」

「私は、よくよく見るのは、初めてだから、そうなの?確かに二本の切れ込みがあるわね」


「何だろう、どんどん増えるのかなぁ?」

「物差しの目盛りの様な感じね」


「機能が増えたのかしらね」


 そんなこんなをしているだけの二人。こんなデートは、まいっちゃうねぇ、牢屋だもん。


 夕方から囚われの身になって以降、夕飯も口にしてないまま、牢につながれたまま、もうすぐ夜が明けようとしている。夜中の静けさの中でも、山が火を噴く音も聞こえてこない。オロチちゃんと語り明かした朝であるが、朝日は、この地下牢には届いてこない。


 ドンドンと、大勢がこちらにくる足音が大きくなってくる。俺は、持ち物をオロチちゃんに再び預けて、刺青に戻るようにお願いする。俺が独り身になったと同じくして、昨日の漁師とは異なり、明らかに兵隊さんと分かる集団が現れてくる。


「出ろ、貴様、縄を引きちぎったのか」


 それを見越したのかどうかは、分からないが、今度は、兵隊が俺に鉄でできた手枷、足枷をして、さらに、鎖の腰ひもを付けて、いよいよ連行していく。


 昨日、下った地下牢への階段を上り、表に出ると、村長に合わせることもなく、表へと引きずり出されていく。足枷の影響で、上手く歩けないでいると、後ろから蹴り飛ばされて、地面に叩きつけられる。


 本当に、昨日から、手荒い仕打ちである。このままだと、本当に処刑されるのであろうかと思われる。この人たちを傷つけたくはないが、やられては、元も子もないないので、最終手段は、考えておく必要がありそうである。


 地面に倒れている俺を兵隊たちが、戸板に乗せて運び出した。ますます、旗色が宜しくない感じである。この兵隊さんは、かなりの屈強な者どもなのであろう。俺も耐え忍んでいるが、休憩もしないまま、もう、半日以上、歩き通しである。


 到頭、着いたようである。


 これまた見覚えのある所であった。火の山の中腹、入り口の穴であった。



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