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追跡


 ゲリア村、村長の家の納屋では、満月の月明りに頬を照らしているロコ、プラム、村の三人娘のティーナちゃん、マナちゃん、クリスちゃんが、柔らかな干し草に埋もれながら、楽しい夢でも見ているのか、気持ちよさそうに眠りについている。


 一方、マリーとルルは、オロチちゃんを供だって村を調査にいったマーク達のことが、気になって仕方がない様子である。何を気にしているのかは、定かではないけど。


 二人は、なんとか眠っているロコ達を抜け出そうと思案している様子である。よっぽど、蒲の穂綿の件が、腑に落ちていないようである。よくよく顧みてみれば、マリーだって、祠で全裸を見たことがあるだろうに、しかしながら、ある部分をジックリとは、見れていないのでしょう。

 でも考えてみれば、自分の魔法でほとんどコピー品をつくりだして、一日の間、いろいろ弄んでいたことは、すっかり忘れちゃっているんだろうね。


「ルル、またテレポってみましょうか?」

「そうね、みんなは、眠ってるし、私たち二人だけで」


「マークが心配だもんね」

「そうよ、心配よね」


「オロチちゃんがいるけど、私たちも力になれるわよね」

「ルル、今夜は、オロチンが一番危ないのよ」


 何を議論しているのか分からないが、二人は、抱き合いながら、それぞれのアンクレットに掌を当てて、マークへの集中の念を掛け始める。アンクレットに埋め込まれたドラゴンナイトがぼぅっと光始める。いつもなら、そのドラゴンナイトに吸い込まれていくはずの二人の身体は、うんともすんともなく、月明りを浴びているだけである。


「おかしいわね、吸い込まれないわ」

「テレポしないわね」


「念が足りないのかしら?」


 二人は、もう一度、アンクレットに手を当ててマークへの念を集中させる。マリーは、更に、念を押すかの如く、いつもの言葉も付け加えた。


「ブルスカ・ショック~っ」


 マリーとルルは、キョトンとした互いの顔を見つめ合うだけである。


 今夜は、今回は、アンクレットのテレポーテーションは、起動しない。らしい。アンクレットのドラゴンナイトは、一瞬、力なく光ったが、スーッと静かに消えていった。まるで、パワーが切れて消耗していくかのように。


「おかしいわね、本当にダメみたいだわ」

「この間のように、うまくいかないわね」


 マリーとルルは、テレポを断念するより他無いと、抱き合う腕を解きながら、マリーは振り向きざまに、気持ちよく眠っているロコの身体を揺すり始める。


「ロコ!ロコ!」

「なによ~、もぅ~、つかれているんだからぁ~」


「起きて」

「干し草って、気持ちいいわね」


「何、言ってるのよ、ティーンのマークの塒も、こんな感じだったわ」

「マークのネグラ?」


 ロコは、その言葉に反応するように、夢から戻ってくる。大きな声につられて、プラムも目を覚まして起き上がってくる。三人娘は、動じず、ぐっすり眠っている。寝る子は、育つ、大きくなってね。未来の美人さん達。


「みんな何をしているの?」

「プラム、アンクレットが効かないわ」


「あっ、マークがいない」

「村を調べにいったのよ」


「それで、アンクレット?おいてきぼりされたのね」

「ちがうわよ、おいてきぼりじゃないわ、待機よ」


「私たちが、眠っている間に、二人して、まぁ~っ」


 言い訳をしながら、テレポ不能の状況を説明するマリーとルル。説明を受けるロコとプラムは、少し引いた顔をして、話を流している。早く、夢の中に戻りたい様子だ。マリーは、尤もらしく力説する。


「この村、やっぱり、何かおかしいのよ、テレポもできないし」

「おかしいって、さっき、お月さんの話もしたわよね」


「マークが、ひとりでいっちゃったから、心配なのよ」

「そう、ひとりで・・・」


「それは心配ね、あら。オロチちゃんは?」

「マークが連れて行ったわ」


「えっ、それは、それが心配なんじゃないの?」

「心配でしょ~」


 また、的外れの共感をファミリーは、持ってしまったらしい。どうにもできなかったマリーが、ロコにお願いする為に、起こしたことは、みんなは気が付いていないらしい。


「だからね、ロコ、動物にマークを探してもらえないかしら?」

「そうか、いいかも」

「でも、この村、虫の声ひとつ聞こえないじゃない、動物いるかなぁ」

「探してよ、呼びかけてよ」


「試してみるけど・・・・」


 ロコは、小さく軽く、口笛を吹いて動物を呼び出すらしい。


 こんな夜中に口笛なんて吹いちゃうと蛇がきちゃうよ。そうか、蛇でもいいから、呼びたいのかしら?


 目に入るところには、何も動物がいないと感じるロコが、鳥を呼ぶときのように口笛を吹いてみたのであろうが、いつものようには、何も飛んで来ない、ネズミも様な動物も寄ってこない。ロコは、鵜の目鷹の目で納屋の中、窓の外をくまなく探しているが、何も見つけることができなかった。


「まったく、反応がないわね、呼びかけに、そもそも、いない感じよ」

「いなくないでしょ、夕飯にウサギだって、食べちゃったわけだし」


「最後の生き物だったとか?里山にいかないといないのかも」

「そんなわけないでしょ、魚もたべたじゃないよ」


「それは、川にいかないとねぇ、洗濯しに行くとか?」

「山に柴刈り、川に洗濯、今は、関係ないのよ」


「そうよねぇ、でも、この村、私が呼べる範囲には、なにもいないのよ」

「困ったわね」


「マリーの魔法は?」

「そうか」


 マリーは、自慢の?自慢できない小さな化粧筆のような物を取り出して、いつもの言葉を夜中なので、小さく呟くように囁いた。


「ブルスカ・ショック~っ」


 何も起こらない。


「マリー、アンクレットでもショックしたじゃない、やっぱり、効かないのよ」

「そうか、そうだったわね、ルル」


 魔法も、動物も、今は、使えないことが確認できてしまった。


 ロコは、思い出したように、いつもなら、あまり吹きたがらないエッチな笛、もとい、小さな笛を取り出して、口にくわえる。また、夜中に笛なんて、吹いちゃうと蛇がきちゃうぞ。来ちゃって欲しいんだったか。


「キュルルル~」


 ロコも夜中の静かな村であることは、よくよく承知しているようで、ほんの小さく短めに、ちょこっとだけ笛を吹いてみた。

 マリーの杖もドラゴンナイトのアンクレットも効かない上で、天使の笛だけが効果を発揮するのかは、わからないけど、試してみておくことは、とても重要なことであろう。


 いつものように、笛の発動時のモヤモヤとする霧が四人を包み込み、これまた、いつもの様な幻影が、とっても薄く見え辛いながらも、微かに視認することができた。


 それは、渦だった、風の中なのか、水の中なのかは、特定できないが、大きな渦の中で揉みくちゃにされているかの様子が見えた。まるで、グルグル回る洗濯物になった気分が四人を包んで、燃料切れのランプのように、いつもより短めに、早めに幻影は、呆気なく消えていった。


「見えたわね」

「うん、辛うじてって、感じね」


「でも、見えたわ。笛、使えたわ」

「もう一回、吹いてみて」


 ロコは、再度、笛を口にする。


「キュルルル~」


「・・・・」


 霧に包まれない。何も起こらなくなった。やっぱり、燃料切れって感じだね。今できることを全て試してみた四人は、それぞれの顔を見合わせながら、落胆を隠しきれないままでいる。

 しかし、辛うじて、少しだけでも、幻影が確認できたことは、間違いなく収穫ありである。


「ちょこっとだけど、今日の幻影は、エッチな幻影じゃなかったわね」

「うん、火の山の時みたいに、なんだか分からない感じだったわね」

「そうね、今のは、なんなのかしら?わからないわ」


「滝壺に落っこちた時、みたいだったわ」


 プラムの言葉に、一同、納得とばかりに頷いてしまう。誰も滝壺に落ちた経験など持ち合わせていないはずなのに、共感できたようだ。


「なんなのかしら?これから起ること?起きていること?なの?」

「どこなのかしら?この村か、里山に滝なんてあるのかしら?」


「このくらいの山では、こんな感じの滝はないと思うわ」

「ルルは、滝にくわしいの?」


「詳しくないけど、本当に滝壺に落ちたことがあるのよ」

「そうなんだ、ダハスで?」


「子供の時、ダハス本島の隣の島で、まぁ、ダハスの領内だけど」

「そこのことなの?」


「そんなことはないと思うわ、景色も見えなかったし、それに、水か風かも分からなかったでしょ」


「そうよね」


 どうすることも出来ない四人は、膝を突き合わせてポーカーでもしそうな陣形を取ったまま、言葉を発することも無くなっていた。


 ロコが、立ち上がり、納屋の一階へ降りていく梯子に向かっていく。


「表に、動物を探しに行ってくる。そして、マークも」

「待って、私も」

「私も」

「私も」


「いいわ、みんなで、今回は、誰も置いてきぼりにならないように、一緒にいましょう」

「そうね」

「マークとオロチちゃんは、どっちに向かったの?」


「基本的には、マークひとりだったわよね、ルル」

「うん、マーク一人で、村の中心の方だったと、思うんだけど」


「ハッキリしないのね。窓から見てなかったの?オロチちゃん一緒なんでしょ」

「暗かったし、オロチちゃんは、マークのイレズミになっちゃったから」


「刺青?」


「もう、いいわ、動物なら、里山かな、でも、まずマーク、なら、中心の井戸の方かな」

「井戸、一応、行きそうよね」


 四人は、取り急ぎ、村の中心部の井戸を目指して、月明りを頼りに歩き始める。




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