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隠された空間


 真っ暗な空間、土の感触が体中にすりついてくる。ヒンヤリと冷たく、ヌルっと少し湿った感じを全身にこすりつけながら進んでいく。感覚をじっくりと味わうように、そう、くまなく舐めるように俺達の融合体ガンメタちゃんは、その身体をトルネードさせながら、奥へと潜っていく。そんなに深くは無かったようで、体長のおよそ三倍程度と思われる辺りで、広めの空間にたどり着いた。


「でたね」

「魅力的な穴が終わっちゃった」


 本来なら真っ暗の空間のはずだが、空間を見渡すことができている。これが、大蛇の能力なのだろう。松明いらずで、全く便利なことである。


 この空間は、もはや穴というよりも、立派な洞穴だ。それも、人の手が入っていることが伺える。俺達は、今度は、鎌首をもたげた状態で、奥へと続く広めの洞穴を進んでいく。灯りが無いことや、とてつもなく静かなことからも、誰もいないことを想像するには、容易いことである。

 

 しかしながら、魅力的な穴と異なるのは、人工的な洞穴は、結構な深さというか、距離というものを持っている。魅力的な穴は、この空間の空気穴なのか?それとも、この洞穴を埋めた跡の目印なのか?恐らくそのどちらかなのだろうと想像しながら、オロチちゃんとの合体デートを進行させていくと、広くもなく、狭くもない、ある程度の空間、部屋と呼んでいいだろう間にたどり着いた。


「ここが、終点ようだね」

「そうね、床に渦巻の模様があるわね」


「本当だ、いっぱいあるね」

「ヘビの蜷局を描いているのかしら?」


 まさに、そんな感じだ。蜷局の渦巻模様は、空間の床に規則正しく、人ひとりの座る場所を示すように並んでいる。この空間には大体二十人が座れる感じだ。よく見ると、壁には、恐らく燭台を置くのであろう窪みが其処彼処に、確認できた。ここは、ここは、何かの集会を行っていた場所だろう。異教徒が隠れて信仰を行う場所があると、確か孤児院で聞いたことがある。


「これは、隠れなんとかっていう場所じゃないのかな」

「カクレ?」


「うん、みんなが信じる教えじゃなくて、特定の者だけが信じる教えを共有する場所」

「じゃぁ、教会なの?」


「ある意味で、教会といえるかもね」

「羽のあるヘビの教会は、ここ?」


「そうか、そうかもしれない、だから、ヘビのトグロなのかも」

「本当のヘビは、こんなトグロじゃないけど、もっと、美しいわ」


「それは、そうかも、単なる印にすぎないだろうさ」


 床の蜷局印は、微妙にひとつひとつ異なっている。渦巻の向き、長さ、太さとまちまちであることに気が付いた。


 恐らく教えを説く者が立つのであろう場所の壁には、何かまた渦巻印ではない模様が刻まれている。渦巻に羽が描かれているモノを中心にして、その周りにも、細かく何かが、刻まれているようだ。その模様を確認するように近寄っていくと、オロチちゃんが何かに気が付いたようだ。


「マーク、これは、印じゃないわね、文字よ、古い時代の文字だわ」

「この、グニャグニャしてる、それぞれの印が文字なの?」


「そうね、文字だわ」

「オロチちゃんは、その文字が読めるの?」


「俺には、古代文字と言われても、全く分からないからさ、模様にしか見えない」

「どうして、読めるのかは、分からないけど・・・・」


「読めるんだね」

「うん、でも、どういう意味かは、わからないわ」


「読めるだけ、発音できるだけよ」

「なんて読めるの、言葉にしておくれよ」


「う~ん」

「どうだい」


「ちょっと、まって、イミがあるのかなぁ」


 オロチちゃんは、壁に書かれた文字という言葉をひとつひとつ紡ぐように口にしてくれた。


「カ・シ・ム・カ・シ・ム・シ・マ・ウ・ラ」


「なんて?」


「カ・シ・ム・カ・シ・ム・シ・マ・ウ・ラ」


「なんて?」

「何回も聞かないでよ、同じお口で言ってるんだから、イミなんてわからないもん」


「もう一回頼むよ、ゆっくり、大きな声で」


 オロチちゃんは、先が二つに分かれた舌で、一文字一文字をなぞりながら、言葉にしてくれた。ああっ、壁の感触がベロに伝わってくる。


 感覚、共有、出来ています。


「カ、シ、ム、カ、シ、ム、シ、マ、ウ、ラ」


 三遍目の発音で、俺も聞き取れた、何を言っているのかは、分からないけど、音としての声は、ちゃんと聞こえた。そうだ、耳も同じ耳だったよね。オロチちゃんは、まだ、先を言葉にし出した。


「ラ、イ、ミ、ラ、イ、ミ、タ、マ、タ、マ」


 そんなことが、文字として書かれていたんだと思っている。なんのことだか、聞こえてもわからないけどね。


「これで、全部なの?」

「あとね、最後は、これかなぁ」


「エ、ヌ、ジ、ア、イ、ブ、ル、ス、カ」


「んっ、ブルスカって、読めるの?」

「うん、たぶん、そうなるわね、この三つの言葉?塊がセットの文字になっているのよ」


「オロチちゃん、覚えた?俺メモ取れないからさ」

「オッケー、目に焼き付けるわね」


 オロチちゃんの脳裏に書き込みが済んだころ、その文字と言われるモノの横の壁に歪んだ部分を発見できた。そこの部分の一枚のレンガが緩い感じがする。ルルを助けた時のようだ。でも、今回は、レンガは、発光などはしていない。尻尾の先でレンガの淵をなぞりながら揺すってみる。


やっぱりだ、蓋の様な感じなのであろう一枚の煉瓦を剥がすことができた。ここまで来るとここは、俺達の探していた教会だったのかもしれないことが、どうしてか、確信できる気になってきた。


 蓋を外したコインロッカーの様な窪みの少し奥まった部分に、巨峰くらいの大きさで、ツンっと突き立つように頭を出す石の欠片が突き刺さっている。

 ここで予想通りに、いつもの発光が、ガンメタちゃんの体内、胸の辺りから黄緑色に点滅し始めた。胸からなので、俺の巾着からの光だろう。


 やっぱり、この石を触るのが、これからのお約束なのだろう。ここは、先ほどの、文字の言葉を唱えながら、ちょうどいい大きさでもあることだし、新しいバージョンの鍵開け方式で触ってみよう。


「オロチちゃん、俺の身体を戻してくれる?」

「ええ~っ、合体イヤなの?」


「イヤじゃないよ。この石を鍵開け方式で触ってみるんだよ」

「そっか、わかったわ、それ~」


 おおっ、身体が引っ張られる感じ、痛くない、けど、何とも言えない放心感覚を覚えていると、ガンメタちゃんの身体から、俺の身体へと変身していく。同時に何も見えなくなった。


「オロチちゃん、どこ?」

「ここよ、マークの脚の刺青よ」


「俺、蛇じゃなくなったから、目が効かないよ、暗過ぎて」

「わかったわ、私も出るわね」


 オロチちゃんも俺の皮膚から、分離して、剥がれ落ちるように姿を露わにしていく。

 いつもの緑の肌の美少女の姿で実体化してきた。見えてないけど。


「オロチちゃん、俺に突き出た石の場所を教えて」

「ここよ」


 オロチちゃんは、俺の手を取って、石の場所に導いてくれた。あらっ、石にしては、温かい感じがする。


「オロチちゃんは、まずは、一つ目の言葉を唱えてね。それからちゃんと俺にしがみ付いておいてね」

「わーい、抱き着いちゃうわ、この姿での密着も、ダイスキ~」


「多分だけど、石とその言葉と併せて、スイッチになると思わないかい?」

「おきまりよね」


「では、参りましょうか、お言葉を先におねがいします」


 オロチちゃんは、腕を首に回しながら、俺に抱き着いて、まず、濃厚なディープキッスをしてくる。苦しいよ、暗くてわからないけど、これ石だよね。オロチちゃんのオッパイのさきっちょじゃないよね。ひとしきり、チューをし終えるとオロチちゃんは、俺の顔に頬をくっ付けたまま、口を開いた。


「では、準備できましたので、いきますわよ」

「カ、シ、ム、カ、シ、ム、シ、マ、ウ、ラ」


「俺もいくよ。それ、クリ、クリっと」


 俺は、親指と人差し指で、挟むように掴まれたその石の頭部分を右に、クリっと捻るように回してみる。石自体は、回りも動きもしないが、想像に難しくない見慣れた光が、石のさきっちょに灯った。黄緑色のホタルの様な発光だ。これなら、暗闇でも俺にも見える。そして、驚いたのは、床の渦巻模様も同様に、それぞれが、黄緑色に光っている。


 その一つ一つの光の模様部分だけが、床から剥がれるようにして、俺の摘まんでいる石のさきっちょに集まってきた。吸い込まれていくというのが、正しいかもしれない。最後の渦巻模様が石のさきっちょに飛び込んでいくと、今度は、俺達が激しい川に流されるような勢いで、石のさきっちょに吸い込まれていく。


「マーク!どうしよう」

「しっかり、つかまってて!」


「わか、っ、た、わ」


 オロチちゃんは、俺の両頬抑えながら自分の方に、向かわせると、これでもかと言うほどに唇を重ねてくる。唇だけじゃない全てを吸うように、濃厚なチューでつかまっていくらしい。


 刺青も合体にも、間に合わないからって、もう、積極的なんだから。まぁ、初デートでの濃厚チューは、みんなには、内緒にしておこうね。


 よし、俺もと、オロチちゃんを離さないように、がっちりと、きつく抱きしめた。



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