ファミリー
真っ暗な室内に、唯一つだけ、奥の方にぼんやりと灯の光が灯り、ぼうっと浮かび上がるように年老いた巫女の姿が確認できた。
その巫女の両脇には、若い巫女が座り、祈祷の最中の様だった。白い衣に、オレンジの炎の反射が、いつも見ている光に包まれる現象と似ている感じがして、厳かな儀式だと極まって感じられた。
「プラム。しくじったらしいね」
「はっ、しかしながら、クリス教会へは、行けずとも、クリス教の教祖をお連れできました」
「クリス教の教祖?」
「教祖?誰?俺達は、単なる僕でしょ」
「しっ、クリス教の辻褄が合えばいいのっ」
「クリス教の教祖とは、お主か?」
「そうかもしれません?」
「曖昧じゃのう」
俺は、そっとマリーに耳打ちして、俺の賽を光らせる魔法をお願いし、光るとともに、ロコには、天使の笛を吹くように伝えた。
「巫女様、曖昧ですが、クリスの光をお見せいたしましょう」
俺は、胸の巾着から賽の目を一つ取り出し、巫女の前に転がした。マリーが人差し指をちょこっと向けて、小声で囁いた。
「ブルスカ・ショック」
床板の上で、賽の目が緑色の閃光を放ち始めた。それを確認するとロコが小さな笛を口に当てた。
「キュルルルル」
ここにいる全ての人を取り包むように、霧が掛かり、幻影が浮かび上がる。この間、船で見たのと同じ風景。赤くドロドロと世界が溶け合う風景が、その熱量をも伝えるように、恰もその場に移動したかの如く現れ、一瞬、激しく赤く輝いたと思うと、部屋の灯りの灯に吸い込まれるように消えていった。
マリーの魔法で、賽の目を無理やり光らせたわりには、本来の光にとても似ていた。前回同様の幻影は、一段と凄みを増していた。やらせと、お告げがミックスしているが、巫女たちを信頼させるには、十分だったようだ。
「おおっ、我が願いが聞き入れられたようじゃ」
「なんですって」
「神に、山の神の怒りを鎮めて頂きたい」
「クリス神にですか?」
「プラムは、この島の宝の欠片を携えて、身分を明かし、この島の祈りを伝えたようじゃ」
「なんだか、祈祷したり、神様に関係する人たちって、独りよがりにしゃべりまくるね」
「しっ、マーク、静かに」
年老いた巫女は、頷きながら、涙ぐんで言葉を続けた。
「火の山に召されよ」
「えっ」
「急ぎ、向かうのじゃ」
この言葉の後、巫女たちは、また祈祷をし始めた。また、何かを教えてくれるでもなく、やりっぱなし感は、否めないが、俺達は、ここを立ち去るより他はなかった。
プラムの館、俺達の部屋に戻ってきて、この島の中心をなす大きな山に立ち入る算段をし始めることにした。
「山に登るしかないようだね」
「山には、入った者はいない。また、入ってはいけないことだと、古くから言われている」
「でもさ、クリスティー様も、巫女様も、火の山を登れって」
「火の山には、何があるのかしら」
「火の山は、島だけでなく、世界を作り出す源。生を生む死の世界。魔神の司る所」
「山に入るとどうなるのかしら」
「入った者を見たことがない。言い伝えでは、二度と戻ってくることはない」
プラムは、山、火の山について、いろいろと話してくれる。神にしろ、魔物にしろ、何であっても、火を噴くのを鎮める必要がある。まして、祠のルートでもあるし、クリスティーは、山頂に咲く花とか、石とかを探せとも言っていた。
「とにかく、行ってみよう」
「仕方ないわね。明日、父上に話してみましょう」
「冒険の装備、武具、食糧とか、準備しないとね」
「そうと決まれば、みなさん、お風呂にしましょうよ」
「プラムに賛成、船では、シャワーだけだもんね」
「蚊に食われたし、嬉しいわ」
「ではでは、みんなで入りましょう。マークは、男風呂よ」
「お風呂は、俺も嬉しいよ。入りたいよ」
プラムは、ニッコリと笑顔をみせて、この屋敷の風呂ではなく、島の大浴場に案内してくれた。そこは、この島、この国の憩いの場ともいうべき、想像していたお風呂ではなく、一大スパ施設であった。
「凄い施設だね」
「ダハスは、火の山の島、大地から温泉が湧き出るのよ。それを利用したのがここなの」
「男と女は、別々なんだって。マーク、残念ね」
「マーク、覗いちゃダメよ」
「覗かないよ」
中で、男湯と女湯が分かれていて、久しぶりに俺は、一人きりとなった。いままで、ずっと、一人で生きてきて、それが当たり前だったのが、周りが静かになると、随分と味気なくなるものと気付かされる。しかし、風呂くらいは、のんびりと寛ぎたいとも正直感じていた。
俺のほかにもチラホラと入浴している者もいるが、とても広いので、殆ど貸し切り状態で、湯につかりながら、手足を放り出すようにのんびりする。
「そんなにマークって、エッチなの」
「そうよ、さっきも、オッパイ触られたでしょ」
「うんうん」
「私は、近くで、裸をみられましたよ」
「私は、おしりを顔で突かれたわ」
「私なんて、丸裸から、衣を着せてもらったわ」
のんびりできると思ったのも束の間、隣から大きな声が聞こえてくる。女湯も貸し切りみたいなのであろう。どれだけ俺が、スケベなのかを列挙するコンテストが始まっている感じだ。
俺は、そんなにスケベじゃないと思うけど。至ってノーマルな健康的男子だと思う。マリーの着替えも、ロコのヌードも、ルルのおしりも、さっきのオッパイも、全部、不可抗力だと思うのだけどなぁ。
「今も、きっと、マークは、覗いているんだわ」
「やっぱりね」
「マークはね、やっぱり、私の裸が見たいのよ」
「そうかしら?私の日に焼けていない部分が、マークは大好きなのよ」
「ええ~っ、私のブルーヘアーが大好きなのよ、それに、私のボインを褒めてくれたわ」
「私の緑の髪も、好みって言ってたわよ」
「そうなの?マークは、金髪が好みなのよ」
「金よりも赤いのが好きだって」
「何言ってるのよ、ブルーよ」
「グリーンよ」
随分と仲良しになってきているようだね、うちの女性陣は。金・赤・青・緑といずれも甲乙つけがたいほど美しいのは、見ての通りだが、やっぱり、俺のピンクが一番かな。
「ちょっと、マーク。覗いてるんでしょ、分かってるんだから」
「こらぁ~」
「アハハっ、アハハっ」
「お嬢さんたちは、随分と楽しそうだね」
「あっ、マーク!」
「やっぱり、覗いてたのね」
「覗いていないよ、今は、温泉につかってこのまま眠りそうだよ」
「本当かなぁ」
ルルが、境である垣根の隙間を見つけて、男湯を覗き込んだ。それを見たプラムが、マリーとロコを連れて、垣根に近づき、
「こっちのが、良く見えるのよ」
「やるわね、プラム」
四人は、丸裸で、どこも隠さずに垣根の少し大きな境目を取り合うようにして、男湯を覗き込んだ。すると、四人分の重みに耐えかねた垣根は、境目を大きく突き破り、四人を男湯の中へと引き落とした。
バッシャーン
「キャッ」
「イタっ」
大きな飛沫を立てて、丁度、俺がお湯に浸かっているすぐ横に、四人が飛び込んできた。
「お風呂くらい、のんびり、入れないの」
「マーク!ここにいたの」
「やっぱり、一緒に入りたかったのね」
四人は、お湯に落ちたのは、理解できたようだが、自分たちが、生まれたままの姿だとは、忘れてしまっているらしい。
お湯に浸かっている俺を取り囲むように、立ち上がり、えっへんとばかりに見下ろしている。なんともいえない光景が目に焼き付いてくる。お湯が滴る、金・赤・青・緑が、もう顔の真ん前に迫っている。
「あっ、ダメ!」
「えっ」
「イヤっ、見ちゃダメ!」
「マークのエッチ、スケベ!」
四人は、四人とも、大事な部分をそれぞれの手で隠し、逃げ込むように、温泉の中にしゃがみこんだ。自分たちで、勝手に男湯に雪崩れ込んできて、勝手に見せつけておいて、エッチもクソもないものである。そして、身体を丸くしながら、俺のそばににじり寄ってきた。
「見たでしょ」
「目が、見比べてたもん、私たちの、上と下」
「品定めしたんだな」
「私は、初めて見られたかも」
「そうか、プラムの裸は、初めてかな」
「やっぱり、しっかり、見たんだなぁ~」
「何言ってるんだよ、見たくて見たんじゃない。無理やり見せられたんだろ」
「・・・」
「じゃぁ、マークは、私の赤いの見たくなかったの?」
「見たくない、訳じゃ、ないけどさ」
「わーい、チュッ」
ロコは、俺の首に抱きついて、ほっぺにチューをしてきた。柔らかい何かが、肩に当たっている様だけど。
「あっ、ロコ。あなた、嫌がってるフリして、いつも抜け駆けを」
マリーに続き、ルルも俺の首に抱きついてきて、左右のほっぺにチューをしてくる。両肩に弾力のある柔らかいものが。
最後にプラムが、正面から俺の頭を抱き寄せた。
「私の事も忘れちゃイヤよ。チュっ」
プラムは、ほっぺじゃなく、おでこにチューをしてきた。
「あっ、プラムぅ~」
「イヤーン」
「今度は、オッパイがぁ~」
四人とも、またもや顔を真っ赤にして俺に背を向けた。なんだか、恥ずかしがっているのか、恥ずかしくないのか、分からないけど、たまらないほどに、幸せな瞬間だ。夢みたいね。
「でも、私なんて、マークのボインちゃんを、触ったこともあるし、触られたこともあるし」
「ルル。誤解を招くことは、言わないでね」
「でも、本当でしょ。チューだって」
「ゴホゴホっ、内緒ねっ」
「ああっ~。ルルとは、秘密があるんだ~っ、ずる~い」
「みんな、強敵ね。魔法を使ってでも、頑張らなくちゃ」
「負けないわ。火の山のように」
それにしても、四人の透き通るような肌、なんとも甘い感じのいい匂い、女らしいスタイル、どうしてこんなに、選りすぐりの綺麗な可愛い女の子が、俺の所に集まったのだろうと、今日も神様に感謝しちゃう。感謝しなくちゃいけない神様は、クリスティーなのかなぁ。
男湯も四人が飛び込んできた時には、既に、男は俺しか残っておらず、誰にも、美しいヌードを見られなかったので一安心だ。我がファミリーは、とても、素敵で愛すべき女性たちと実感できる。
ドキドキする間柄なので、姉妹、兄妹、姉弟とは、やっぱり違うんだろうけど。
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