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美少女


 俺達は、ゲリア村の中心部、大きな井戸のある広場にやってきた。


 村人が大勢水汲みなどの作業を行っている。各々が、桶を抱えて忙しい様子だ。一人の老人が両手に桶を下げて歩いているのが目に入った。


「重たそうですね、お手伝いさせてください」

「おっ、そなた達は、村のそとから参ったのじゃな」


「はい、海の向こうからモルシンの港にやってきた者です」

「海の向こう?それは、大変じゃったな。黄泉の国の方々」


「黄泉の国じゃありませんよ」

「いいや、西の海ならいざ知らず、東の海の向こうは、黄泉の国じゃ」


「出で立ちから見ても、西から来たのではないじゃろう}

「でも、俺達は、死人じゃありませんよ。ちゃんと、現在進行形で生きています」


「現在進行形?」


「現在、過去、未来、全て進行形じゃ、この世界だけが進行形ということもなかろうて」


「・・・・、どういう意味ですか?」

 

 とりあえず、話をしながら、老人の下げている桶を俺が一つ、マリーとルルで一つと引き受けて、歩き出した。老人は、自分の家に戻るとのことだった。


「いつもお独りで水汲みもなさっているのですか?」

「無論。わしは、独りきりじゃ」


「村の方々は、協力していただけないのですか?」

「みんなも、自分のことで手一杯なんじゃ、これくらい何でもないことじゃ」


 あたりを見渡すと、水汲みや洗濯、炊事仕事と人々は、忙しそうにしている。しかし、目に入ってくるのは、老人、子供、女性だけのようだ、働き手の男の姿が、見当たらない。


「男の人たちは、みんな仕事にいっているのですか?漁とか?」

「この村に、ワシ以外の男はいない」


「いないって?」

「あの子供たちの親は、どこにいるんですか?」


「今は、いない。はるか昔から」

「はるか昔?」


「ずっと、子供は、こども。村は、何も変わっておらぬ」


 何を言っているのか、理解できない。


 この老人は、よそ者の俺達をからかっているのか、はたまた、用心して本当の事を隠しているのか、いやまてよ、この老人そのものが、おかしいだけなのか、状況を飲み込むことができない。


 しかしながら、老人は、俺達を拒むわけでもなく、家までついてくるのを許している。もうすこし、よく話をしてみよう。

 この村には、生家があったらしいし、昔の事でも、言い伝えかなんかを聞き出せるかもしれない。この老人は、訳が分からないだけあって、何かを知っているような気もするのである。


 老人が引き戸を開き、家に入っていく。

 振り向きながら、こちらへ来いと促してくる。


「水瓶は、どちらですか?」

「こっちの台所じゃ、悪いがそこの瓶に水を入れておくれ」


「わかりました」


「よっこいしょっ」


 促されるままに、土間を進み入り、俺達三人が、次々に水瓶に水を注ぎこんでいく。大きな水瓶なのに、たった二杯の樽の水で淵の所までみたされてしまった。


「水も来たし、茶でも飲んでおくれ。黄泉の国の話でも聞かせておくれよ」


 老人は、お茶の支度をしながらそう言った。俺達は、促されるままに、一段上がった床に腰を下ろして、囲炉裏を囲んだ。

 お茶と南京豆を頂きながら、話を聞こうとしていると、俺の足元の板の間に、カランっという金属音がした。


「カラン・カラン」


 音は、二つ。同時に見覚えのあるアンクレットが、俺の胡坐をかいている傍に転がっている。


 二つのアンクレットは、互いに、メビウスの輪を描くように回転しながら、パタンっと床に倒れて動きを止めた。

 手を触れようとした瞬間に、今度は、プラムとロコが、でんぐり返しをするように、飛び出してきて、かなりの勢いで、俺にぶつかってきた。


「イテテてっ」


「目が回るっ~」

「ふうぅ~、息が出来ないわ~」


 ロコとプラムは、床に身体を投げ出して、頭を抱えている。


「ロコ!プラム!」


「あっ、マーク!」

「ヤッター、テレポ成功ね」


 ロコは、初めてのアンクレットによるテレポーテーションを体験して興奮気味だ。


 二人?


 オロチちゃんの姿が無いことに気付いた俺は、


「オロチちゃんは?」


 ロコが、片足を俺に見せつけるように上げながら、得意気に言い放つ。


「オロチちゃん~、上手くいったわよ、かも~ん」


 みるみるロコのアンクレットが変形していきながら、ゴロンっと蛇の姿のオロチちゃんが床に転げ出た。その転がりの回転を一回、二回、三回とした後で、緑の肌の美少女が、床に仰向けになって横たえた状態になった。


「ふう~、疲れた~っ、アンクレットになるのは、結構こたえるのが分かったわ」

「ありがとう。オロチちゃん。ゆっくりしてね。ほら、マークの所にちゃんとこれたわ」


「ロコ、船は、ちゃんと保管、停泊できたのかい」

「うん、万全よ」


「それは、良かった。俺達の家だもんね」

「うんうん。持ち歩き出来るようになっちゃったもん」


「・・・・」


「持ち歩き?」

「うん、私の木片に収納できるのよ」

「そうなのよね、大発見よね」


「マークの大好きなエッチな呼び鈴方式だもんね」


「アハハっ」

「エッチな木片」

「アハハッ」


 ロコ、プラム、オロチちゃんの三人が揃って笑いながら頷いている。


 よく聞いてみると、どうやら、ロコの巾着の中身、家を成す木片に吸い込ませる方法を見出したらしい。それのどこが、エッチなのかは、教えてくれなかったが。


「おおっ!黄泉の国の魔法じゃ~」


 この家の主人の老人が、半ば失神しそうな勢いで、驚いている。そして、驚きの中に、かつて見たようなものも感じ取ったらしい。


「魔法じゃありませんよ、まして黄泉の国のものでは」

「では、なんなのじゃ、そなた達は、黄泉の国のものじゃろうが」


「違いますって、私は、このゲリアで生まれた者なのですよ」

「そなたが?」


「確か、この村のアロンとマナの子供ときいております」


「アロン?マナ?」


「ご存じありませんか、伯母のアルカティーナに言われて、この村まできたのですが」

「オバ?」


「マナ?アルカティーナねぇ、この村には、アルカティーナも、マナも」


「いたんですよね」


「いたではない、おるだ」

「いるんですか・・・」


「おるわい。ワシの娘だ。このうちにおる、その二人だけじゃ」

「・・・・」


 なんだか話がおかしくなってきたように感じた。老人は、独りきりでこの家に住んでいるわけでは、ないらしい。


 独り?じゃないのか?さきほどの井戸では、独りと聞いたようにも思うのだが。


 囲炉裏を囲んで、老人の身の上を聞かせてもらうことにした。勿論、俺達が黄泉の国の者でないことも説明しなくてはならない。そして、俺の生家を探す為にここに来た事を告げなくてはならない。


 それに、アルカティーナの事も。伯母上が村の井戸と言ったのだから、何某かの手掛かりが欲しいのも正直なところだった。



 老人の名は、アテル。このゲリア村の長とのこと、そして、二人の娘と三人で暮らしているらしい。


 そうだったのか、なんだ寂しい独り暮らしの老人だと決めつけてしまっていたらしい。


 ちょうど、俺達も名乗りを上げて、この村へと来たことを話し出そうとした頃、家の引き戸が放たれ、外から二人の少女が手を繋いで帰ってきた。


 少女?美少女だ。


 とてつもなく、美少女だ。


「ただいま。山で山菜とウサギをとってきたから、ごはんの支度をするね」

「お姉ちゃん、お客さんがいるよ」


「あらっ、ホント、大勢。オカズ、たりるかしら?」

「おおっ、ティーナ、マナ、おつかれさま、おいしそうじゃの」


「うん、お父さん、マナが捕まえたのよ」

「そうよね、私は、山菜専門、あはは」


 美少女二人は、部屋にいる俺達をやはり異国の者を見る目で、不思議そうな感じで見つめている。


 俺は、その顔かたちを確認するなり、強烈な衝撃を受けてしまう。


 俺の眼のまえには、アルカティーナ本人がいた。


 そう、ミニサイズのほんの十歳そこそこの美少女がいる。伯母上本人にもらったメダルで呼び出せるティーナちゃんそのものだ。

 ただ、出で立ちが異国の着物という合わせの衣を纏っている。その横に、また、すこぶるカワイイ六、七歳くらいの女の子が立っている。


「これが、今話した、わしの娘じゃ、ティーナ、マナ、黄泉の国の方々に挨拶おし」

「あっ、はい、よみのくに・・・」


「・・・・」


「どうもいらっしゃいませ、このうちの娘。アルカティーナと申します」


「マナニーニです、と、もうします」


「妹は、山では、おてんばですが、人見知りで」


 唖然としたまま、暫く声が出せない。


 なんなんだ。







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