カシャ・カシャ
昨日、初めてのご評価をいただきました。
評価を付けて頂きました方、誠に、ありがとうございます。
大変励みになります。小躍りして喜ぶくらいに嬉しいです。
今後も、楽しんでいただけますように、頑張りますので、
よろしくお願いいたします。
翌朝、島の長は、俺達が火の山へと向かうことを躊躇いと心配を隠しきれないようだったが、巫女の言葉を伝えると、やむなしと了承し、武具・食料・諸々の装備を与えてくれた。
「山へ登るぞ」
「誰も足を踏み入れたことのない山、とても怖い」
何があるのかも、何がいるのかも分からず、山自体が生きている感じが伺える所。そこへ向かうのだから、恐怖心が湧いてくるのは、みんな同じであろう。
火の山、島の中心へと向かう道が途切れたところから、裾野の藪を草をかき分けるように進みながら、まだ、緩い傾斜を登り始める。獣道のような隙間しかなく、序盤から結構険しい。気が付くと徐々に勾配がきつくなりながらも、半日進み続けると、草木がない岩場の小さな空間に出ることができた。
「ここが、言い伝えの山の入り口なんだわ」
「えっ、ここからが入り口なの?」
「今まで登ってきたのは?」
開けたこの場所で、少し休憩をとることにする。空を見上げると、いつの間にか、煙を登らせている山がそびえる様に迫っている。近くまで、来ているのが分かる。
「ここからは、あの岩の間に空いている穴に入るのよ」
プラムが指さす方向へと目を向けると、確かに小さな洞穴の入り口のような穴が確認できた。これが、山の入り口ってことなのだ。
山の神の怒りを鎮めるのだから、魔物は、出てこないことを期待しつつ、対応できるように、今一度、装備を点検して、腹ごしらえに、持たせてもらった握り飯を頬張った。
「ねぇ、マークは、おにぎりの具、何が好き?」
「俺は、やっぱり、梅干しかな」
「私は、おかか」
「私、昆布」
「そうなんだ、シャケじゃないの」
「タラコもいいよね」
「ちゃんと、覚えておくわね」
「あっ、ロコったら、またねっ」
「マリー、なにが、またなのよ。私が今度作るときの、好みを聞いただけよ」
船での生活からも、ロコの料理上手は、誰でもわかっているだろう。これも家を司る木片の影響があるのだろうか。
「ここからは、もっと気を引き締めないといけないから、ふざけちゃダメよ」
「はーい」
「マークも、おっぱい触ったり、イタズラしたらダメよ」
「そうだ、穴に入る前に、クリスティーを呼ぼうかな」
「今は、お出まし頂かなくていいの!」
「入口は、見えてるでしょ」
四人が同時に手で、胸を押さえている。オッパイガードの素早さに感心する。
今度からは、やっぱり、断りを入れずに、いきなりのクリスティー・ショックを決行する方が良さそうである。
まだ、外は、明るいけど、洞穴の中は、真っ暗でどこまでも続いているように先が見えない。それぞれが松明を片手に洞穴へと潜り込んでいく。入り口は、人ひとりが通れるような小さな穴で、五人が縦に並んで進んできたが、暫くすると、空間が広がり始めて、細長い筒状の中を歩いているようになった。
一人ずつでもなく、腰を屈むでもなく、進めるのは、有難い。穴は、如何やら一本ではなく、迷路のように入り組んでいることが分かってきた。来る者をここで足止めするかのように出来ているのか、作られているのか。と初めて入った俺達にも理解できた。
「かなり、入り組んでいるね」
「モグラの穴みたいじゃない」
「ここをどう進めば、山頂へ抜けるかは、全くの未知なのよ」
「何かが、いるのかも分からないの?」
「なんにも、分からない。でも、入った者は、いないはず、大昔以外は」
「昔は、いるんだね」
「でも、出てきた者は、大昔からいないはずよ」
「出てこれないって、ことだね」
洞穴の中は、段々と熱くなってきた。入ったばかりは、ひんやりと涼しかったのに、今は、汗が滴るほどに、暑くなってきている。
暑いというより、火を噴く山らしく、熱い感じになってきた。中心に近づいてきているとのことなのか、分からないが、早くこの洞穴を脱出しないことには、身体が、もたなくなりそうだ。サウナ風呂みたいなのだ。
「暑いわね、汗でビチョビチョよ」
「段々、暑さが増している、これ以上暑くなると流石に危ないな」
「火の熱が、中に充満してきているのかも」
「とにかく、水分を取りましょう」
マリーが、水筒をみんなに回してくれた。本当に、汗で、衣服も装備も重さを増しているが、脱ぐに脱げない。脱いでも荷物になることと、防御力が落ちる為である。
山を登るために、山の入り口という洞穴に入ってから、どの位の時間がたったのであろうか。日の光が届かない暗闇では、よく分からない。疲労具合からかなりの時間、傾斜のある迷路状の穴を歩き続けている感覚は、まやかしでは、ないはずである。
「カシャ、カシャッ」
「さっきから、聞こえるカシャカヤいう音は、何かしら?」
「マリーは、聞こえるの?俺には、聞こえないよ」
「そうね、暑いけど、カシャカシャとリズミカルな音は、しているわね」
「ねっ、ルルにも聞こえているわ」
「暑すぎて、踊りを踊りたくなったから、リズムが聞こえるのでは?」
俺には、聞こえないリズミカルな音が、マリーとルルの心配を増幅しているらしい。戻るにも戻れないくらい山の深みに入っていることは、みんなが感じている通りである。迷路だもんね。
とその時、俺の耳にもカシャカシャという骨がこすれるような音が聞こえた。
「この音よ」
「うん、聞こえたよ。今のは」
「そうか、この音のことをマリーとルルは、言ってたの?穴に入ったときからしてるわよ」
「えっ、ロコは、ずっと聞こえていたの?」
「山が軋む音じゃないのかしらと」
暗い穴を覗き込むように、慎重にかつ、急いで進んでいる俺達の視界に、突然、洞窟の穴をいっぱいに塞ぐように、信じられないくらいの大きさの塊が現れた。
暗闇でもキラリとその眼を光られている。
大蛇だ。
「キャーっ、大きいっ」
「ぬゎ、おおっ、でかいオロチだ、みんな下がれ」
「おおおおっ」
「この音だわ、しっぽのシャカシャカ」
「ガラガラヘビの王様かしら?」
「なんだ、このデカさは」
「ここから先へは、進ませぬ」
「・・・・」
「ここまでだ、この場所で、尽きるか、引き戻るか、定めである」
恐ろしく大きな大蛇は、とぐろを巻き、尻尾の先をシャカシャカと鳴らしながら、最後通告を突きつけてきた。
「お前は、何者だ。この穴は、お前の住処なのか?」
「そこをどきなさい、どかないと、食べちゃいますよ。蒲焼にして」
「これより先には、何人たりとも、通さぬ」
大蛇は、この先を妨げるために、俺達の前に現れたらしい。大蛇の発する言葉は、ロコだけでなく、俺達みんなにも聞こえて理解できている。不思議なことは、不思議だ。
「どうして、お前は、ここを通さないのだ」
「我は、火の山の門番なり、何物をもこれより先は、通さない理」
「誰の指示だ、なんのために」
「我は、この穴にて、門番を司るのみ」
「俺達を食らうのか?」
大蛇は、目にも留まらぬ速さで、とぐろを解いて、その身体で、俺達を取り囲み、その首を俺達の頭上から、見下ろす体勢に変えた。
正に、今から食らうという感じである。
「俺達は、火の山に向かい、山の神に願い出るために行くのだ」
「山の神、山の神に実体はない。地と石を溶かし、大地を創造しているのだ」
「お前は、山の神を知っているのか?」
「お会いしたことも、火の山を目にしたこともない、この穴で、番をするのが務め」
松明の灯が、大きく光り、大きく揺らいだ。そのとき、黄緑色の閃光が、走った。
いつもの、俺のか、マリーの賽が光ったのか?そうではない。閃光のもとは、プラムにアンクレットだ。
閃光は、細く一直線となり、真上の大蛇の眼に吸い込まれていく。そして、プラムのアンクレットと大蛇の眼が繋がると黄緑の光の筋は、途中から盛り上がり、大蛇よりも大きな竜の頭となって、大蛇と俺達を見下ろしてきた。
「我が山に登るのだ、我が落とし子よ」
大蛇の眼が、大きく開き切っている。プラムのアンクレットから竜が、俺とマリーの賽のドラゴンと同じなのだろうか。落とし子って、言ったのか、この大蛇は、竜の子なのか、だとすると、この竜は、門番の何になるのだろうか。
「そなたは、何者だ、我が落とし子とは」
「この穴を作りし者だ」
「山と火を分かつ者なのか」
「山は、新しき大地を作り出そうとしている、新しき大地の種子を別の大陸に芽吹かせたいのだ」
竜は、その言葉を大蛇に発するためだけに、姿を現したようで、言い終えると光が、元来た軌跡を戻りながら、プラムのアンクレットに埋め込まれている石に吸い込まれていった。
「主らは、何者だ。この穴は、我が作った穴ではない。今の竜は、山を知っていた」
「お前は、山の神に門番を命ぜられているのか?それとも、竜からか?」
「うおぉお~っ、我は、なんのためにここにおるのか~」
マリーは、小さく頷きながら、化粧筆を大きく翳して、いつもの言葉を叫んだ。
「ブルスカ・ショック~」
ドドッーンっと、大きな物が地面に落ちてきた。中には、液体で満ち満ちている。この匂いからして、酒のようだ。マリーは、大きな酒樽を出したのだ。
「大蛇にお酒は、付きものよ、さぁ、お飲み」
「この麗しい匂いは、聖なる水なのか。我にか」
「さぁ、お飲み、竜からの恵みよ」
大蛇は、樽に頭を突っ込んで、貪るように酒を飲み干していく。その様子を唯々見ていると、マリーが化粧筆のような魔法の杖を大蛇の鱗を撫でるように当てて、言葉を呟いた。
「為すべきことを成してきた者よ、竜の元に戻れ」
次の瞬間、オロチは、大蛇では無くなった。
酒樽は、消え失せ、地面には、ミミズのように小さな蛇が蠢いている。蛇は、そろそろとプラムの足を登り、アンクレットにたどり着くと、アンクレットに埋め込まれている石の周りを取り囲むように絡みついて金属の飾り物へと変化した。
「マリー、今の魔法は、なんだい?」
「えっ、お酒をあげただけよ。オロチは、お酒好きでしょ。でも、竜の子なら、竜の元に帰りたいと思って」
「段々とマリーは、ちゃんとした魔法使いになってきているのかもね」
「なによ、バカにして」
「プラムの守り神になったんだね、きっと」
いきなりの大きな大蛇にびっくりさせられたけれど、あっさりプラムのペットにマリーがしてくれた。マリーの力には、本当に尊敬の眼差しを向けながら、出口が近いであろう洞穴を俺達は、先に進むことにした。穴を進んでいくと、一段と傾斜がきつくなってくる。立って進むというよりも、手足を使いながら、よじ登るといったほうが適切のような感じさえする。上の方に、小さく赤い月の様なものが見えてきた。
「あの赤い月が、洞穴の終わりなのかな」
「うん、そうね。わからないけど」
「なんだか、ますます、熱くなってきてないかしら」
「あそこが、大蛇が悠久の時を超えて守ってきた出口なのかしら」
洞穴に入って、大蛇に出会うまでと同じくらいの時間を費やし、延々と這いつくばりながら赤い月を目指して登ってきた。やっと、赤い月が大きくなってきた。それは、月ではなく、穴の出口に他ならなかった。
その出口に縁に手を掛けて、身体を引き上げた。出たぞ、外に。なんなんだ。穴の中よりも、強烈に熱い、お釜の中にでも、いるような熱さが、俺達を包み込んだ。そして、眼前に広がっているのは、大きなすり鉢の様な山の口に、大地が真っ赤に溶け合って、ぐつぐつと煮えたぎっているような光景が唯々広がっている。正しく、ロコの笛が見せた幻影そのものの世界が今、目の前にあるのだ。
「神様がこんなところにいるのかしら」
「大蛇も、山の神には、実体はないって言っていたよね」
「ここまで来たのに、何もできないってことかしら」
「クリスティーが登れって言ったのは、なんのためだろう」
山の山頂は、ぐつぐつの大地の鍋でしかない。時折、お釜というか、鍋というか、恐ろしく煮え手繰っている溶けた大地の飛沫が、天高く吹き上がり、山の縁から溢れかえっている。
「さすがに、危ないところだね。火の山を鎮めることは、できそうもないね」
俺は、両手の人差し指を立てて、呆然と立ちすくんでいる四人の美女を確認した。そして、
ツン・ツン・ツン・ツン~
「クリスティーちゃん、かもーん」
「あっ~ん」
「イヤッーン」
「ちょっと」
「ううっ」
素早く、右の人差し指で、四人の左の乳房のさきっちょをプリンっと反時計回りに弾いて回り、その返しで、今度は、左の人差し指で、四人の右の乳房の先を弾き、跳ね上げさせてから、決めセリフを叫んだ。
俺の目の前には、四人が胸を両手で抑えている姿しか見えていない。
「マークのバカっ」
「いきなり、痛いじゃないの」
「優しくしてって、いつも言っているでしょ」
「こんなところで、触りたくなるなんて」
一呼吸遅れて、金髪の小さな美少女が、すぅ~っと現れてきた。
「こんなに燃え盛る山の上でも、マークって、本当にエッチなのねぇ、おっぱい大好きだもんね」
「クリスちゃん、ちゃんと、呼ばれて、出てきてくれたね」
「だって、マークがどうしても、私が欲しいって言うんですもの」
「私のオッパイは、呼び鈴じゃないのよ。もっと、丁寧に扱ってくれないとイヤ!」
「本当よね。触りたいなら、ちゃんとお願いして」
「私のだけで、呼び出せるように、クリスティー様にお願いしてみようかな」
お助け専用の少女のクリスティーは、なんだか呼び出されて、ご機嫌な様子。それは、それで、好都合?四人は、オッパイをぞんざいに扱われてプリプリプリンちゃん状態になっているけど。
「クリスちゃん、火の山のてっぺんのグツグツ鍋まで登ってきたけど、何もないんだけど」
「何もない?あるじゃないの?」
「あるの?」
「ここには、大地の源が沸き上がっているのよ。昔から」
なるほど、これが山の神そのものなんだな、大蛇が言うように実体のある神ではなく、自然という創造神という意味なのだろうか。であるならば、なぜ、大蛇は、門番をしなくてはならないのか。誰に守らされていたのか?
「大地の源の中に、大地の種子。つまり竜の玉。力の源となる石があるのよ。それがドラゴンナイト」
「石?全部がドロドロに溶けているのに、探し出すなんて」
「ヒントは、ここまでよ。チビッコは、制限時間が限られてるのよ。あと、言い忘れてけど、五日に一回しか、チビッコは呼べないから、気を付けてね」
「五日に一遍なの?」
「そうそう、呼び鈴のオッパイタッチは、左右どちらでも一回だけに変えてあげるね。ウフっ」
クリスティーは、そう言うと、すーっと消えてしまった。何回もは、呼び出せないことを初めて知った。これは、使い方を慎重にしないといけないな。あと、一回のタッチは、助かる。四人の胸を触ってから、また、往復して触るのは、結構難しいもん。
「ちょっと、マーク!」
「みんなのオッパイって、プルンプルンで、最高級プリンみたいだね」
「許さないぃ~」
「待ってくれよ。ヒントの為だよ。みんなだって、この先、困るでしょ」
「うるさーい」
さて、ドラゴンナイトをどう探すかだが、その一部が、プラムのアンクレットに埋め込まれている。それを取り囲むように、そもそもの門番の大蛇が、マリーの魔法で文様となってしまった。大蛇が、抱くようにドラゴンナイトを守っている。待てよ、アンクレットの石が、ドラゴンナイトを探し出すって、確か。
「プラム、アンクレットから大蛇を呼び出せるかい?」
「えっ、あの大蛇、呼び出せるの?」
「多分、プラムのペットになったと思うから、お願いすれば、出てくるかも?」
「本当なの?マリー」
「プラム試してみて」
プラムは、アンクレットに手を当てて、文様の大蛇と中心の石を撫でながら、お願いの言葉を呟いた。
「ブルスカ・オロチ・カモーン」
その言葉に反応して、文様の大蛇の目が光ったと思うと、アンクレットからムクムクと抜け上がり、プラムの足元にプルリンっと転がり出てきた。
「ちっちゃ」
掌に乗る大きさのミミズのような蛇ちゃんが、プラムの足を登っていく。
「本当に出てきてくれたけど、小さいね。オロチちゃん。イヤ、そんなところから、どこに登って来るつもりなの?」
又もや、プラムの言葉に反応したように、小さいオロチは、一瞬で、プラムの脚と同じ太さくらいの大きさのヘビに変わり、プラムの脚に巻く着くように絡みつき、その鎌首の正面をプラムの顔に突き付けた。
「体の大きさは、自在だから。ミミズから、本来の大きさの大蛇まで、お好みは、これくらい?」
「私のオロチちゃん、万能ね。これからヨロシクね」
「しかし、蒸発してしまいそうなほど、熱いわね。ここが、守るべき所だったのか」
オロチは、真っ赤に染まる世界を眺めながら、驚愕を隠せないでいるようだ。
オロチは、プラムの脚から地面に降りて、尻尾の先のガラガラを小刻みに揺らして、軽快な音を奏で始めた。何もなく赤く煮え滾る鍋の縁には、俺達五人とオロチのみしかいない空間となっている。世界の始まりを見ているような気がしているのは、恐らく俺だけではないはずである。
鍋の中で煮え滾っているドロドロに赤く溶けているものが、不規則に吹き上がっては、弾け飛んで行く。その時、オロチは、何かを感じたように擂鉢状の縁を一目散に突き進んでゆく。
「オロチちゃん、ダメ、危ないわ」
オロチは、何やら握り飯くらいの黒い塊をくわえると、こちらに戻ってこようと振り向いた。しかし、滑り落ちるように、斜面を鍋底に向かって転がり落ちていく。赤いドロドロに、尻尾の先が呑み込まれていく。ジュワっと音を立てて、光を伴いながら、大きな煙が舞い立った。
「あっ、いけない。それっ」
ロコが素早く、縄を投げつけた。オロチの身体が、ドロドロに浸かる間一髪で縄は、オロチに絡みついた。
「間に合ったわ。でも重い」
「ロコいいぞ。みんなで引き上げよう」
こういう時は、小さいヘビの方が軽いのにと思いながら、オロチを引き上げる。オロチは、我を忘れている様子で、黒い塊をくわえたまま瞳孔が開いたように焦点の合わない目をし、身体も固まったように動いていない。ただし、尻尾のガラガラは、残っているものの、激しく光り、真っ赤に燃えた鉄の塊のようになっていて、小刻みに揺れ続けている。
「オロチちゃん、それは何?」
「・・・」
「オロチちゃん、固まっちゃったわ」
「オロチン・バーック」
「マリー?何それ?」
オロチは、マリーの言葉に反応したのか、くわえていた黒い塊を俺達の足元に残して、すーっと小さくなりながら、プラムのアンクレッットに吸い込まれていった。アンクレットに同化したオロチの尻尾が、赤く光るようになってしまった。
「マリー、ありがとう。オロチちゃん、戻ってきたけど、大丈夫かな?」
「今度から、プラムもこれで、戻せると思うわ。少し、休めば、大丈夫でしょ」
「ロコ、マリー。ありがとう。流石だね。一体、オロチは、何を見つけたのだろう」
「マークが、誉めてくれて嬉しい」
「うん、キュンってしたわ。マーク。私も嬉しいわ」
「これがドラゴンナイトかしら?」
「そうじゃないでしょう。これは、ドロドロの中じゃなくて、ドロドロの乾いた物じゃないの」
「俺も、違うと思う。でも、オロチが命懸けで取ってきた物だ、持ち帰ろう」
オロチが持ち帰った黒い塊を携えて俺達は、火の山の山頂、赤くて、熱くて、大地がドロドロに溶けているこの場所から、立ち去ることを決意する。
なぜなら、真っ赤なドロドロの世界は、この世界の始まりの如く、赤いだけで無に近い。只々、それしかない。山の神も居なければ、魔王もいない。何もなく、何もできないこの場所で、どうすることもできないと判断するしかなかった。
「みんな、戻ろう、山を下りよう。ここでは、もう、何も見つけられないよ」
「うん、山の神は、どこにもいないもんね」
「でも、ドラゴンナイトとプリメアの花は?」
「どこにあるって言ううんだい?」
「山にきて、得られたのは、可愛い新しい仲間、オロチだけだよ」
「さぁ、早く降りよう。ここにいては、俺達も溶けちゃうよ」
「マークに従いましょう」
「はい、マークが言うなら」
「家長のマークに従います」
「無論、マークのままに」
「よし、戻るぞ」
俺達は、今来た穴に、戻るために、一人ひとり、潜っていく。穴に全員入ったところで、ルルに頼むことにした。
「ルル、ルルは、金属を扱える、だから、大地も、減らない巾着の金属でこの穴を封印するように塞いでくれ」
「この穴を?」
「まず、俺が、岩を集めて塞ぐから、隙間をルルの金属で溶接するように」
「それなら、私たちも、石とか、岩とか集めるわね」
「そうね、集めるわ」
「はい、集める」
「ありがとう。この穴を埋めて、オロチが守ってきた山頂を閉ざそう。そして、ドロドロが、この穴に流れ出すのを防ぐんだ」
「了解!」
みんなで、石やら岩で穴を覆いつくしていく、そして、ルルが巾着の不思議な金属を隙間に埋めながら押し伸ばしていく。
「ルルの金属って、すごい。粘土みたいに伸びていく。そして、元の大きさが変わらずに手元に残ってるわ」
「これが、魔法か何かの、ルルの力さ。俺のナイフも直してもらった力だよね」
「一応、マーク、穴を塞げたけど」
「マリー。ここで、ショックの魔法を頼むよ」
「ここで、どうなるのかしら?」
「より、固めるために、マリーの魔法が必要なんだよ」
「必要なの?うれしい。ブルスカ・ショック~っ」
岩とルルの溶接で塞がれている穴が、山頂に様に真っ赤に燃え上がり、ドロドロに溶け始めた。穴全体が熱く燃え上がり、眩しい限りにオレンジ色に輝いた後に、真っ暗に変わった。
松明に灯をともし辺りを見渡すと、穴は只の、岩と化し、出口がなくなっていた。
「上出来だね。日に日にすごくなるね。魔法使いさん」
「マークに褒められると、やる気が出ちゃう。すごい?じゃぁ、チューして、チュー」
「仕様がないな。チュッ」
俺は、マリーのほっぺにキスをした。
「あっ~っ、マリーだけ、ずる~い」
「何言ってるのよ。だって、当然の報酬よ」
「マリーだけの力じゃないはずよ」
「そんなに、俺のチューを待っていてくれていたのかい?うれしいよ」
「そうよ、待ってるんだから」
「了解、ロコ、ルル、プラム、順番に並んで」
「はーい」
「私は?」
「マリーは、今したでしょ」
一列に目を閉じて待っている美少女三人に、そっと近づいて、突き出しているカワイイ唇にチュッと触れる程度だか、次々にキスをして、抱きしめた。
「みんな、大好きだよ。ありがとう」
「わーっ、わーっ。お口にチューしてもらった」
「マーク。大好きよ」
「マークの為にこれからもガンバル」
「ちょっと、マーク。私はホッペなのにぃ~」
「マリーは一番だったでしょ。みんなは、待ってたんだから、違うよ」
「そーよ。私は、ク・チ・ビ・ル。ファーストキッスを捧げちゃったわ」
「もーっ、ロコ!」
四人の美少女は、揉めにもめているが、こんなにも可愛く美しい女の子にモテモテの状況が初めてなので、嬉しいやら、恥ずかしいやら。でもこれが、俺の守るべき家族なんだと改めて実感できることでもあった。
塞がれた穴を背にして、急な下りの穴を来たように脚から入り、後ずさりするように、延々と下り降りていく。暫く降りて、オロチに出会った辺りまでくると、穴も広がり、穴というよりも、洞穴にまで辿り着いて、五人揃って、立って歩ける空間にまで、戻って来れた。
「やっと、中腹まで、戻って来れたね。みんな大丈夫?」
「はーい。マークのチューで元気百倍でーす」
「私も、オロチも、疲れがチューで、吹き飛んだ感じよ」
「うっふ、金属も元の大きさに戻ったわ。マークのお口へのチューで」
「私は、ホッペだったから、疲れがとれなーい」
まだまだ山を下りるまでは、長い、五人して、来た時より、ワイワイ、ガヤガヤ、ざわめきあって、下りの道を下りてゆく。そして、山の入り口の穴まで戻り出ることが出来た。
俺は、穴の縁を、謂れあるというドラゴンの剣という小さなナイフでえぐるようになぞり、出入り口が隠されるようにと念じた。すると、みるみると出入り口だった穴が、他の山肌と同じような草に覆われ、見事に入り口が隠された。これで、この入り口は、まず、俺達以外は、見付けられないことであろう。
「マークのナイフも、見かけによらず、スゴイのね」
「俺もびっくりだよ。こうなって欲しいって願いながらしたんだよ」
「じゃぁ、私の服が無くなるようにって、願ったりしたら、イヤーン」
「ロコっ。試してあげようか?」
「イヤッ、でも、お願いしたいかも」
「ロコっ!まず、今度は、私からよ」
「マリーばっかり、ズルイ」
「何言ってるのよ。私はファーストキッスだってまだなのに」
「私は、経験済みよ」
「私も」
「わ・た・し・も」
「みんな!ズルイ。どーして、私だけホッペなの?」
なんのために山に登ったことなど、もう忘れたかのように、みんなでワイワイと山を下って、長の館、プラムの家まで無事に戻りつくことができた。
「皆、無事で何より、山の神に火のことをお願いできたのかな」
「いえ、状況は、変わりありません。これから、検討しなくては」
「そうか、ひとまず、ゆっくりしてくれ。一週間も山に籠っていたのだから」
「一週間?」
休みなく、歩いていたこともあるが、一週間も山に入っていたのか。
せいぜい一日か二日と思っていた。