刺青
風呂から上がった俺達は、寝床として提供して頂いた納屋の二階で、干し草の上に寝そべっている。
本当に、心地よい感触と、日を吸った草の香りが今日一日の疲れを取り去ってくれそうである。窓から見える月は、満月である。月明りが明るく、俺達の顔も照らしている。
その顔を確認していくと、この村のアルカティーナ、マナニーニ、クリスティーの三人娘が俺の隣に寝そべっている。
どうやら、客人が珍しいのだろう、はたまた、俺達を気にいったのであろうか。夕飯以降は、俺達というか、俺を捕まえて放してくれる気配がしない。
その様子を大人気のない我がファミリーは、子供に対する優しい目ではなく、恋敵を見るような眼差しを可愛いことこの上ない美少女へ向けっぱなしである。
「ねぇ、マーク、これからどうするつもりなの?」
「この村が、故郷なんでしょ?」
「なんの手掛かりもないものね」
「女神様たちも、おでましにならないし」
「じゃぁ、お船でも、出しちゃう?」
お船は、ここに出しても、邪魔になるから、しまっておいてね。
「マーク、いくらカワイイからって、ティーナちゃんたちの手を放しなさいよ」
「俺が、握ってるんじゃないでしょ、今日は、なんだか、モテちゃって」
「マーク、いい加減にして!」
「なんの手掛かりもなくはないさ。この美少女は、ホンモノは、ホンモノでしょ」
「お兄ちゃん、いつまでも、お家にいてよ」
「うん、そうね、お兄ちゃん、大好きよ」
「身体も硬くて、力強いもんね」
「そうかい、そんなに硬いかい」
「マーク、どこを硬くしてるの??」
「マリー!なにを言ってるんだい」
「お兄ちゃん、力こぶよりも、硬い所があるの?見せて~」
「私にも見せて~」
「ロコ!ロコまで、いい加減に」
「なによ、マリー、魔法でヒステリー起こしてるの?」
「ロコ!」
「ケンカは、よしなさい、イライラしちゃうのは、マリーだけじゃないからさ」
「マーク、ありがと」
「そうよ、マリー、私は、マークの硬くなるところ、よ~く観察しちゃってるんだからっ」
「・・・・」
「ウソツキ、ロコ、ウソばっかり、お風呂でそんなに見えなかったもん」
「お風呂じゃないわよ、ねぇ~、プラム~」
「えっ、プラム?」
「マリー、隠してたわけじゃないけど、じっくり見えちゃったのよ」
「・・・・」
「マーク!」
ロコとプラムには、確かに、アルカティーナに股の付け根のホクロを確認されたときに、バッチリ見られている。でも、見せた訳じゃないし、二人だって、不可抗力で見えちゃっただけだ。
でも、でも、真っ赤な顔をして、納得がいかないとばかりに、マリーが詰め寄ってくる。
マリーだけじゃないの?ルルとオロチちゃんまで、ググッと俺に詰め寄ってきた。オロチちゃんは、現場にいたのよ。気を失っていたけどさ。
「ちょっと、そんなに、また、おしくらまんじゅうしちゃうの?」
「どうして、ロコとプラムに見せたのよ?、おかしいじゃないよ」
「見せた訳じゃないよ、祠でオールヌードになってさ」
「祠?」
「アルカティーナの祠での話なんだよ」
「へぇ~っ、見せたんだ」
「凄かったのよ。眼の前、間近だったわよね、忘れられないわ、ロコは?」
「そうなのよ、プラム、目に焼き付いちゃったわよね」
「ズル~イ!」
「そうね、不公平ね、これは、マリーの言う通り、ズルいと思うわ」
「ズルは、ダメ。見せなさいよ~」
「オロチちゃんは、一緒に現場にいたでしょ」
「えっ?私、でも、見てないもん」
「オバケクラゲの電気でビリビリ失神中だったけどさ」
「イジワル~」
どうしても、俺達は、いつも話の論点というか、本質をすっ飛ばして、どうでも良い下らない話を重要事項として議論する悪い癖があるようだ。
ここで、見せろと言わんばかりのマリー、ルル、オロチちゃんを宥めていると三人娘がスヤスヤと俺にしがみ付きながら寝息を立てていることに気付いた。三人娘をそれぞれ干し草の上に横にさせて、俺も、伸びをするように、今一度、干し草に埋もれてみる。
先ほども、窓から見上げた夜空がそこにある。
先ほども見た月がそこにあった。
満月だ。
満月?満月なんだな。
ふと、違和感を覚える。
昨日、モルシンの港に入る前に船の上から見上げた月は、丸くは無かったことに気が付いた。確か、上弦の月だったはずだ。多分、多分、まん丸っていうか、丸くなかったはずだ。
「そういえば、満月がキレイだよ、昨日は、お月さんは、上弦の月、半月じゃなかったっけ?」
「そうよ、マーク、上弦の月だったわ」
「ロコ、そうだよね。おかしいと思わないかい?」
「本当だ、おかしいわね」
「本当に、半月だったかしら?」
「私も、お月様、覚えてないわ」
「でも、こんなに明るくなかったように思うわね」
「私は、お月さん気にしてないからなぁ」
「いいえ、半月、上弦の月だったはずよ、マーク!」
「だよね」
月齢がたった一日で、これ程の変化をもたらすわけがない。ということは、やっぱり、何かがおかしいんだ。だから、女神も出てこない。別人の同一人物である三人娘が、存在している。
でも、お月様以外の明確な違いが見つけられない。だた、この村は、とてつもなく静かであることに、今、気付かされた。なんの音もしない。虫の声くらい里山の夜なんだから、聞こえてきても、よさそうなものなのに。
夜も更けていることでもあるし、三人娘も夢の中でもあるし、ロコとプラムが見た蒲の穂綿の件も、まだまだ燻っている様子だし、ちょこっと、散歩というか、散策というか、いや、違うな調査をしてみようかな。この村に来てから、入り口らしい道外れと井戸、村長の家、納屋しか見ていない。全体的に見れば、何かがつかめるかも?井戸が怪しいのであろうか?とにかく、出歩いてみるかな。
「ちょこっと、俺、村を見てくるよ」
「えっ、私も行くわ」
「大丈夫、ちょっとだから、疲れただろ」
「いいのよ。深夜のおデートしましょ」
「マリー~、まだ私たちも眠ってないんだから、行くわよ」
「ルルも疲れただろ、いいから、いいから」
本当に疲れている様子は、ロコとプラム。三人娘と寄り添う格好で夢の中に入ったようだ。
「チャンス、うるさいロコもプラムも眠ったわ。静かにっ、起こさないように」
「うんうん、おデート」
「いいんだよ。大勢でいくより、俺だけ、その辺をちょこっとだから」
「ひとりでって、エッチな悪いことしに行くんでしょ」
「ちっ、ちがうよ」
「じゃぁ、いいでしょ」
「今夜は、私がおデートの番でしょ」
オロチちゃんは、眠っていなかったようで、俺の方ににじり寄ってくる。蛇の姿に変身して、俺の脚から腿に絡みついている。
「みんなおデートしてるもん。今度は、ワタシ」
「わかったよ、オロチちゃんと二人で行ってくるから、二人は、もう寝てて」
「ええっ~」
「イヤ~ん、眠くな~い」
マリーもルルも不満たらたらであるが、お月さんの状態に気付いていない二人は、眠ってしまったロコよりも今夜は頼りにならない気がする。腰の果物ナイフを確認して俺は、立ち上がる。
オロチちゃんが絡みついた状態からアンクレットに変身する。
「おおっ、アンクレットこれだね。ちょこっと、しなれないとむず痒いね」
オロチちゃんは、また脚に絡みつく蛇の姿に戻った。
「アンクレットは、気になるの?じゃぁ、もっと、良いものになってみる、より一体となれるように」
魔法というのか、魔術というのか、不思議な力を操るのは、マリーだけじゃない。オロチちゃんは、存在そのものが、既に不思議だったことを再確認する。
ドラゴンナイトを体内に宿しているから、俺達ファミリーでは、最強の妖術使いであるのだろう。
オロチちゃんは、俺の脚から腿に大型の蛇の姿のまま絡みつき、ギュギュッと痛いくらいに締め付けてくる。痛いけど、痛くない変な気持ちを味わっていると、オロチちゃんの身体が、俺の皮膚に吸い込まれていく。
「おおっ、オロチちゃん、ちょっと、痛いような不思議な・・・、どこにいくの?」
「うん、大丈夫、アンクレットより、邪魔にならないようについていけるわ」
みるみる皮膚に吸い込まれたオロチちゃんは、足首に尻尾を巻きつけ、頭を腿の付け根に、胴体は膝を中心にグルグルと巻き付いている綺麗な刺青と変身してくれた。
「おおおっ、スゴ」
「これなら、アンクレットよりも、気にならないでしょ」
「うん、凄いね、ただ、お顔は、ここを向かなくても良かったのでは?」
「イヤイヤ、お顔はここでなきゃ、ダメよ」
刺青の状態で会話が出来ていることも感心してしまう。
それを見ていたマリーとルルは、絶句して、項垂れている。
「凄いわね、オロチン」
「まいっちゃう、ちゃんとマークを守るのよ」
「ハイハイ。おデート、いってきます」
「この刺青、もっと、地味に小さいのでも良かったんでしょ」
「この大きさが、いいでしょ、ワタシを忘れないように、よく見える大きさなのよ」
「そういう意味なのね、小さくも出来るはずだもんね」
「見せつけちゃうんだもん」
「よくわかりました」
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