トントン・ツー
夜中の静かな村、井戸端に四人が佇んでいる。
井戸には、勿論の事に誰もいない、何処の家もお休みなのであろう、とても静かだ。村全体がとても静かだ。不自然なほどに、静かなのだ。夜中だし当たり前といえば、当たり前かしら。
予想をしていたことではあるが、動物も虫すら何もいない様子である。丸く、円形に石垣が積まれている井戸を釣瓶越しに覗いてみても、水面にまん丸い月が写っているだけであった。
「何も、いないわねぇ」
「いないというより、なにも、ないって感じね」
「静かすぎない?」
「ちょっと、怖くなってきちゃった」
井戸の石垣に寄りかかるように腰を下ろしたルルは、意味もなくクリスティーに貰った金槌で、石垣と地面の境目辺りをトントンしている。化粧筆の杖や小さなエッチな笛、アンクレットを納屋で試して、自分の持ち物でも何かできないかと思ったのか、思わなかったのか、トントンと、軽くたたき続ける。
「ルル、なにしているのよ、トントンって、モールス信号みたいね」
「べつに、なんてことないけど、叩いているだけよ」
「トントンだもんね、ツーがないから、信号じゃないわよね」
遊び心に火か着いたのか、ツーを出そうとルルは、石垣を叩いた。甲高いツーが出た。
調子に乗るルルは、地面をトントン、石垣をツーっとそれらしい、トン・トン・ツーっと音を出して喜んでいる。そんなことをしている場合ですか。意味がないのは、誰しも理解しているが、静かすぎる状況から、夜中にもかかわらず、誰も止めさせようともしない。
村人を起こしてしまうのもいけないので、ルルが金槌を止めた時、地面と石垣の境目に白く光る物体を発見した。ついさっきまでは、光っていなかったように思うけれど。見慣れた黄緑色の蛍光ではなく、白く、青白くチラっと光った感じがした。光が持続的に光っているわけではないので、確信は出来ない。一瞬、反射したような光が、ルルには、見えたようだ。
ルルは、そのチラっとした所に顔を近づけて、少し土を掘り起こすように金槌で抉ってみる。
土と石垣の境目の少し深い所から、丁度、そら豆くらいの大きさの白い楕円形の物体を見つけることが出来た。
「ねぇ、みんな、今、これが光ったのよ」
「ルル、何を見つけたの?」
「分からないわ、今は、光ってないけど、トントンしてたら、チカって、光ったような」
「本当?」
「何を見つけたのよ」
「そんなことより、マークを探しに戻りましょうよ」
マリーは、ルルが差し出した小さな白い楕円形を掌に載せて、月明りの光に照らして見る。とても軽いので、石ではないようだが、大したものでもないと思われる。
フウフウっと、土を吹き飛ばそうとマリーは口を尖らせて吹いている。
「ルルが、見付けたんですって、ゴミよねぇ」
「どれ、光るの?」
「光らないわね」
マリーは、ルルに悪いと思ったのか、捨てる訳でもなく、ロコに、要らないとばかりに放ってよこした。それを受け止めたロコは、マリーがしたように、手を高く上げながら、月明りに照らしてみた。
「これは、ネズミのシャレコウベね」
「・・・・」
「キャー、触っちゃったわよ」
「やっぱり、食べた後のゴミじゃないよ、バカ~」
「ネズミなんて食べるかしら?」
「ウサギもネズミも大きさの違いでしょ、きっと食べたゴミよ」
「そうかなぁ」
ロコの掌に置かれたネズミのシャレコウベは、チカっと、チラっと確かに光った。
「待って、ルルの言う通り、この骨、光ったわ」
「でしょ~」
「光んないわよ、どこよ」
マリー、プラムも、ロコとルルのそばに寄ってきた。四人は、ロコの掌に載せられたネズミの頭蓋骨を覗き込む、月明りを遮るように四人の頭を寄せて暫く見つめていると、チカっと、光って、消えた。
「あらっ、チカってしたわ」
「本当だ。反射じゃないわね」
もう一度、四人は頭を寄せて、覗き込む。確かに光る。点滅というか、規則的にチカチカしているようにも思えてしまう。
これに気が付いたのは、船乗りのロコだった。
「ルル、ルルがした、モールス信号に応えているのね。この骨」
「えっ、この光は、信号なの?」
「ロコ、読めるの?」
「船が海で光を使ってする信号として、不思議と読めるのよ」
「なんて?」
「流石ね、ロコは、シャレコウベになった動物とも会話ができるのね」
「そうじゃないわよ、光を読むだけよ」
「ねぇ、ねぇ、なんて言っているの」
ロコは、掌に意識を集中して、弱いながらも、何かを伝えようとしている光を読んでいく。ルルの金槌のトントンがコレの引き金になっていることは、間違いない。
ネズミのシャレコウベによると、この村は、一瞬にして、時間を飛び越えたので、村人以外の村の生き物は、シャレコウベになったとのことだった。
どういう意味だろう。仮に、そうだとしても、三人娘のティーナちゃん、マナちゃん、クリスちゃんと出会えたことから考えても、時を飛び越えたというよりも、時を遡ったという方が正しい気がするのだか。
ロコの通訳を聞いたマリー、ルル、プラムは、益々この村の危険性を感じ取った。
マークの行方が、どうしようもなく気になるというのが、四人の結論だった。
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