マガイモノ
「ルルは、金属を操る魔術師ね」
「そんなに褒められると調子に乗っちゃうわよ」
「完璧よ。あとは石をオロチちゃんに、わけてもらうだけね」
「痛いんでしょ」
部屋の窓から大き目の鳥が、部屋の中に飛び込んできた。アンクレットに夢中になっている二人の間に降り立った。
「わっ、何?」
「キャッ」
「びっくりした、カモメ?近くにくると、意外と大きいわね」
「足に紙が巻き付いているわ」
マリーは、細く折りたたまれたその紙をカモメの足首から解いて広げていく。
「ロコからの手紙よ」
「なんて?」
「ダハスに戻らないで、このまま、岬の先のモルシンに向かうって」
「モルシン?どこ??どういうこと?」
「また置いてきぼり?」
マリーは、目を閉じて、暗示通信の念を送る。ルルも続くように念を投じる。しかし、前回のようには、映像も音声も感じられなかった。
「通じないわね」
「この前みたいな感じに、ならないわね」
マリーは、急ぎ念を諦め、ロコの使いのカモメの翼を両手で抱きかかえるように掴んで、話しかけた。それを見たルルは、そそくさと台所へと駆けていった。
「カモメさん、手紙を書くから、ロコの所に持って行って」
「お願い。カモメさん、このお魚あげるから」
「ルル、さすがね」
「それと、お返事を貰ってくるのを忘れないでね」
マリーとルルは、手紙を書いてカモメの足首に結びつけた。魚を貰ったカモメの往復便が、窓から今来た大空へと再び飛び去って行く。
「マリーは、何て書いたの?」
「ルルは?」
「置いていかれると寂しいって」
「私は、ドラゴンナイトの欠片を少しでいいから頂戴なって」
「おおっ、それで、お返事なのね」
「貰えれば、このアンクレットでテレポーテーションの実験よ」
「うまくいくかなぁ~」
「きっと、マークの所にいけるわよ、行かなくちゃ」
「でもさぁ、オロチちゃん、痛いんでしょ?」
「・・・」
「・・・」
今回もまた、海を渡る長旅となる。嵐に見舞われないで、穏やかな天候にて航海をできることは、この上なく心地の良いことである。またもや初めての土地を目指しているのだが、不安感よりも、わくわくとした高揚感の方が勝っているのが分かる。ティーンの町しかしらない俺が、モルシンという町で生まれていたなんて、何とも言えない感じがする。
甲斐甲斐しく仕事や俺の世話をしてくれるロコ、プラム、オロチちゃんの三人。とっても可愛い。そういえば、ダハスでお留守番のマリーとルルは、今頃どうしているのだろう。
マリーの魔法もここまでは、届かないようなので、大人しく待っていてくれていることだろう。まだ一週間近くは、このまま海を進むことになるから、迎えには、まだまだいけない。
長いこと待たせなくてはならない。
何事もなく、このまま、モルシンに到着したいものである。この海も新しい大地も別の世界の物と思っていたけど、考えてみれば、アルカティーナの話から元々は同じ世界のはずだ。
一つの世界が二つに分けられていた、と言うのが正しいだろう。とするなら、元の世界のありように戻ったという事なのだろう。
でも、そうなれば、マリーの魔法も通じてもいいようなものだけどなぁ。
いろいろと物思いにふけってしまう時間が多い。見上げている青空の中から、真っ白い大きな翼のカモメが俺達の船を目掛けて急降下してくるのが目に入った。
「ロコ、カモメの襲撃だ」
「えっ、連絡便だと・・・」
カモメは、甲板寸前で翻るようにして、降り立った。パタパタと不慣れな歩きで、ロコのもとに歩み寄っていく。ロコは、カモメの足に括り付けられている紙切れを解いて、読み始める。
「ええっ~」
「どうしたんだ」
「マリーとルルからのお返事が来たんだけど・・・」
「なんて?」
「ドラゴンナイトの欠片を送り戻せって」
甲板の三人は、ロコの言葉を聞いて、顔を見合わせた。
「ドラゴンナイトって、石っころは、もう岬に投げ入れてしまったわ」
「もうあとは、私の尻尾とアンクレットの小さな欠片しか・・・」
「何かを掴んだのかもしれない。二人は、ダハスで」
「まだ、生え替えには、早いから、無理やり取らないと・・・、痛いもん~っ」
「オロチちゃん、頼むよ。我慢して。ルル、プリメアの雫はまだあるかい?」
「はい、まだあるわ」
「オロチちゃん、痛いけど、お願い。すぐ治療するから」
「わ、わかったわ、マークの頼みならなんなりと・・・、でも、痛いのよ」
オロチちゃんは、女の子の姿から、大蛇の姿に変わり、尻尾のガラガラを俺の鼻先に突き出した。
俺は、そのガラガラを掴んで、一つ目の境目にドラゴンの剣と言う名の果物ナイフをあてがった。
「ちょっと!マーク、欠片でいいのでしょ。このアンクレットの石を砕いて送りましょうよ」
「プラム。アンクレットがこわれちゃうわ」
「オロチちゃん、大丈夫。次の生え替えの時に、また、埋めてよ」
「プラム。ありがとう」
「オロチちゃんは、クラゲからも身を挺して守ってくれたわ」
「さすが、プラム。お姉さんだね」
「まぁ、ロコまで」
プラムから差し出されたアンクレットを受け取り、埋め込まれているドラゴンナイトにナイフの刃先をチョンチョンっとあてがうと、ポロっと小さな塊が転げ落ちた。その塊をナイフの背でコンコンとすると、綺麗に半分に裂けた。
半分をアンクレットに戻すと、見る見る馴染むように窪みにはまっていった。ボリュームは、半減したものの。
残りの半分を俺は、ロコに渡した。
「そうだ、ロコ、プリメアを少し摘んで、送り返させてくれ」
「えっ、はい」
「これからもプリメアの雫が必要だろう。瓶は、ここにあるから、草を摘んで植えるか、絞るかして、雫を収穫したいんだ」
「わかったわ、手紙に書くわ」
ロコは、手紙に半欠けのドラゴンナイトを包んで、カモメの足に再び巻き付けた。そして、美味しそうに銀色に輝く、一際大きなイワシをカモメに銜えさせると再び大空へ舞い上がらせた。
「何回もゴメンネ。もう一回、おねがいね」
「ロコ。船の進み具合は、順調かな」
「ええっ、もう一羽の偵察カモメは、まだだけど、順調よ」
オロチちゃんとプラムが手を取り合って、涙ぐんでいる。
こうやって、絆は深まっていくものだろう。
こうやって、このファミリーが強くなっていけると俺も、心強い気持ちと嬉しさでじんわりしてきた。
そのころ、ダハスでは、マリーとルルがプリメアの雫を瓶にせっせと集めている。また、ルルは、プリメアの草を一掴み刈り取って丁寧に紙に包んでもいる。
「このプリメアで、オロチちゃんの尻尾を手当てしましょう、瓶が専用じゃないから、草も持っていきましょうね」
「効き目が、でるといいわね。プラムの瓶に入れれば、大丈夫でしょ」
やっぱり、ファミリーなのか、同じことを考えているようだ。彼方の俺達の思惑が読み取れたのであろうか。しかし、動機が聊かどうかと思われるけれども。それにしても、小さな露粒を半日かけて収穫して、かなりの分量にできた二人は、部屋へと戻ってきた。
部屋では、再度ロコからの手紙を携えたカモメが、二人の帰りを待っていた。
「わぁ、カモメさん、もう戻ってきたの?」
「マリー、手紙を持っているわ」
ルルは、カモメの足から手紙を解き、中から、小さな欠片の石っころを取り出した。
「あったわ、マリー。ドラゴンナイト。貴重なものだから、大事に使うようにと、プリメアを摘みとって送ってだそうよ」
「プリメアは、十分収穫したし、私たちが持っていけばいいわね」
ルルは、またもや、台所から魚を調達してきて、カモメに渡して、労を労っている。
マリーは、小さな欠片を掌に載せてまじまじと観察している。
「岬の先から、大地を生み出したのよね。これが。だから、マーク達は、戻らずにその先に行こうとしているのよね」
「これのどこに、そんな力があるのでしょうね」
マリーは、化粧筆のような杖を石っころに突き立てるように構えて、いつもの一言を唱えた。
「ブルスカ・ショック~」
小さな石、ドラゴンナイトが、ぼうっと光りながら三等分の塊に分かれた。透かさずルルが、その一つ一つをフゥフゥと息を吹きかけながら摘まみ上げ、三つのアンクレットの窪みに装着した。
すると、彫り込んだドラゴンの紋様の爪が、ガシっと動き、しっかりとそれぞれの石をしっかりと掴み込んだ。
「ヤッター、マリー見て、見て。完成よ。プラムのアンクレット擬き~っ」
「擬きじゃないわよ。ほぼホンモノよ」
「ホボでしょ」
「うふふっ、ほぼ」
「これの良い所は、ブレスレットにも、アンクレットにも、できる所よ」
「輪っかに、仕掛けをしたのね、調整が出来るのね、流石ね、いいわ」
「お好みで、付けられますよ、お嬢さん、アハハ」
「チョーカーにもできるわね」
二人は、アンクレットの完成とそのピカ一の模造品としての精度の高い完成具合に、御満悦といった感じである。
マリーは、それを、腕に、ルルは、足首と腕に付けた。ダハスの長への置手紙を部屋に残し、二人は、自らの装備と荷物を背負いこんだ。そして、収穫したプリメアを袋に詰めて抱え込んだ。
二人して、肩を抱えるように寄り添い、抱き合いながら、掌をアンクレットの石にあてがい準備万端の体勢をとった。
念をマーク達の元へ集中させて、ぼんやりと船の光景が見えてきたところで、コピー品であるアンクレットのパワーに一段とブースターを効かせる為に、マリーは叫んだ。
「ルル、しっかりつかまっていてね」
「ブルスカ・ショック~」
マリーの一言が引き金となって、二人の身体が、それぞれに填められたアンクレットの石に吸い込まれていく。
イワシを食べながら、それを見ていたカモメは、びっくり仰天して、部屋から飛び去って行く。
部屋には、グルリグルリと回転するように、二人の身体を跡形もなくなるまで吸い込んだアンクレットが床に二つ残されただけとなった。
そして、そのアンクレット自体も、一呼吸おくと、追いかけるようにパッと消えて無くなってしまった。
マガイモノ、恐るべし
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